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身体機能の連鎖は面白い
先日、終了間際にギックリ腰になったと言って突然みえた女性の患者さんがあった。
なんでも、両手に荷物を持って階段を昇って行った際に、腰にピリッとした痛みが走ったのだそうである。そのまま会議に出て座っていたら次第に具合が悪くなり、立ち座り、歩行も辛くなって、そのまま直行してお見えになった。

運動分析では、前後屈で痛みが腰仙部を横に広がる。左腰部の筋のトーンは低下していて、左右差が明らかである。左腰腸肋筋の損傷のように思えた。左の腹斜筋も緊張度が低下している。骨盤反射も前方と後方で異常だった。筋線維の損傷が大きければ腫れや熱感があるだろうが、そんな徴候はみられない。おそらく浅筋膜の障害だろう。

ギックリ腰は、睡眠後に起きるのが辛くなりやすい。だから、痛まない動きを出来るだけ行うことが望ましい。だからと言って、やたら意味のない刺激を与えることも好ましくない。カイロプラクターがよく行うマニピュレーションは、こうした患者さんに用いると大抵は余計に悪化させてしまうことが多い。このことは、近年のカイロプラクティック理論で提唱されている「デスアファレンテーション(求心性入力不全)理論」によっても理由づけられる。侵害刺激が過剰になり、圧・動き刺激が減少すると、入出力のコンビネーションの悪化が痛みを増強させるのである。すると筋スパズムが起こる。交感神経の緊張も亢進して自律神経症状も発現する。デスアファレンテーション理論は、この入出力信号のコンビネーションに注目しているのである。

この患者さん、治療後には痛みも半減したようだが、左腰部の筋群は相変わらず緊張度が低下したままだった。何故だろうかと思いながらも、取り敢えず注意事項を指示して明朝もう一度みることにした。

翌朝、「痛みがなく起きれた」と言って再診にみえた。
どれどれ...と思いつつ触診すると、緊張度の低下した左腰部の筋は相変わらず低下したままである。それでも立ち座りや歩行も8割方は大丈夫らしい。だから慎重に動けば大した問題はないのだそうだ。

そこで、特に痛みを感じる動作などはあるのか、悪化因子を聞いてみた。
「右手を伸ばして物を取るような動作で痛む。左手を伸ばすのは何ともない」と言う。
そこで再現させてみた。確かに右手を伸ばすと腰仙部に痛みを感じるようである。

そう言えば、「荷物を両手に持って階段を昇っていてギックリ腰になった」と言っていたことを思い出した。大胸筋を触診すると右の大胸筋鎖骨部に強いジャンプ兆候の圧痛があり、それは右乳房下部へ跳ぶトリガーポイント(TP)である。右肩甲骨内側部にも圧痛がある。そして右胸郭は固着したように可動性をなくしている。
腰部にばかり気を取られて、見逃していたようだ。
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右の胸郭の固着が大胸筋TPを作ったのか、あるいはその逆かはわからない。が、こうした胸郭の片側の固着が、対側の腰部や腹部の筋群を代償して緊張度を低下させたのではないかと推測された。

そこで左胸郭部のTPをリリースすると、固着した胸郭が動き出し、併せて対側腰部(左)の筋群の緊張低下が戻ってきた。
今度は右手を伸ばしても腰への痛みが起こらなくなった。

身体機能の連鎖は本当に面白い。
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by m_chiro | 2011-02-28 12:12 | 膜系連鎖 | Trackback | Comments(4)
目まぐるしく変わった診断名②
②何であれMPSは混在する

前回の記事の続きです。

さて、先の患者さん、リューマチ専門病院での検査結果のコピーを携えて報告にみえた。130項目に及ぶ検査結果である。

抗体価が640倍であった。
抗核抗体は光って見えるのだが、それを40倍から倍々に薄めて行って640倍まで光って見えたということになる。倍数は大きいのだが目盛りの数では5段階目の検査まで見えたというわけだ。
ところが、他に膠原病を疑うような検査項目はすべて陰性である。CRP、RF、抗CCP抗体、CK、赤血球、白血球、血小板などなど抗体価以外は、すべての検査項目で陰性だった。とても優秀な健康体である。

