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難治性の痛みに、なぜオピオイドは効き難いのだろう?
前回の記事(「鬼平」から中枢性感作を読み解くと….こんな感じだろうか?)で触れたように、脊髄の神経細胞にはオピオイド受容体がある。
その受容体も、エンドルフィン類が作用する「μ(ミュウ)」受容体で、モルヒネの鎮痛作用に最も関連があるとされている。
「μ」とは、モルヒネの頭文字をとって名付けられた名称だそうだ。
要するに、鬼平(オピオイド)が介入できる。

ところが、臨床的には難治性の痛みに対してオピオイドは効きにくいとされている。
なぜ効き難いのだろう?
鬼平の出番には限界があるということだが、それは何故なんだろう?


ひとつ推測できることは、神経細胞が狂賊どもの外道働きで荒らされ、前初期遺伝子のひとつ「c-fos」が発現して細胞の反応が変化したことにもよるのだろう。
「c-fos」はタンパク質を合成し、ニューロンの働きを変えて痛み記憶の痕跡を保持するらしい(「c-fos」が脊髄後角に発現することが報告されたのは1987年のことである)。
こうした状態が長期に続くと、オピオイド受容体も消滅する事態が起こるのだそうだ。
したがって、オピオイドで対応できる段階であれば、痛みを抑えることも可能なのだろう。だから効く場合もある。ここでも、痛みに対する早期対応が原則であることを窺わせる。

更に考えられるのは、難治性疼痛における鎮痛のターゲットがニューロンではなく、グリア細胞に移行する必要が明らかになったことである。

まんまと奪った凶賊のお宝(痛み物質;プロスタングランジン、NO)を積んだ舟(ニューロン)で抑えるのではなく、脊髄(大川~海)へ出た舟の船頭(グリア細胞)を抑えなければならないということだ。
難治性の痛みに、なぜオピオイドは効き難いのだろう?_c0113928_12261047.jpg

船頭(グリア細胞)は3人いる。
アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアである。
グリア細胞と一口に言っても、ニューロンを除く神経系の細胞である。
その中のアストロサイトとオリゴデンドロサイトは神経幹細胞由来で、ミクログリアは造血幹細胞由来である。

オリゴデンドロサイトは、末梢神経のシュワン細胞のような役割で支持構造となる。
アストロサイトは神経伝達物質を吸収再利用し、損傷後の瘢痕形成に果たす役割を担っている。その役割からみて、神経損傷後の治癒過程に関与して慢性痛の発症に関わるようである。

注目すべきはミクログリアで、造血幹細胞由来であることから、その作用も免疫系に特徴があるようだ。これがなかなかの策士なのだ。何しろ妖術を使う忍びの者のような存在である。サイトカインを撒き散らして、神経系の過敏状態を増幅させる。舟(ニューロン)が相当のダメージを負ったら、舟もろとも沈没させかねない。

人間の生活の中でもいろんな場所にビーコン(無線標識)が設置されていて、位置情報などが発射されている。サイトカインは、神経組織の中でその役割を担っている化学的ビーコンである。

例えば、神経組織が微損傷してもサイトカインが放出される。
損傷部位を知らせるためである。そこに血液やリンパの免疫細胞を引き寄せる。感染を防ぎ、修復を急がなければならない。
そこには炎症反応が生じるので痛みは倍増するが、それは修復の過程でもあるのだ。
したがって損傷された神経線維の痛み感度は超過敏になる。

サイトカインを出すのは、ニューロン自体ではなくグリア細胞だとされている。
グリア細胞によって、ニューロンの小さな損傷でさえも広範囲の過敏で激しい痛み信号が作られる。ニューロンの修復のために働いたグリアが、逆に痛みを厄介なものにする。増幅させ長引きかせるのである。

末梢神経の小さな損傷を受け継いで、脊髄が損傷したわけでもないのに脊髄で痛みの感作が増幅するのである。
このことから、痛みを抑えるターゲットはニューロンではなくグリア細胞に移行する必要性が生じているのだ。

だから鬼平(オピオイド)が神経細胞に介入しても、思う結果が得られない。
特に、ミクログリアという船頭が、ニューロンの周辺で暗躍して痛みを増幅し撹乱させているわけだから、鬼平もお手上げになる。
船頭(ミクログリアなど)に対応できる能力を持った新戦力の同心(例えばミクログリアの活動を抑える薬物など)を獲得する必要に迫られているわけである。

さて、こうした病態に徒手療法の治療家は、どのような戦略を立てるべきなのだろう。
(その辺のところは、またの機会に。。。。)

by m_chiro | 2010-11-06 12:36 | 痛み考
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