カテゴリ:BASE論考( 13 )
痛みはアラーム・システムにおける最終警告か。
痛みを診ることのできない医師たち③

慢性痛の治療にあたっては、筋肉にだけの介入ではうまくいかないことも多いものです。時間的、経済的にも自ずと制限があるわけですから。抗うつ薬や抗不安薬は痛みの回路に介入する薬です。うつ病や神経症だから処方するのではありません。とにかく慢性化した痛み、難治な痛みには多角的に治療にあたる必要があります。


私のような徒手療法の治療家には、慢性痛に介入する薬物という武器がありません。
慢性痛には「神経の可塑性」という難問が待ち構えています。
それに、手技でどう対応することが出来るのだろう?
そのことを長い間、問い続けて来ました。

ヒントになったものがいくつかありました。
ひとつは「認知行動療法」です。身体の入力と出力系を再構築するための認知を促す手法です。
2つめは、「うずまき反射」という原始的な警告系の起源の存在です。この反射信号を頼りに、認知させる手法を考えました。

ところが、慢性痛には警告系の役目を果たさない「慢性痛症」がある、と熊澤教授が書いていました。
「慢性痛と慢性痛症」
http://www.aichi-med-u.ac.jp/pain/manseitusho.html

慢性痛症における「警告系の意義のない痛み」ということが、私にはよく分かりませんでした。痛みの神経系が可塑的な変容を起こしている、ということは理解できます。でも、なぜ警告系としての意義がないのかが分かりません。

慢性痛症をかかえる患者さんは、痛みのために行動が抑制され、不安に苛まれているようです。圧痛もよくみられます。これも警告系の現れではないのだろうか。なぜ、警告系の意義がないの?

神経系が可塑的変容を来たしたことは、警告系システムが作動したままでロック状態に入った深刻なレベルの警告(レベル4)ではないのか、と私は逆に思ってしまいます。

もっとも、日常生活を取り戻すための理学療法や代替療法、精神的ケアなどを推奨しているわけですから、本来の神経系を新たに作動させるための認知療法が重要だということなのでしょう。これは、脳の学習システムを利用することだと考えました。

3つめは、脳の学習システムについてです。特に、故・松本元先生の研究には大いに啓発されました。松本先生は、研究者として盛りの時に急逝されましたので残念でなりませんが、「脳は表引きテーブル」という概念、「脳は自己創出による出力依存性の学習機能を持つこと」など、多くの示唆を得ました。
愛は脳を活性化する
松本 元 / / 岩波書店
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4つめは、NIH(米)の神経生理学者ポール・D・マクリーンの「三つの脳の進化」の考え方でした。脳が進化と共に増築しながら階層構造を作ってきたとすれば、警告系も3段階でアラームを発信しているのではないかと考えたわけです。

最古の脳である「脳幹レベル」で発信する「うずまき反射」。本当に反射的なアラームです。
次に「辺縁系レベル」で発信するアラームで情動系から発信します。何か気が重いなど、情動的な「行動の抑制」や「すくみ現象」が現れはじめます。
そして最後は「皮質レベル」で発信する「痛み」です。痛みはアラーム・システムの最終警告だと思います。

有髄のAδ線維が伝える信号は緊急用のアラームですが、重要なのは無髄のC線維で、その終末のポリモーダル受容器です。この原始的な受容器を介して、最終的な警告系情報が飛び交っているでしょう。
また、加茂先生のサイトは痛みの理解に欠かせないものでした。

こうして、3つの警告系をリセットすることを考えました。これは薬物という武器を持たない私の治療に欠かせない手法の下地になっています。まだまだ検証しながら、ヒトの警告系と学習と認知の手法を追い求めたいと思います。
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by m_chiro | 2007-12-02 21:29 | BASE論考 | Trackback | Comments(1)
最初の疑問
なぜ、病気になる人とならない人がいるのだろう? 
なぜ、早く回復する人と、いつまでも病を抱えている人がいるのだろうか? 

