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急性腰痛の治療―安静臥床、エクササイズ、それとも通常の活動?
"The treatment of acute low back pain--bed rest, exercises, or ordinary activity?"
(N Engl J Med. 1995 Feb 9;332(6):351-5.)
Department of Occupational Medicine, Finnish Institute of Occupational Health, Helsinki.

急性腰痛には、ベッドでの安静や腰部伸展エクササイズがよく処方されている。
果たしてどちらが有効なのか。
この相反する治療の有効性は未だに論争の的である。

そこで、フィンランドの職業病医学(Occupational Medicine)・ヘルシンキ職業病ヘルス研究所が行なった調査結果が報告されている。

この調査は、急性の非特異的腰痛患者186名を対象としている。
患者群186名を、ランダムに3群に割り当てた。
1群は2日間の安静臥床群26名、2群は腰部の伸展エクササイズ群52名、3群は対照群67名(耐えうる限りの通常の生活を行わせた日常生活群)である。

その3週間後と12週間後の結果では、対照群が安静臥床群あるいは伸展エクササイズ群よりも良好な回復を示した。痛みの持続時間、疼痛強度、腰椎屈曲、主観的測定の労働能力、Oswestry腰部障害指標において、対照群は統計学的に重要な有意差がみられたのである。

回復が最も遅かったのは、安静臥床の患者群だった。

この調査から、急性腰痛患者は耐えうる限り通常の活動をすること(通常の日常生活)が、安静臥床や伸展エクササイズを行うよりも早い回復につながる、としている。

安静して寝込むのは、何よりも回復を遅らせる、ということのようである。

これに正当な治療処方が加われば更に回復も早まるわけで、問題を難しくするからややこしくなる。
動きの所作(筋・筋膜etc)と脳との「やりとり」が、鍵を握っているのだろう。

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by m_chiro | 2011-06-29 23:24 | 痛み考 | Trackback | Comments(4)
慢性腰痛の過剰診療、引き時か?
Overtreating chronic back pain: time to back off?

最も一般的な 患者愁訴は慢性腰痛である。
その蔓延と影響が、検査と治療の範囲を急速に膨らませている、と警告している。

中には、良く実証されていないものが指示され、使われている。
有効性や安全性についても不確実に導かれて乱用され、合併症が増加している。
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最近の研究では、硬膜外ステロイド注射のためにメディケア出費の629%の増加が証明されている。腰痛に対するオピオイド鎮痛のために423%が増加。老人医療保険制度の受益者での腰部MRI検査は307%の増加;脊椎固定術外科手術レートで220%増加している。

入手できる限られた研究が示唆しているのは、これらの増加が患者のアウトカムあるいは障害の割合における母集団レベルに改善がみられなかったということだ。

多くの治療に対するより厳しい単独の試験、慢性痛のための方策と新薬のポスト・マーケティングの監視機構の認可を規定するスタンス、慢性腰痛管理における慢性疾患モデル、疼痛メカニズムのベーシック・サイエンスの理解が必要とされている。
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慢性腰痛に対するMRI検査やオピオイド鎮痛、硬膜外ブロック、脊椎固定術の割合が1994年から6年~10年間に急増している。
これに対して、1996~2005年の10年間で循環器や呼吸器症状は減少傾向にあるものの、筋骨格症状は上昇している。

明らかに過剰診療で、引き時ではないか?
と、この論文は主張している。
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by m_chiro | 2011-06-28 01:04 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
腰痛の概念的変化について:菊地臣一教授の講演より
前回の記事に、タクさんからコメントと貴重な情報提供をいただきました。

タクさんは、ご自身の痛みに自ら答えを得ようと、痛みに関する多くの文献に眼を通してこられたようです。直接お目にかかったことはありませんが、私の拙いブログにもコメントや興味深い論文などの情報を度々頂戴しました。ありがたい存在です。そんなタクさんの博識ぶりを知るにつけ、少なくとも痛み治療に関わっている者としては大いに触発され、勉強意欲を掻き立てられる存在でもあります。

