ぶらりと本屋さんを覗いていたら、「日本文明の謎を説く」という本が目にとまった。表紙のデザインに「エッ?」と思ったのである。
日本文明論に、なぜモナリザの絵なの? と、不思議に思いながら手にとって開いてみた。 第2章に「ダ・ビンチの水循環トリックーなぜモナリザは永遠の美を獲得したかー」が書かれている。 注目しているのはモナリザその人ではなく、背景の河川にあるようだ。 読み進むと、これがなかなか面白い。買い求めて読んだ。 背景の河川と言っても、川の上流はどっちで、下流はどっちか、という問題である。 多くの謎を秘めていると言われるモナ・リザ。 多くの芸術家がモナ・リザの贋作を描いている。何しろ美術品の中でも、模写の多さではモナ・リザに及ぶものはないと言われる。100点以上もの模写やパロディの展示会が開かれるくらいなのである。 ところが、背景の川の上下流についてはそれぞれで、一貫したものはないのだそうだ。この絵の背景の川は上下流のわからない川で、モナ・リザの絵の謎のひとつとされていて、この謎はモナ・リザの神秘である「永遠の美」に関わっている。そして、そこには「川の流れのトリック」があるのだそうだ。 結論を言えば、背景の川は一本の川ではなく、背景の左右両側から流れ込む別の2本の川だ、という仮説を立てている。 左右のこだわりに執着していたダ・ビンチならではの構図で、川の流れはモナ・リザの真の図に流れ込んでいる。湖から無限に流れでて来る2本の川を、自分の身体に取り込んで無限のエネルギーを吸収することで、モナ・リザの永遠の美、永遠の生命を描き出した、と言うのである。 そんなわけで、この文明論は河川にかかわる水というエネルギーを通してみながら、公共事業という社会インフラの道筋までを著者の考えとして披瀝している。 徳川家康が、大湿地帯でとても人の住む土地ではなかった江戸村を大江戸にした眼力、利根川を征した調査と構想力に敬服させられる。 そのくだりに関する章を読むと、日本という国土を劇的に変化させた家康の存在感を再認識させられた。 その他にも、誰が情報を作るのか? 何が寿命を伸ばしたか、本当に海面上昇はあるのか、なぜカラスは遊ぶのか、日本はなぜ道路後進国になったか、なぜ日本人はロボットが好きなのか、なぜ日本人は勤勉で無原則なのか、、、、などなど興味深い内容が眼からウロコで納得させられる。 著者の略歴をみると建設省の元お役人である。こんなお役人もいるんだ、と思ってしまった。 公共事業という社会インフラの世界で仕事をしながら、たどり着いた文明論を展開している。 とても面白く読んだ本だった #
by m_chiro
| 2009-03-11 13:33
| Books
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。
22. Nervi Nervorum(神経の神経)は、どんな役割を演じるのだろう? 神経因性疼痛や神経の圧迫説などの根拠に「Nervi Nervorum」が持ち出されることがある。 「Nervi Nervorum」は「神経幹神経」あるいは「神経の神経」と訳されているが、一般的な解剖書にその名を見ることはまずない。 しかし、論文や参考図書には散見することがある。 例えば、「臨床痛み学テキスト」(熊澤孝朗監訳)、徒手医学関連では「グリーブの最新徒手医学・下巻」、「バトラー・神経系モビライゼーション」などの図書にも登場する。 下の図は「系統別・治療手技の展開」から引用した。 神経幹は神経線維が神経周膜で覆われ、更に神経外膜が包み込んでいる。 この周膜と外膜に神経線維から分枝しているのが「Nervi Nervorum;神経の神経」である。 その分枝した末端には受容器があるとされている。 また、神経幹外からは血管と血管周囲神経叢が、神経幹の周膜と外膜に入り込んでいる。 こうした「Nervi Nervorum」に関わるシステム構造が、神経幹を圧迫すると神経因性疼痛が起ることの根拠として論じられることがある。 しかし、「Nervi Nervorum」の役割は未だよく分かっていない。 