プロ野球に進んだ2人の腰痛
今日は、大学・社会人のプロ野球ドラフト会議が行われた。

一巡目で関西の球団に指名された○○選手は、高校3年の夏に2年連続甲子園出場をめざして頑張っていたのだが、地区予選大会前に腰痛になって投げられなくなった。

野球部のチームドクターの診断は「椎間板ヘルニア」で、ブロック注射を続けていたのである。
ところが、一向に良くならない。
それどころか腰は逃避姿勢に歪み、座っているのも辛い状態に陥ったのである。

エース不在では闘えないと、たまりかねた監督とコーチ、それに父親が私のところに連れてみえた。

身体は逃避姿勢で歪んでいるものの、どう診ても「椎間板ヘルニア」とは思えない。深部反射も全く正常だった。

私は、この腰痛はヘルニアとは無関係だと告げ、「何とか、後半戦までには間に合うかもしれない」と予測して、私のところで治療することになったのである。

ところが、チームドクターは激怒して「それならMRIを撮れ」ということになった。

結果は、背骨がまがっているものの、ヘルニアの痕跡は見つからなかった。
私にとっては別の意味でホッとした瞬間で、MPS(筋・筋膜疼痛症候群)として治療を行ったのである。

腰痛は順調に回復していった。
1週間後には軽めの馴らし運動をはじめることができるまでになり、どうにか後半戦を投げぬいた。
たが、残念ながら決勝戦では涙を呑んだ。
2年連続甲子園の彼の夢は終わった。

彼は進路を社会人野球に行くと決めていたのだが、私は大学で野球をすることを勧めたのである。

結局、彼は東都野球チームの大学に進学し、エースとして活躍することになる。
大学進学後も、帰省した折には必ずコンデショニングを兼ねて治療を続けてくれた。

今日、その彼がTVの会見で満面の笑顔でインタビューに答えていた。念願であったプロの道へ進む喜びが溢れていた。堂々とプロ野球での活躍を約束していた姿を見て、私の胸にも熱いものが込み上げてきた。

もうひとり、高校生ドラフトで在京チームに2順目で指名された○○君は、高校1年の秋に腰痛に苦しめられた選手である。診断は「腰椎分離症」で、野球を断念すると語っていたのだが、私は「この腰痛は分離症とは関係ないよ! また野球をやれるよ!」と励ましながら治療した選手である。
その彼も2年生の秋には復活し、プロ野球に進むことになった。

今年のドラフト会議は、いろんな意味で心に残る。これもMPSの概念と、痛みの生理学を学んだ賜物だろう。
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# by m_chiro | 2007-11-19 22:04 | 症例 | Trackback | Comments(4)
痛み学NOTE① 今、なぜ痛みなのか?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

①今、なぜ痛みなのか?

 今さら痛みなんて、と思われるかもしれないが「忌まわしきもの汝の名は痛み」で、いまだに未知の部分が多い。日々、臨床で親しんでいる症状ではあっても、手ごわい存在である。このことはすべての医療にかかわる者にとどまらず、研究者にとっても、社会経済上でも、今なお難題なのである。

 そんなわけで、アメリカ議会は21世紀初頭の10年を「痛みの10年(Decade of Pain and Reserch;2001~2010年)」と位置づけるバイオメディカルサイエンス振興策を宣言した。アメリカ政府が如何に痛みの研究を最重要課題にしているかが窺えるであろう。

 今なぜ痛みなのか。実は、アメリカでは痛み対策に莫大な国家予算が導入されてきた背景がある。それもこれも痛みの実体やメカニズムが本当はよくわからず、決定的な治療法もないという実情を反映している。痛みに対する不適切な治療など、社会経済の国家的損失は莫大で、損失推計だけでもなんと年額650億ドル(約9兆円)にものぼると言われている。そのためにアメリカでは1970年代から疫学調査を行い、適切な痛み治療によって1996年には個人的医療費は約60%も節約できるだろう、という推計も発表した。

 1998~1999年にかけて行われた全米における実態調査によると、高度の慢性痛に悩まされている患者は成人人□の9%に及んでいたのである。
 
同様の社会事情を抱えている日本やヨーロッパでも、痛みの調査研究はやはり重要な課題である。

 こうした取り組みは、おそらくアメリカがさきがけであろう。このバイオメディカルサイエンス振興策が最初に宣言されたのは、クリントン政権化の1990である。それは「脳の10年(Decade of Brain)」としたスローガンで、20世紀最後を飾るにふさわしい振興策であった。
その成果が今日の脳科学ブームの下地になっている。なにしろ脳の研究が大きく展開した。

 痛みの研究も、このアメリカの国家的プロジェクトによって進展することが予測される。それと関連して、整形外科領域では「運動器の10年」(Bone and Joint Decade)として21世紀初頭が位置づけられており、医科学に関する視点は活動性に向けられるようになっている。 こうした研究が、国家的プロジェクトで進められていることには注目である。

 日々、痛みを持つ患者と向き合うことが多いカイロプラクティックも、痛みのメカニズムを再構築するときが早晩くるように思われる。

 人間の歴史と共にはじまった痛みは、研究、考察そして治療の対象であった。カイロプラクティックも人間の日常的な痛みを取り扱ってきたし、その解明にも自説を主張してきたように思う。しかし、カイロプラクテックが言及してきた痛みの根拠には、大きな疑問も見え隠れする。

 痛みの生理学的な解明が待たれるところだが、21世紀に入って痛みは古くて新しいテーマとして浮上してきたのである。
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# by m_chiro | 2007-11-19 14:48 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
脳脊髄液減少症
低髄液圧症候群

