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椎間板ヘルニア炎症説への疑問
仙台市医師会が発行する「健康だより」No94(2008.8)に松田病院・笠間忠夫副院長が書かれた「椎間板ヘルニアと言われたら」と題する記事が掲載されていた。
その一項目に「腰にヘルニアがあるのに、なぜ下肢が痛むのか?」について書かれている。


「腰にヘルニアがあるのに、なぜ下肢が痛むのか?」
「痛み」は、「それ専用の神経終末」が刺激された時に、そこから信号が出て脳まで到達して、初めて「痛み」として感じられます。たとえば、足をケガした場合は足にある「専用の神経終末」が刺激されて、脳まで通じてその部位の痛みとして感じます。おかしい
と思うかもしれませんが、脳・脊髄および神経(幹)には痛みを感じる専用の組織はありません。そのため、正常状態では、神経そのものは途中で圧迫されても痛みを感じません。

しかし、神経に炎症があると圧迫により、その部位で「痛み信号」を出してしまい、それが脳まで達して、その神経が本来行っている部位の痛みとして感じるようになってしまいます。最近になって、椎間板の中に炎症を起こす化学物質が地雷のように埋め込まれていることが分かってきました。ヘルニアにより、この埋め込まれていた物質が放出されて炎症を起こし、そこにヘルニア自体の体積で神経を圧迫して「痛み信号」を出してしまうのです。


前段で、神経(幹)そのものが圧迫されても、そこは受容器ではないから痛みを感じない、と書かれてあり、「あっ、正論だ!」と思って読み進むと、後段では椎間板ヘルニアの炎症説が飛び出した。

まとめると次に図式になる。
1.神経に炎症がある(前提条件)
2.椎間板ヘルニアによる機械的刺激(条件)
3.下肢痛が起こる(結果)

前提条件が正常な神経ではなく、炎症がある神経の場合の限定される下肢痛のことだろう、と思って読んだが、どうもそうでもないようだ。

前提条件の神経の炎症は、なぜ起こったのか?
「椎間板の中に炎症を起こす化学物質が地雷のように埋め込まれている」ために、椎間板ヘルニアが起こると「炎症物質が放出されて炎症を起こす」のだそうである。

つまりは、こういうことなのだろう。
1.正常な神経(前提条件)
2.椎間板ヘルニアによる化学的および機械的刺激(条件)
3.神経幹の炎症と下肢痛(結果)


「神経(幹)は痛みを感じる専門の組織ではない」と説明しているのだが、では化学物質を受容する受容器はあるとでも言うのだろうか?
そもそも神経幹は受容器ではない。
都合のよいときだけ受容する組織を認めるのは、論理的にも矛盾がある。

「椎間板ヘルニアも、大半は吸収されて自然に治ります」としながらも、結局は、麻痺症状や膀胱直腸障害には24時間以内の手術を、後は痛みの程度で手術の適応を決める、としている。

やはり、この先生も椎間板ヘルニアという病態に、疼痛と神経麻痺という正反対の現象が共存するものと考えているようだ。

残念ながら、加茂先生の主張のような合理的な見解はなかなか登場しない。
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by m_chiro | 2009-01-29 18:16 | 痛み考 | Trackback(1) | Comments(4)
筋膜は「へちまたわし」のイメージ
筋組織はいくつもの合胞体構造になっていて、一般的な細胞体構造とは違っている。
この筋組織には結合組織と呼ばれる支持構造があり、これが膜系の仕切り構造を作っている。
一本一本の筋線維は筋内膜で包まれ、それらのいくつかは筋束となって筋周膜で仕切られている。

その筋束の集合は筋上膜で包まれて固有筋を作り、他の固有筋と分けている。
これらの筋膜は固有筋を束ねて更に腱に合流する。それらが合成されて骨膜になり、更にまた違う筋肉に移行して行く。
これらの筋膜組織は膠原線維と考えられており、体性神経線維が分布している。
Aδ、C線維のグループⅢ、Ⅳの神経である(Lloyd-Huntによる神経線維の分類 )。交感神経も含まれている。
こうした膜系の連鎖は固有筋の概念と違った構造体として、支持機能と運動機能、情報網として作用しているのだろう。
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この筋肉の膜構造を眺めていると、「へちまたわし」のようだ、と思えてくる。
身体の頭頂から足の先まで、その表層から深層へと、筋膜は「へちまたわし」のように筋肉や血管、神経を内包しながら全身を包み込んで多重構造による支持組織のイメージが湧いてくる。
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                    「へちまたわし」