結論は「膠原病」ではないこと、抗体価は生来高いのかもしれないこと、抗体価の数値は忘れて下さい、ということだったそうである。やれやれ遠回りをしたものだが、本人の中で納得できればそれでよい。

歩行は20mほど歩くと足も挙げられなくなるという。
立位も続けられないので、料理もできない。
膝も90度までしか曲げられない。跛行する。
家の中では杖を使っている。階段は昇れない。
筋トレを指導されたが、1動作を5~6回するだけで動かすのが辛くなる。
左の四頭筋は委縮している。X-rayでは大腿骨の委縮もあると言われている。
このまま歩けなくなって車椅子生活になるのだろうかと不安でたまらないと言う。
足や身体が冷える。夜眠れないので安定剤を服用している。

こんな症状を訴えているが、圧痛点を探して見ると、こんな委縮した筋肉ではあるが随所にある。
四頭筋には膝内側に跳ぶTPもある。それを図にしてみた。
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治療としては、重力場における神経反射を調整してから圧痛点をリリースした。
もう一度歩き方を再学習させて圧痛の出方をみる。
再びリリースして、歩行指導を反復する。
立ち位置での重心の落とし方など併せて指導すると、治療室での歩き方に変化がみられるようになった。
跛行のブレが少なくなって、患者さん自身も随分楽に動けると言う。


そこで治療計画を話し合った。

筋トレをやめる。
何か運動しないと歩けなくなると考えない。
膠原病や半月板のために痛むのだと考えない。
先ずは日常生活を取り戻すことに専念する。
痛みが出たら筋・筋膜の圧痛を自分で処理して、また動く。

圧痛には「テニス・ボール」や「ゴルフ・ボール」を使ってほぐす。
筋膜のブロックした方向を教えて、膜リリースには「サランラップのシンになっている筒」を使わせた。
歩行を見直しながら、歩く範囲も広げて行く。
オーバー・ユースになると、また筋の疲労が起こって、きっと痛みだすだろうが心配しないで筋・筋膜に対応する。

それを続けていったら跛行しなくなってきた。ご飯の支度も、1~2度休憩を取りながら出来るようになった。
途中から、長谷川智也先生開発の「ソマセゾン」「ソマセプト」を圧痛点に使わせてみた。シリコン製の刺激突起なので安全で衛生的である。セルフケアとしての支援ツールとして利用した。

患者さん自身も簡単に使えるし、とても良く変化するのでお気に入りになったようだ。歩くときは「ソマシート」を膝下に巻かせて歩かせた。これも冷えに効果的だったし、夜も熟睡できるようになったと喜ばれた(最も運動量も多くなってきたので、何の効果か一概には言えないが。。。。)。
いずれにしろ、変化し始めたことは喜ばしいことだった。

今ではスーパーに買い物にも出かけるようになった。辛くなったら圧痛点を探して、また動けるようになった。立っている時間も長くなってきた。

膝専門医の診察日だったので1カ月ぶりに出向いたら、歩き方を見て先生から「随分良くなったねぇ~」と言われたようだ。私にも嬉しい結果である。

筋や骨の委縮がある。「CRPS」の診断の正否は別にしても、何であれMPS(筋筋膜疼痛症候群)は混在する。
その筋・筋膜の痛みに対応しながら動きの範囲を広げることで、生活ががらりと変わる。
この変化が脳にフィードバックされて患者さんの病態を快方に導くと信じている。

病態をややこしくして、患者さんを立ち上がれないほど苦しめるよりは、今生じている筋・筋膜の痛みに対応させる方がずっと結果が良いのである。
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by m_chiro | 2011-02-24 23:38 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
膝痛、目まぐるしく変わった診断名①
① 私の膝の痛みは、半月板損傷? 膝関節症? 関節炎? 膠原病? CRPS? 
  それとも...?


