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「手術しないで良かった」、脊柱管狭窄症と診断された60代男性
2ヶ月前に、左坐骨から踵までの下肢痛が出始めた、と言って来院した60代の男性。
寝起きから動き始めると下肢痛が起こるようになり、跛行するようになった。
大好きな温泉に行っても、入浴中から痛みが強くなる。
6年前に大腸癌で手術を受けた病院の整形外科を受診する。

X-rayで変形性脊椎症からくる坐骨神経痛と診断され、鎮痛剤を処方される。
鎮痛剤を服用して経過観察するが好転しない。
一ヵ月後にMRIによる追検査をすることになった。
それまでの間、少しでも良くなればと思って来院した、と言う。

腰椎には軽度の後弯と右側弯がみられる。
深部反射は全体的に消失傾向である。
左腸腰筋は低下し、右胸背部に強い圧変動がみられる。
ストレス軸は左上胸部から右下肢へ流れている。

圧変動をリリースし、左腸腰筋の筋活動の始動遅延をリセットした。
併せて、大泉門のリリースと横隔膜の調整を行う。
左膀胱ライン上の痛み経路を、同側の肺経2ポイントと同調させる。

3回目の治療時には、痛みも大分楽になったようだ。
5回目の治療時には、歩行もほぼ問題なく動けるようになったが、温泉に入るとまだ痛みが出る。
7回目の治療時には、NRS(数字評価尺度)では2に改善した。いよいよ明日は、MRI検査の日となった。
「どんな説明を受けても、どんなひどい画像を突きつけられても驚かないこと。それは老化だから、痛みとは無関係だと思って聞いてきなさい」とアドバイスした。

それから一週間が過ぎて来院した。
MRI所見では、案の定、「脊柱管狭窄症」と診断される。
手術を強く勧められた、と言う。
それでも、私のアドバイスを聞いていったので、「さして驚かなかった」し、手術を勧められたが「今は具合が良いので」と断ったそうだ。

今では、大好きな温泉に入っても痛まなくなり、趣味のグランドゴルフや家庭菜園も楽しでいる。
雨が降る前日など少し違和感が残るが、特に問題なく動けるし「手術しないで本当に良かった」と喜んでもらえた。

痛みと構造障害は無関係である。
むしろ機能性を重視したいものだ、とつくづく思う。
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by m_chiro | 2008-05-29 23:45 | 症例 | Trackback | Comments(2)
中学一年生男児の腰痛
1ヶ月前の夕食時、突然、腰痛になった中学一年生の男児が来院した。
T12-L1の胸腰移行部の痛みを訴えている。

最初に開業医の整形外科を受診する。X-rayで問題なしとされ、湿布薬と鎮痛剤を処方される。
経過が思わしくなく、鍼灸治療院でハリ治療を受ける。見立ては、筋肉痛とのこと。
近くの総合病院に大学病院から整形外科医が出向しているという話を聞いて受診する。
ここでもX-rayを撮り、L4-5間の椎間板ヘルニアと診断される。腰部ベルトと鎮痛剤を処方される。

経過は悪化する一方で、授業でも座っているのがつらくなった。ランドセル型のカバンの重みで通学も苦痛になり、自動車での送迎で学校に行くようになった。部活動はバスケット部に所属しているが、休部した。
思い当たる原因もない。通常と変わったことと言えば、2週間後に迫った運動会の練習を行ったぐらい、だと言う。

最初の整形外科医は特に問題なしとし、鍼灸師は筋痛とみた。大学病院の整形外科医はL4-5間の椎間板ヘルニアとした。でも痛みを訴えている部位は胸腰移行部で、L4-5間周辺ではない。

深部反射は全体的に亢進ぎみに反応するが異常所見ではなく、ヘルニア思わせる徴候もない。
運動分析を行うと、屈曲-伸展、回旋、側滑すべての方向で同じ部位に痛みを訴える。特に伸展運動が強い痛みを伴うようだ。皮膚接触でも胸腰移行部は過敏に反応する。寛解因子は、寝ていることである。

