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関連痛は謎だらけ③
③遅延性筋痛に関連痛の機序のカギが見える

さて、われわれが経験する関連痛の多くは更に遅延時間が長いように思える。
そうなると、神経学的な仮説とは違う機序を考える必要がありそうだ。
体性―体性における関連痛のカギは、やはり筋性の痛みに関する研究の成果にかかっているように思えてならない。

遅延して発現する痛みというテーマになると、「遅発性筋痛」が真っ先に思い浮かぶ。
名古屋大学環境医学神経系分野での研究が名高く、水村和枝教授の論文「遅発性筋痛の基礎最前線」は、この問題に多くの示唆が含まれている。

この論文の要点を上げると以下のようになり、我々が臨床で日常的に見かける関連痛の病態とダブる。
すると関連痛を解明するカギは、やはり筋性障害のメカニズムを究明することのようである。
謎解きのカギが随所に垣間見れるだろう。

1)遅発性筋痛は伸張性収縮(遠心性収縮)によって生じやすい。
2)自発痛はほとんどなく、圧痛・運動痛が顕著である。
3)遅発性筋痛は運動後1日以上経過して起こり、運動後3日~7日後には消失する。
4)運動再開後には外傷の元になり得る。
5)慢性痛の潜在的な原因となっている。
6)圧痛・運動時痛のような機械刺激に対する痛覚過敏以外に、浮腫、筋力低下なども伴う。
7)筋機械痛覚過敏を対象とした研究はまだ少ない。
8)最近の研究では、必ずしも損傷や炎症像があるとは言えない、という報告が出ている。
9)浮腫の組織学的変化では、5%程度の運動筋の増大を認められた。
10)遅発性筋痛の発生機構については、①乳酸説、②筋スパズム説、③結合組織損傷説④筋損傷 説、⑤炎症説、⑥酵素流出説、⑦活性酸素説などの仮説がある。
11)運動前に消炎鎮痛剤を投与である程度抑制されるのに対し、運動後の投与では効果に対して否定的である。したがって、遅発性筋痛の形成過程に炎症メディエーターとしてプロスタグランジン(PG)がかかわっているが、維持にはかかわっていない。ブラジキニンやATPがかかわっている可能性がある。
12)1つの説だけではなく、筋損傷説、炎症説、酵素流出説を統合して発生機構を考えたい。
13)運動時に出現するブラジキニン、プロスタグランジン、ATPなどが協同して、または段階的に、遅発性筋痛を生じる過程をトリガーする。
14)何が筋痛み受容器の機械刺激に対応する反応性を感作しているかは不明である。
15)人で行われる研究が多い。ヒト中指に錘をつけてそれを保持しつつ下方へおろす運動をさせると、一日後に指伸筋に遅発性筋痛が誘発され、ひも状の硬結が触知される(Itohら)。TPのモデルと考えている。
16)足の底屈運動を用いて前脛骨筋に遅発性筋痛を生じさせて高張食塩水注入すると、痛みそのものは大きくならず、放散痛が高頻度にみられ、広がりが大きいことから、中枢性機構が変化している可能性を指摘している(Adendt-Nielsenのグループ)。
17)元々、炎症マーカーの高い人たちが、そのマーカーの活性化により遅発性筋痛を起こすのではないか(Malmら)。個人の遺伝的バックグラウンドが何らかの形で関係している可能性がある。
18)筋の圧痛(機械逃避反応)閾値の測定には、深部に刺激を送れる太い刺激子を用いる必要がある。
19)圧痛刺激による脊髄後角表層でのc-Fos発現細胞が運動後では数倍観察された。
20)機械刺激に対する痛覚過敏を起こす候補はATPとNGFで、ブラジキニン、セロトニン、サブスタンスP、PGE2は機械痛覚過敏をおこさない。しかしながら、ATPやNGFが遅発性筋痛の筋に多いかどうかは不明である。
21) 同一被験者で運動前後におけるで筋生検では、運動3時間後には有意な変化像はみらないが、48時間後にはマクロファージや好中球などの浸潤、Z帯のみだれ、といった損傷後の大幅な増加がみられる。これは組織損傷の結果と認められる。
22) 遅発性筋痛にC線維の関与は間違いない。また遅発性筋痛を生じた動物の筋の細径線維受容器は対照よりも早くから反応を開始(機械反応閾値の低下)し、その立ち上がりも急で、最大放電頻度も高かった。同じ機械刺激に対する反応の大きさが約2倍に増大していた。
23)受容器の熱感受性をもつポリモーダル受容器と、熱感受性もたない細径線維受容器とに分けると、機械感受性が増大していたのはポリモーダル受容器であった。
24)伸張性収縮負荷後に生じる機械痛覚過敏は、細径線維受容器の機械刺激に対する反応性増大が大きな役割を担っていると考えられる。これは、他の炎症モデルとの違いである。筋細径線維受容器の機械刺激に対する反応性のみが変化する面白いモデルである。
25)筋内の環境(サイトカイン、炎症メディエーター濃度など)や痛み受容器に発現するチャンネル、受容体の変化など多くの可能性がある。

by m_chiro | 2011-01-14 17:35 | 痛み考
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