この前の記事(1月21日「B.フラーとT.ヤンセンに膜系連鎖を学ぶ」にsansetu先生がコメントを寄せてくれた。武道の流派の動きを引用してヤンセンのロボットの動きを評しいる。

支点・力点、作用点の流動と固定を同時進行で行なう技術がありますが、このロボットの動きとよく似ています。支点が流動するので相手は何をされているのか分からなくなります。

このコメントは有り難かった。コメントの中で、「支点が流動する」という表現は筋膜リリースの手法のコツだと感じた。

一般的に固有筋のストレッチは、その筋の起始あるいは停止(関節)を固定して伸張させる作用点を作る。
ところが筋膜のリリースでは支点が流動する。つまり固定することはしない。
かといって支点がないわけではなく、支点が変化する。つまり支点は流動するのである。

筋膜が持つ伸縮性と弾性それに神経系の情報ネットワーク網は、徒手治療が果たしている役割も多いにちがいない。
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by m_chiro | 2009-01-27 16:27 | 膜系連鎖 | Trackback(1) | Comments(4)
雪の降る街を
先週末には降り積もった雪もすっかり消えていたのに、また寒波襲来。
昨日の朝目覚めると、外は50cmほどの積雪で真っ白になっていた。
一夜で、こんなに積もるとは...。
庄内の冬は風の音と共に雪が舞う風情なのだが、昨晩はシンシンと降り積もったのだろう。
今日も断続的に降り続いている。

雪が多くなると、除雪作業でクタクタになる。
そのたびに、汗だくになった下着を替えなければならない。
やっと除雪したところへ、今度は除雪車が道路の雪を寄せて行く。
すると、隣近所が総出でまた雪かきがはじまる。

中には、老人だけの所帯もあり、一人住まいになった老人の家もある。
そんな家には、市からの依頼で隣組の世話役が出向いて行く。
厳しい冬には助け合いの心が生きている。
そして、除けても除けても積もる雪への愚痴が、この頃の挨拶になる。


そんな現実から離れて、静かに降り積もる雪を見ていると、雪景色はとても綺麗だと思う。
「雪の降る街を」のメロディが聞こえてきそうだ。
この唄の作曲者は中田喜直氏である。
中田氏は「小さい秋みつけた」などの童謡を数多く作曲している。
この曲は庄内地方の友人宅に投宿した折に、降りしきる雪をみながら曲のイメージを作ったとされていて、氏は庄内での演奏会でこの曲の指揮をとったと聞いている。
庄内と縁のある曲だから、余計に冬景色とフィットするのだろうか。

作詞は劇作家の内村直也氏で、昭和28年のNHK放送劇「えり子とともに」の挿入歌としてヒットした歌だそうだ。

この曲、ショパンの「幻想曲ヘ短調」にそっくりだとも言われているらしい。

どうでもいいが、雪の降る夜はとても心が落ち着く曲である。
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by m_chiro | 2009-01-26 18:35 | 雑記 | Trackback | Comments(2)
B.フラーとT.ヤンセンに膜系連鎖を学ぶ




08.1.22の記事歪みのニューモデルで、身体のテンセギリティー構造について触れた。

テンセグリティとは、張力(tension)と統合(integrate)を組み合わせた造語で、リチャード・バックミンスター・フラー(Richard Buckminster Fuller, 1895年7月12日 - 1983年7月1日)がその概念を広めたものである。
フラーは、アメリカのマサチューセッツ州出身の思想家、デザイナー、構造家、建築家、発明家、詩人として多才で天才的な能力を発揮した人である。

さて、このテンセグリティーとは圧縮力と張力という相反する力でバランスさせる、構造的安定の自己調節系とでも言えるだろうか。
今では身体治療には欠かせない概念でもあるだろう。

この概念から身体構造をみると、どうしても支持構造を(実はそれさえも張力としての作用もあるのだが)結ぶ筋膜系に思いが行き着いてしまう。

ハーバード大学医学部のイングバー博士(Donald.E.Ingber)は、生物の構造を生み出す基本原理こそが「テンセグリティー」だ、と主張している。
博士の論文である「生物のかたちを決める力」の一節が、そのことを納得させる。

