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「ひずめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せ...」
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「ひづめの音が聞こえたらシマウマではなく馬を捜せ...」


女性検死官・スカーペッタを主人公にしたミスレテリー小説のシリーズ第4作は、「真犯人」(講談社文庫、1993)である。作者はパトリシア・コーンウェル。翻訳者の相原真理子さんの翻訳力にも引っ張られて、とても面白く一気に読んだ推理小説である。

猟奇的な殺人事件があり、検死局のモルグでDr.スカ―ペックが検死を行っている場面がある。彼女がいつもと違った部位を捜していると、助手が訝ってスカーペッタに尋ねるのだ。「いつもはそういったところを調べていらっしゃらないでしょう?」

するとスカーペッタは、「医学校時代によく言われたの。ひづめの音が聞こえたらシマウマではなく馬を捜せって、一番ありそうな診断をしろってことね。でも今度のような事件では、シマウマを捜した方がいいのよ。」(「真犯人」56頁)と応える。

これはアメリカの医学生に教え込まれる格言のひとつなのだそうだ。医学系の小説などにも、よく登場するのでたびたび目にした。この格言を思うとき、「ありそうでない診断」をされているなぁ~、と思わされる患者さんに遭遇することがよくある。

例えば、徒手療法の臨床でよく見聞きするのが「坐骨神経痛」という診断(?)である。坐骨神経は身体で最も太くて長い神経である。「坐骨神経痛」とは、その坐骨神経が傷害された病態によるとても厄介な痛みのことだ。

ところが腰臀部痛や下肢痛の訴えがあると、いとも簡単に「坐骨神経痛」とされているように思えてならない。要するに「シマウマ」を捜したのだろう。あるいは「坐骨神経痛」の知名度が浸透しているのをいいことに、安易にレッテルを張っているに過ぎないのかもしれない。これは大いに問題である。たとえ「シマウマ」であろうと「馬」であろうと、病態や原因を追究しないで十把一絡げに「坐骨神経痛」とは.....あんまりだ!

そして、この坐骨神経痛の原因とされる病態の代表的な疾患は「椎間板ヘルニア」とされている。要するに、椎間板ヘルニアによって神経が圧迫されたり、引っ張られて神経根痛が起こるというわけだ。ところが無症状の椎間板ヘルニアは、腰下肢痛を訴えない健常者の中に76%ものヘルニアがあるという報告(1995)が出された(下の図参照)。それで俄かに椎間板ヘルニア原因説は怪しくなっている。椎間板ヘルニアなんて、通常はありふれた変性や老化の現象に過ぎないことになる。

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そもそも正常な神経を圧迫しようが引っ張ろうが、痛みは起きない。このことは多くの研究者・学者が指摘するところでもある。ただし、あらかじめ神経根に炎症があれば別である。が、それでも頻繁に坐骨神経痛が起こるわけではない。だからひづめの音(痛み)を聞いても、探すべきシマウマではないということだ。「馬」は別のところにいる

国際疼痛学会(LASP)では、「坐骨神経痛は不可解な用語」と断定している。さらに、この症状を正確に表現する言葉がないために「Pain(痛み)」と呼ばれているに過ぎないのだと述べる。坐骨神経痛の呼び名は、痛みのメカニズムが理解されていなかった時代に由来している。だから「神経根痛」の用語に置き換えるように推奨しているのである。ただし、それは「シマウマ」であって、「馬」ではないのだ。

にもかかわらず、「坐骨神経痛」という呼び名は広く流通している。痛みをめぐる事態は厄介になるばかりだ。

参考文献
Bogduk N "On the definitions and physiology of back pain, eferred pain, and radicular pain."(Pain.2009;147(1):17-19



# by m_chiro | 2021-03-01 16:50 | 痛み考
拙著「脳の中の痛み」書評④
2020年2月22日に日本でレビュー済み
「痛み」を漠然と捉えていたことに気付かされました。痛みを理解しなければ痛み治療は難しい。
この書籍のおかげで原点回帰し、痛み、自分、共に見つめ直すイイきっかけになりました。
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# by m_chiro | 2020-09-24 10:17 | Books
拙著「脳の中の痛み」書評③
2020年3月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
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# by m_chiro | 2020-09-24 10:15 | Books
拙著「脳の中の痛み」書評②
2019年12月16日に日本でレビュー済み
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# by m_chiro | 2020-09-24 10:12 | Books
拙著の書評「脳の中の痛み」①
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この本は「痛みに関する専門書ではあるものの、初心者・初学者にはきっかけづくりを、中級者には課題の確認を、既に専攻されている方々には更なる研究への案内書」であると感じました。

すなわち、読者のレベルに応じて、「痛みとはどのようなものかを理解すること」、「現在理解されている痛みのメカニズムを俯瞰すること」、「痛み学(定義は本書を参照してください)に横たわる課題は何か、またその解決の方向性はどのようなものか」というそれぞれの視点から読み解くことができるように思います。

タイトルにあるように、これは論文ではなく、徒手療法に現役で携わっておられる著者の経験を踏まえ、海外(主に痛み治療最先端のアメリカ)の膨大な文献も参考にしながら、「痛み」にまつわる諸々の考えをまとめた「随筆集」の一面もあります。

構造的、解剖学的なものだけではなく、心身相関や心理、社会面、痛みの第二現場である脳を発火点とする視点など、様々な観点から「痛み」について捉えています。
現場で痛みと向き合っている専門家のみならず、私のような素人、果ては哲学者やなんかミトコンドリアやマクロファージみたいな細胞の働きが好きな方まで、様々な立ち位置の方に示唆を与える書籍だと思います。(N.T.さんより)

# by m_chiro | 2020-09-24 10:09 | Books



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