「痛み学・NOTE」28. 神経根はそんなに無防備な組織か
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。
28.神経根はそんなに無防備な組織か 前項で触れたように、神経幹には強力なバリアとしての結合組織が二重三重に張られている。ところが、その根部では様相が大きく変わっている。第一に、神経根には神経幹にみられるような結合組織は、ほとんど存在しない。 神経根の皮膜としては髄膜があるだけで、シュワン細胞も存在しない。 そして、脳脊髄液が根部を栄養する半分を担当している。こうして見ると、神経根は末梢神経というよりは中枢神経の一部と見た方がよさそうだ。 形態学的に大きな違いがあるということは、生理的効果についても同様である。 神経幹と根は、全くと言ってもいいほど別組織である。 こうした根部の特徴は危弱な存在として注目され、臨床上では損傷の根拠とされている。 果たして、根部はそんなに無防備なのだろうか。 A:クモ膜、B:椎体、D:硬膜、DuL:硬膜靭帯、DeL:歯状靭帯、DMS:背内側中隔、DR:後根、SAS:クモ膜下腔、SAT:クモ膜下柱、SN:脊髄神経、SP:棘突起、VR:前根 上図の脊柱管と脳脊髄幹および髄膜に付着する組織の横断面を見ると、衝撃に対応する緩衝機構が見えてくる。 神経根には結合組織らしきものが欠落し髄膜があるだけなのに対して、神経幹では多層からなる結合組織で保護されている。 神経は圧迫よりも牽引に弱いとされているが、この膜組織のアンバランスな強弱の差は、一見するに神経根を容易に損傷する可能性を想定し得る。 ところが神経幹の結合組織は、根部の膜組織の延長ではなく、硬膜外組織や硬膜(D)と結合して神経幹の外層を形成しているのである。 そのために、末梢神経を牽引しても後根神経節が椎間孔から引き抜かれることも、硬膜袖が椎間孔に引き込まれて圧迫されるということも起り得ない仕組みになっている。 更に、その牽引力の伝達は歯状靭帯(DeL)を経由して脊髄に伝達される。 硬膜外では硬膜靭帯(DuL)や中隔(DMS)が、硬膜内部ではクモ膜下柱(SAT)が、脳脊髄液とともに内部環境としての圧力配分を行い、動的恒常性を保っているのであろう。 こうしてみると後根神経節を含む後根は、脳脊髄液によって栄養、エネルギー代謝、緩衝、保護されている。やはり、生理学的にも中枢神経の一部と見た方が分りやすい。 根部の損傷は重篤な問題を引き起こすだろうが、受容器のない後根神経節が圧迫によって痛みの信号を送るとは、どうしても考え難い。 したがって、伝達が阻害されれば運動麻痺になるのだろう、と思わざるを得ないのである。 そう考えると、無症候性の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄があっても不思議な話ではないだろう。
by m_chiro
| 2009-08-15 10:22
| 痛み学NOTE
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