50代の主婦のケースである。
一年半ほど前の夏を過ぎた頃、散歩後に右股関節と左足関節外果周辺に違和感が生じた。
接骨院で捻挫として治療を受けて、超音波ですっかり快方に向かった。
ところが又、散歩の後に足関節とふくらはぎに痛みとだるさが出て、再び接骨院へ。
電気治療でよくなったが、次第に症状が反復して残るようになり、3ヶ月ほど経過した頃には立って居るのも辛くなってきた。

痛み症状も足首から左の膝周辺に広がり、遂には整形外科医院を受診した。
そこでは、X-rayで半月板が少し薄くなっていると指摘された。そして、「膝に少し水が溜まっているようだから抜いて、ヒアルロン酸を注入しましょう」、ということになった。

「水はそんなに溜まっていなかったようだが、注射がとても痛かった」らしく、その後は左膝が余計に腫れて下肢の挙上も出来なくなった。当然、歩行にも支障をきたした。

A整形外科では、「膝を曲げないように」、「動かさないように」、「階段の昇降動作をやめるように」指導された。「いつまで動かしてはダメ?」なのかと尋ねると、「当院に通院している限り、動かしてはダメだ」という指導だった。それを忠実に守って生活をしたと言う。

これが更に悪化のきっかけになって、以後1年以上も鍼灸接骨院を2院、整形外科医院を4院と転々とした。その都度、診断名も半月板損傷、関節炎、膝関節症と変わって、1年を経過した頃には左大腿四頭筋萎縮、大腿骨萎縮が指摘され、運動療法が必要だとされた。

ところが整形外科医院で運動療法を行っても、途中から痛みで動かせなくなる。
トレーナーからは「頑張って動かさないとよくならない」と激励されるのだが、運動後は逆に辛くなった。物療後も痛みが増し、どうしていいか分からなくなって、かかりつけの内科・外科医院を受診する。

血液検査が行われ、その結果「膠原病」と診断された。
膠原病の診断に欠かせない「抗体価」が100以上になっている「陽性」とされ、そこではステロイドによる治療計画が話された。が、本人のショックがあまりにも大きく、何も決断できない状態だったようである。

私の治療室にみえた時には、ともかく「膠原病」の診断に絶望した患者さんの姿が印象的だった。CRPなど他の検査項目も良く分からないが、抗体抗核が異常に高いと言われただけのようである。
抗体価だけの陽性であれば膠原病と決まったわけではないから、もう一度別の先生に診てもらうよう勧めることになった。膠原病であれば、私が治療する領域ではない。

再検査の結果、「抗体価」は高いがCRPなどは陰性なので、「膠原病ではない」という診断である。そして膝専門の整形外科医を紹介された。
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膝専門の整形外科医は、筋と骨の萎縮を改善することが必要だとして、リハビリをすべきだと診たようである。結局、膝への注射が引き金になったCRPS(複合性局所疼痛症候群)ではないかということらしい。リハビリは開業医で行うようにと言われ、また紹介状を持たされて開業医を受診したのだが、経過を聞いたドクターは「リハビリは自分で出来る運動をやりなさい」となった。

又、途方に暮れて私の所にみえた。
「やはり私の下肢痛は膠原病ではないか」とまだ疑っている。
整形外科医から理学療法士への指示書にも「リユーマチの疑い」と書かれていたと言うのである。
これだけ「膠原病」にとりつかれていたのでは、何をやってもだめなのだろう。

「安静にしろ-動かせー動かせば痛いーやはり膠原病―安静に」のループから脱け出せないでいる。それだけ不安なのであれば、リウマチ専門病院で徹底的に検査して自分自身の中でも白黒を付けてはどうか、と提案して他県にあるリューマチセンターに出向くことになった。

(長くなったので、続きは後で。。。)
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by m_chiro | 2011-02-24 12:15 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE39. 関連痛のメカニズム;「末梢説」と「中枢説」
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

39. 関連痛のメカニズム;「末梢説」と「中枢説」


「関連痛」の概念は、Martynが「炎症性疼痛における生理学的意味について」で論じた1864年の論文に始まるとされている。障害部位から離れたところにも現れる痛みの存在であった。