こういうトコトン追求する人っているんですね。1992年に制作されたアカデミー賞女優・スーザン・サランドンの映画「ロレンツォのオイル/命の詩」を思い出します。この映画も、難病の副腎白質ジストロフィーに罹患した一人息子を助けようと、解決策を探し出した銀行家夫婦の実話でした。この夫婦、医学的知識がないにもかかわらず、夫婦で医学図書館に通いつめて解決策をみつけ出すのです。タクさんにも、そんな印象が浮かび上がってきます。

さて、タクさんが寄せてくれた情報は菊地臣一教授の講演の動画です。2007年4月に行なった講演のようです。「第27回・日本医学会総会」で行われた「腰痛―診断と治療の基本―」と題する講演です。(http://ds-pharma.jp/medical/gakujutsu/undouki_primary/seminar/se01/01/index.html)
折角ですから、ここに紹介しておきます。上の講題をクリックすると、動画で講演が聞けます。
腰痛の考え方を変えるという方向がよくわかります。

大日本製薬のサイト「これだけは知っておきたいプライマリーケアの整形外科疾患」に掲載されています。専門家向けの講演ですが分かりやすいと思いますし、変わろうとしている腰痛の考え方を知ってl欲しいと思います。

日本カイロプラクティック徒手医学会(第7回学術大会)でも、菊地教授をお招きして「腰痛診察の基本」と題する基調講演をいただきました。それが2005年のことでしたから、その後の講演です。
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by m_chiro | 2011-06-24 00:11 | 痛み考 | Trackback | Comments(3)
「ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せ」
5月27日午後9時56分、その事故は起きた。北海道占冠村JR石勝村のトンネル内で特急列車が脱線炎上したのである。この事故で39人が病院に搬送されるという惨事になった。それも乗客の避難の遅れが原因だという。

異常時に対する対応の乗務員マニュアルでは、火炎の目視が求められているのだそうである。これでは煙が出ても火を乗務員自ら目で確認しなければ、乗客の安全確保と避難誘導に結びつかないことになる。今回はトンネル内での出来事である。

運転席の火炎ランプが点灯したが、トンネル内には煙が充満していて火を目視で確認できる状態ではなかったのだろう。ドアを開けたとしても煙が入ってくる。結局、ドアも開けられず、この惨事につながった。

この事故を受けて、読売新聞コラム「編集手帳(5月31日)」の著者は、推理小説「真犯人」(P.コーンウイル、相原真理子訳)の中で、主人公の女性検屍官が語った言葉を引用して危機管理意識について書いていた。原文からそのまま引用しよう。

「医学校時代によく言われたの。ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せって。一番ありそうな診断をしろってことね」

煙がひづめの音だとしたら、火災は馬である。ありふれた原因である火災を想定して対応すべきであり、故障(シマウマ)を捜している場合ではない、と危機管理対応の拙劣さを著者は嘆いているわけである。

「ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せ」とは、アメリカの諺らしい。菊地臣一教授は自著「非特異的腰痛のプライマリケア」の中で、この諺を引いて「ひずめの音を聞いて研修医はシマウマを、専門医は馬を思い描く」と書いている。正当なアプローチとは、一般的なありふれた病態から考えていくべきだということである。

だが筋骨格系の痛みに関して言えば、どうもシマウマを探すのは研修医に限らないようだ。専門医も同様の状況のように思える。

ありふれた病態とは、実は素人の方が感覚的によくわかっているのかもしれない。だが、その素人が専門医によって、本質をどんどんすり替えられている。専門医だけでなく一般的な見方が、シマウマから馬にすり替わっている状況が続くとしたら、ありふれた一般的な考え方にはいつまでも思い至らないことになる。トンネル事故の惨事が身体に起こってから気づく人がいたら、それも不幸なことである。

加茂先生の記事「慢性痛」からは、昨今の痛みの治療に対する医療界の取り組みの状況が垣間見える。急性痛の治癒を長引かせないこと、これも慢性痛への移行を防ぐ上で重要なことだということが分かる。
ヘルニア、脊柱管狭窄、すべり症、軟骨変性・・・急性痛のときにこのような診断をして、「様子をみましょう」「湿布とお薬」「電気をあてる」このような診療をするから慢性痛になる可能性が増えるのです。

