筋肉は身体中を連鎖して動く巨大な生き物
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特殊加工で人体模型をつくるプラストネーションの人体博覧が、日本の主要都市でも開催されたが、そのプラストネーションの人体写真から骨体と筋・筋膜体を描きだすと上の図のようになる。

その図が、「Anatomy Trains」に出ていた。
The Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapies
Thomas W. Myers / / Churchill Livingstone





解剖学で筋肉について色々学んできた。
だが、この図を見ていると、二本の骨を結ぶ固有の筋肉であるというイメージが全く別物に見えてくる。

まさに筋肉は人体最大の臓器で、その筋・筋膜は身体中にどこまでも連鎖して動くひとつの生き物のようだ。

ヒトは筋・筋膜なしでは動けないし、受容器はこれらの中にちりばめられている。
神経は、この筋・筋膜という臓器のために存在するのだろう。

治療家は、もっとこの巨大な臓器に着目する必要があるようだ。
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# by m_chiro | 2007-12-25 23:29 | 雑記 | Trackback | Comments(3)
突然の背部痛に潜む魔物
長年にわたり日本医師会会長を務めた故・武見太郎氏は、名医と言われたらしい。
いろいろな伝説が残っている。
「実録日本医師会」(朝日新聞社刊)には、こんなエピソードが書かれている。
河野洋平代議士の父親であり、時の総理大臣候補であった故・河野一郎代議士が、昭和40年7月7日に自宅で倒れた。

「腰が痛い」と唸るので、近所の医師5~6人が駆けつけて診察した。
「ぎっくり腰による神経痛」。
これが一致した診断だった。
原因は疲れでしょう、ということで医師団は安定剤を注射して帰ったが、痛みは次第に悪化し、意識を失う状態にまでなったという。

そこで、呼び出されたのが武見太郎医師である。
駆けつけた武見先生は、お腹に手を当てるやいなや「大動脈瘤の破裂」と診断したのだそうだ。大動脈瘤が破れると背中や腰に激痛が起こるために、しばしば整形外科領域でも誤診が起こる、と言われている。
整形外科医と家族とで裁判沙汰になったケースもあるらしい。

大動脈瘤が破裂すると、腎臓に血液が流れ出して圧迫するため、腎実質が小さくなって小水も出なくなり、激しい腰痛が起こる。
ただの腰痛や背部痛と思っていると、とんでもない魔物に出くわすこともあるのだ。

こんなこともある。
整形外科で腰痛と診断され、湿布薬を貼っていたら、実は膵臓癌だったとか。
思い当たる原因もないのに、唐突と背部が痛み出した患者には注意が必要だ。裏に何かが隠されていることもあり得るのだ。

Medical Tribune誌 (VOL.38 NO.6)誌は、60歳以上の突然の背部痛患者には膵臓癌の検査をする必要性について報告している。
膵癌の特徴は急激な増殖と早期転移であるが、発見時にはかなり進行しているケースが多い。ハイデルベルク大学病院外科のFriedrich H. Schmitz-Winnenthal博士らは,より正確な診断を早期に下すことの重要性をあらためて指摘している。

特に60歳以上の患者で、突然の背痛を訴えるケースあるいは新たに糖尿病発症のいずれかが認められた場合には、膵癌を疑ってみるべきだというが、現時点では確実な腫瘍マーカーが存在しないというからやっかいである。

最も感度が高いとされるCA19-9(感度70%)マーカーは,胆汁うっ滞によっても上昇してしまう難点があって、膵癌の決定的な診断にはならないのだそうだ。
それでも画像診断法では、超音波検査がコストと利便性の両面で優れており、胆道閉塞の確認は十分に可能らしい。

徒手療法家の一般的な適応症状と言っても、その裏側にはどんな魔物が潜んでいるかも知れぬ。
武見先生のように触診ひとつで見分ける「診断力」は理想とすべきだが、疑わしきは専門医に紹介する判断力も大切なのだと肝に銘じておこう。
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# by m_chiro | 2007-12-22 23:37 | 症例 | Trackback | Comments(2)
解離性大動脈瘤に出会う
医療事故の新聞報道がある。74歳の女性患者のCT画像に写った「大動脈解離」の所見を見落としたために死亡した、という内容であった。

この患者さん、救急車で病院に運び込まれたが、担当医はCT画像上にある心臓内部の亀裂を見落としたうえに、「たいした問題はない」として患者を帰宅させている。
帰宅させられたものの、患者さんは具合が悪い。それで翌日、再び受診する。
ところが、当直医は血液検査だけで済ましてしまった。結局、この患者さんは翌々日に死亡した。三日間における急展開である。