1893年には、H.Headが内臓疾患における関連痛として「ヘッド帯」なるものを学位論文として発表した。その中で、内臓疾患の関連痛は皮膚節(デルマトーム)に現れるとしている。

また、生食を筋肉に注入すると、注入部位だけでなく離れた部位に痛みが放散することを明らかにしたのはT.Lewisだった(1938)。同じ手法で高張食塩水を注入して、関連痛は筋肉などの組織の過敏点から生じるとしたのはJ.H.Kellgrenである。この体性からの関連痛は、局所麻酔で治まることを両者が報告している。
こうした関連痛の歴史的背景については、小山なつ著「痛みと鎮痛の基礎知識」上・下巻に詳しい。

関連痛のメカニズムとしては諸説ある。
大別すると、末梢神経における機序にその根拠を求めた「末梢説」と、中枢神経での機序に求めた「中枢説」に分けられる。

例えば、腹筋下部のTPは、虫垂炎の関連痛のように嘘をつく。虫垂炎で最初に出る痛みは、実際に内臓からの痛みである。ここからの痛み信号が脊髄に送られると後根反射が起こるとする。このインパルスが末梢に逆行して化学物質を放出し、周辺組織の皮膚や皮下組織に関連痛をつくり出す。これが「末梢説」の代表的な仮説・Morleyの「腸膜皮膚反射説」(1931)である。

しかし、後根反射が起こるとするエビデンスは存在しない。痛み刺激が脊髄に送られたからといって、後根反射は起こり得ないのである。したがって、この仮説は怪しい。

中枢神経系に関連痛の根拠を求めた「中枢説」で、よく知られているのはRuchの「収束-投射説」(1947)である。「収束-投射(projection)説」は、脊髄における痛覚伝道路である二次ニューロンに内臓からの痛覚一次ニューロンと、皮膚からの痛覚一次ニューロンが収束しているために関連痛が起こる、とする説である。

皮膚はヒトの身体と外界との境界をなしている。そのために皮膚は多くの刺激を感受しているし情報網も多い。したがって、脳は皮膚からの情報を優位に結びつけやすいのだろう。ヒトの持つ学習能の所作なのかもしれない。
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”Principles of Neural Science”4th Edition. 471Pより転載

そもそも内臓疾患からの関連痛を、最初に脊髄における「収束説」で説明したのはMackenzieの「収束―促通(facilitation)説」(1893)だった。
「促通」とは、「2つの刺激が組み合わさると、単独での刺激の効果よりも大きな効果が起こる現象」を指している。

Mackenzieは、なぜ「投射」ではなく「促通」説を持ち出したのだろう。
彼は、内臓からの痛み症状となるインパルスは脊髄視床路ニューロンに接続されていない、と見ていたからである。今となっては、既に、この時点で誤りであったことになる。
それ故にMackenzieは、内臓疾患による求心性インパルスが脊髄分節で収束されて「過敏性焦点」が作られるという推論を構築したのである。
これで皮膚への関連痛に見られる痛覚過敏の病態が説明可能となった。

Mackenzieの仮説では、関連痛そのもののメカニズムを説明しきれなかったが、それでも「過敏性焦点」を想定し、更には「軸策反射説」を導入して、関連領域の痛覚過敏や炎症のメカニズムを説明することに貢献したと言えるだろう。

一方、Ruchの「収束―投射説」では、末梢での痛覚過敏や浮腫を説明することができなかった。
この疑問を穴埋めしたのが、「過敏焦点」や「軸策反射」という病態機序だったということになる。

こうして見ていくと、発表されてきた関連痛のメカニズムは、内臓疾患からの関連痛を前提として構築されているように思える。
どう見ても、筋・筋膜TPがつくる関連痛の説明には成り得ていないからである。
したがって関連痛のメカニズムは、内臓性と体性からの関連痛のメカニズムとは別に考える必要がある。

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by m_chiro | 2011-02-22 22:33 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE38. 嘘つきの痛み
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです

38.「嘘つき」の痛み

ニューメキシコ州に筋・筋膜専門のリハビリテーション・センター・「MyoRehab」があり、そこのWebサイト(http://www.myorehab.net/)には筋・筋膜痛症候群(MPS)に関する情報が満載されている。

その中で「偉大なる詐欺師:The Great Imposter」の筋肉のことが紹介されている。
いわゆる「嘘つき」の筋肉のことで、類似の症状を出して、その病態に成り済ましている。
あたかも「もどき病」を演出する。

そこでは4つの代表的な詐欺師の筋肉に触れている(下の図)。
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ひとつは「小殿筋」である。これは坐骨神経痛症状を呈すが、実は小殿筋にあるトリガーポイント(以下、TPと記載する)が坐骨神経痛に成り済ましている、というわけである。

また、大胸筋にできたTPは心臓疾患を思わせる痛みを左胸部から腕につくる。
それに腹直筋下部のTPは虫垂炎を、僧帽筋上部のTPは偏頭痛に成り済まして患者や医師、治療家をも困惑させる。

こうした嘘つきの痛みは徒手治療の臨床現場でもよく見られ、関連痛と呼ばれている。
痛み症状の部位が必ずしも原発部位ではなく障害部位から離れていて、実際は健常な部位に関連して起こる痛みである。痛みは嘘をつくことがあるから厄介なことになる。

さて、先に紹介した大胸筋のTPの例からも分かるように、嘘をついているというのには2つの嘘があることが分かる。

ひとつは心臓疾患からの関連痛で、あたかも筋骨格障害であるかのように騙されることがある。
もうひとつは、その心臓疾患からの関連痛であるかのように振舞う大胸筋TPからの関連痛である。この2つは同じような痛みをつくるわけだが、本当の病態は心臓にあるのか、それとも筋TPにあるのか、見極めが肝要になる。

要するに、関連痛は身体深部組織である内臓、筋肉や関節の障害などによって起こるとされているのだが、これらが同じメカニズムで起こっているというわけにはいかないようである。
なぜなら、関連痛のマッピングはデルマトームなどのパターン通りではないし、皮膚表面痛であったり、より深い部位であったり、痛覚過敏が有ったり無かったり、様々であるからだ。
これらの機序が明らかになっているのかと言えば、必ずしもそうとは言えないようである。
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by m_chiro | 2011-02-16 08:31 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
「膜系の治療」と腰が折れ曲がった急性腰痛患者
10日前に靴を履こうと前屈した時に、腰にピリッと痛みが走った30代の女性。
翌日から更に痛みが増して、歩行や寝返りにも支障が出るようになる。
整形外科医院でのX-Rayでは特別な異常がない。
「疲れでしょう」と言われて、鎮痛剤と湿布剤を処方され、「安静にするように」と指導された。
それで仕事も1週間の休みを取り、自宅で安静にしていたら何とか動けるようになった。

休養明けで出勤したが、どうも具合が悪い。
充分休んだのだから頑張らなければと働いていたが、3日目には腰が伸ばせなくなった。
堪らなくなり、昼休みに横になって休息を取ったら、今度は起き上がれなくなった。
やっとのことで立ちあがったら、腰が屈曲して腰が折れ曲がって伸ばせない状態になった。

これでは仕事も出来ないと、70度ほどに腰を屈めて手を大腿部に添え、やっと歩くようにして治療にみえた。

ともかく腰が伸びなければ治療テーブルで臥位になれない。腰部前屈位での姿勢であれば、座位でいることは可能のようだ。先ずは、座位で背部と腹部の浅筋膜の動きを調整して、ある程度は体幹の伸展を可能な状態にしなければならない。

今度は何とか、テーブル上で伏臥位に出来たが、左の腰背部の筋は過緊張で盛り上がり硬くなっている。胸郭膜も過緊張して胸郭の可動もみられない。

こうした患者さんは浅筋膜リリースが上手くいくと、深部の筋も弾性を取り戻してくる。
腰背部が緩み出したので、伏臥位のままで右の上肢を挙上させると左の鼡径部から大腿部に関連痛が起こる。左の上肢の挙上では問題が起こらない。