このような対応が医療で行われている限り、一般的な考え方が定着するのは遠い話である。

先日みえたギックリ腰の患者さん、身体が「く」の字になって整形外科でレントゲン写真を撮ったそうだ。整形外科医はグニャリ曲がった背骨を見て、「こんな腰でよくこれまで生きてこれたもんだ!」と言ったらしい。「背骨は一生治らない」とも付け加えられた。確かに骨の病理的問題が見つかったのかもしれないし、一生治らない骨病理なのかもしれない。が、今の患者さんの問題は、急性痛にあるのだ。

私は、「痛みは3日ぐらいがピークで、後は順調に回復する」と話した。4日目に再診でみえたが時に「ほんとに3日でよくなった」と、普通の状態でやってきた。ギックリ腰などの炎症性の痛みは、そんなものだろう。問題をややこしくしなければ、早い回復につながるのである。

スタート時点での対応を誤らないようにしいたものである。
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by m_chiro | 2011-06-22 12:24 | 痛み考 | Trackback(1) | Comments(4)
「写楽 閉じた国の幻」
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多くの研究者や作家が「写楽」の実像に迫るが、今だに謎に満ちた絵師である写楽の謎。何が謎かって、写楽の存在そのものが謎なのである。
何しろ「写楽」の名のもとに刷られた版画絵が残されているだけで、写楽の実像を示す文献が一つも存在しない。

唯一、「写楽斎」という絵師の存在を示す文献があり、これを「写楽」と見立てた説がある。
しかし、「写楽」は一度も「写楽斎」と名乗ってはいない。
「「写楽」の号は「東洲斎」である。「写楽斎」は、「しゃらくさえ~」をもじった江戸時代の洒落だろう。と言うわけで、「写楽斎」なる絵師が写楽だとする説は怪しいとされる。

写楽が活躍したのは僅か10ヶ月で、その間に多くの美術史上に残る絵を数多く残した。大した筆力だったわけだが、その後の消息は消えたまま。2度と江戸に戻ったという記録もない。

元来、浮世絵の役者絵は、スターのポロマイドのようなものであり、静止画である。だから、実物よりも綺麗に描かれている。ところが、写楽の絵は動体のワンカットの描写で、しかも無名の役者まで描いている。美しく描こうとすらしていない。むしろディフォルメを駆使している特徴的で斬新な絵で、これも通常の絵師とは異なる。

江戸の絵師は、無名な絵師を除いてみな春画を描いている。が、写楽は一枚も描いていない。

写楽絵を出版したのは、蔦屋重三郎という人物。
今で言えば最大大手出版社の社長であるが、この写楽絵を出した当時は発禁本が相次いで、しかも「身上半減の刑」を受けていて経済的にピンチの時である。
起死回生の一打として「写楽」絵をだしたわけだが、それも雲母刷りという超豪華本にした。
歌麿級の扱いの出版を、素性のしれない、しかも新人の絵師が何故にこうした超一級の扱いを受けたのか。それも謎である。

しかも、その蔦屋重三郎自身も一切「写楽」の実像には触れていない。
写楽本人が告白もしていなければ、出版の関係者すら沈黙している。

版元が経済的ピンチをかわそうとするなら、春画の出版が苦肉の策になったろうが、素性の知れぬ新人絵師の豪華本を出した。
これで成功したわけだから、蔦屋重三郎という版元はよほどの才覚があったのだろう。
これを自慢してもよさそうなものなのに、写楽本人も蔦屋も何故こうまで頑なに口を閉ざしていたのだろう。

日本の歴史上に名を残した絵師は二千数百人といわれるようだが、その中で素性も分からなければ、記録も残されていない絵師は「写楽」ただ一人である。
当時の絵師の口からも、写楽に関する告白は一言も出てこないという謎。
江戸に存在した形跡すらなく、ただ絵だけが残されているという美術史上の謎でもある。

この謎に挑んだのが作家の島田荘司氏で、684ページの大作に仕上げた。
島田氏自身が美大卒であるから、画家の視点で写楽の謎解きをしたことにも読書意欲をかきたてられて一気に読んだ。

1984年に、版画家の池田満寿夫がNHK取材班と取り組んだ「これが写楽だ」も面白く読んだが、島田荘司氏の本はそれを凌ぐ面白さだった。画家が絵師の謎を追う展開は一味違う。

