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痛み学「NOTE」⑬ 急性ストレス刺激には鎮痛作用もある
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑬ 急性ストレス刺激には鎮痛作用もある

ストレスが痛みの誘因になることは周知のことであるが、逆もあり得る。
例えば、損傷などによる痛みの強さは、その発生状況や心理的背景によっても異なるようだ。運動競技中でのアクシデントを見聞きするたびにそう思う。
競技中の不意の損傷で随分と痛そうにしていたかと思うと、間もなく何事もなかったかのように平然とプレイしていたりする。
ところが翌日のニュースでは、実は骨折だった、と今度は痛々しい姿を写真つきで報道されることもある。
骨折でも競技ができたというのは、痛みの侵害信号が脳に届くのを遮断するか、あるいは鎮痛物質を放出する仕組みがあるからに違いない。
つまり、急性に起こるストレス刺激は鎮痛作用として働くこともあるということだ。

そう言えば、戦時における前線で重傷を負った兵士の三割ほどは、痛みを訴えなかったという記録もある。
また、救急病院に搬送された救急受傷者でも、痛みを訴えない救急患者が同程度ほどいるという報告もある。
負傷には痛みがつきものだが、負傷と痛みの程度は一致しない。

ストレスには、「疼痛」と「鎮痛」という両極の感覚をもたらすということがあるというわけで、発生状況や心理的・身体的背景は痛みの程度をも左右するのだが、こうした仕組みの解明は1970年代に入ってから活発になったようである。

この痛み抑制系のメカニズムは、つまりは中枢神経系の作用であり、今のところ2種類のシステムによって抑制系が成り立っているとされている。
ひとつは、痛覚伝導路の中継核に痛覚抑制インパルスを飛ばしてシナプス伝達を抑制するシステムである。
この伝達系にも「下行性」と「上行性」経路があり、更に脊髄内で作用する「髄節性」の系があることが分かっている。
もうひとつは、モルヒネ様の鎮痛物質を放出して抑制するシステムである。
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by m_chiro | 2008-04-24 22:37 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
交通事故患者による腰下肢痛と痺れのMPS症例
一週間ほど前に、交通事故による負傷で治療中だと言う50代男性が来院した。

今年の2月1日に対向車線の自動車が雪でスリップし、正面衝突で負傷した。
エアバッグが開き、両膝には打撲と裂傷を負う。
事故の翌日から首と腰の痛みが起こり、車の運転をすると右下肢に違和感が出るようになり、整形外科医院に受診する。
X-Rayでは異常なしで、鎮痛剤と湿布薬を処方され、週に4日の割合で首と腰に電気治療を続けてきた。

事故から2ヶ月が過ぎて、首が快方に向かっているのに腰は悪化するだけだった。
体重も2kgは減った。
とうとう、4月6日の朝、徐々に右の腰殿部から下肢後面と足底までの痛みとしびれが強く出はじめて歩けなくなった。
この事態に整形外科医は無言だったらしく、この患者さんは不安を抱えて当院にみえた。

通常的には、こうした症状にはMRI検査などと進め、年齢的には椎間板異常が十分に予測される結果に対して「椎間板ヘルニア」の診断が行われるのだろう。
だがX-Rayで異常もなく、主治医の整形外科医は太鼓判を押している。そんなわけで、今さら下肢に痛みとしびれが出たと言われても、困惑するだけだったのかもしれない。
何しろ、筋・筋膜問題は端から想定外なわけだから。

この患者さん、奥さんの運転で付き添われて4月7日に来院した。
立位で2~3分すると、右下肢の痛みとしびれが起こる。座位も辛い。
増悪因子は立位と座位で、緩解因子は臥位である。

私はよく患者の歩行をみる。
歩行を見るというよりも、歩行の動きの中に内圧の変動したストレス軸をみるのだ。
実際は、見るというよりも「見ないでみる」と言ったところだろうか。
ストレス軸は重力に対して流れる「圧変動」の結果でもあり、見ようとする意識がそこに向かうと観ることが難しい。こうした感覚はなかなか文字にもしがたいところがある。

この患者さんは右肩から股関節部位までに強固なストレス軸がある。この軸は仰臥位での圧伝導でも、引き伝導でも、消えることも変化することもない。
足背動脈は触れる。右アキレス腱反射が消失している。右のハムストリングや腓腹筋のトーンの低下がある。深部反射は筋紡錘反射でもあり、筋のトーンが低下すると腱反射も出にくくなることがある。
中殿筋と骨盤隔膜にいくつもの圧痛点があり、短腓骨筋には索状の硬結がある。
体幹の右側を貫く強いストレス軸に加えて、頭蓋リズムも失調している。

