痛み学NOTE③ 痛みが必須のバイタルチェックになった
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

③ 痛みが必須のバイタルチェックになった

 痛みの尺度を、QOL評価尺度に置き換えて評価する動きがではじめた。代表的なものがRDQ(Roland-Morris Disability Questionnarie)で、これは腰痛の特異的なQOL尺度である。

 開発したのはRoland博士とMorris博士で、多くの国で活用されている。日本でも今年2004年3月に日本版マニュアルが発表された。背景には、やはりアメリカの動向がある。

 2004年に刊行された腰痛に関するRDQマニュアルは24項目の質問にイエス・ノーで答えるものである。痛みの個人差にかかわりなく、腰痛による生活の質(QOL)を評価することで個々の患者の活動状況を知り、その腰痛の程度が割り出されるアンケート様式である。

 こうしてアメリカの「痛み10年宣言」は、痛みを確かな治療対象として俎上に乗せ、医療の現場にも変化をもたらした。医療に義務づけられたバイタルチェックが現行の4項目(体温、血圧、心拍、呼吸数)から、痛みを加えた5項目チェック(Fifth Vital Sign)が義務づけられることになったのである(アメリカ医療施設評価合同委員会:JCAHO)。

 今やアメリカでは「痛み」に対する治療基準が設けられ、痛みの治療が重要な医療行為であるというコンセンサスが得られた。それが21世紀に入って決められたことにあらためて驚くと同時に、鎮痛に対する医療の役割を再認識しなければならない時代になったことに気づかされる。

 痛みの定量化は、今や避けては通れない評価尺度でもある。RDQもそのひとつとして汎用されているのであろう。
 
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# by m_chiro | 2007-11-23 23:33 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
触診による錯覚
構造主義の原理は視覚系である。
徒手療法を行う人は、ともするとこの視覚にだまされやすい。
触診を行う先に構造を捉えようとする人は、意識が骨構造に向かう。
そのために、触診者の指先と骨構造の間に介在する筋肉を無視しがちになる。

例えば、下の写真は坐骨結節を捉える指先であるが、坐骨結節が変化し歪んでいるのではない。

変化したのは触診者の指先に過ぎない。
ところが、骨構造に意識が向いてしまうと、「骨盤が歪んでいる」という結論を導き出してしまう。
視覚系がつくるイルージョンを真に受けてしまうのだ。

筋肉の緊張度や肥厚などが意識されていれば、筋・筋膜組織の問題に注意するに違いない。
ところが、構造主義の治療家は「骨が歪んでいる」と錯覚して疑わない。
そして、治療の対象も骨構造に向けられる。

触診錯覚は、大きな間違いを生み出しかねないのである。

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「徒手医学のリハビリテーション」11p
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# by m_chiro | 2007-11-22 18:50 | 動態学 | Trackback | Comments(4)
痛み学NOTE② 「痛い!」と言われれば痛いのである
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

② 「痛い!」と言われれば痛いのである

 国際疼痛学会(IASP)の「痛みの定義」によれば、「痛みとは、組織の損傷を引き起こす、あるい損傷を引き起こす可能性のある時に生じる不快な感覚や不快な情動を伴う体験、あるいはそのような損傷が生じているように表現される感覚や情動的体験である」としている。

 この定義によれば、痛みとは生体に実在する障害あるいは潜在的な組織障害に伴って起こる知覚的、情動的な不快体験ということである。からだのどこかに神経を刺激する有害なものがあるとする知覚と、不快感を示す心の表現をさしているのである。つまり、痛みは二面性を持っていることになる。

 これは実にやっかいな問題でもある。痛みが知覚的かつ情動的なものであるとすれば、まったく個人的な体験と言う以外ないのだ。

 痛みを愁訴とする患者の症状が良くなったと言われても、良くなった痛みが本当はどの程度の痛みで、それは多くの人に共通の強度なのか、あるいは疾患によって同じものなのかを計り知ることはできない。痛いと言われれば、それまでのことなのである。
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# by m_chiro | 2007-11-20 09:13 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
プロ野球に進んだ2人の腰痛
今日は、大学・社会人のプロ野球ドラフト会議が行われた。

一巡目で関西の球団に指名された○○選手は、高校3年の夏に2年連続甲子園出場をめざして頑張っていたのだが、地区予選大会前に腰痛になって投げられなくなった。

野球部のチームドクターの診断は「椎間板ヘルニア」で、ブロック注射を続けていたのである。
ところが、一向に良くならない。
それどころか腰は逃避姿勢に歪み、座っているのも辛い状態に陥ったのである。