基本的に運動痛なのに、運動分析で特定の方向が見出せないケースでは、視点をかえて推論するようにしている。

医学の歴史をギリシャ時代にまで遡ると、コス派とクニドス派の二大流派に行き着く。
コス派は、ヒポクラテスを中心にしたホリズム(全体論)をその哲学とした。ヒポクラテスは、医術と魔術を切り離し経過観察と記録から病を推測する手法を確立した。「医学の父」と称された医聖で、ポノス(ponos)という自然良能を引き出すのが医者の役目であることを強調した。

一方、クニドス派は、個々の病気の症状を類型分類し、それに対する特定の治療法を考えた。ヒポクラテスとは対照的に、医者は病気に対して直接的な役割を果たすことが出来る、と主張した。今日のアロパシー医学の源である。

どちらも重要な概念である。両者の統合あるいは止揚こそが望まれるところで、私としては両者の視点を心したいといつも思う。

この患者さんは局所の運動分析で特定の方向が見出せない。ここは全体論的な有機的相関に注意したほうがよさそうだ。
可動触診をすると、脊柱が全体的に可動亢進ぎみである。特に胸腰移行部はハイパー・モビリティで痛みを伴う。手首や足首の関節もハイパーである。

「小学校では何かスポーツをしていたの?」
「スポ小で野球をやっていた」
「何で野球をやめて、バスケットにしたの?」
「肩が外れやすいから」
投球で肩が外れやすく、外れると自分で治めていたようだ。やはり関節がルーズなのだ。内臓反射をみると、副腎の反射ポイントが過敏に反応する。糖分も良く摂るらしい。
こういう子は疲れやすい。特に朝は活動性も鈍る。運動していても息があがるはずだ。夜は遅くまで起きていて、朝はなかなか起きれないだろうと聞くと、付き添いのお母さんが「そのとおりだ」と応えた。

ここは「損傷モデル」ではなく、「生物・心理・社会的因子モデル」に切り替えて対応した方がよさそうである。
深部反射が亢進気味であり、繊細で緊張症の性格が伺える。
中学生になったばかりで、なれないバスケットの部活動などなど、潜在的なストレスも多かったのだろう。

筋活動の始動の遅延をリセットし、HPA軸対応の反射ポイントを調整した。腎-副腎ラインの内臓マニピュレーションを行う。胸腰移行部へは、カウンター・ストレインと動態認知法で対応した。

治療後、再び運動分析を行うと発痛領域がかなり減少している。
さて、どんな変化をみせてくれるだろうか。
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by m_chiro | 2008-05-29 00:49 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
痛み学「NOTE」⑮ クレニオパシーや末梢刺激は、脳内鎮痛系を賦活させるか
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑮ クレニオパシーや末梢刺激は、脳内鎮痛系を賦活させるか ?

オピオイドペプチド(リガンド)が生体のどこに多く存在するかを究明できれば、その部位が鎮痛経路における内因性オピオイドによる鎮痛系の成分ということになる。
だが内因性オピオイドペプチドの伝達は、体液中の化学受容器として働く「脳‐血液関門」によってバリアが張られている。
だから体内に注入しても脳には届かない。
このことは脳内に更なる作用部位が存在する証拠となった。

やがて中枢神経系内にβエンドルフィンや、エンケファリンを産生するニューロンが分かってきた。
このニューロンが興奮すると、軸索突起の終末部から脳内や脊髄内に、内因性オピオイドペプチドが放出されるような仕組みになっている。

さて、その代表的な内因性オピオイドペプチドであるβエンドルフィンを作るニューロンは視床下部などにあり、視床下部からは大脳辺縁系や脳幹のいろいろな部位に神経線維を伸ばしている。
視床下部弓状核のニューロンから中脳中心灰白質に送られる神経線維が刺激されると、βエンドルフィンが遊離されて下行性疼痛抑制系が賦活する。

下行性痛覚抑制系は3つの部分から成り立っている。
ひとつは中脳(中心灰白質)で、次が延髄(大縫線核)、そして3つめが脊髄後角である。
中脳のシルビウス水道周囲、橋上部の水道周囲灰白質、脳室周囲、第3,4脳室隣接部からの信号を、大縫線核(橋下部と延髄上部にある正中核)と網様核(延髄下部にある傍巨大細胞)に送るのである。