まして島田氏は浮世絵の研究にも造詣があり、時代考証や文献交渉、絵画の鑑賞眼にも優れていて、小説というより研究論文に仕上げられそうな内容であった。

島田氏の写楽説は、思いもよらぬ、またこれまで誰も想定しなかった人物を写楽としている。可能性のある裏付けを、あらゆる文献を引いて推論しているが、ただ一つ最大の弱点がある。その写楽絵を描いたと想定した人物に、絵を描いていたとする証拠はひとつもないことである。そこが島田氏の推論で、この興味深い説も学術論文には致命的。で、小説として仕上げざるを得なかったのだろう。

それはそれとしても面白かった。
島田氏が、写楽なる人物を更に追って、絵を書いた証拠を掴む仕事をして写楽騒動に幕を引いてくれることを願いたい。そんな先行きを期待させる内容だった。

で、その写楽とやらは一体だれ? 
この本を読もうとしている人の興醒めになるので、それは内緒にしておこう。
謎解きはおもしろい。
本のタイトルにある「閉じた国の幻」に、島田写楽説のヒントが隠されている、とだけ言っておこう。
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by m_chiro | 2011-06-21 00:55 | Books | Trackback | Comments(0)
もう、どうにも止まらない!
「隙間風のお桐」は、最近のお勤め(盗人・桐子の悪行三昧)で、冷凍庫から「黒うどん玉」をまんまとせしめたものの、魔除けのガムテープを貼られて暫くおとなしくしていた。
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のだが......。

先日は、今年初めての夏日で30度越えだった。
「いや~、冷たいものが欲しい...」。と、いうことで、ハーゲンダッツのクリスビーサンドを4個買って来て、家内と2人でコーヒーブレイク。
これをお桐姉さん、ジ~と見ていたね。
物欲しそうに...。

「桐、残念だなぁ。残りの2つは冷凍庫に入れておくが、魔除け付きだゾ...。今度ばかりは、いくらお前でも手が出でめぇ~。ヘッヘッヘだぁ!」

その翌日、買い物から帰ると、この日もお出迎えがない。
空も出てこない。
不安がよぎる。

台所に直行すると、ハーゲンダッツの空箱が引きちぎられて、無残にも床に散らばっている。
お桐はと言えば、ソファーの下に潜り込んで、眼はジ~と私を窺いながら息を潜めている。
冷凍室は開けっ放し。
冷蔵庫が警告音を出し続けている。

魔除けも効き目が無かったかぁ...(´;ω;`)。
でも魔除けガムテープは、無様にぶら下がっているではないか。
どこから開けたのだろう?
どうも、今度は正面からではなく、魔除けガムテープを避けて冷凍室の横から引き開けたようだ。
やはり魔除けは怖かったと見える。
この通り、冷凍庫横の隙間に傷跡が...。
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やはり「隙間風だなぁ~!...。」

おっと、感心している場合じゃない!
前に座らせて散々怒鳴って、挙句に説教をたれてやった。

お桐の奴は、こんな表情で、
「ダンナ、なんか証拠でもあるんですかい?」
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盗賊改方:「お前の他に誰がこんな悪さをするんかい!」
     「空、お前が見てたろう?」

密偵の空:「空は何も知らんのよ!」
     「別に、お桐姉さんから、おこぼれを貰ったんじゃないんよ」
     「だから知らんと言うてるわけじゃないんよ...ホントなんよ」

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盗賊改方:「誰もそんなことは聞いとらん!!」
     「まったく、どいつもこいつも...」

     怒!、怒!!、怒!!!
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by m_chiro | 2011-06-18 23:30 | わん・にゃん物語 | Trackback | Comments(4)
「柔よく剛を制す...」か!?
先日来みえている患者さん、60歳過ぎの婦人の症例である。
昨年の秋頃に右膝が痛み出し、歩行でも体重移動が苦痛になった。正座もできなくなり、横座りが習慣になった。12月には頭を動かせない状態になったこともあったらしい。