人体の要素は、分子から骨、筋肉、健にいたるまで、まるで自然が選んだとしか思えないほど基礎構造にテンセグリティーを利用している。たとえば、私たちが腕を動かすとき、必ず皮膚が伸び、細胞外基質が伸張し、細胞が捻れて、細胞内骨格を形成する連続した分子が張力を感じとるわけだが、細胞や組織がちぎれたり、連係が途絶えたりすることなくこれらの現象が起こる仕組みは、テンセグリティーでしか説明できないのである。


テンセグリティーという概念から身体をみると、どうしても筋・筋膜系の連鎖という仕組みに注目せざるを得なくなる。

さて、冒頭で紹介した動画は風を動力にしたロボットである。
その製作者であるヤンセンの個展が、アジアでは初めての開催となった。
「テオ・ヤンセン展」

このヤンセンのロボットの動力は風である。だからエンジンも電脳もない。
だけど、その動きは実に繊細である。
一般に見られる関節構造だけのロボットのようなギクシャクした動きではない。
ヤンセンのロボットはテンセグリテイーの応用なのだろう。

身体の巧妙な動きを演出しているのは、やはり膜系の連鎖にこそあるように思える。
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by m_chiro | 2009-01-21 19:57 | 膜系連鎖 | Trackback(1) | Comments(5)
愛犬、雪の原を駆ける
先週は大寒波の襲来で、この冬一番の寒さ。
道路はアイスバンで、地吹雪が吹き荒れました。
ツルツルの道路ですから、歩くにも技術が必要です。
車で15分位で来れる距離も、1時間以上もかかるほどノロノロ運転でした。

今年はじめての本格的な積雪で、私も今年はじめて駐車場の除雪作業に精を出しました。
除雪車も出動し道路の雪を家の前に置いて行くので、その処理がまた大変なんです。
山間部では、この寒波で屋根の雪下ろしをした人が、この一日で2人が屋根から落ちて亡くなるという事故がありました。

ここ2~3日ほどは寒波も弛み、もう道路の雪は消えてしまいましたが、田畑は真っ白です。

やっと晴れ間も出てきたので、愛犬(桐子と空)を連れて行って、雪の原を思い切り走らせました。
犬たちは雪が大好き。二匹で追いかけっこをしたり、じゃれあったりで活発です。

が、私は見てるだけ。

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空が先頭をきり、桐子が追いかけるパターンでいつも遊びます。

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深みにはまって、桐子はもがいていました。

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桐子はお姉さんで、よく空の面倒をみます。見かけと違って、とても心根の優しい犬なんです。

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ひと休みです。視線の向こうにはカラスがいました。
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by m_chiro | 2009-01-20 21:48 | わん・にゃん物語 | Trackback | Comments(4)
「痛み学・NOTE」⑲ ガーデンホース・セオリーで根性痛を説明できるか?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑲ ガーデンホース・セオリーで根性痛を説明できるか? 

カイロプラクティックでは、「ガーデンホース・セオリー」や「ナーブピンチング・セオリー」として神経圧迫理論が構築されてきた。
庭に水を撒くときのホースを神経とみなし、その中を流れる水を電気信号に譬えている。
椎骨の位置異状によって椎間孔の狭小化が起こると、神経が圧迫されるとするものである。

この理論は、長い間カイロプラクターの治療の根拠にされてきた。
この根拠が否定されるようになったのは、米国ナショナル・カイロ大学でのある実験結果だったようだ。
実験動物の犬を使い、椎間孔が狭窄されるまで椎骨を動かしても、終には椎骨が脱臼するまで動かしても、神経の伝達速度は著名に変化しなかった、という結果の報告である。

それもあってか、今ではサブラクセーションなどによる神経圧迫説は脈管系の循環障害によるものと変化している。
椎間孔を占める組織は、神経、動脈、静脈、リンパなどで、そのうち神経の占める割合は3分の1ほどである。そう易々と椎間孔自体の狭窄が起りうるものでもない。
ところで、圧力に対しての感受性は静脈において顕著であるとされている。
静脈に変形をもたらす圧力は、5~15mmHg(A4のコピー用紙を2mの高さから地面に落下した時の圧力)だという。これはロサンゼルス・カイロ大学で解剖学教授を務めた経歴を持つDr.トランの報告である。