そこで胸郭膜と横隔膜をリリースした。今度は、左上肢の挙上も問題なく出来るようになった。胸郭が可動するようになると、更に背部全体の筋に柔軟性が出てきたので、体幹を20度まで伸展位にして腰仙部の筋膜リリースを行う。
浅筋膜は、背部と腹部、側部の左右の動きで逆のすべり運動が起こる。そこを注意深く、膜可動域を確認しながら進めるのがいい。やたら筋肉を刺激して怒らせてしまうと、どうにもならなくなる。

この患者さん、帰りは直立位で歩けるようになり、「あっ~、楽に動ける」ようになった。まだ「要治療」ではあるが、注意事項をしっかりと伝えて、在宅で出来るケアを指導した。

膜系についての基礎的な学びは、どうにも動かせないこうした症例でも役に立つ。
直接筋肉にアプローチしてしくじるよりは、軽い刺激で有効な効果が出せる。
膜系の学びには、久しく翻訳を待ち望んでいた「エンドレス・ウェブ」も恰好の教材である。
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皮膚や浅筋膜の運動のパターンを知るには「皮膚運動学」も役に立つ。
触診で動きが感じられれば対応できる。更に、浅筋膜の運動パターンを知っていれば、触診の手助けにもなる。
お勧めの参考書である。
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by m_chiro | 2011-02-12 18:35 | 膜の話 | Trackback | Comments(2)
骨盤の両側がだるい
今年の冬、当地では観測史上初という大雪で、この時期は除雪作業での筋痛や急性腰痛の患者さんが多くなる。ほとんどは痛みや強張りで、動きにも制限が起こっている。
そんな中で、骨盤の両側がだるい、という女性がみえた。
痛いわけでも動けないわけではない。とにかく、立っていても骨盤の両側が「だるい」のだそうだ。
看護師さんである。最近は重度の患者さんを扱うようになって、寝返りなどの介助で力仕事が多くなったせいだろか、と言う。

痛い筋ではなく、「だるい」筋には、筋の弱化が見られることがよくある。
骨盤部に関連した筋のMMT(徒手筋力テスト)を行うと、明らかに両側での弱化がみられた筋は、大腿筋膜張筋と中殿筋であった。

カイロプラクティックのAK(アプライド・キネシオロジー)では、両側の筋の弱化は2つ以上の連続した椎骨に存在するフィクセーション(固着)複合体と関連する、との仮説がある。その中で、「フィクセーション複合体」と「両側の筋の弱化」との相関を8種のタイプに分けている。

例えば、「両側の膝窩筋の弱化」は「下部頚椎のフィクセーション」と相関する。あるいは、「両側の大腰筋の弱化」は「後頭骨フィクセーション」と相関する。また「大殿筋の両側の弱化」は「上部頚椎フィクセーション」と相関する。

このようなAKパターンには8種の相関が堤示されているが、中殿筋や大腿筋膜張筋における両側の弱化に関わるフィクセーションとの相関は示されていない。

そもそも、なぜこうした「両側の筋の弱化」と「フィクセーション複合体パターン」が相関するのだろう。

AKでは、脊柱の靭帯に存在する平衡固有受容器にその機序を求めている。
であれば、こうしたパターンはまだまだ想定できるのだろう。
例えば、仙腸関節をベルトでしっかり固定すると(そこにフィクセーションをつくると)、頚部伸筋に弱化が起こる、といったデモによっても検証できる。

こうしたパターンは、ほとんどの者に適用できるというわけだが、それでも身体機能が高度に統合された神経システムを持つ者にはこのパターンがみられないことがある、とも記している。

さて、ここが肝要である。
フィクセーション複合体と両側の筋の弱化は、平衡固有受容器の代償パターンでもある、ということだ。
身体の平衡系が不安定であるがゆえに、両側の筋の弱化という代償パターンが出来上がる。逆に言えば、動的あるいは静的な平衡反射が正常に機能していれば出現しないパターンでもある、ということになる。