年が明けて、3月頃には右ふくらはぎが度々「こむらかえり」をするようになり、内科外科医院を受診する。血流を良くする薬と塗布剤を処方され、血行が良くなる靴下を勧められて履いていた。
その後1週間ほど経ってから、右膝が腫れて熱感を持つようになり、夜間痛もあり鎮痛薬も処方された。

改善されないので、整形外科医院に転医する。
膝から水を抜く治療を3回行い、ヒアルロン酸の注入治療が続けられた。腫れは少なくなったものの曲げられない。今度は、左下肢外側部にしびれが出てきて、足底は感覚が鈍くなってきた。

5月末頃から、朝になると両下腿が浮腫み、パンパンに硬くなるようになった。
左下肢は痺れている。その上、寝返りや起き上がり、立ち座り動作などで腰背部に痛みが走るようになって治療にみえた。

身体の可動域が極端に悪い。体幹では左回旋が動きやすいものの、それ以外の動きは要背部痛を引き起こし可動域も制限されている。特に体幹伸展の可動域はほとんどない。
左下腿は外旋位に固着している。
頭蓋リズムをみると、まるでお地蔵さんの頭でも触っているようにリズム運動が消失している。
確かに、両下腿は浮腫んで、しかも硬い。

全身が関節も筋肉も固着状態のようである。
このような患者さんに、外からの強い圧刺激やアジャストメントを加えることはしない。
リスクはあっても、効果は期待できないからである。
したがって、こうした患者さんには、このステージでのストレッチ・エクササイズを勧めることもしない。
短縮し過ぎた筋のストレッチには技術が必要で、効果よりも逆に損傷させるリスクが大きいからだ。こうしたケースでは、むしろ神経学的な回復を狙って調整すべきだろう。

私としては、身体の内圧を引き出して身体の柔軟性や生体リズムを取り戻してあげたい。
身体のコアともいえるリズム運動の鍵は、深部において身体縦軸を構成している脳脊髄硬膜の律動、そして蝶形ー後頭底と仙骨が織り成す第一次呼吸リズムを呼び戻すことだろう。
身体後面の頭部の前後軸の律動には、大脳鎌のリズム運動の回復を狙いたい。脳脊髄硬膜という縦の身体軸を、横の深部の膜系が要所要所で支点を作っている。小脳テント、胸隔膜、横隔膜、骨盤隔膜が、その横軸の膜系である。
更に肋骨の可動であるが、これは呼吸運動を利用して肋骨の可動と呼吸リズムを促した。

2回目の治療で、日中の動きで腰背部痛が起こることもなくなって、階段が普通に昇れるようになった。それから治療を重ねるごとに、下腿の浮腫みが軽減し、ふくらはぎが揺れるようになり、下肢の痺れも消え、腰の痛みもなく通常の動きが出来るようになった。が、まだ本来の動きではない。
5回目の治療の時には、身体の柔軟性も大分回復し、「体が軽くなった」と話していた。
浮腫も6~7割減少している。が、右膝の完全屈曲はまだ出来ない。

治療はまだ継続であるが、こうした症例では外力をほとんど使わずに、身体の内圧を呼び起こす手法を用いた。
治療としては極ソフトな方法である。
それでも、あの可動域のない固着した身体がリズミカルな動きを取り戻した。

「柔よく剛を制す」とでも言える症例だろうか。
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by m_chiro | 2011-06-18 00:02 | 症例 | Trackback | Comments(0)
「そんなの関係ない」を、分かってもらうのも骨が折れる
50代後半の婦人の腰痛。よく腰痛になるらしい。
今回は、2ヶ月以上前に痛めてから、なかなか良くならない。
整形外科医院を受診。X-rayで腰椎の変形が指摘され、「変形性腰痛症」と診断された。
「すぐに手術する状態ではないから様子を見ることにしましょう」、と言うことになった。
鎮痛薬と湿布薬の処方。
それでも、立ち座り、寝返りで腰部のL3~5領域の中央と右鼠径部が痛む。
時には、腰が伸ばせなくなり、腰を曲げて歩くことになる。
なかなか好転しない。