このことは消えることのない疑問でした。思えば、カイロプラクティックの創始者であるD.D.パーマーが、同じ疑問から出発して、背骨のちょっとした狂いが神経の緊張度を変えるのだ、という考え方にたどりついたのです。

でも、長年治療しながら思います。それでもなんで痛みが出るの? 思い当たる原因もないのに! なんで体調が悪くなるの? なんで? なんで? と思ってしまいます。

こんなに医学が進歩したと言うのに、なぜ病気になるのか、本当のところはよくわからないのです。腰痛の原因でさえも良くわからないのです。「そんな馬鹿な!」と、思うかもしれませんが、事実です。同じ生活をしていながら、風邪をひく人もいれば、まったく問題なく過ごす人もいるじゃないですか、身近に。

からだのどこが悪いのだろうか?と、局所の異常を探しても良くわからない。病院で検査をしても「問題ありません」、と言われる。でも具合が悪い。挙句の果てに「自律神経失調症」だの、「更年期症状」だの、あるいは「骨が変形している」と決めつけられるのですが、分かったようでいて良く分からない。それって年のせい? と納得させるしかないのでしょうか。

骨が変形すると本当に痛みが出るの? 老人でも元気な人の骨は変形してないの?

もっと不思議なのは、なんで治ったのか分からない。結局、勝手に治った、という結論になる。それはあんまりだ、と言うので「自然治癒力」のおかげだということになる。でも自然治癒力って何? 治った人はいいけれど、治らなかった人には自然治癒力がないの? 自然治癒力のある人と、ない人がいるわけ?

人のからだは本当に複雑です。まるでブラックボックスです。21世紀を境にして、からだのことも随分と分かるようになってきました。脳のこと、遺伝子のことなどなど、見方や考え方を変える解明も進んできました。

リチャード・ドーキンスという学者が「利己的な遺伝子」という有名な本を書きました。遺伝子から人間をみたのです。「生命体は遺伝子が自らをコピーし続けていくための乗り物に過ぎない」とドーキンス博士は言います。すると、われわれは遺伝子の奴隷なのでしょうか? 遺伝子によってすべてが決められているのでしょうか?

そんな生命に関するさまざまな疑問の根源を考えてみたいと思います。
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by m_chiro | 2007-11-28 22:13 | BASE論考 | Trackback | Comments(0)
ヒトの警告系の起源は?
身体の内部環境やその外部環境は、時々刻々変化している。
生き物は内外の環境の異常や変化に遭遇すると、それに反応し行動を起こす。これは自らの生命を守るために必要不可欠の生存システムである。

炎症や免疫反応による液性の調節系も、生きるという根幹にかかわる重要な警告反応系である。

当然、痛みなどの侵害刺激に対しても、身体を守るための反応系として「痛みが」現れる。そして痛みという感覚には、「不快感」という情動が裏打ちされている。

こうした変化に対する情報に反応する系として、神経系ができあがっている。その最も原始的な警告系の起源は「うずまき反射;Coling reflex」だと、愛知医科大学・医学部の熊澤孝朗教授は述べている。1)

c0113928_22502949.jpg



当然、ヒトにもうずまき反射は残っているに違いない。
学兄・中原敏憲先生は臨床の現場で、左に顔を向けた時に行動の抑制が起こることに気がついた。

行動するときに主導する筋肉は腸腰筋群である。その筋群が顔を左に向けた状態にあると抑制が起こるのである。私はこの現象とリセットする手法に対しBASEと命名した。2)

腸腰筋群は行動の主動筋である。その筋群が初動の動きで抑制される。これは脊椎動物における最も原始的なうずまき反射の名残りに違いないと思う。

この警告信号が発信されたままでいることは、身体の警告系信号が解除されていないことを意味しているのだろう。そう考えると、圧痛点を持ちながら痛み自覚を持たない人がいることもうなづけてくる。私の治療は、このBASEの信号をリセットすることから始まる。

今後は時々に、このブログを通してBASE論の仮説について紹介したり、考えていることを述べる機会を持ちたいと思う。

1)「痛みのケア ー慢性痛、がん性疼痛へのアプローチー」2006、照林社刊、9頁
2)「Brain Alarm System Entrainment:脳内警告系信号路」
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by m_chiro | 2007-11-13 22:51 | BASE論考 | Trackback | Comments(0)



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