更に、これらの核から脊髄の後側索を下行して脊髄後角に位置する痛覚抑制核群に伝えられる。また、青班核からはノルアドレナリンが脊髄の前側索を下行し、この2つのルートによって痛み信号が上行性に伝達される前に遮断する機序が働くことになる。

この下行性疼痛抑制系の活動を中脳で持続的に抑制しているのがγアミノ酪酸(GABA;抑制系のアミノ酸)で、この作動性ニューロンをβエンドルフィンが抑制する。

エンケファリンは大脳皮質から脊髄まで、中枢神経系内のいろいろな部位に分布しているとされるが、特に中脳中心灰白質のニューロン細胞体はエンケファリンを産生して抑制系に積極的に関与している。

つまり抑制系を抑制しているGABAを、βエンドルフィンやエンケファリンが抑制しているわけで、この「脱抑制」によって下行性疼痛抑制系が賦活される。

中心灰白質を出た下行性疼痛抑制系の神経線維の一部が、延髄の大縫線核や網様核で放出するのは、興奮作用を持つグルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸である。
大縫線核にはセロトニンを産生するニューロンがあり、興奮性作用を持つアミノ酸がこの部位のニューロン細胞体を刺激してセロトニンを産生させる。
この神経線維の終末部が脊髄後角ニューロンと接続してセロトニン経路の鎮痛作用を起こすのである。
こうしてみると、この痛覚抑制系は痛覚系が作動すると機能するシステムである。
この原理を応用して、鍼灸を含めた徒手療法では末梢刺激を使って痛覚系のネガティブ・フィードバック・メカニズムを利用する手法をとっていることになる。

また、慢性痛患者の脳脊髄液(CSF)中にはβエンドルフィンが減少しているという報告もあり、鎮痛経路の成分からみてもオステオパスが行うクレニオパシーは鎮痛治療としても意義深いものがあるのかもしれない。

アミノ酸:アミノ酸は身体に最も多く存在する神経伝達物質の一つの類で、神経細胞間の素早い点対点の伝達に関わっている。中枢神経系のすべてのシナプスの90%ほどの伝達に関わっているといわれている。なかでもグリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、γアミノ酪酸(GABA)などが重要で、グルタミン酸は脳内で最も典型的な興奮性伝達物質であり、GABAは最も多い抑制性の神経伝達物質である。アミノ酸の以外の伝達物質には、モノアミン類や神経ペプチドなどがある。神経ペプチドは、ポリモーダル受容器の作用を考える上で欠かせない物質である。
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by m_chiro | 2008-05-20 23:43 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
お婆さんのように曲がって伸びなくなった腰痛
31歳の事務職の女性が、腰を40度ほど折り曲げて来院した。

10日ほど前から、わけもなく朝起きると腰が重く感じられ、徐々に痛みがひどくなった。
整形外科に受診し、X-rayでの問題はなく「筋肉のトラブルだろう」と診断され、湿布薬と鎮痛剤を処方された。
仕事を一週間ほど休み、安静にしていたら痛みもやわらいできたので、職場に復帰した。
仕事中に前屈したとき、腰に激痛が走り、再び整形外科に行き同じ処方をされる。
また仕事を休んで安静にしていたが、3日経っても快方に向かうどころか、今度は腰を全く伸ばせなくなった。

確かに腰を伸ばすことができない。
40度ほどの屈曲位にロックされた状態である。
ヒトの基本形である屈曲/伸展の障害である。
顔の歪みも気になる。頭位に圧変動が起こり、身体の伸展位も保てないのだろう。
片頭痛持ちだとも言う。生理痛、残尿感の愁訴もある。
運動分析でも、屈曲だけが可能である。

