痛み学NOTE⑤ 心因性疼痛の怪
⑤ 心因性疼痛の怪

心因性疼痛

心因性?精神論?違います。痛みのメカニズムです


確かに、胡散臭いのは「心因性疼痛」である。「心因性」という痛みの分類名称が、果たして的を得たものかどうかさえ疑わしい。

痛みには両義性があると定義されているわけで、そうなると痛みには常に「心」の側面がついてまわる。

純粋に心に起因する痛みの線引きは何を基準にして行われるのだろう。それすら不鮮明で、心因性という用語だけが一人歩きしているように感じられてならない。

おそらく、生物医学モデルで説明のつかない痛みがあり、その病態を精神医学的疾患として理解されてきた背景があるのだろう。

精神疾患の診断基準(DSM)では、1980年に初めて痛みを「心因性疼痛障害」として、精神障害のひとつに認めている。それも1987年には「身体表現性疼痛障害」と改定され、94年以降は「疼痛性障害」とされた。ここにも混迷の跡が窺える。

上記のブログにもあるように、「心因性」を冠する疾患・症状名は多い。それも眼に見える心因性の症状である。心因性蕁麻疹、心因性嘔吐、心因性の咳や下痢なども実存する。つまり眼で見ることができる。

ところが、痛みには視覚系の原理が通用しないから厄介である。
視覚系は構造主義の原理なので、親近性があるのは実存主義だけである。
瞬間か永遠か、どちらかである。
痛みが実存しているかどうかは知る由もない。
だから、心因性疼痛の分類は胡散臭い。

ミステリー作家の夏樹静子が、自らの腰痛の闘病記を「椅子がこわい ―私の腰痛放浪記―」という本にした。
現代医学でもあらゆる代替療法でも治療すべき悪いところがない、とされた重度の腰痛が、心療内科医の行う森田療法で治ったのである。
このことを知れば、脳内の内的な要因で起こる「心因性」なる痛みの存在を否定することはできないようだ。それでも、どうもその呼び名だけは腑に落ちない、と私も思う。
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# by m_chiro | 2007-12-05 23:41 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(5)
三代受け継いだ松葉杖
構造的異常を痛みの原因にしない③

半月板の手術のあと膝痛が続いている人をしばしば見かけます。それは関節鏡を使った半月板の手術を得意とする病院があるからでしょう。半月板が悪いから膝痛があるという理論はなりたちません。痛みのない膝でも半月板が損傷している膝はよくあることです。

痛みの本態はこれらの筋肉の筋筋膜性疼痛症候群だとおもいます。筋肉に対してトリガーポイントブロックやマッサージ、電気治療、ストレッチをしてやれば症状は改善します。
筋痛→筋短縮→膝アライメントの変化→半月板の障害、このように半月板の障害は痛みの原因というよりは、結果とみたほうが理にかなっているのかもしれません。
私も、関節鏡を使った手術のあとに続いている膝痛の人をみました。
今年の7月に、松葉杖をついて50代の婦人がやってきました。随分年季の入った古びた松葉杖でした。聞くと、祖父の代から、父親そして自分と三代にわたって使い続けてきた杖だそうです。豪雪の山間部から、はるばるやってきました。

彼女は、今年の2月にあまりにも多い積雪に、屋根の雪おろしをする羽目になったそうです。屋根の不安定なところでの作業がこたえたのか、その翌日から右膝に強い痛みが走るようになりました。次第に膝がはれてきたので、整形外科を受診すると、レントゲン写真で膝の関節軟骨が減っていると言われました。

水を2回抜いてもらい、さらに週一回のステロイド注射を続けたのですが、経過は思わしくありませんでした。とうとう仕事に出るのもつらくなり、5月末には入院・手術になったそうです。

入院中、内視鏡で傷めた半月板を取り除き、更に関節の内部をきれいに掃除してもらう。その時はとてもつらい状態だったようですが、入院生活で無理をしないように努めたこともあって6月中旬頃には松葉杖を使わずに歩けるようになる。その後も、とにかく無理をしないように心がけてきたのだと言います。

ところが、6月末頃になって、また痛みだしました。その後も注射を週一回続けてきたのに、また松葉杖のお世話にならないと、歩くのもままならなくなった。

彼女は見るからに痛々しい感じで、松葉杖をついてやってきました。最初のきっかけは、本人も感じているように屋根の雪おろしでしょう。三代も松葉杖を使ってきたと言うから、豪雪地帯の雪下ろしは不安定な場所での大変な作業なのだと思います。大変なその時に何が起こったのかと言えば、無理な体勢で右膝に負担をかけて、膝周辺の筋・筋膜や軟骨組織に微損傷ができたものと想像できます。

彼女の膝周辺にも、図のような圧痛点がいくつもありました。面白いことに、膝蓋骨上の筋膜に一ヶ所ピンポイントでとても強い圧痛があり、「こんなところにも!」と思ったのを覚えています。

歩行が完全になるまでに20日間ほどかかりましたが、日常生活にも支障なく、仕事にも復帰しました。
構造を診る前に、先ずは筋・筋膜に注目すべきだと痛感します。
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# by m_chiro | 2007-12-04 15:48 | 症例 | Trackback | Comments(1)
神経が伝わる仕組み
一次痛と二次痛があって、緊急時の伝導と遅い伝導の二次痛はその速度が全く違う。そんなイメージを作るのに、次のサイトはお勧めである。