それでも、この神経の末端受容器が神経幹を圧迫したり、絞扼するような間接的な機械刺激で簡単に異所性発火が起るとは考えにくい。その証拠もない。 したがって、「Nervi Nervorum」の受容器が通常の機械的刺激で作動することには疑問が残る。 「臨床痛み学テキスト」(391頁)では、「神経幹の圧迫では痛みを伴わない場合がある」としながらも、痛みが発症するためには力学的な異常の前に神経の炎症が必要だとしている。その炎症が起る可能性の1つとして、「Nervi Nervorum」の存在とその役割をあげている。 そう考えるとうなずける。神経外膜や周膜が損傷すると、神経の結合組織に入り込んでいる血管周囲神経叢の損傷が起る。 この炎症反応は、当然、「Nervi Nervorum」の侵害受容器を異常に興奮させることになるだろう。 神経生理学者・Howard L. Fields博士(カリフォルニア大学;UCSF教授)は、“Multiple Mechanisms of Neuropathic Pain”のレクチャーの中で、この「Nervi Nervorum」についても触れている。 Howard博士によれば、このような「Nervi Nervorum」における過敏な侵害受容体が神経因性疼痛の可能性となり得る1つのメカニズムだとしている。 それも損害された神経に起った炎症が前提になっている。 「Nervi Nervorum」は硬膜の延長とするならば、その受容器の反応する条件が明らかにされる必要があるだろう。 本当に神経幹が圧迫されて侵害受容性の痛みが起こるのか? この受容器に炎症性物質がどのように関わるのか? 興味深いことではある。この「Nervi Nervorum」の役割が解明されてくることに期待したいものである。 #
by m_chiro
| 2009-03-09 12:54
| 痛み学NOTE
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。
21. 根性痛は本当に神経因性疼痛なのか? 「腰痛」で著者の菊地臣一教授は、神経因性疼痛を「末梢神経ないしは神経根が原因となる痛み」とする臨床神経学者の仮説を支持している。 なるほど、根性痛は侵害受容性疼痛ではなく、神経因性疼痛だったというわけだ。確かに、神経根も後根神経節(DRG)も受容器ではない。 では、神経因性疼痛とは何か。 それは神経系の一次的な損傷やその機能異常が原因となる、もしくはそれによって惹起される疼痛のことである。 その定義するところによれば、「主な機序が末梢神経ないしは中枢神経系の知覚異常にある疼痛」(「臨床痛み学テキスト」)とされる。 つまり、神経因性疼痛は神経に対する直接的な損傷であり、疾病であり、機械的な圧迫などにより痛覚伝導系自体が障害された病態なのである。 神経系の原初の「傷」が引き金になる神経系における知覚系の疾患というわけだ。その原因も、中枢神経系にあるものと末梢神経系にあるものがあり、慢性痛症のひとつに分類されている。 したがって、ボルタレンやロキソニンなどのNSAID(非ステロイド性消炎鎮痛剤)やオピオイドの効果も期待できない。のみならず、内因性の疼痛抑制系も無効なことが多いとされる治療困難な痛み系のひとつなのである。 もちろん、治療後に症状が消えることも稀で、症状も長期に及び治療困難な痛みとしてヘルスケア上の重大関心事とされている疾患である。 神経因性疼痛の病態生理学的機序としては、次の5つの基本的要件があげられている。 ①痛み感受性のあるニューロンへの直接の刺激、 ②損傷された神経の自発性発火、 ③中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築、 ④内因性の疼痛抑制系の破綻、 ⑤交感神経依存性疼痛、 でこれらの要因の一つから複数が関与するとされる。 さてここで、神経根の圧迫が末梢性に根性痛を起こす、という課題に話を戻そう。根症状は、本当に神経因性疼痛なのか。 上記の病態生理学的機序に関わる要件で考慮すべきものは、 ①ニューロンへの直接的刺激と②の損傷された神経の2点が取り敢えずの注目点であろう。 