仰臥位は「脚を伸ばせないので出来ない」と言う。
膝窩にダッチマンロールを入れて下肢を屈曲位に保ち、上体を軽く起こして、とにかく仰臥位にして治療した。
頭蓋をみると、右の側頭骨、頭頂骨、泉門のリズムが失われている。
頭蓋のリズムを回復させ、併せて肋骨・横隔膜をリリースする。
更に、腸腰筋群における筋運動の立ち上がりをリリースして圧変動をみると、既にそれだけでスムーズに流れている。
起きてみるように言うと、すんなり起きることができた。
背部を診るために腹臥位を指示すると、「あっ、出来そう」と言って、うつ伏せ姿勢もすんなりクリア。
仙腸関節と腰仙関節、仙結節靭帯を調整しながら、最も反応の強い同側肺径の2ポイントと同調させた。
立ち上がらせると、腰もスッキリと伸ばせる。
頭蓋からの圧変動が、体幹の屈曲/伸展の基本運動が阻害されたケースだろう。

労働環境や日常的な習慣を聞き取り調査して、頭蓋の圧変動を起こすと思われる体癖傾向の修正を指導した。これで復帰できるでしょう。
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by m_chiro | 2008-05-15 07:36 | 症例 | Trackback | Comments(2)
「指揮はDriveではなくCarryだ」
5月12日、市民会館「希望ホール」に「小澤征爾指揮・新日本フィルハーモニー交響楽団コンサート」を聴きに行った。
会場の「希望ホール」は2004年に建設された会館で、この町の出身である歌手・岸洋子さんのヒット曲「希望」から命名された新しいホールである。
今回の催しは、開館5周年記念事業として実現したコンサートだ。
チケットの購入は応募ハガキから抽選する方法が取られた。
一人ハガキ一枚限定で2名分のチケットの購入ができる。
私は別名も含めて3枚申し込んだ。
幸いなことに2名分のチケットが当たり、夫婦で出かけた。それも座席は前列5列目の中央席で最高の位置だ。

プログラムは、モーツアルトの「デヴェルティメント ニ長調 K.136」、「オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314」、チャイコフスキーの「交響曲第6番 ロ短調「悲愴」作品74」である。

指揮者の小澤征爾氏はタクトを持たないでオーケストラと対峙した。
タイトルにした「指揮はDriveではなくCarryだ」という小澤氏の言葉は、師でもあるカラヤンから受け継いだ指揮の極意なのだろうか。
その言葉通りに、単なるオーケストラの奏者たちを動かす指揮ではなかった、と感じた。
音やリズム、旋律や間合い、沈黙や高まり、静寂やうねり、時には音を押さえつけ、時には流し、集め、飛ばして、旋律を会場の隅々まで満たした。
楽器の違いや、奏者の醸し出す音や旋律の流れ、力量を、自在に操って会場いっぱいに運んだ。
聴く者は最早単なる聴く者ではなく、名人小澤氏に運ばれた音や旋律に溶け込んで一つになったように感じながら聴いた。

「DriveではなくCarryだ」
この言葉は、治療家にとっても深い味わいを残してくれる。
私もいつの頃からか、治療による介入を極力避けるようになった。
治療に介入は付き物だが、それを介入しないように心がけると言うのは、矛盾した話に聞こえるかもしれない。
治療者は、どうしても自分の概念を患者さんの身体に押し付けてしまう。
介入しないようにするとは、そのことを指している。

「圧変動」に注目するようになったのも、そんな感覚からかもしれない。
ダイレクトに介入して変化をもたらすのではなく、からだが自ら在るべきところに立ち戻ろうとする力を引き出したいのである。
音楽だけでなく、とても素晴らしいものを感じたひとときだった。
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by m_chiro | 2008-05-15 07:20 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
左臀部から膝までの激しい痛みで8kg痩せた②
昨日の患者さん(左臀部から膝までの激しい痛みで8kg痩せた)が今日もみえました。

昨日は痛みもなくぐっすり眠れたようです。
「夜に痛みで目覚めることなく眠れたのは、5ヶ月ぶりだ」と言っていました。
本当に辛い思いをされて来たのだなぁ~、と気の毒になります。
今日は介添えもなく、杖をつきながらですが、ひとりで治療室に入ってきました。
昨日よりは歩きやすくなったようです。