私は「センタリング」という概念を治療の基本技法に用いている。
センタリングという用語は、いろいろな領域で使われている。「身体の中心軸」といった構造的概念から、「心のセンタリング」というコアな概念など様々である。
私の概念を定義しておくとすれば、次のようなものになる。
「重力場において身体平衡系の神経反射シグナルがつくる静的あるいは動的にバランスされたエネルギー軸のこと」。

AKパターンに捉われずに、この考えに従って先の患者さんの身体平衡系の神経反射をチェックした。イレギュラーな神経反射シグナルをセンタリングの技法を用いて再起動させ、再び大腿筋膜張筋と中殿筋の両側の筋の弱化をMMTで確認すると、しっかり安定した筋力を回復していた。
立位、立ち座り、歩行を反復させてみても、もう骨盤両側のだるさもない。

両側性の筋の弱化をもたらすとするフィクセーション複合体は、必ずしもそこにアプローチしなければならないと言うことではない。
AKで述べているように、「高度に統合された神経システムを持つ」身体をめざすことが大事なのだろう。


参考文献:「AKシノプシス」第2版95頁、D.S.Walther、科学新聞社刊、2008
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by m_chiro | 2011-02-10 13:04 | センタリングの技法 | Trackback | Comments(0)
微細な皮膚刺激に、どうして鎮痛効果が期待できるのだろう?
「ソマセプト」、「ソマレゾン」による微細な皮膚刺激が、なぜ鎮痛作用に影響を及ぼすのだろう。
1個のソマセプトにはマイクロコーンの突起が376本あり(硬度108)、高さが150μm(0.15mm)とある。だいたい表皮の厚さが0.06~0.2mmとされているから、どう考えても表皮を超える圧力が加わるとも思えない。だから、部位によっては表皮だけの微細な刺激ということになる。
実際に貼っても、刺激感はほとんど感じない。この356本のマイクロコーンがどういう刺激を伝えているのだろう。自覚できる感覚としては、極めて微細な触圧覚と言えるだろうか。

皮膚感覚には4種類があるとされている。
触覚、温覚、冷覚、痛覚の4種で、皮膚にある受容器と対応する。
触覚は、毛根終末とメルケルの触円板とパチニ小体が対応している。パチニ小体では触覚と同一種である圧覚にも対応している。
そして温覚はルフィニ小体、冷覚はクラウゼ小体、痛覚は自由神経終末である。
ところが面白いことに、これらの受容器には相互の移行もあり、一つの受容器に2本以上の神経線維の多重支配もある。

皮膚にある受容器と言っても、ほとんどが表皮下にある。この表皮下の受容器と、触刺激が入力される皮膚表面との間隙を伝達する仕組みが、近年研究されている。表皮の「ケラチノサイト細胞」の感覚受容器としての役割と、その情報網としての役割の研究である。
ケラチノサイトの研究者である傳田光洋Ph.Dの著作に、以下の記述がある。表皮細胞の役割が分かりやすくまとめてあるので、長文をそのまま引用する。

皮膚表面を形成する表皮ケラチノサイトは様々な「感覚器」を備えた優れたセンサーです。ここに外からの刺激が加わると、これまた多種多様な信号が発信され、神経末梢や内分泌系に作用します。最表面の表皮細胞が、乾燥や圧力、浸透圧、紫外線、酸、などの刺激を受けると、細胞内カルシュームの濃度が上昇します。このとき細胞膜電位も変化し、一方、既に述べてきたようにサイトカインやATPなどの情報伝達物質を出します。細胞膜電位の変化は隣の細胞の膜電位感受性受容体に感受され、後はドミノ式に電気的変化が表皮内に伝わり、やがて神経末梢に到達し、それを刺激するでしょう。表皮で放出されたサイトカインやATPは真皮まで拡散することが知られています。ということは、これらの物質は末梢神経や末梢血管に作用するでしょう。さらにサイトカインが免疫細胞を呼び寄せて刺激したり、あるいは真皮内のマスト細胞を刺激するとさらなるサイトカインの放出やヒスタミンの放出が起きます。それがまた神経や血管拡張を引き起こし、二次、三次の反応を起こしています。(「賢い皮膚」ちくま新書795、147頁)