「低髄液圧症候群」と診断され、首から髄液が漏れていると言われた方でも改善がみられる事もあるという事をどうかご記憶下さい。

「低髄液圧症候群」と「脳脊髄液減少症」は、同一の疾患を指しているようですが、発症にかかわるのは髄液圧の低下ではなく、髄液量の減少にあるようです。「脳脊髄液減少症」の提唱者である篠永正道先生の講演を、ある学会で聞いたことがあります。話しを結んで次のように言っておりました。

脳脊髄液減少症の初期の段階では自然に治っていく例も多い。脳脊髄液減少症の可能性のある患者さんが来られたら、この病気では安静にすること、水分を多めに取ることが大切であることを説明してほしい。

痛み、筋緊張亢進の改善、自律神経症状の改善、脳脊髄液循環の改善などで、何かできることがあるのではないかと期待している。


脳脊髄液の循環については、頭蓋療法(クレニオパシー)の狙いとする方法ですし、痛みや筋緊張、自律神経の調整など、徒手療法が貢献できる部分がかなりあるのではないかと感じました。脳脊髄液症候群なるものの病態は良く分かりませんが、安易に診断されると、痛みをヘルニアや変形と結びつけるような誤解が生じかねないように思います。あくまでも仮説で、まだまだ調査・研究の余地が残されているのでしょう。

また、整体治療で発症する例や悪化する例も少数ながら存在するので、マニピュレーションを行うには細心の注意が必要だ、と注意もしておりました。

診断のポイントとして7項目をあげておりました。

1. 症状:頭痛、頚部痛、脳神経症状、倦怠、高次脳機能障害などの組みあわせ
2. 起立時に悪化、横になると改善傾向
3. 臥床安静、十分な水分補給で症状改善
4. 低気圧が近づくと悪化、脱水時に悪化する傾向
5. 軽微な外傷の既往がある
6. 造影MRIで髄液腔拡大(偽脳萎縮)、静脈拡張、小脳扁桃下垂、硬膜肥厚などの所見がある
7. RI シンチグラフィーで早期膀胱内RI集積、髄液漏出像がみられる


脳脊髄液量の低下が起こると、髄液中の神経伝達物質量が低下し、脳・脊髄機能を変化させるのではないかという仮設でもあります。分かりやすく言えば、自動車のエンジンオイルが減少した状態でしょう。車は動くが、エンストしやすく馬力がでない。このような状態に脳が陥っていると考えているのでしょうが、いまひとつ釈然としないものも残ります。
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# by m_chiro | 2007-11-16 16:10 | 症例 | Trackback | Comments(2)
三叉神経痛・血管圧迫説
横浜市立脳血管医療センター長を務める植村研一先生の講演を聞く機会があった。
講演の中で、神経痛に話がおよび、「三叉神経痛は簡単な手術ですぐ治る」と言っていました。

植村先生は「頭痛・めまい・しびれの臨床ー病態生理学的アプローチー」(医学書院)という著書もある。その本の中でも三叉神経痛について、症例を引用して書かれている。この症例は講演で引用した三叉神経痛の患者のものと同じですが、「三叉神経圧迫説」です。何が三叉神経を圧迫しているかというと、近くの血管による圧迫だそうです。

本当に、血管のような弾性の組織が神経を圧迫して三叉神経痛が起こるのでしょうか?
とても疑問です。やはり「軸索反射説」の方が納得ですね。

c0113928_0495669.jpg


写真左が血管により三叉神経が圧迫されて白くなっているのを、右の写真では圧迫を取り除いた、と解説されていました。

加茂先生は、以前のブログで次のように述べていました。

神経性炎症
三叉神経痛の手術は血管によって圧迫されているのを除圧するのではなくて、隔壁をつくることによって血管が神経ペプチドの影響を受けないようにしているのだろうと思います。

納得ですね。
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# by m_chiro | 2007-11-16 01:00 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
ヒトの警告系の起源は?
身体の内部環境やその外部環境は、時々刻々変化している。
生き物は内外の環境の異常や変化に遭遇すると、それに反応し行動を起こす。これは自らの生命を守るために必要不可欠の生存システムである。

炎症や免疫反応による液性の調節系も、生きるという根幹にかかわる重要な警告反応系である。

当然、痛みなどの侵害刺激に対しても、身体を守るための反応系として「痛みが」現れる。そして痛みという感覚には、「不快感」という情動が裏打ちされている。

こうした変化に対する情報に反応する系として、神経系ができあがっている。その最も原始的な警告系の起源は「うずまき反射;Coling reflex」だと、愛知医科大学・医学部の熊澤孝朗教授は述べている。1)

c0113928_22502949.jpg



当然、ヒトにもうずまき反射は残っているに違いない。
学兄・中原敏憲先生は臨床の現場で、左に顔を向けた時に行動の抑制が起こることに気がついた。

行動するときに主導する筋肉は腸腰筋群である。その筋群が顔を左に向けた状態にあると抑制が起こるのである。私はこの現象とリセットする手法に対しBASEと命名した。2)

腸腰筋群は行動の主動筋である。その筋群が初動の動きで抑制される。これは脊椎動物における最も原始的なうずまき反射の名残りに違いないと思う。

この警告信号が発信されたままでいることは、身体の警告系信号が解除されていないことを意味しているのだろう。そう考えると、圧痛点を持ちながら痛み自覚を持たない人がいることもうなづけてくる。私の治療は、このBASEの信号をリセットすることから始まる。

今後は時々に、このブログを通してBASE論の仮説について紹介したり、考えていることを述べる機会を持ちたいと思う。

1)「痛みのケア ー慢性痛、がん性疼痛へのアプローチー」2006、照林社刊、9頁
2)「Brain Alarm System Entrainment:脳内警告系信号路」
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# by m_chiro | 2007-11-13 22:51 | BASE論考 | Trackback | Comments(0)



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