長く寝ついた上に、8kgも痩せたので、脚の筋肉も落ちてしまっています。
寝ていても、座っていても、徐々に身体を動かすように教えたので、やり始めたと言っていました。
気分もいいようで、これまでのことを話して聞かせてくれました。

実はこの患者さん、内科の先生からの紹介です。
8kgも痩せて、食欲もなく、痛みで寝たきり状態なので、連休前に内科の先生に診ていただいたそうです。
整形外科で処方された薬も持参したら、その内科の先生が「こんなにいっぱい、薬を飲ませやがって、自分で飲んでみろ、と言ってやればよかったんだ!」と怒っていたそうです。
分かるような気がします。

面白いのは整形外科の先生の言い分です。
レントゲン写真を撮って、
「ひどい腰だ。1番と2番はつぶれている。これじゃ、痛いはずだ! コルセットをしなきゃ駄目だ。すぐ作ってもらおう」。

「先生、腰は全然痛くないんです。お尻のところから脚が痛いんです」。

「そんなはずはないよ! この腰で!」。

笑えます。私もそのレントゲン写真を後学の為に見てみたかった。

加茂先生も書いていましたが、痛みの愁訴に対して構造的な病名を付けるのはいかがなものかと。

画像診断で脊椎ばかりに眼が向いて、なぜ患者さんの訴える身体のことには耳もかさないのでしょうか。

この患者さんは、小殿筋に頑固な索状硬結があり、下肢へのジャンプ・サインを持っています。問題が小殿筋のTPにあるのは、まず間違いないと思います。
今日はまた動きが早くなりました。
帰り際に、「昨日の歩き方はこんなだったなぁ~」と、脚を上げずに引きずって見せながら帰りました。「5ヶ月も随分遠回りしたなぁ~」と言いながら...。
少し余裕がでてきたかな!?
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by m_chiro | 2008-05-10 23:03 | 症例 | Trackback | Comments(0)
左臀部から膝までの激しい痛みで8kg痩せた
今日、家族に付き添われて杖を突いて77歳の男性が来院した。

昨年の11月末に、冬仕度で鉢植えを持って腰を捻ったときに痛めた。
左腰臀部の痛みで、総合病院の整形外科を受診する。
X-rayでL1-2間がつぶれている、と診断された。
結局、近くの整形外科医院を紹介され、またX-ray撮影。
同じくL1-2間がつぶれている、と言われる。
鎮痛剤と湿布薬を処方されるが、一ヶ月を過ぎてもよくならない。
次第に股関節周囲から膝にかけて痛みが広がり、とうとう歩行も困難になる。
2月に入ると一層悪化し、夜も痛みで眠れなくなる。
ほとんど寝たきりになって行った。
治療にブロック注射が加わったが、好転することはなかった。
食欲もなくなり、59kgあった体重も8kg減った。
脳外科にも受診し、MRIを撮った。
やはりL1-2間がつぶれている、と同じ診断だった。
ここでも鎮痛剤を処方されるだけだった。

深部反射は全体的に減弱。
座位で腰部の運動分析を行ったが、痛み誘発する動きはみられない。
本人も、腰は痛くないんです、と言う。
注意深く筋の触診をすると、左の小殿筋に索状の硬結が触れる。
全体的に小殿筋が扇形板状に硬くなっている。
大転子の上方のTPは膝周辺へのジャンプサインがある。
TPをリリースし、索状硬結を弛めると膝周囲の痛みが消えた。
ずいぶん頑強な硬結がある。併せて骨盤隔膜を調整しながら仙骨の傾斜を矯正する。
立たせると、腰を伸ばせるようになった、と笑みが出る。
歩行も少し楽になったようである。
MPSの痛みを説明すると、そんなことはどこでも聞いてない、と困惑気味。
だが、歩行でも股関節周囲の痛みに限局され、腰を伸ばせるようになって納得したようだ。
鉢植えを持って捻ったときに小殿筋にスパズムが起こったのだろ。
筋・筋膜の徴候に少しでも目が向いていたら、こんなにこじれることはなかったかもしれない。
気の毒な経過である。
このまま続けて治療してみようと思う。
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by m_chiro | 2008-05-10 00:47 | 症例 | Trackback | Comments(0)
「ヘルニアです。手術以外ない」と診断された腰下肢痛
23歳の学生さんが連休を利用して治療のために帰省した。
4月16日の記事「交通事故患者による腰下肢痛と痺れのMPS症例」の息子さんです。
お父さんが良くなったので、同じような症状に苦しんでいた息子さんを紹介してきました。