どうも表皮細胞の役割は多様で、しかも外部刺激に柔軟に対応する「複雑精妙な装置」になっているようだ。さて、この表皮にソマセプトを貼付すると、その部位の圧痛にどのような変化が起こるのだろうか。

簡単に考えれば、その部位の細胞での電位変化によって興奮が治まることだろう。
電位変化を起こすには、何もソマセプトである必要はない。
身近なツールでは、適当量のアルミホイルを丸めて圧迫し、それを痛みの部位に貼付しても可能である。あるいは一円硬貨でも十円硬貨でも可能だろう。だから痛みに一円玉療法がブームになったりする。

または、体性自律神経反射を引き出す作用によって血流が変化したのかもしれない。
あるいは「痛いの痛いの飛んでけぇ~」の機序とされた「ゲートコントロール説」が持ち出されるかもしれない。この説は後角での抑制細胞が仮定されていたが、実際にはその抑制細胞が同定出来ないことが分かり破綻している。それでも現象としては存在しており、そのゲートコントロール説に変わる仮説が模索されている。プラシーボ説もその一つだろう。

私としては、こんなことを考えている。
脳の情報処理の仕方に基づいた考えであるが、これらは幾多の啓発をいただいた故・松本元先生の研究に学んだものである。

例えば微細な触圧刺激であるソマセプトの刺激は、その刺激部位である皮膚の局在をかなり正確に大脳皮質が識別する。
その刺激部位が識別されると、脳のメモリー主体型方式に基づいて、その答えを引き出すためにルックアップ・テーブルに照合し、答えが検索される。脳が答えを引き出すか否かの判断は、意味概念を素早く理解し、入力情報に関する「価値」の判定が行われ、「認知」される必要がある。脳からの出力は価値有りの判定で認知された結果である。
価値無しの判定からは出力が起こらない。出力なきものは学習されない。学習されないものは、アルゴリズムの書き換えにも寄与しない。

価値判断の結果として出力された答えのアルゴリズムはそのまま、あるいは書き換えられて記憶(メモリー)の貯蔵機構であるアーキテクチャーにとどまる。こうして脳は自ら情報処理のプログラミングを行っている。

出力が起こるまでの時間は、最も適応するアルゴリズムを検索する時間でもある。
後は脳が自ら獲得した情報処理のプログラムにしたがってアルゴリズムに基づいて処理されるだけである。

だからこそ、私は貼付後に痛みが起こった動作(出力)を反復させている。
効果的なケースがあり効果が無いケースがあるのは、ひとえに脳が価値判断と認知を行ったか否かにかかっている。その意味では、治療効果は刺激の種類や強弱あるいは手法によるのではなく、脳のアーキテクチャーのルックアップ・テーブルから答えを導くプロセスを踏んだか否かにあるのだろう。刺さない鍼が効くのも、刺す刺さないにあるのではなく、どんな刺激でも脳の情報処理(問題処理)のプログラムを作動させたか否かなのだろう。

コンピュータには事前のプログラムが入力されていなければ目的を達成できない。だからプログラムの入力は、コンピュータが目的を追行する手段として欠かせないプロセスである。
しかし、脳は自らプログラミングすることを目的としているのである。そのためには、情報を得るという手段が必要である。脳とコンピュータでは、その目的と手段が入れ替わっていることになる。治療は、脳への情報の入力なのだろう。出力は行動(動き;筋の作用)として現れる。その出力が、また入力としてフィードバックされる。こうしてアルゴリズムが書き変わる。
痛みの可塑性もこうして生まれる。不快な強い痛みは認知され、強固なメモリーとして貯蔵され、歪んだ痛みとして出力されるのだろう。

治療における刺激も一つの手段であって、それは自らプログラミングするという目的を獲得する行為なのだろうと思う。
そうなると、ソマセプトもその一つの手段として、脳のアーキテクチャーへの照合・検索機能に作用され、価値が認知されれば身体の変化としての出力が起こるのではなかろうかと思う。
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by m_chiro | 2011-02-03 12:42 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)



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