慢性腰部神経根障害に硬膜外ステロイド注射など愚かしい治療だ
BMJ誌に掲載された論文”Effect of caudal epidural steroid or saline injection in chronic lumbar radiculopathy: multicentre, blinded, randomised controlled trial”は、北ノルウェー大学病院のTrond Iversenらの報告である。
医学ジャーナリストの大西淳子氏が、日経メディカルに「腰部神経根障害への硬膜外ステロイド注射に利益なし-ノルウェーの多施設試験でシャム注射などと比較-」として紹介している。 この記事をbancyou先生がブログで紹介されていた。 とても興味深い内容である。 「ノルウェーの5カ所の病院の腰痛外来を05年10月から09年2月に受診した患者の中から、片側性の腰部神経根障害が12週を超えて継続している20~60歳の患者をスクリーニングし、133人を組み入れた。馬尾症候群、重症の不全麻痺、重症疼痛、脊髄注射歴または脊髄手術歴あり、NSAIDs使用中、ワルファリン使用中、BMIが30超などの患者は除外した。」と調査の対象群について述べられている。 この割り付け前に、17名は症状が改善している。したがって対象群の133名から除外されている。実質116名が対象とされた。 が、割付から1回目の治療介入までの間に症状が改善した対象が5名おり、これらはそのまま調査分析の対象に入った。 調査は3群に分けられた。 ①シャム群(Sham)、②硬膜外生食群(Epidural saline)、③硬膜外ステロイド群の3群である。 著者らは、慢性の腰部神経根障害に対して、ステロイドまたは生理食塩水を仙骨硬膜外注射する治療を行い2週間隔で2回実施している。それを、6週後、12週後、52週後の影響を調べた。 そもそも慢性の腰部神経根障害とはどのような疾患を指しているのだろう。 論文では次のように規定している。 「神経根の支配領域における感覚障害や反射障害、運動障害などを伴う腰下肢痛が12週以上持続する状態をいう」 それを一回目から6週後、12週後、52週後で更に介入した結果を報告しているのだが、原論文に掲載されている結果を、それぞれのグラフで見ると一目瞭然である。 緑色点線はSham群で、赤色点線は硬膜外生食群、青色実践は硬膜外ステロイド群のスコアを表している。 Fig 2 Mean Oswestry disability index score at follow-up このグラフは、Oswestry障害指標スコア(0~100の範囲で、0は障害なし)の結果で、100点尺度のスコアが低いほど症状の重症度も低くなる。これによると、硬膜外ステロイド(緑色の点線)の成績がやや悪いものの有意な差はない。 以下の3つのグラフは、EQLS(ヨーロピアン・クオリティライフ調査)に基づいて、QOL、100mmVASスケールのスコアを腰痛と下肢痛に設定している。 Fig 3 Mean visual analogue scale score for leg pain at follow-up Fig 4 Mean visual analogue scale score for back pain at follow-up この腰痛の結果も有意な差はない。 Fig 5 measurement of mean score for European quality of life measure この最後のグラフはヨーロピアン・クオリティライフの測定を何ども反復測定した結果である。 いずれもQOLが高まっているが、これも3群での有意な差はない。 要するに、時間的には12週以上経過した慢性腰部神経根症に対して硬膜外ステロイドは無意味だという結論である。 sham群や硬膜外生食群と比較しても有意な差がないだけでなく、むしろ悪いスコアである。 たとえ炎症が疑われても、12週以上も経過したのであれば炎症に関わる物質は代謝されている、と見るべきなのかもしれない。 この分析調査からも明らかである。 硬膜外ステロイドなどによる治療介入は愚かしい処方だ、という結論になる。 何しろShamのスコアと変わりないのだから...。 逆に言えば、プラシーボも侮れないということでしょう。 いずれにしても、慢性の腰部神経根症は発症因子を他に求めるべきである。 このことだけは間違いないようだ。
by m_chiro
| 2011-10-13 12:00
| 痛み考
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