動きのパターンが崩れるとき②
②多動症? それともチック?
このところ診させていただいている思春期の少年がいる。彼は自閉症である。 ところが成長と共に多動傾向が特に顕著に表れるようになった。 治療ベッドにジッしているような静止位を保てない。 横になったと思ったら、突発的に飛び起きて飛び回る。 か、と思うとトイレに走りこむ。あるいはドアの向こうに走りこむ。 そばに置いておいた器具類を見つけては投げる。 先日は、突然、石を拾って投げて自動車を凹ましたらしい。 まるで治療のできる状態ではないが、両親の熱意にほだされてクレニアルに挑戦してみた。 たびたび突発的な動きによって中断されながら、それでも続けているうちに突発的な動きが起こる間隔が長くなり、何とかクレニアル治療として成立するようになった。 すると欠伸をするようにもなったが、眠りに落ちることはない。 医師からは、処方薬を成長に合わせて増量していく計画が実施されている。 ところが多動傾向は治まる気配すらない。 多動症の薬で「コンサータ」という薬が効果的に作用すると聞いたので、担当医に相談してみたてはどうかと勧めてみた。 すると、医師は「それは多動症の薬だ。希望があれば使ってもいいが、チックや癲癇があれば使えない」というような説明を受けたようである。 その話を聞いて、アレッ?、と思った。 もしかして担当医は、この少年の病態をADHDと診ていないのではないだろうか?、と思ったのである。 通常、ADHDは成長と共に減少するとされるが、この少年の多動は成長と共に激しくなっていった。 その目線で、この子を観察していると、彼の突発的な動きは身体運動で表現するチックなのだろうか、とも思えてくる。 オリバー・サックスの「火星の人類学者」には「トゥレット症候群の外科医」の症例について書かれている。また、「妻を帽子とまちがえた男」では「機知にあふれるチック症のレイ」で、やはりトゥレット症候を紹介している。 それを読むと、トゥレット症候にとてもよく似た行動のように見えるのだ。 だからと言って、その鑑別するための線引きは簡単なものではないのだろう。 だからきっと、担当医も慎重に適正な投薬量を探っているのかもしれない。 オリバー・サックスは、次のように述べている。 トゥレット症患者の脳内では、ただドーパミンが過剰となっているだけではない。パーキンソン病患者の脳内で起きていることが、ドーパミンの低下だけではないのとおなじである。人格を変えてしまうような疾患であるからには、もっととらえがたい広範な変化もおこっている。異常がおきる経路は微妙なうえに無数あり、個々の患者で異なるし、一人の患者についても日によってちがってくる。Lドーパがパーキンソン病患者にとって決定的な治療薬ではないのと同様に、トゥレット症患者にとってハルドールは、ひとつの治療薬ではあるが、ほかの薬と同じく決定的な治療薬とはいえない。純粋に薬学的あるいは医学的な治療法に加えて、「実存的な」治療法もあるにちがいない。[中略] 薬学的、医学的治療法に加えて「実存的な」方法もあるのだとすれば、神経学的に個体それぞれの感覚あるいは原始的な感覚を神経学的に統合させる手法はそのひとつなのだろう。 そう思いながら、機能神経学を学ぶ、あるいはそれを臨床に応用する手法の学びは一層魅了的なものになった。 続く
by m_chiro
| 2014-03-15 17:53
| 「神経学」覚書
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