腰の骨が変形しているから、もう治らないのでは…」と思うようになった。
変形なんて今の痛みと関係ない」と説明しても、「レントゲンで確かに変形していた」と言う。

運動分析で屈曲、伸展で痛みの再現がある。
側滑、回旋では体幹外側の伸長域に制限性の痛みがある。右股関節の外転制限。眼球運動で右下方運動のブレ。緊張性頚反射(左+)、頚椎の屈曲障害(+)呼吸反射(呼気+)、腸腰筋筋力テスト(左3、右5)、大殿筋(右5、左3)。骨盤反射(+)

この患者さんに、「腰に触れないで治療して腰痛が消えたら、変形は関係ないと思える?」と聞いたら、「思える」と言う。

というわけで、腰椎には直接アプローチしないで治療することになった。

硬膜リリース。頚椎屈曲障害のリリース。上部胸郭での呼気リリース。
これで仰臥位での体幹の運動がほぼ可能になった。
座位からの立ち上がりで腰部に軽い痛みが残る。
2回目の治療で右股関節の外転制限を調整し、在宅でのエクササイズを指導する。

今日、3回目の治療にみえた。
治療室に入るなり、「よくなった、治った!」と言って随分と興奮して話す。
2回目の治療以後、教えた股関節のエクササイズを一生懸命やったそうだ。
運動していた時に腰がギクッとなって、「また、やってしまった」と焦った。
が、「動ける」、「大丈夫だ!」と嬉しくなった。
それから運動するたびに良くなっていったようだ。

エクササイズ中に、腰がギクッとなった時に変形したところが治ったんだろう、と思ったらしい。

やれやれ、「変形なんて痛みと関係ない」を納得させるのも骨が折れる話である。
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by m_chiro | 2011-06-14 19:12 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE42. 遅発性筋痛のメカニズム 
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

42. 遅発性筋痛のメカニズム

われわれが臨床で経験する関連痛の多くは、更に遅発の時間が長いように思える。
そうなると、神経学的な仮説とは違う機序を考える必要がありそうだ。
典型的な遅発性筋痛については、筋線維の傷害に関する説がある。

筋の収縮は3つのタイプがある。
等尺性収縮、短縮性収縮、伸張性収縮の3タイプである。
遅れて出る筋痛は、等尺性に収縮した筋肉が伸張性収縮されたときに現れやすい。
例えば、階段を下りる、下り坂を駆ける、登山など下りの動作では、大腿四頭筋や下腿三頭筋は筋長を長くして力を発揮することになる。

そうなると運動の3~4日目に、筋肉組織から逸脱酵素のクレアチンキナーゼ(CPK)や、筋線維に酸素を蓄えるミオグロビンの血中濃度がピークになり、筋の傷害や炎症に働きかけることになる。これが遅発性筋痛の原因となる。

また、筋線維3種の中でもFG線維は最も太い線維である。
このFG線維は白身で無酸素性にATPがエネルギーを作り、速い収縮を行う。

また、解糖系酵素活性を行うのでグリコーゲンが多く、ミオグロビンは少ない。

FG線維は、伸張性収縮で損傷しやすい筋線維でもある。
この線維は約10分位の活動で疲労する。
ATPが少ないので元の状態に戻りにくく、筋が硬くなりやすい。
他の2種類の線維が活動し続けると、FG線維はその動きに引っ張られて損傷しやすい状態となる。
そこで一旦損傷すると、遅発性に筋痛が起こるというわけである。
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by m_chiro | 2011-06-09 20:55 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(3)
「痛み学」NOTE41. 遅発性の関連痛を考える
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

41. 遅発性の関連痛を考える

関連痛とは、障害部位から離れた健常部位にも現れる痛みのことである。その機序についても諸説あり、未だ決定的な仮説が見当たらない。謎だらけの痛みである。これまでと同様に小殿筋を例にして考えてみよう。Travell& Simonsの「トリガーポイント・マニュアル」に記載されている小殿筋トリガーポイント(TP)は、概ね次の点で特徴的である。