あの強固なストレス軸をリリースし、頭蓋リズムを回復するのに4日間ほどかかったが、5日目にはしびれも解消し仕事に復帰できた。
一週間が過ぎると、ハムストリング、腓腹筋のトーンも回復に向かい、アキレス腱反射も正常に起こるようになった。

この症例はMPSと圧変動のリリースに焦点を当てて治療を行っている。
圧変動は、見ないでみると、みえてくる。
こうした内圧の変動は運動連鎖を障害し、少なからずMPSと相関しているのではないかと思うのだ
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by m_chiro | 2008-04-16 13:26 | 症例 | Trackback | Comments(4)
慢性痛への対応を模索しなければならない
60歳になる事務員の女性。慢性的な痛みを抱えている。
頚から右肩にかけて(上僧帽筋)の痛みは8年越しである。
右膝は10年になる。
一昨年、内視鏡による半月板の治療を受けたが、今だに腫脹と痛みで正座はできない。
市内に11院ある整形外科医院と病院を全て回っているうちに10年経った、と言っていた。
体内の右側を貫くように強固なストレス軸が感じられる。
斜角筋、僧帽筋や肩甲骨内側に圧痛点が顕著である。

この患者さん、初診から一週間後の今日、2度目の治療にみえた。
初回の治療から2~3日は調子がよかったが、また同じになった、と言う。
少しでも快適な状態が作れれば、その先も見えやすい。

だが慢性痛の治療は、言わずとも大変である。そう易々と解決させてくれない。
ところが、治療者側の認識とは逆に、患者さんの方では大きな期待を抱いている。
このギャップを埋めて、痛みに取り組む共通の認識を持つことが先ず大切なのだろう。
そのためには慢性痛に対する情報を共有する必要があるが、さりとて難しいのだと失望させてもならない。痛みに向かうモチベーションは維持すべしである。

慢性痛の多くに関節可動域の制限がみられる。
痛みをかばって動かさなかった結果だろう。
では動かせば良いだろうと考えるが、事はそんなに簡単ではない。
可動域の制限された関節に過度の伸張刺激を加えると、痛みの悪化を招きやすい。
かといって消極的な自動運動は関節の拘縮を作りかねない。
つまり、積極的にADL(日常生活活動)を広げて実行することが難しいのである。

そこで、痛みを抑えて運動する方法が最善の策となる。
ひとつは、痛み部位をブロックして感覚を遮断し、関節の運動域を広げていく方法が選択される。ところが問題がある。こうした手法に精通した医師が圧倒的に少ないことだ。
加茂先生が主宰するMPS研究会の発展や医療チームの奮起を期待するばかりである。

もうひとつ、神経系の可塑性を変換する脳の運動学習を効率よく実現するためには、できるだけ感覚を遮断しない運動学習を可能にすることだろう。
そのためにも運動による誘発痛を引き起こさない関節運動の拡大や運動プログラムの開発を徒手療法家も模索しなければならないだろう。
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by m_chiro | 2008-04-12 00:37 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
突然の訃報、業界を走る
6日の日曜日の朝、突然の電話に驚かされた。
カイロテーブルの輸入販売を皮切りに、カイロ治療の必需品等を取り扱っている江崎器械の社長・江崎健三が急逝された、との知らせだった。
仕事で東京のホテルに投宿中を襲った突然死らしい。
まだ50代の成熟期にあり、カイロ業界では多大な支援をいただいて来た。篤志の人でもあった。

1997年6月には、WHOの後援でカイロプラクティック世界大会が3日間に渡り東京で開催され、展示コーナーを江崎社長が切り盛りして奮闘されたことも記憶に新しい。

この世界大会は、世界のカイロプラクターが一堂に会して行われる学会である。
多くの発表や招待講演の中で、ケベック・タスク・フォースを代表してDavid Cassidy,D.C.が「むち打ち症」に関する調査報告を行い、むち打ち疾患を「...an acceleration – deceleration mechanism of energy transfer to the neck;加速-減速の機序による頚部へのエネルギー転移」と定義した。

そして、むち打ち症疾患に必要なことは、できるだけ早期に正常な活動に復帰するアドバイス、薬、頸椎カラー、安静を少なくするアドバイス、運動による頚部を動かすアドバイス、亜急性の患者への短期的手技療法、長期的な受動的治療への警戒感が大切であることを明らかにした内容が特に印象に残っている。
この論文は「Spain」にも発表された。