確かに、後根神経節(DRG)は刺激に対して感受性が高い組織で、痛みとの関係に注目が集まっている。 しかし、菊地教授も自著なのかで、神経根の「機械的圧迫の存在が即、疼痛の原因を意味するわけではない」と述べているように、機械的圧迫に関連する複雑な要因が絡んでいるようである。 詳細は次の機会に譲るが、椎間板由来の髄核成分が発痛物質として根症状を引き起こすのであろう、とする仮説をその有力な原因の一つに上げている。だが、病態解明はまだである。 髄核からの液性物質が吸収されるまでに1ヶ月ほどかかるとみられており、このことは椎間板ヘルニアによる根症状とされる痛みが好転する時期と符合することも、有力な研究課題であろう。 「正常な脊髄神経根の圧迫は痛みを生じない」というのは、学者間の共通した認識には違いない。 いずれにしても根性痛が神経因性疼痛とする根拠は希薄であるが、百歩譲って神経因性疼痛だとしよう。 ならば、それはCRPS(complex regional pain syndrome;複合性局所疼痛症候群)ということになろう。 2005年以前までは神経損傷のあるなしでタイプⅠ、タイプⅡに分けられていた。そのタイプⅡはカウザルギーである。 カウザルギーは神経の切断や末梢神経の外傷後に起こる神経障害とされる疼痛症候群である。 どう考えても、臨床の現場で見聞きするヘルニアの症状とはあまりにもかけ離れている。 そして何よりも、ヘルニアとされる症状にカイロプラクティックなどの徒手療法がよく反応しているという実績がある。 また、患部に触れることなく遠隔的手法で改善させる反証的報告もそのことを裏付けている。 根症状を神経因性疼痛とするのは、あまりにも実態と違っている、と言えないだろうか。 カイロプラクティックの臨床でも比較的多く診られ、世間的にもポピュラーな疾患が神経因性の障害であるとは信じがたいことである。 それでも根疾患を神経因性疼痛だとするならば、カイロプラクティック手技がどのような機序で神経因性の疾患に影響するのかを構築し直さなくてはならない。 そして何より、カイロプラクティック手技が機能的な障害ではなく、神経病変に対応するという治療戦略を示す必要があるだろう。 #
by m_chiro
| 2009-03-09 12:31
| 痛み学NOTE
定年を迎えて自分の時間ができるようになった患者さんが、大好きな縫い物をするために自宅にアトリエを作った。 ミシンを持ち込んで、自分の時間があるときは、終日アトリエで何かを作っている。 今回は古着を解いてテディベアを作った、と言って持ってきてくれた。 何でも独学でモノにしてきたらしい。 店頭で見かけて気に入ったものを見本に一つ求めては、解体して作り方を学ぶのだそうだ。 家族の人たちに「背中や腰も丸くなってきたゾ!」と言われながら、それでも大好きな作り物をしているときが一番の幸せなのだと笑う。 パッチワークに傘福、ぬいぐるみに衣類などなど、テーマは事欠かない。 ぬいぐるみは沢山作ってお友達にあげているようだ。喜ばれるのが、また喜びとなる。 何かに打ち込める喜びがあることは、人が生きていく上でとても大事なことなのかもしれない。 #
by m_chiro
| 2009-02-27 17:29
| 雑記
1943年にリビングストン(英)が発表した「痛みの悪循環説」は、その後も多くの支持を得てきた理論であるが、この悪循環説では理解できない難治性の痛みの存在が明らかになっている。
いわゆる「神経因性疼痛」に分類される痛みである。 先日記事にした「手術の明暗2態」に書いたBさんが診断されたのはRSD(Reflex Sympathetic Dystrophy)で、神経因性疼痛のひとつである。 RSDも、その診断となると単純に決められるものではなさそうである。 1992年以降は、「ギボンスのRSDスコア」が診断基準として採用されているようだ。 ここはRSDの押さえどころを確認しておこう。 RSDとは「反射性交感神経ジストロフィー」のことである。ジストロフィーと言うのであるから、「痛み」よりも「萎縮」に重点が置かれている。 