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「痛み学」NOTE 63. 慢性痛に移行する体内環境 ②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


63. 慢性痛に移行する体内環境
② 痛みの前駆ステージを見逃せない


こんな患者さんがいた。中年の女性であったが、既往歴を聴くと部位を変えて痛みが続発し、あるいは再発し、10年にも及んでいるのである。
腕、顎関節、肩に首、腰、膝、足首と痛みが移動するように続いて、あげくにRA陽性となった。
抗リューマチ薬が処方されているが、両足底から趾にかけて腫れて痛むため歩行がままならないのだという。なぜ、こんなに部位を変えて痛みが続くのだろう。それが一番気になった。

心理的ステージも見逃せないが、食の嗜好もあなどれない。
そこで、食の偏りや間食の嗜好などを尋ねてみた。
するとアイスクリームと駄菓子が大好きで、冷蔵庫にはアイスを切らしたことがないのだそうだ。
ポテトチップなどのパッケージ菓子も、開封したら食べきってしまうほどに好物だという。
これでは痛み物質の再生工場のような体になるだろう。

延々と食と痛みの関係を説いて改善してもらうことにした。するとどうだろう。
数か月後には別人のように活動的になった。
一日に5,000~1万歩も散歩するようになり、旅行に出かけては15.000歩も歩いたと健脚を誇るようになったのである。こうした改善例はたびたび経験するところでもあろう。

炎症は組織の損傷に端を発するが、実はその炎症も治癒を促す過程にある(NO22-「59.炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミズム」)。
ところが慢性に移行するケースでは、「炎症-治癒のプロセス」が機能しない。
それどころか逆に組織傷害が反復するという悪循環にはまるのである。

「炎症-治癒のプロセス」では、炎症性物質と抗炎症性物質のせめぎ合いによって、炎症の鎮痛と組織修復がもたらされるのだ。
組織が修復できなければ、病理的な変性疾患に移行する。
関節リュウマチもそのひとつであるし、筋骨格系の痛みが慢性化するのにも同様の原理が作用することがある。
要するに「痛みの前駆ステージ」を促進させるような食に留意することも重要なのである。

では、どんな食物が痛みの前駆ステージを促進させるのだろう。
よく知られるところでは、精製された穀類、小麦粉製品、穀物食の肉類と卵、パッケージ食品と加工食品、揚げ物、トランス脂肪酸と含有製品、オイル(コーンオイル、サンフラワーオイル、大豆油、多くのサラダ・ドレッシング製品)などが前炎症性に関与するとされている。

痛みへの「罠」は至る所にある。
魔法のようにすべてを解決できる鎮痛薬などもない。
前炎症段階をもたらす食を改善することは、重要な鎮痛要因のひとつでもあるのだ。

人間は遺伝子的に旧石器時代から狩猟採集食に適応しているのだろう。
代表的な食物は果物・野菜・ナッツ類・じゃがいもなどで、鮮魚や草食あるいは牧草食の家畜肉などがあげられている。
一方、現代食では精製穀類、小麦粉製品やトランス脂肪酸を含む加工食品・パッケージ食品、揚げ物などに代表される前炎症性食品にあふれている。

こうしてみると、抗炎症性食物と前炎症性食物との間には特徴的な傾向がみえるようだ。
ひとつは植物食の摂取不足である。
これはカリウムやマグネシュームの不足を解消するために働く食物である。

もうひとつはΩ6脂肪酸の過剰摂取だろう。
多価不飽和脂肪酸にはΩ6(リノール酸/n-6)とΩ3(αリノール酸/n-3)があり、これらは植物から得られる必須脂肪酸である。
このΩ6とΩ3の摂取割合によって、前炎症と抗炎症のステージが分けられる、とする提言がある(「炎症と痛みに対する栄養学的配慮」David R.Seaman,D.C.)。
その要旨を図にまとめてみた。
「痛み学」NOTE 63. 慢性痛に移行する体内環境 ②_c0113928_9234348.jpg
「Ω6:Ω3」の割合は「1:1」が理想とされている。
ところが、現代のアメリカ人の標準では、「20~30:1」以上の割合でΩ6が圧倒的に多量な傾向にあるらしく、この割合は極めて「前炎症段階の食」ということになる。
だからこそ努力目標としての割合を「Ω6:Ω3=4:1」としており、この割合は「前炎症」のステージと「抗炎症」のステージを分けるボーダーラインだという。

要するに望ましい割合というわけだ。が、この望ましい割合を今日の食文化の中で実施するのは、確かに努力がいることだろう。
そう考えると、今日の標準的な食生活というのは、痛みが蔓延して社会問題化している現代の一面を言い得ているのかもしれない。
by m_chiro | 2014-08-19 12:39 | 痛み学NOTE
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