骨盤の両側がだるい
今年の冬、当地では観測史上初という大雪で、この時期は除雪作業での筋痛や急性腰痛の患者さんが多くなる。ほとんどは痛みや強張りで、動きにも制限が起こっている。
そんな中で、骨盤の両側がだるい、という女性がみえた。 痛いわけでも動けないわけではない。とにかく、立っていても骨盤の両側が「だるい」のだそうだ。 看護師さんである。最近は重度の患者さんを扱うようになって、寝返りなどの介助で力仕事が多くなったせいだろか、と言う。 痛い筋ではなく、「だるい」筋には、筋の弱化が見られることがよくある。 骨盤部に関連した筋のMMT(徒手筋力テスト)を行うと、明らかに両側での弱化がみられた筋は、大腿筋膜張筋と中殿筋であった。 カイロプラクティックのAK(アプライド・キネシオロジー)では、両側の筋の弱化は2つ以上の連続した椎骨に存在するフィクセーション(固着)複合体と関連する、との仮説がある。その中で、「フィクセーション複合体」と「両側の筋の弱化」との相関を8種のタイプに分けている。 例えば、「両側の膝窩筋の弱化」は「下部頚椎のフィクセーション」と相関する。あるいは、「両側の大腰筋の弱化」は「後頭骨フィクセーション」と相関する。また「大殿筋の両側の弱化」は「上部頚椎フィクセーション」と相関する。 このようなAKパターンには8種の相関が堤示されているが、中殿筋や大腿筋膜張筋における両側の弱化に関わるフィクセーションとの相関は示されていない。 そもそも、なぜこうした「両側の筋の弱化」と「フィクセーション複合体パターン」が相関するのだろう。 AKでは、脊柱の靭帯に存在する平衡固有受容器にその機序を求めている。 であれば、こうしたパターンはまだまだ想定できるのだろう。 例えば、仙腸関節をベルトでしっかり固定すると(そこにフィクセーションをつくると)、頚部伸筋に弱化が起こる、といったデモによっても検証できる。 こうしたパターンは、ほとんどの者に適用できるというわけだが、それでも身体機能が高度に統合された神経システムを持つ者にはこのパターンがみられないことがある、とも記している。 さて、ここが肝要である。 フィクセーション複合体と両側の筋の弱化は、平衡固有受容器の代償パターンでもある、ということだ。 身体の平衡系が不安定であるがゆえに、両側の筋の弱化という代償パターンが出来上がる。逆に言えば、動的あるいは静的な平衡反射が正常に機能していれば出現しないパターンでもある、ということになる。 私は「センタリング」という概念を治療の基本技法に用いている。 センタリングという用語は、いろいろな領域で使われている。「身体の中心軸」といった構造的概念から、「心のセンタリング」というコアな概念など様々である。 私の概念を定義しておくとすれば、次のようなものになる。 「重力場において身体平衡系の神経反射シグナルがつくる静的あるいは動的にバランスされたエネルギー軸のこと」。 AKパターンに捉われずに、この考えに従って先の患者さんの身体平衡系の神経反射をチェックした。イレギュラーな神経反射シグナルをセンタリングの技法を用いて再起動させ、再び大腿筋膜張筋と中殿筋の両側の筋の弱化をMMTで確認すると、しっかり安定した筋力を回復していた。 立位、立ち座り、歩行を反復させてみても、もう骨盤両側のだるさもない。 両側性の筋の弱化をもたらすとするフィクセーション複合体は、必ずしもそこにアプローチしなければならないと言うことではない。 AKで述べているように、「高度に統合された神経システムを持つ」身体をめざすことが大事なのだろう。 参考文献:「AKシノプシス」第2版95頁、D.S.Walther、科学新聞社刊、2008
by m_chiro
| 2011-02-10 13:04
| センタリングの技法
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