カイロプラクティックの法律も無い日本における世界規模での学会であり、失敗するわけにはいかないプレッシャーと闘いながらの開催だった。

私も準備委員と発表論文の編集長を務め、この世界大会を準備するチームとして江崎社長のご苦労と献身的な働きを眼にしてきた。
日本ではカイロ業界の最大のイベントとなったが、私にはあのときの江崎社長の活躍と共に忘れがたい思い出である。
個人的にも公私共に大変お世話になった恩義ある人でもある。
惜しい人を亡くした。
今は、心よりご冥福をお祈りしたい。
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by m_chiro | 2008-04-07 17:40 | 雑記 | Trackback | Comments(3)
痛み学「NOTE」⑫ 痛み回路の二重システム
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑫ 痛み回路の二重システム

皮膚表面をピンで刺すなどの機械的刺激、皮膚に15℃<45℃が加わる冷熱刺激、あるいは刺激性化学物質、これらはいずれも組織を傷害する可能性がある。
この物理化学的な侵害刺激が直接作用すると起こる表面痛は「速い痛み」と「遅い痛み」に分けられる。

速くて鋭い痛みは限局できる一次痛で、逆に遅くて鈍い痛みは局在がはっきりしない二次痛とされる。
深部痛や内臓痛にはこうした区別はなく、うずく痛みである。
機械刺激による深部痛の閾値は、骨膜で最も低く、骨格筋で最も高い。
中でも、骨格筋の痛みは血行障害に持続収縮が重なると現れやすいとされている。

これまで鋭い痛みはAδ線維が、鈍い痛みはC線維が伝達するとされてきたが、近年の研究では受容器の違いが刺激の種類を分けて伝達するとみているようだ。神経線維よりも受容器に注目が集まっている。

ほとんどの場合は、高閾値機械受容器の興奮をAδ線維が、ポリモーダル受容器の興奮をC線維が伝達するというのだが、受容器についてはまだまだ研究の余地が残されている。
特に「ポリモーダル受容器」は今後の徒手療法の表舞台にも登場してくるに違いないが、詳細は別項で紹介したい。

では、これらの受容器が受け取った侵害刺激はどのような伝達経路をたどって痛みとなるのだろうか。

運動神経系には基本的な系である「錐体外路系」と、高度の運動を可能にする「錐体路系」があるように、感覚神経系にも基本的な「毛帯外路系」と高度の識別感覚を伝える「毛帯路系」がある。
この2種類の侵害刺激伝達回路は、識別感覚という知性に働きかける毛帯路系(新脊髄視床路)と、情動や自律反応系に働きかける毛帯外路系(旧脊髄視床路)ということになる。

そして、侵害刺激は視床より上位で侵害部位の痛みとして認知されるのであるが、痛み感覚はそれだけでは説明されないものがあるようだ。

1)毛帯路系(識別感覚伝達システム)
高閾値機械受容器を興奮させた侵害刺激は、一次痛として脊髄後角の第一層に入る。
そこで新脊髄視床路の二次ニューロンを興奮させると、長い線維を介して脊髄の反対側に渡り、脊柱を脳に向かって毛帯路系を上行する。
その大部分の線維は視床特殊核の腹側基底核に終わる。
そこから大脳皮質に信号が送られるが、そのひとつの領域は大脳皮質の体性感覚野SⅠ、SⅡに伝わる。
ここでの侵害部位の位置確認は正確であることから、毛帯路系の伝達経路システムは知的な識別感覚を促す回路系であることがわかる。
明らかな警告系の痛み回路である。

2)毛帯外路系(情動、自律反応伝達システム)
さて、ポリモーダル受容器の興奮をもたらした侵害刺激は、一次痛に約1秒以上遅れて、二次痛として後角のⅡ層とⅢ層に終る。
それを受けて二次ニューロンが脊髄の反対側に渡り、毛帯外路系を上行して脳幹に入る。
そこから視床にまで達する線維は僅かで、多くは中脳や脳幹網様体から多線維ニューロンが痛覚信号を中継して、視床の髄板内核、視床下部、大脳辺縁系に送っている。

動物実験では中脳より上部を除去しても、痛みを知覚する能力は破壊されないことが知られている。痛み刺激に反応して苦痛を表現するのである。
このことは、下位脳が苦痛をもたらす痛みの認識に重要だとされる根拠になっている。

痛みは、体性感覚野で行う識別された本質的認知よりも、下位中枢における知覚認識が極めて重要な役割を果たしている。
毛帯外路系という原始的な伝達系が「情動系」と「自律反応系」に痛み感覚を送っているのであるが、このことは下行性の「抑制系」を作動させるためにも重要である。

また、この系は痛みが身体の主要部分にあるということだけは分かるが、局在的な位置確認はほとんど出来ない。
臨床の現場でも、慢性の痛みを訴える患者ほど広い範囲の部分を示すことを経験的に知っているが、それはこの毛帯外路系の伝達回路が多シナプス性で広範囲に接続しているからなのだろう。
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by m_chiro | 2008-04-03 00:35 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)



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