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「痛み学」・座右の書
「痛み学」・座右の書_c0113928_18114359.jpg2007年末に発刊された「臨床痛み学テキスト」(PAIN:A Textbook for Therapists)は、故・熊澤孝朗先生が監訳された痛み学の教科書である。

それもセラピスト向けに、あまり専門的にならずに肝要な押さえ所を網羅した痛み学のテキストでエンタプライズ社の発行である。その発行元が閉鎖されて、継続出版が出来なくなってしまったようだ。

せっかくの良書をこのまま廃刊に追い込むのは忍び難い、と考えた熊澤先生は新たな出版元として名古屋大学出版会と交渉し、今回のリニュアール出版に漕ぎ付けた。

残念ながら熊澤先生は、この本の完成を見ずしてお亡くなりになってしまったのであるが、先生の思いはこの本に受け継がれている。
リニュアールに向けて翻訳を見直し、書名も「痛み学」としている。表紙の装丁も変え、「臨床のためのテキスト」とある。そのためか臨床家向けに3大巻末付録も付けられている。

新たに書き起こされた「1.痛み治療に用いられる薬物」と、「2.痛み評価表」。例えば、フェイススケール、マクギル疼痛質問票、疼痛生活障害評価尺度、RDQ評価表など20ページにもわたって様々な評価表が添えられていている。
痛みの評価が必須バイタルチェックとされる時代のツールとして、臨床に携わる者には有り難い配慮である。
また、「3.痛みを表現する言葉」にはさまざまな表現が英和対訳語で表にされて、時代と共に変わってきた意味合いを引きながら、それぞれの表現の説明が書かれている。
これも臨床的にはうれしい付録だ。

この本は理学療法士向けに編纂されたものと思われるが、原著序文をゲートコントロール理論の提唱者であるPatrick.D.Wallが書いている。
その書き出しに、「私は、理学療法と作業療法は眠れる巨人であると確信している」とあり、痛みの治療における理学療法の役割に期待を寄せている。
痛みの知覚される部位が必ずしも治療の対象部位とは限らないことが明らかになった昨今、関連痛という観点から痛みの第1現場と第2現場の双方向性に向ける治療の必要が要求されるようになったのである。

Wallは、痛み治療に対する次の4つの変化をあげている。
Ⅰ.関連痛の極めて重大な意義の認識が大切であること。
2.痛みは固定した専用回路ではなく、可塑性と時間的変化を考慮しなければならないこと。
3.痛覚情報は下行性抑制系によって制御されること。
4.脳のイメージングという新しい技法によって変革がもたらされること。


こうなると、痛みを感覚系だけで捉えるのではなく、運動系を利用した治療が求められている流れを知ることができる。

熊澤先生もコメディカルの領域に大変な期待を寄せておられた。その意味で、Wallと同じ考えに立つものと考えるが、熊澤先生はコメディカルのみならず鍼灸やカイロなど、更に幅広い領域に期待を寄せておられた。
この本は、そうした領域の人たちの座右の書とも言えるものだろう。
熊澤先生がお亡くなりになる直前に書かれたと思われる「改訂増補版の刊行にあたって」に、最後の一文を寄せている。その文を、編訳者の山口佳子先生が補っている。
「読者諸氏には、痛みの研究や診察に対する彼の情熱を本書を通じて感じ取っていただき、そのことを臨床や研究に活かしていただきたい。おそらく、それが彼の期待するところであり、彼はいつも皆さんを応援していると思う。(2010年9月)」

と結んでいる。

私もこの本に学びながら、臨床に活かせるよう精進したと思う。
by m_chiro | 2010-11-29 18:16 | Books
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