サブラクセーションが長期化し、この椎間孔での可動性が減少すると、圧力に対する感受性の強い静脈は変形する。結果的に、静脈内の血漿は更に血管外に滲出することになる。
この現象がリンパや動脈への圧力を高めることになり、最終的に神経根が圧迫されるのだとする。

こうしてカイロプラクティックの神経圧迫説は、その仕組みを変えてきている。

しかし、どんなに神経圧迫の実態を変えてみようとも、神経根が圧迫されたことで根症状が発症するとみる説に変わりはない。
問題にすべきことは、なぜ神経や神経根の圧迫が下行性に痛みとして認知されるのか、という生理学的機序なのである。
結局、カイロプラクティックが説いたガーデンホース・セオリーでは、根性痛などの神経圧迫による痛み症状を裏付ける理論的根拠には成り得ていない。
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by m_chiro | 2009-01-14 20:39 | 痛み学NOTE | Trackback(1) | Comments(0)
「新しい治療モデル」へ。
日頃、ご指導いただいている整形外科医・加茂淳先生の著書「トリガーポイントブロックで腰痛は治る」が刊行された。
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先生がHPやブログ上で説かれている内容を、とても分かりやすく丁寧に書かれている。
痛みを抱える患者さんには心強い励ましにもなり、光明をもたらしてくれる本だろう。
私のような徒手治療家も加茂先生の教えに触発されて前に進めたように、痛みを持つ患者さんにも大きな勇気を与えてくれるであろうことは間違いない。

最早、筋骨格系の痛みにおける「損傷モデル」は、過去の治療戦略と言ってよい。
新しい治療モデルとして「生物・心理・社会的医学モデル」を確立することが医療サイドに求められている。このことは一貫した著者からの強いメッセージでもある。
この新しい痛みの治療モデルには、「手術」は相容れない方法論だろう。

整形外科医としての30年もの診療歴の中で、一度も椎間板ヘルニアによる麻痺症状を診たことがない、と加茂先生は書かれていた。
日本整形外科学会の「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」にも、ヘルニアによって麻痺が起こるとは一言も書かれていなかった。腰・下肢痛という「痛み症状」にのみ焦点が当てられている。
つまりは、椎間板ヘルニアによって麻痺は起こらない、ということなのだろう。
では「痛み」症状なのかと言うと、無症候性の椎間板ヘルニアの存在が提出され続けていること、あるいはその痛みの機序が明らかでない現況の中では、痛みそのものとの関わりも怪しいと言わざるを得ない。

この本には、そうした構造障害による痛みとみなされて苦しんできた患者さんたちの生の声と、それに丁寧に答える加茂先生とのやりとりも多く掲載されている。痛みと向き合い、手を差し伸べる加茂先生の慈愛が全編に溢れている本でもある。

MPS(筋・筋膜性疼痛症候群)という概念から、筋骨格系の痛みを評価しようとする加茂先生の眼は、既に「痛みの新しい治療モデル」の啓蒙に向けられている。
MPSの公式サイトを立ち上げる計画は、この本と共に痛み患者の心強い味方になってくれるものと思う。
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by m_chiro | 2009-01-14 00:25 | Books | Trackback | Comments(0)
「痛み学・NOTE」⑱ 神経根の圧迫で、痛みが起きるか、起きないか!?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑱ 神経根の圧迫で、痛みが起きるか、起きないか!? 

これまで、痛みの受容器とその伝導経路を辿ってきた。
近年の痛みに対する概念的変化には、充分な注意を払う必要があるだろう。
痛みの概念的理解がなければ、痛み治療の臨床に反映させることができないからである。

神経根症もその一つで、生理学者と臨床医の見解には微妙な違いが見受けられる。
医療の現場では、上下肢痛を伴う頚部痛や腰痛患者の多くが「根疾患」とされている。一方、感覚神経の伝達機構では、「痛みの入り口は痛覚受容器である」とする。
その痛覚受容器がある神経終末は、筋・筋膜、粘膜、靭帯、動脈など、身体中のあらゆる軟部組織に存在する。
また、そうでなければ警告系としての痛みシステムを保てない。

受容器が侵害された部位が痛みの「第一現場」であり、痛みを認知する脳での部位が痛みの「第二現場」である。第一現場での侵害情報は脱分極を繰り返して電気信号として上行し、脳の第二現場に届く。これは生理学的な原理原則論である。