エース不在では闘えないと、たまりかねた監督とコーチ、それに父親が私のところに連れてみえた。

身体は逃避姿勢で歪んでいるものの、どう診ても「椎間板ヘルニア」とは思えない。深部反射も全く正常だった。

私は、この腰痛はヘルニアとは無関係だと告げ、「何とか、後半戦までには間に合うかもしれない」と予測して、私のところで治療することになったのである。

ところが、チームドクターは激怒して「それならMRIを撮れ」ということになった。

結果は、背骨がまがっているものの、ヘルニアの痕跡は見つからなかった。
私にとっては別の意味でホッとした瞬間で、MPS(筋・筋膜疼痛症候群)として治療を行ったのである。

腰痛は順調に回復していった。
1週間後には軽めの馴らし運動をはじめることができるまでになり、どうにか後半戦を投げぬいた。
たが、残念ながら決勝戦では涙を呑んだ。
2年連続甲子園の彼の夢は終わった。

彼は進路を社会人野球に行くと決めていたのだが、私は大学で野球をすることを勧めたのである。

結局、彼は東都野球チームの大学に進学し、エースとして活躍することになる。
大学進学後も、帰省した折には必ずコンデショニングを兼ねて治療を続けてくれた。

今日、その彼がTVの会見で満面の笑顔でインタビューに答えていた。念願であったプロの道へ進む喜びが溢れていた。堂々とプロ野球での活躍を約束していた姿を見て、私の胸にも熱いものが込み上げてきた。

もうひとり、高校生ドラフトで在京チームに2順目で指名された○○君は、高校1年の秋に腰痛に苦しめられた選手である。診断は「腰椎分離症」で、野球を断念すると語っていたのだが、私は「この腰痛は分離症とは関係ないよ! また野球をやれるよ!」と励ましながら治療した選手である。
その彼も2年生の秋には復活し、プロ野球に進むことになった。

今年のドラフト会議は、いろんな意味で心に残る。これもMPSの概念と、痛みの生理学を学んだ賜物だろう。
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# by m_chiro | 2007-11-19 22:04 | 症例 | Trackback | Comments(4)
痛み学NOTE① 今、なぜ痛みなのか?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

①今、なぜ痛みなのか?

 今さら痛みなんて、と思われるかもしれないが「忌まわしきもの汝の名は痛み」で、いまだに未知の部分が多い。日々、臨床で親しんでいる症状ではあっても、手ごわい存在である。このことはすべての医療にかかわる者にとどまらず、研究者にとっても、社会経済上でも、今なお難題なのである。

 そんなわけで、アメリカ議会は21世紀初頭の10年を「痛みの10年(Decade of Pain and Reserch;2001~2010年)」と位置づけるバイオメディカルサイエンス振興策を宣言した。アメリカ政府が如何に痛みの研究を最重要課題にしているかが窺えるであろう。

 今なぜ痛みなのか。実は、アメリカでは痛み対策に莫大な国家予算が導入されてきた背景がある。それもこれも痛みの実体やメカニズムが本当はよくわからず、決定的な治療法もないという実情を反映している。痛みに対する不適切な治療など、社会経済の国家的損失は莫大で、損失推計だけでもなんと年額650億ドル(約9兆円)にものぼると言われている。そのためにアメリカでは1970年代から疫学調査を行い、適切な痛み治療によって1996年には個人的医療費は約60%も節約できるだろう、という推計も発表した。

 1998~1999年にかけて行われた全米における実態調査によると、高度の慢性痛に悩まされている患者は成人人□の9%に及んでいたのである。
 
同様の社会事情を抱えている日本やヨーロッパでも、痛みの調査研究はやはり重要な課題である。

 こうした取り組みは、おそらくアメリカがさきがけであろう。このバイオメディカルサイエンス振興策が最初に宣言されたのは、クリントン政権化の1990である。それは「脳の10年(Decade of Brain)」としたスローガンで、20世紀最後を飾るにふさわしい振興策であった。
その成果が今日の脳科学ブームの下地になっている。なにしろ脳の研究が大きく展開した。

 痛みの研究も、このアメリカの国家的プロジェクトによって進展することが予測される。それと関連して、整形外科領域では「運動器の10年」(Bone and Joint Decade)として21世紀初頭が位置づけられており、医科学に関する視点は活動性に向けられるようになっている。 こうした研究が、国家的プロジェクトで進められていることには注目である。

 日々、痛みを持つ患者と向き合うことが多いカイロプラクティックも、痛みのメカニズムを再構築するときが早晩くるように思われる。

 人間の歴史と共にはじまった痛みは、研究、考察そして治療の対象であった。カイロプラクティックも人間の日常的な痛みを取り扱ってきたし、その解明にも自説を主張してきたように思う。しかし、カイロプラクテックが言及してきた痛みの根拠には、大きな疑問も見え隠れする。

 痛みの生理学的な解明が待たれるところだが、21世紀に入って痛みは古くて新しいテーマとして浮上してきたのである。
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# by m_chiro | 2007-11-19 14:48 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)



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