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ある老婦人が作った花瓶
開業当初からご愛顧いただいている患者さんがいる。
私の開業の歴史と共に年を重ね、年齢も老いた。もちろん私も、であるが...。
そんな患者さんの中に、1人暮らしの老婦人がいる。
今年は84歳になったそうだ。
何か身体に異変が起こると、いつも、先ずは私のところに相談にみえる。

今年の初夏の頃だったろうか、その老婦人宅から突然電話が入った。
友人が彼女の家を訪ねたら、めまいで動けない状態になっていて私の治療室へ電話してくれ、と頼まれたのだそうだ。
動けないので往診してもらうわけにはいかないだろうか、尋ねてほしいということだったようだ。

よくよく状況を聞くと、突然、落下発作のように倒れて頭を強打したようである。
嘔吐もしたらしい。
救急車を呼んで、聞き及んでいた主冶医のいる病院に行くように説得した。
幸い頭部には異常がなかったが、出血性の胃潰瘍が見つかって胃腸科外科のある病院に転医させられた。貧血で倒れたようである。

しばらく入院して元気になった。
それでも気弱になって、老い先も長くないだろう、と考えるようになったらしい。
昨日、また突然治療室にみえた。
大きな荷物を抱えて、「私もそんなに長くないだろうから、形見だと思って受け取ってもらいたい」と言う。

荷物を開くと2つの花瓶が出てきた。
14年間、カルチャーセンターの陶芸教室に通って自分が作ったものだと言う。
陶芸をしていたとは初耳で、驚きだった。
デザインも模様も素朴で、なかなか味わい深い作品である。
その場で、家内が庭のローズヒップの赤い実の付いた枝とサザンカの蕾の枝を切って来て、その花瓶に活けた。それを受付のカウンターに飾って写真に収めた。

ある老婦人が作った花瓶_c0113928_11495575.jpg
老婦人も「よかった~、よかった!」と喜んでくれたが、もう粘土を捏ねる力もなくなったので陶芸もやめたのだそうだ。

老いは、こうして身の回りの活動を縮めて行くのだろう。

藤沢周平が、年と共に身辺を整理していって、最後はいつの間にか跡形もなく消えてしまったような死を迎えたい、というような事を書いていた。

身辺整理はともかく、活動の幅はできるだけ縮めることがないように、せめて「活き活きと生きる」お手伝いをさせてもらおう。

花が差されて生き返った花瓶を見つめながら、そう思った。
by m_chiro | 2010-11-19 11:52 | 守屋カイロ・オフィス
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