1.小殿筋TPは「坐骨神経痛の成り済まし筋」として知られている。だから根性痛として診断されることが多い。
2.小殿筋TPの関連痛は耐えられないほど持続し、そして非常に激しいものがある。
3.関連痛の範囲も一般的には足首までで、足首を超えるケースは稀である。
4.痛みを鎮静化する歩行をとる。そのため段階的な跛行あるいはステッキを用いての歩行と成らざるを得ない。
5.小殿筋は殿筋の中でも最深層の筋で、その前方部は大腿筋膜張筋と中殿筋が三層に重なり合い、後方部では中殿筋と大殿筋の三層で構成されている。
6.痛みの関連区域に痛覚の変化や感覚異常または麻痺が診られることもある。
7.小殿筋の活性TPが単一の症候群として現れることはほとんどなく、梨状筋、中殿筋、外側広筋、長腓骨筋、腰方形筋、時に大殿筋と関連してことが非常に多い。

この小殿筋のTPの特徴からも窺えるように、個別の筋におけるTPの特徴を押さえておく必要があるが、かと言ってマニュアル通りのTPが必ずしも存在するというわけでもなさそうだ。ここは身体の機能的側面を膜系および筋系の連続、運動連鎖の視点を捉え直すことが肝要だと思う。

こうした関連痛が遅れてはじまるケースによく遭遇することがある。
この遅発性に始まる関連痛の機序もよく分からない。
広く知られている関連痛のメカニズム仮説は、Ruchの「収束―投射説」である。この仮説は、脊髄後角に収束する同一のニューロンが存在しなければ成り立たない。
近年、こうした収束するニューロンが脊髄だけでなく、より上位の痛覚伝導路にも、また一次ニューロンにも収束ニューロンが見つかっているのだそうだ。
と言うことは、どの神経レベルでも収束現象が起こりえる、と言うことなのだろう。

皮膚は身体内部と外界の境界をなしている。したがって、常態的に情報のやり取りが行われている。一方、内臓からの情報は皮膚と違って明確な定位はない。だから、脳は内臓からの痛み情報を皮膚から入力と勘違いして投射する、というのがRuchの収束―投射説である。

では、なぜ障害部位から遅れて関連痛が起こるのか、というのは謎である。
「収束―投射説」では、この遅れを説明できないからだ。したがって、この収束説の仮説は筋・筋膜疼痛症候群(MPS)の説明にはならない。

そもそも関連痛に関する仮説は「末梢説」と「中枢説」に大別され、19世紀後半から諸説が出始めた。そのいずれもが遅れてやって来る関連痛の機序を説明しきれていない。

そんな中で。明治国際医療大学生理学ユニット・川喜田健司教授の論文「筋硬結の基礎最前線」に興味深い仮説が紹介されていた(下図は川喜田健司「筋硬結の最前線」より転載)。Peter E. Baldry の仮説である。脊髄レベルでのニューロン・ネットワークにおける可塑的変化と新しい受容野の広がりについて、「眠れるシナプス」の結合という視点から仮説が構築されている。これはRuchの「収束―投射説」を発展させたものである。
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端折って分かりやすく説明すると、例えば、小殿筋を支配する神経回路を「A」としよう。
この神経は脊髄の特定の二次ニューロンとシナプスしている。
そこに小殿筋に損傷が加わると、痛みの信号が「A」の回路を伝導する。
この「A」の回路は、「B」の回路と連絡がある。
「B」の回路を、遠隔筋であるハムストリング支配としておこう。
ところが「A」と「B」の結合は、形態学的な連絡があっても機能していない、
言わば「眠れるシナプス」である。

眠れるシナプスは、損傷による化学反応によって機能し始める仕組みである。
また、「A」と結合した皮膚との神経回路「C」も「眠れるシナプス」である。
更に、遠隔筋であるハムストリングと、「A」の神経が収束する二次ニューロンとのシナプスする「新しい受容野」が作られる。これを「D」とする。

こうしたサイレントなシナプスからの脊髄レベルでの収束があり、更には新しい受容野の発現まで、ニュラル・ネットワークから関連痛の機序を明かしている。
新しい受容野の発現までは5分以上かかるとされている。

さて、ヒトでの遅延は10数秒単位とされていて、この仮説ではその時間差をどう解決するかが課題でもあるようだ。サイレントなシナプスが機能する化学反応系も、今ひとつ明らかではない。
サイレントなシナプスが同定され、それを機能させる化学反応系が明確になる必要があるのだろう。
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by m_chiro | 2011-06-08 22:25 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)



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また勉強になりました。
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