担当した2名の医師は、適切な処置を怠ったための業務上過失致死の疑いで書類送検されることになった。事情聴取に対して、この医師は「おかしいとは思ったが、専門医に報告するほどではないと判断した」と話したという。

この報道をみて、同じ疾患に遭遇して「クワバラ、くわばら」と感じた時のことを思い出した。
私の患者さんも、前述の患者さんとほぼ同じ76歳の老齢の女性であった。昨年4月に、この婦人は娘さんに付き添われて、私の治療室にやってきた。

肩甲間部、特に胸椎4・5レベルから胸部への痛みを訴えていた。状況を聞くと、「朝起きたら痛みだした」と言う。思い当たるような原因はない。内科に受診し、「筋肉痛か、肋間神経痛だろう」と診断され、鎮痛剤を処方されている。
それでも痛みの軽減が見られず、私の治療室にやってきた。

座位による体幹の動きでも軽減は診られない。軽減因子がないのである。仰臥位にすると痛みは憎悪し、背部を診察しようと腹臥位にしたら大変だった。顕著に痛みだして持続姿位をとれなかった。この憎悪因子は「解離性大動脈瘤」の所見でもある。
これはおかしいと直感したので、結局は循環器科で診てもらうように指示した。その時すでに午後6時を過ぎていた。

「病院はもう終わっているから、明日行ってみる」と言う患者さんを説得して、すぐに総合病院の救急治療室に向かわせた。夜になって、付き添ってきた娘さんが電話をくれた。聞くところによると、運よく循環器科の先生が当番医で「解離性大動脈瘤」と診断されたようだ。すぐに入院するように言う医師に向かって、この患者さん「何の準備もしていないから明日入院する」と言ったらしい。

医師は「今日は帰すわけにはいかない」とつっぱねて、ついには入院することで決着したようだ。
それからしばらくして、元気になった患者さんから丁重なお礼を言われた。

「おかげさまで命拾いしました」。
医師から事の重大さをトウトウと説明されたようだ。お礼を言われたものの「クワバラ、くわばら」であったが、私にしてみれば初めて解離性大動脈瘤が発症した患者に接したわけで、こんな機会はめったにないことだろう。もっとしっかりと随伴徴候を診ておくべきだった、と反省してしまった。

解離性大動脈瘤は95%以上が腎動脈の直下にあり、それが臍まで広がって腰部に放散したり、肩甲間部や胸部から両肩に放散したりするのが特徴的である。
破裂が切迫している時は、早朝に軽快徴候を示すそうだから、要注意である。

脈拍の消失や臥位での腹部の鼓動にも注目したい。触診では腹部の脈打つ塊を診ることもあるだろうし、一側上肢の血圧低下も特徴的な症状である。
ともかく痛みは重度であるから、あれこれと詮索している暇もなく、病院に向かわせてしまったが、元気になってくれたのが何よりの救いだった。
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# by m_chiro | 2007-12-21 22:20 | 症例 | Trackback | Comments(0)
痛み学NOTE⑦ 神経が歪む病気としての痛み
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑦ 神経が歪む病気としての痛み
受容器が侵害されなければ痛みが起こらないのか、と言えば、そんなことはない。
痛覚受容器の侵害と関係なく起こる痛みがあり、それが「神経因性疼痛」である。
神経系の可塑的変化によって起こる痛みで、難治性の、言わば「神経が歪んだ」状態とみるべきだろう。
生理的な痛みの機序では説明することができない痛みなのである。

例えば痛覚過敏であるが、本来は痛みを発生しないような軽い蝕刺激でも痛みを引き起こすアロデニアがある。
私も、十数年も前にアロデニアと診断された患者を診たことがある。
後にも先にもアロデニアの確定診断を受けた患者を診たのはその一例だけであるが、私にはお手上げだった。

とにかく1分と同じ姿勢を保てない。
ベッドに背中が触れただけでも、身体に触れただけでも痛がった。
座っていても、じっとしていられないようだった。
ありとあらゆる診療科目を回り、ドクターショッピングを続けざるを得ないといった気の毒な患者だったが、さりとて私にはどうすることもできなかった。
今ならば、何らかのアオバイスなり方法を試みることが出来るようにおもうのだが...。
でもこの患者が、痛みという病気の存在に関心を向けさせてくれたように思う。