では、なぜ萎縮(ジストロフィー)が起るのか? 交感神経の異常緊張が持続することで、局所に虚血や栄養の欠乏状態が起るために局所の皮膚や爪、骨や筋肉に萎縮が起るとされている。 それならば交感神経を遮断すればいいだろう、と1986年にロバーツ(米)がRSDとされる患者さんに交感神経ブロックを行った。 ところが、結果は思惑通りにはいかず、効果がみられるケースと変化しないケース、そして悪化するケースが出た。 ここに至って、交感神経の異常興奮を論拠にしてきたRSDの概念は破綻してしまう。 つまり、交感神経の「依存性疼痛(SMP;sympathetically maintained pain)」と「非依存性疼痛(SIP;sympathetically independent pain)」が分けられ、更に交感神経ブロックで悪化する「ABC症候群(angry backfiring C-nociceptor syndrome)」という概念が生まれることになる。 ABC症候群とはC線維の侵害受容器が過敏になりバックファイアーを起こす症候群で、軸索反射や後根反射などの逆行性興奮が関与していると考えられている。神経の損傷や糖尿病性ニューロパシーなどの神経因性疼痛で、自発性の灼熱痛があり、痛みの部位に血管拡張と皮膚温の上昇など炎症性の所見がみられるものである。 そんなわけで、RSDとされたものは必ずしも交感神経の関与があるとは限らないことがわかってきた。 このRSDと同様の疾患に「カウザルギー」がある。 カウザルギーは、「四肢末梢の神経またはその大きな枝の部分損傷のあとで、交感神経機能障害による血管運動神経と発汗の異常を伴い、持続性の灼熱痛と組織の栄養障害が認められる疼痛障害」と定義されている。 RSDとカウザルギーとを分けているものは、きっかけとなった明らかな四肢抹消における「神経損傷」の有無である。 こうした背景があって、1994年に国際疼痛学会(IASP)はこれらをCRPS(Complex Regional Pain Syndrom;複合性局所疼痛症候群)と改めている。 そして、RSDは「CRPS タイプ1」に含まれ、カウザルギーは「CRPSタイプ2」に入れられた。ただし、痛みを伴わない萎縮のあるRSDの病態は、CRPSから除外される。 それぞれの特徴をまとめると次のようになる。 RSD(CRPS type1) いずれも難治性の疼痛であるが、タイプ1は萎縮性変化や関節の拘縮、可動域の制限が起り得るので厄介なのだろう。 しかしながら、2005年には国際疼痛学会(IASP)がこの区分も廃止している。神経損傷の有無によって症状や徴候に差がないことが分ってきたとされているようである。 その上で4項目の診断基準を提示した。 (米国麻酔科医学会ニュース;ASA Newsletter)。 1. Hyperalgesia and hyperesthesia;痛覚過敏と知覚過敏 4項目のうち、診断基準を臨床と研究に分けている。 臨床的には、自覚症状としては3項目以上、他覚症状としては2項目以上を充たすことが条件で、研究的には1項目以上の自覚症状、2項目以上の他覚症状が診断基準の条件とされている。 (「痛みと鎮痛の基礎知識」;CRPS) この頃は、CRPSに対する運動医療法が注目されている。自動運動や痛みに耐えうる範囲での他動運動が推奨されているのだが、消極的な自動運動は関節の拘縮をきたし、過度な他動運動は痛みの悪化をもたらす恐れがあり、兼ね合いがなかなか難しい。 そこで、運動による誘発痛を引き起こさずに関節運動を行う方法が模索されている。 私が模索しているのは、痛みによる姿勢運動のパターンを表現させて認知を促しながら、可動域や運動の範囲を広げて行く方法である。患者さんが日々自分の運動認知プログラムとして使えるものが望ましいが、個々の問題解決をマニュアル化するのがまた難問である。 #
by m_chiro
| 2009-02-25 13:05
| 痛み考
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