そうなると、神経根症の説明に使われる機械的圧迫説には、アレッ、と思ってしまう。
例えばL4-5間で、「神経根が侵害されているために下肢痛が起きている」としよう。
害されたのがL5神経根であるならば、侵害部位の情報は脱分極による痛み信号に変えられて、脳で侵害部位での痛みとして認知される。

ここで問題となるのは、侵害部位であるL5神経根から下肢への下行する痛みの認知は、どのような生理学的機序に基づいているのか、ということである。

ここに二人の専門医の見解がある。著名な二人の説に学びながら、神経根症なるものの病態を考えてみたい。

その一人は、Karel Lewit,M.Dで、プラハのチャールズ大学で神経学を教えている。ヨーロッパからアメリカに至るまで広い地域で活躍し、手技療法の分野に大きな影響を与え続けてきた人でもある。
Dr.Lewitは、オステオパシーやカイロプラクティック界とも深い縁を持つ。
カイロプラクティック学術誌「JMPT」の編集委員としても迎えられ、その発展に寄与した。
その著「Manipulative Therapy in Rehabilitation of The Locomotor System」は8ヶ国語で出版されている(邦訳「徒手医学のリハビリレーション」)。
その中で、次のように述べている。

神経根が実際に力学的に圧迫された場合、「神経の圧迫は単独でも不全麻痺や感覚消失を引き起こしはするが、痛みは起こさないことを指摘しておくべきだろう」と前置きして説いている。
根疾患の決定的な証拠は、「知覚減退、痛覚減退、弛緩や萎縮を伴う筋脱力、特発性筋興奮性の亢進、腱反射の低下など」の神経学的な欠損がなければならない。こうした神経学的に決定的な証拠が挙がっていなければ、根性疾患と決めるわけにはいかないとする。更に続けて、このような神経学的欠損以外では、「疼痛や異常感覚が足指あるいは手指にまで放散し、脚全体が痛むような印象や骨が痛むような感じがある場合」も根疾患の視野に入る、と述べている。

前段で力学的な神経の圧迫では痛みは起きないとし、後段で根性疾患の症状を述べているが、これは恐らく損傷された神経における根性疾患の病態をのべたものと推測されるが、明確な記述が見られないことは残念である。混乱の基になりかねない。

もう一人、日本を代表する整形外科医の福島医大付属病院長・菊地臣一教授は、近著「腰痛」の中で神経根障害の発生に触れ、機械的圧迫の意義について著述している。

神経根を圧痕する頻度は、加齢と共に増加している。
ところが、神経根障害の有病率は年齢と共に減少しており、このことは神経根障害が神経根の圧迫だけでは引き起こされないことを強く示唆するものだとしている。
その上で、圧迫性神経根障害の病態を2つに分けている。
つまり、「麻痺」と「疼痛」である。
ここで問題となるのは、同じ病態に生理学的には全く反対の現象が起こるとしていることである。

では、その下肢痛はどのようにして起こるのか。菊地教授は後根神経節(DRG)の特徴に着目し、神経根性疼痛に重要な役割を果たすのだとする。そしてDRGの3つの特徴を挙げて、その根拠としている。

すなわち、DRGは①一次性知覚神経細胞を持ち、サブスタンスP、CGRPなどの神経ペプチドを産生し、疼痛伝達に重要な役割を果たしていること。
②神経根自体よりも機械的刺激に敏感であるため、わずかな刺激で異所性発火を生じること。③神経―血管関門のない組織で血管透過性が亢進しており、軽度の圧迫でも浮腫が生じやすいこと、にある。

というわけで、菊地教授は根性痛による末梢性の痛みは「異所性発火」と結論づけている。
おそらく、神経根が完全に圧迫される前にDRGが刺激されての「異所性発火」とするものだろう。
正常な神経が椎間板ヘルニアによって圧迫されることで異所性の発火が起こるとは、あまりにも大胆に過ぎる仮説だと言わざるを得ない。
「異所性発火」の痛みは神経因性の痛みであり、難治性とされる痛み疾患である。
警告系としての痛みの存在意義が機能していない疾患なのである。
そのような病態が、日常頻繁に見聞きしているものだとは到底思えない。
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by m_chiro | 2009-01-11 19:25 | 痛み学NOTE | Trackback(1) | Comments(4)
痛み学「NOTE」⑰ 防御反応としての炎症を演出するポリモーダル受容器
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑰ 防御反応としての炎症を演出するポリモーダル受容器