一昨年の10月に、半年間の実習でデスクワークに専念し腰痛になったそうだ。
バンドでドラムも叩いている。その12月に、スノーボードをしたところ、右の下肢痛が出てしびれるようになり、整形外科を受診する。

MRIで大きなヘルニアがあると指摘され、「手術以外ない」と宣告されたそうです。
ところがこの彼は、「選択枝がひとつしかないなんておかしい」と思い、その整形外科での治療を断念した。賢い選択でした。

保存的に治療しようと、カイロプラクティックや整体、接骨院と色々試したそうです。少しでも軽減する治療を回って凌いでいるうちに一年が過ぎたが、痛みとしびれは軽くなっても消えることはなかったようです。

「他の治療院では原因は何だと言ってるの?」と尋ねると、「ヘルニアによる痛みだ」と言われていたと言う。
ヘルニアで下肢痛は起きないことを説明すると、この学生さんはコンピュターが専門のせいか、電気的なトラブルの説明をすんなりと納得してくれたようだ。
整形外科医である加茂先生の今日のブログ「あっしには関わりのねぇ~こと」では済まないでも断言しておられます。

当院のこの患者さんですが、深部反射は正常です。踵歩行もつま先歩行も問題ありません。SLRは50度位でツッパリが強くなりますが、crossed SLRは全く問題ありません。ハムストリング筋のトーンの問題でしょう。
右腰部から殿部大腿外側後面から膝裏、腓骨周辺の痛みとしびれがある。最近は、肩こりや肩甲間部まで痛いそうだ。こんな広い範囲に痛みがあるのは、筋・筋膜の問題である証拠でしょう。

内圧が右側に集中しており、強いストレス軸を作っている。中殿筋と膝窩、大腿筋膜張筋に数個のTPがある。圧変動と、左腸腰筋の筋活動の遅延をリセットした。TPは左上肢の肺経の2ポイントと心径の2ポイントを同調させてリリースした。
治療直後に動きや痛みを確認すると、とても軽快だと言う。身体機能の学習は間をおかずに入力した方が効果的である。続けて3日間治療した。
昨日は、町の春祭りで神輿を引いたが全く問題なかったそうだ。
徒手療法でもこんなに変化します。

加茂先生の結論「ヘルニアが原因で痛いとかしびれるということはありません」を私も支持します。

ヘルニアが原因で痛いのではなくて、筋痛の結果ヘルニアが生じているのかもしれません。痛みやしびれの本態は「筋痛症」myopainなのです。恐怖の筋痛症なのです。筋肉がspasm(痙攣)をおこしているのです。
押さえて痛い部位が必ずあると思いますが、その筋肉が罹患筋です。罹患筋が広がっていくこともあります。筋肉を押さえると痛みやしびれが放散することがあります。それを関連痛といいます。
手術をしてよくなることもありますが、それは手術をしたことによってspasmがとれたということです。
全身麻酔効果+手術をしたという儀式的効果(安心、納得)=spasmがとれた
しかし、またspasmがはじまることもあるでしょう。再発→検査→再手術

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by m_chiro | 2008-05-05 10:17 | 症例 | Trackback | Comments(0)
痛み学「NOTE」⑭ なぜ、身体にはモルヒネを受け取る仕組みがあるのだろう
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑭ なぜ、身体にはモルヒネを受け取る仕組みがあるのだろう

ヒトを含めた脊椎動物には、阿片類の受容体(オピエート受容体)が備わっている。
オピエートとは、自然界にある麻薬物質でケシ坊主を傷つけたときに出る乳液から作られた「阿片」や、それを化学的に合成したアルカロイドのことである。
アルカロイドはモルヒネと名づけられているが、この薬物に対して鎮痛作用などの奏功を示すということは、身体にその受容体があるからに他ならない。

