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RSDをチョイ勉して思うこと
1943年にリビングストン(英)が発表した「痛みの悪循環説」は、その後も多くの支持を得てきた理論であるが、この悪循環説では理解できない難治性の痛みの存在が明らかになっている。
いわゆる「神経因性疼痛」に分類される痛みである。
先日記事にした「手術の明暗2態」に書いたBさんが診断されたのはRSD(Reflex Sympathetic Dystrophy)で、神経因性疼痛のひとつである。
RSDも、その診断となると単純に決められるものではなさそうである。
1992年以降は、「ギボンスのRSDスコア」が診断基準として採用されているようだ。

ここはRSDの押さえどころを確認しておこう。

RSDとは「反射性交感神経ジストロフィー」のことである。ジストロフィーと言うのであるから、「痛み」よりも「萎縮」に重点が置かれている。
では、なぜ萎縮(ジストロフィー)が起るのか? 
交感神経の異常緊張が持続することで、局所に虚血や栄養の欠乏状態が起るために局所の皮膚や爪、骨や筋肉に萎縮が起るとされている。

それならば交感神経を遮断すればいいだろう、と1986年にロバーツ(米)がRSDとされる患者さんに交感神経ブロックを行った。
ところが、結果は思惑通りにはいかず、効果がみられるケースと変化しないケース、そして悪化するケースが出た。
ここに至って、交感神経の異常興奮を論拠にしてきたRSDの概念は破綻してしまう。

つまり、交感神経の「依存性疼痛(SMP;sympathetically maintained pain)」と「非依存性疼痛(SIP;sympathetically independent pain)」が分けられ、更に交感神経ブロックで悪化する「ABC症候群(angry backfiring C-nociceptor syndrome)」という概念が生まれることになる。
ABC症候群とはC線維の侵害受容器が過敏になりバックファイアーを起こす症候群で、軸索反射や後根反射などの逆行性興奮が関与していると考えられている。神経の損傷や糖尿病性ニューロパシーなどの神経因性疼痛で、自発性の灼熱痛があり、痛みの部位に血管拡張と皮膚温の上昇など炎症性の所見がみられるものである。

そんなわけで、RSDとされたものは必ずしも交感神経の関与があるとは限らないことがわかってきた。
このRSDと同様の疾患に「カウザルギー」がある。
カウザルギーは、「四肢末梢の神経またはその大きな枝の部分損傷のあとで、交感神経機能障害による血管運動神経と発汗の異常を伴い、持続性の灼熱痛と組織の栄養障害が認められる疼痛障害」と定義されている。
RSDとカウザルギーとを分けているものは、きっかけとなった明らかな四肢抹消における「神経損傷」の有無である。

こうした背景があって、1994年に国際疼痛学会(IASP)はこれらをCRPS(Complex Regional Pain Syndrom;複合性局所疼痛症候群)と改めている。
そして、RSDは「CRPS タイプ1」に含まれ、カウザルギーは「CRPSタイプ2」に入れられた。ただし、痛みを伴わない萎縮のあるRSDの病態は、CRPSから除外される。

それぞれの特徴をまとめると次のようになる。
RSD(CRPS type1)
神経損傷を伴わない四肢の外傷後に生じる痛みで、早期診断には遷延する炎症所見がみられる。他覚的には浮腫が最も重要な徴候とされる。6週を過ぎると骨萎縮(脱カルシューム、骨粗鬆症)がはじまる。慢性期に入ると、関節拘縮と可動性低下、皮膚の萎縮、爪の屈曲変形、指尖の萎縮、患肢の全体的な廃用化が進む。
カウザルギー(CRPS type2)
神経損傷後に生じる痛みで、受傷直後からアロディニア・炊熱痛などの激しい痛みがあるが、浮腫は少ない。


いずれも難治性の疼痛であるが、タイプ1は萎縮性変化や関節の拘縮、可動域の制限が起り得るので厄介なのだろう。

しかしながら、2005年には国際疼痛学会(IASP)がこの区分も廃止している。神経損傷の有無によって症状や徴候に差がないことが分ってきたとされているようである。
その上で4項目の診断基準を提示した。
(米国麻酔科医学会ニュース;ASA Newsletter)。
1. Hyperalgesia and hyperesthesia;痛覚過敏と知覚過敏

2. Temperature asymmetry and color changes;皮膚温や色調の変化

3. Edema and sweating dysfunction; 浮腫および発汗の機能不全

4. Muscle dysfunction, movement disorders and trophic changes.筋機能不全、運動疾患、栄養変化

4項目のうち、診断基準を臨床と研究に分けている。
臨床的には、自覚症状としては3項目以上、他覚症状としては2項目以上を充たすことが条件で、研究的には1項目以上の自覚症状、2項目以上の他覚症状が診断基準の条件とされている。
(「痛みと鎮痛の基礎知識」;CRPS)

この頃は、CRPSに対する運動医療法が注目されている。自動運動や痛みに耐えうる範囲での他動運動が推奨されているのだが、消極的な自動運動は関節の拘縮をきたし、過度な他動運動は痛みの悪化をもたらす恐れがあり、兼ね合いがなかなか難しい。
そこで、運動による誘発痛を引き起こさずに関節運動を行う方法が模索されている。

私が模索しているのは、痛みによる姿勢運動のパターンを表現させて認知を促しながら、可動域や運動の範囲を広げて行く方法である。患者さんが日々自分の運動認知プログラムとして使えるものが望ましいが、個々の問題解決をマニュアル化するのがまた難問である。
by m_chiro | 2009-02-25 13:05 | 痛み考
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