炎症には四徴候があるとしたのはギリシャ時代とされている。「発赤、熱感、腫脹、痛み」の4つの徴候のことで、ポリモーダル受容器はそのすべてに係わっている。ポリモーダル受容器は炎症と切っても切れない関係というわけだ。

皮膚を引っ掻くと、傷んだその部位が赤く腫れる。これをフレア(flare)形成という。神経性の炎症症状とされる末梢神経の軸索反射による現象である。この現象に関与する物質として、ヒスタミンやサブスタンスPなどがあげられている。

サブスタンスPは、ポリモーダル受容器が侵害刺激を受け取ると放出する神経ペプチドで、神経情報の伝達に関与してきた。神経系の発達と共に存続してきた原始的な神経伝達物質である。
神経ペプチドは後根神経節で生成され、そのほとんどは末梢側に運ばれ、ポリモーダル受容器が興奮することで放出される。

すると、この神経ペプチドは神経終末の近くにある肥満細胞に作用する。肥満細胞はヒスタミンを放出し、血管を拡張して血管の透過性も増す。この作用には、ヒスタミンだけでなく神経ペプチドも加わる。血管が広がり、血流が増大することで、炎症徴候である発赤がみられ、熱も出る。

また血管の透過性が増すことで、血管から水分が放出される。そのために腫脹が起こる。こうしてポリモーダル受容器は、炎症に深く関与して炎症を増大させている。これは一見するに悪化させている現象でもある。ところが、本来こうした炎症症状は身体の防御反応のひとつでもある。つまりは治癒力につながっている。

神経ペプチドは免疫や傷の治癒、内臓平滑筋の活動調節など、痛覚受容器であるポリモーダル受容器の効果器としての特性も見逃せない側面である。掲載の図はポリモーダル受容器研究の第一人者である熊沢孝朗教授がまとめたものである。

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その熊沢教授が、ポリモーダル受容器は「村役場」とイメージせよと書いていた。一人で何役もこなすからだろう。
こんなイメージもできそうだ。総合病院の専門分科された医師というよりは、町の診療所の家庭医。
そんなポリモーダル受容器などを構成子とする情報ネットワークのプログラムが、神経系のシステムには存在しているように思える。
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by m_chiro | 2009-01-09 23:20 | 痛み学NOTE | Trackback(1) | Comments(0)
オリックス・小林賢司投手のコンデショニング治療でみえたこと
昨年のドラフトでオリックスから1位指名を受けた小林賢司投手が正月で帰省した。
大学・社会人枠からの1位指名で、即戦力と期待されての入団だったが、結局一度も1軍のマウンドに立てずに1年が終わってしまった。

昨日、当院の始業に合わせて早速コンデショニング治療にみえた。
一年間の感想を聞いてみたら、「長かった~!」と一言。
よほど辛かったのだろうか? 

彼が中学の頃から不調のときにコンデショニング治療を行ってきたので、ある程度知り尽くしている身体ではある。
今回、気になるところが5箇所あり、中でもプロの選手としては致命的な問題になりかねない部分があったので、そのトレーニングについて話をした。
今のままではピッチングにムラができ、コンスタントに安定した状態を保てないだろう。

「トレーナーからは何か指摘を受けてる?」と聞いたが、「特に言われていない」とのことだった。
見てる視点が違うのだろうか? 私にはとても気になる部分だったのだが...。
今年の活躍は、この部分の克服にかかっているように思う。

TVでよくプロ野球選手の動きを観察するのだが、例えば巨人の野間口投手もとても気になる選手の一人。あんなにすばらしいボールを持っているのに、コンデションが不安定だ。
TVで見る限りだが、小林投手も同じ問題があるように思える。

ゴルフの石川遼選手にも同じ感想を持った。
プロに入ってからの前半はとても気になった。石川選手も同じ問題のように思えたが、後半はそれが克服されていた。
きっとトレーナーと取り組むべき課題を見つけたのだろう。

小林投手には活躍してほしい。
「早く一億円プレーヤーになって、雇って!」と言ったら、笑われてしまった。
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by m_chiro | 2009-01-06 12:42 | 動態学 | Trackback | Comments(2)



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