そもそも、脊椎動物の身体にオピエート受容体がなぜ存在しているのだろう? 
麻薬が体内に侵入してくることを待ち望んでいる、というわけでもあるまい。
ならば、体内で阿片様物質がつくられているとしか考えられないことになる。

阿片やモルヒネは、人類が鎮痛物質として紀元前から使用してきた歴史がある。
そのために阿片戦争の引き金にもなったくらいで、依存性と副作用も強く、今でも違法薬物として周知の社会問題にもなっている。
だが、強力な薬理作用を持つモルヒネは医療の分野では欠かせない薬物である。
にもかかわらず、その作用機序については長い間不明のままであった。

何しろ、オピエート受容体が発見されたのは1973年(昭和48年)のことで、つい近年である。
発見したのはキャンデス・B・パート女史である。
彼女は自らの落馬事故でモルヒネを使うことになり、その影響を知りたくて薬学の本を読みあさったという。
そして一念発起してジョンホプキンス大医学部に入り大学院に進み、ついにオピエート受容体を発見したのである。
学ぶことにも、明確な目的とそのモチベーションを保つことが重要なのだと感動するエピソードであるが、この発見によってヒトの鎮痛の基本的な仕組みが明かされていくことになった。

この発見に先立つ1969年には、脳の特定領域を電気刺激すると鎮痛がもたらされる刺激誘発性鎮痛(SPA)が見つかっている。

生体内には存在しないモルヒネと特異的に結合する受容体があるということは、生体がこの受容体と特異的に結合する活性物質を作り出しているからで、受容体発見から12年後の1975年(昭和50年)には、脳内麻薬である内因性オピオイドペプチド1)が見つかった。

<注釈>
1)ペプチドとは動物の体内で作られたホルモンの働きをする物質で、オピオイドペプチドは
3種類の巨大蛋白分子(プロオピオメラノコルチン、プロエンケファリン、プロダイノルフィン)を消化する過程で作られる分解産物である。こうして作られた主な内因性モルヒネは、最も強力なβエンドルフィン、少量のダイノルフィン、弱い作用のエンケファリン類(メチオニン・エンケファリン、ロイシン・エンケファリン)などである。βエンドルフィンは、モルヒネよりも強力な鎮痛作用があるといわれている。

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by m_chiro | 2008-05-03 22:56 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
学会誌の編集
4月は日本カイロプラクティック徒手医学会誌の編集作業でテンテコマイでした。

やっと査読報告が終わり、しばらくは最終原稿の到着を待つだけになりました。

日本カイロプラクティック徒手医学会は今年で10年を迎えます。
まだまだ未成熟な学会ですが、ひとつひとつ階段を昇りつつあります。

論文を書くのも不慣れな者揃いですが、みなさん一生懸命なところに光があります。
学会誌も私が編集長を務めて4年目になりました。
査読委員会も機能し、学会誌としての体裁も整えつつありますが、論文を書き、発表するという努力に価値を見出している段階です。

論文は成果の完成形として存在するわけで、おそらくそこに至る過程には多くの努力があり、苦労があり、思索があり、そして有形無形のサポートもあったはずです。
それでも査読というフィルターにかけざるをえません。編集作業で一番辛い作業です。

昨年から医学中央雑誌刊行会のインターネット版「医中誌Web」からも検索できるようになりました。
医学中央雑誌は明治36年の創刊で、国内の5,000誌から600万件もの論文情報を検索できるデータ・サービスになっており、全国の医学・歯学・看護学系のほぼすべての図書館で導入されているものです。

これで「日本カイロプラクティック徒手医学会誌」も「公」の場に引き出されることになりました。
大きな試練です。
が、日本ではアングラ的な治療として位置づけられているカイロプラクティックを、社会に担保し得るものがこの学会であり、学会誌であると思っています。
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by m_chiro | 2008-05-03 22:42 | 雑記 | Trackback | Comments(0)



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