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痛みはアラーム・システムにおける最終警告か。
痛みを診ることのできない医師たち③

慢性痛の治療にあたっては、筋肉にだけの介入ではうまくいかないことも多いものです。時間的、経済的にも自ずと制限があるわけですから。抗うつ薬や抗不安薬は痛みの回路に介入する薬です。うつ病や神経症だから処方するのではありません。とにかく慢性化した痛み、難治な痛みには多角的に治療にあたる必要があります。


私のような徒手療法の治療家には、慢性痛に介入する薬物という武器がありません。
慢性痛には「神経の可塑性」という難問が待ち構えています。
それに、手技でどう対応することが出来るのだろう?
そのことを長い間、問い続けて来ました。

ヒントになったものがいくつかありました。
ひとつは「認知行動療法」です。身体の入力と出力系を再構築するための認知を促す手法です。
2つめは、「うずまき反射」という原始的な警告系の起源の存在です。この反射信号を頼りに、認知させる手法を考えました。

ところが、慢性痛には警告系の役目を果たさない「慢性痛症」がある、と熊澤教授が書いていました。
「慢性痛と慢性痛症」
http://www.aichi-med-u.ac.jp/pain/manseitusho.html

慢性痛症における「警告系の意義のない痛み」ということが、私にはよく分かりませんでした。痛みの神経系が可塑的な変容を起こしている、ということは理解できます。でも、なぜ警告系としての意義がないのかが分かりません。

慢性痛症をかかえる患者さんは、痛みのために行動が抑制され、不安に苛まれているようです。圧痛もよくみられます。これも警告系の現れではないのだろうか。なぜ、警告系の意義がないの?

神経系が可塑的変容を来たしたことは、警告系システムが作動したままでロック状態に入った深刻なレベルの警告(レベル4)ではないのか、と私は逆に思ってしまいます。

もっとも、日常生活を取り戻すための理学療法や代替療法、精神的ケアなどを推奨しているわけですから、本来の神経系を新たに作動させるための認知療法が重要だということなのでしょう。これは、脳の学習システムを利用することだと考えました。

3つめは、脳の学習システムについてです。特に、故・松本元先生の研究には大いに啓発されました。松本先生は、研究者として盛りの時に急逝されましたので残念でなりませんが、「脳は表引きテーブル」という概念、「脳は自己創出による出力依存性の学習機能を持つこと」など、多くの示唆を得ました。
愛は脳を活性化する
松本 元 / / 岩波書店
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4つめは、NIH(米)の神経生理学者ポール・D・マクリーンの「三つの脳の進化」の考え方でした。脳が進化と共に増築しながら階層構造を作ってきたとすれば、警告系も3段階でアラームを発信しているのではないかと考えたわけです。

最古の脳である「脳幹レベル」で発信する「うずまき反射」。本当に反射的なアラームです。
次に「辺縁系レベル」で発信するアラームで情動系から発信します。何か気が重いなど、情動的な「行動の抑制」や「すくみ現象」が現れはじめます。
そして最後は「皮質レベル」で発信する「痛み」です。痛みはアラーム・システムの最終警告だと思います。

有髄のAδ線維が伝える信号は緊急用のアラームですが、重要なのは無髄のC線維で、その終末のポリモーダル受容器です。この原始的な受容器を介して、最終的な警告系情報が飛び交っているでしょう。
また、加茂先生のサイトは痛みの理解に欠かせないものでした。

こうして、3つの警告系をリセットすることを考えました。これは薬物という武器を持たない私の治療に欠かせない手法の下地になっています。まだまだ検証しながら、ヒトの警告系と学習と認知の手法を追い求めたいと思います。
by m_chiro | 2007-12-02 21:29 | BASE論考
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