また、コンピューター・グラフィックでニューロンの種類や働きが紹介されている。

感覚神経ニューロンと運動神経ニューロンの違いや、有髄神経と無髄神経の伝導速度の違いも動画でイメージできる。

また、伝導系と伝達系の違いを、電気シナプスと化学シナプスでの動画でみることができる。

Aβ有髄神経の伝導速度の早さに比べ、無髄のC線維は遅い伝導であることもイメージできる。

http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/a-cg/a-800/a-810/IPA-acg410.htm
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# by m_chiro | 2007-12-04 11:40 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
痛み学NOTE④ 痛みには3つのカテゴリーしかない
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

④ 痛みには3つのカテゴリーしかない

痛みの定義(IASP)によれば、痛みには二面性がある。
感覚的な側面と情動的な側面であるが、後者がこの痛み感覚をより複雑にしているようだ。
痛みが「個人的な経験」とされる所以でもある。
更に深刻なことは、痛みを「病い」としては捉えない状況が医療サイドにあることだろう。

痛み症状を持つ疾患を数えあげても随分の数になる。
その一つひとつの疾患を痛み症状との関連から捉えようとすると、更に悩まされてしまう。

でも、痛みそのものを分類すると3つのカテゴリーしかない、という単純な話になる。
 その3つとは、
1.侵害受容性疼痛、
2.神経因性疼痛、
3.心因性疼痛、
である。
なかには「癌性疼痛」を別にして4つに分類する向きもあるが、「神経因性疼痛」に含めている場合が多い。

 さて、わたくし達のように徒手療法で扱う痛みはどれか、と言えば、そのほとんど全部と言ってもいいくらい「侵害受容性疼痛」を治療していると断言してもいいだろう。
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# by m_chiro | 2007-12-03 23:45 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(1)
痛みはアラーム・システムにおける最終警告か。
痛みを診ることのできない医師たち③

慢性痛の治療にあたっては、筋肉にだけの介入ではうまくいかないことも多いものです。時間的、経済的にも自ずと制限があるわけですから。抗うつ薬や抗不安薬は痛みの回路に介入する薬です。うつ病や神経症だから処方するのではありません。とにかく慢性化した痛み、難治な痛みには多角的に治療にあたる必要があります。


私のような徒手療法の治療家には、慢性痛に介入する薬物という武器がありません。
慢性痛には「神経の可塑性」という難問が待ち構えています。
それに、手技でどう対応することが出来るのだろう?
そのことを長い間、問い続けて来ました。

ヒントになったものがいくつかありました。
ひとつは「認知行動療法」です。身体の入力と出力系を再構築するための認知を促す手法です。
2つめは、「うずまき反射」という原始的な警告系の起源の存在です。この反射信号を頼りに、認知させる手法を考えました。

ところが、慢性痛には警告系の役目を果たさない「慢性痛症」がある、と熊澤教授が書いていました。
「慢性痛と慢性痛症」
http://www.aichi-med-u.ac.jp/pain/manseitusho.html

慢性痛症における「警告系の意義のない痛み」ということが、私にはよく分かりませんでした。痛みの神経系が可塑的な変容を起こしている、ということは理解できます。でも、なぜ警告系としての意義がないのかが分かりません。

慢性痛症をかかえる患者さんは、痛みのために行動が抑制され、不安に苛まれているようです。圧痛もよくみられます。これも警告系の現れではないのだろうか。なぜ、警告系の意義がないの?

神経系が可塑的変容を来たしたことは、警告系システムが作動したままでロック状態に入った深刻なレベルの警告(レベル4)ではないのか、と私は逆に思ってしまいます。

もっとも、日常生活を取り戻すための理学療法や代替療法、精神的ケアなどを推奨しているわけですから、本来の神経系を新たに作動させるための認知療法が重要だということなのでしょう。これは、脳の学習システムを利用することだと考えました。

3つめは、脳の学習システムについてです。特に、故・松本元先生の研究には大いに啓発されました。松本先生は、研究者として盛りの時に急逝されましたので残念でなりませんが、「脳は表引きテーブル」という概念、「脳は自己創出による出力依存性の学習機能を持つこと」など、多くの示唆を得ました。
愛は脳を活性化する
松本 元 / / 岩波書店
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4つめは、NIH(米)の神経生理学者ポール・D・マクリーンの「三つの脳の進化」の考え方でした。脳が進化と共に増築しながら階層構造を作ってきたとすれば、警告系も3段階でアラームを発信しているのではないかと考えたわけです。

最古の脳である「脳幹レベル」で発信する「うずまき反射」。本当に反射的なアラームです。
次に「辺縁系レベル」で発信するアラームで情動系から発信します。何か気が重いなど、情動的な「行動の抑制」や「すくみ現象」が現れはじめます。
そして最後は「皮質レベル」で発信する「痛み」です。痛みはアラーム・システムの最終警告だと思います。

有髄のAδ線維が伝える信号は緊急用のアラームですが、重要なのは無髄のC線維で、その終末のポリモーダル受容器です。この原始的な受容器を介して、最終的な警告系情報が飛び交っているでしょう。
また、加茂先生のサイトは痛みの理解に欠かせないものでした。

こうして、3つの警告系をリセットすることを考えました。これは薬物という武器を持たない私の治療に欠かせない手法の下地になっています。まだまだ検証しながら、ヒトの警告系と学習と認知の手法を追い求めたいと思います。
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# by m_chiro | 2007-12-02 21:29 | BASE論考 | Trackback | Comments(1)



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