他にも帯状疱疹後神経痛、癌や糖尿病の患者、術後神経痛、幻肢痛などが神経因性疼痛とされる。
神経因性疼痛は、発症の詳しい仕組みも分かっていない。
消炎鎮痛薬(NASIDs)や医療用麻薬(オピオイド)も効かない。
今のところ効果的な治療法も見つかっていない。
痛覚受容器は関与していないとされているようだ。

なぜ神経が歪むのか。
よく分かっていないとは言え、強い痛みが「持続」すること、末梢あるいは中枢神経の「損傷」、そして「心理学的機序」が基盤になって、神経系に可塑的変化がもたらされたのだろう。
それでも、なぜ痛みが広範に伝搬していくのか。
例えば細胞レベルの問題とか、少し違った視点からみることも必要なのかもしれない。
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# by m_chiro | 2007-12-20 22:18 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(4)
唐辛子、恐るべしか!
一冊の汚れた本が座右にある。
「解剖実習の手びき」(南山堂)で、寺田春水/藤田恒夫の共著である。
あちこちにメモ書きがあり、その上に油やシミもついていて、みすぼらしい姿になっている。
何しろ、10年間にわたって毎年、この本を教科書にして解剖実習を行ってきた。
場所は中国・大連医科大学の解剖教研室。4人のチームで、一体を90時間かけて行う人体系統解剖学の実習授業である。こうして10年もお世話になったのだから、汚れて当たり前だが大事な本でもある。

教科書の著者の一人である藤田恒夫先生は、岡山大学助教授を経て新潟大学の教授になった。感覚の受容とホルモンの分泌を一人二役でこなしている「パラニューロン」について提唱した人でもある。

当時、その藤田教授の著書「腸は考える」が岩波新書から刊行されていて読んだ。
ただ、教科書の著者という興味でしかなかったのだが...。もっと言えば、解剖では「腸」は単なるチューブとしてしか見えず、腸について大した興味があったわけでもなかった。

ところが、藤田先生の「腸を考える」には、消化器ホルモンの研究を行ってきた顕微解剖学・内分泌学の研究者の苦闘の様子が、まるでミステリー物でも読むような感覚で書かれていて魅了された。

腸は「第二の脳」とも言われている。そんな馬鹿な!と思うだろう。
だが、食物成分の認識、毒素の排出の指令などなど、「腸の超能力」の働きが生き生きと伝わってくる。そこから、まるで脳の原理をみるように「腸」の魅力的な働きを読み取ることができるのだ。

人体のミクロの世界では、60兆個の細胞がそれぞれ個性的な働きをして、ダイナミックに生命活動が行われていることが感じられてくる。まさに「人体は小宇宙」であるように。

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その藤田先生が、今度は「細胞紳士録」という本を同じ岩波新書から2004年に出した。
そこに、神経細胞とカプサイシン、サブスタンスPのことが書かれている。

「サブスタンスP」の存在は知られていたが、これが神経伝達物資であることを実験的に証明したのは日本の薬理学者らしい。
「サブスタンスP」は、痛みの神経伝達物質である。

そして、サブスタンスPを樹状突起の末梢から大量に放出させるのが「カプサイシン」である。
このことを実験したのが、パブリカ料理の本場・ハンガリーの研究者・ヤンチョウだそうだ。
彼は、生まれたばかりのネズミにカプサイシンを注射すると、全身の痛み感覚が生涯脱落してしまうことを発見したのだそうだ。触覚の神経は正常に保たれても、痛覚を伝える小型ニューロンが全滅していた、とされている。

トウガラシは恐るべしか!
でも、無痛症になるのはもっと困る。

慢性痛の治療薬

C線維の先端についているポリモーダル侵害受容器のバニロイド受容体から局所麻酔の誘導体を入れて、C線維だけをブロックしようとするものだ。
局所麻酔の誘導体は神経細胞の中に入って初めて局所麻酔としての働きをしめす。
バニロイド受容体は唐辛子エキスのカプサイシンの受容体で、痛覚神経のポリモーダル侵害受容器だけにある。

ここに、「神経系障害を伴わない疼痛遮断が可能に」という記事が紹介されていて、カプサイシンに代わる疼痛シグナル抑止効果の錠剤開発の見込みが書かれている。ポリモーダル受容器の図にもあるようにバニロイド受容体で遮断するというものである。

カプサイシン作用の「いいとこ取り」で、慢性痛を解決する夢の薬が開発されることを願うばかりだが...。
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# by m_chiro | 2007-12-18 23:33 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)



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