カテゴリ:BASE論考( 13 )
不随意の動きの問題を考える

いつもお世話になっているsansetu先生の記事に、興味深い情報が紹介されていました。

「松本義光先生の教え」
http://sansetu.exblog.jp/10033579/


sansetu先生の身体観を読んでいると、私も同じ方向を見ているのではないかと思うことがしばしばあり、それがどんな共通項の上に築かれているのだろうと気にかけておりました。
前掲の記事を読んで、松本善光先生の考え方を知りました。

Sannsetu先生が触発されたとする松本善光先生の考えを読むと、方法は違っても近い方向に視点が向いていることを知ることができて腑に落ちたような気がします。
私が誤待った解釈をしていなければの話ですが...。

脳は、運動の制御をその役割にしています。すべては筋肉に出力されますが、その筋制御は下位脳での反射的な信号に依存しています。つまり不随意の筋制御です。
ここでの信号系に異常なタイムラグが生じると(私がブログで「筋運動における始動の遅れ」と表現していること)、その遅延のままに上位脳に伝達されます。
このフィードフォワードの情報伝達にしたがって、出力として表現される筋活動はその遅延された筋の始動の上に表出することになります。

このタイムラグを修正する方法として、松本先生やsansetu先生は意識的な動きの制御を学習させて(フィードバック)、そこから不随意のタイムラグも修正しようという試みではないかと思います。
それは両先生が述べておられるように、これはなかなか難しい修練が必要なのでしょう。

私は、下位脳での信号系のタイムラグを直接リセットすることで、その情報の信号を上位脳に伝える方法を使っているわけです。

二軸運動を研究している京都大学の小田伸午教授は、ヒトの身体運動における左右差には典型的な特性があると述べていました。それは左前方と右後方でのクロスされた筋活動の弱さが見られるとするものです。この特性の現れは簡単に調べることができます。
この交差された弱化は身体の捻じれ現象を作りやすく、これが警告系の起源とされるナメクジウオの「うずまき反射」に共通の警告反射のように思えます。

ところが、事はそれほど単純なものではないようです。ヒトは、こうした基本的な弱さを代償しながら複雑な協調運動を行うわけですから、実際にはさまざまな筋活動として表出されることになります。
これをトレーニングで修正する方法が模索されているのでしょう。
この方法を仮にフィードバック・トレーニングと呼ぶとしたら、私が行っている方法はフィードフォワード学習とでも言えるだろうか。
つまり下位脳での信号系をリセットして、ヒト本来の信号系として上位脳に学習させる方法ということになります。

実際には何を診ているのかというと、下図の除皮質に特有な持続性頚反射の原型のシグナルを参考にしています。
左から3例の図は除皮質の例で、右端は除脳固縮の図です。
除脳動物の頭部を身体に対して相対的に動かすと、固縮のパターンが変化します。
もし頭を一側に向けると、同側の四肢は一層硬く伸展され、反対側の四肢はやわらかくなる、というものです。
図は病的な反射(持続性頚反射)ですが、正常なヒトにもこの原型のシグナルが働いています。スポーツなどでも、よくこの反射の原型が使われているわけです。
この原型のシグナルが発信されないと、不随意の筋活動の始動は遅延してしまいます。
遅延して発信されている信号が上位に伝達されて、代償された筋活動として表現されることになるわけです。
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そのタイムラグの状態を、行動の筋である腸腰筋群でみつけます。左右どちらに顔を向けても、腸腰筋群に初動の等尺性の収縮信号(持続性頚反射の原始的な信号系)が正常に発信されるか、あるいは遅延しているか、をみています。
つまり信号系がONか、あるいはOFFかをみるわけですが、これは随意運動における筋のパワーを見ているわけではありません。
随意運動における不随意性の根源が、この下位脳(脳幹)からの信号系のタイムラグによるものだと考えているわけです。

こうした反射的な信号系が安定した状態から、sansetu先生の言われる日常動作の改善は「無理痛」の解決方法として重要になってくるのでしょう。
それには適切な指導者がまた不可欠なのです。
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by m_chiro | 2008-12-17 20:51 | BASE論考 | Trackback(1) | Comments(5)
脳の三層構造から痛みをみる
腰下肢痛の50代男性がみえた。バイクでの配達業務を行っている。
慢性的な腰痛に加えて、1ヶ月前から右の下肢痛がひどくなった。思い当たる原因はない。
整形外科では、X-rayで腰の骨が捻じれているとされた。
にもかかわらず、湿布に鎮痛剤を処方されただけだった。
経過は思わしくなく、3週間前から歩行も辛くなり、夜間も痛みで目覚めることが多くなっていった。

右の大腿部に力が入り難いらしく、多少の跛行がみられる。
右の大腿四頭筋、中殿筋が、まるで廃用性の筋肉のように筋のトーンが低下している。逆に腸脛靭帯は過緊張を呈している。
左の骨盤隔膜は極度に緊張し、そのために仙骨尖部が左に大きくシフトしている。当然、大転子も突出したように触知できる。レントゲン写真を見なくても、歪んだ身体が見てとれる。

歪んでいるのが痛みの原因だったら、それを正してあげる以外ないない。が、骨盤の歪みも、腰の捻じれも、筋・筋膜の過緊張によって償された歪みなのである。したがって筋・筋膜系が調整されれば、こうした機能的な歪みは自ずと正されるはずである。

そこで圧変動と左骨盤隔膜のしつこい緊張をリリースした。弾性を感じないほどに緊張していた仙結節靭帯や仙棘靭帯のリリースが起こると、仙骨がリズム運動をはじめた。右の中殿筋のトーンも力強くなり、歩行もスムーズになった。
3日後に再診したときには、夜間の痛みも消えてよく眠れるようになり、とても楽になった、と語った。まだ少し大腿前部から前脛骨筋にかけて痺れるようなだるさがあるらしい。胃経のラインのようなので遠隔で解除キーを探すと、孔最と思われるポイントがよく反応してくれて痺れ感も消失した。とても素早く変化した症例である。

結局、脊柱や骨盤の歪みは筋・筋膜の緊張によって代償されたもので、痛みはその筋・筋膜にある受容器の興奮から起こっている。
こうした侵害受容性の痛みは、身体の信号網を上手く扱うことで皮質での痛みの認知を解除できる。もちろん皮質での認知に直接働きかけることも可能である。

では、なぜ痛みの信号系が作動するのだろう。
侵害受容器の閾値が下がったから...。なぜ閾値が低下したのだろう。閾値を決めているのはどこなのだろう。
交感神経が緊張したから...。なぜ今度だけ身体が反応したのだろう。

私は脳の三層構造から情報信号系を捉えて対応している。
乱暴にではあるが、脳を三階建てのビルと考えることにしよう。
すると、皮質は3階に相当し、2階が情動系で、1階は反射などの原始信号系が役割分担していることになる。
情報は、1階、2階を経由して、3階にあがる。痛みとして認知は、皮質に上がってくる情報によって起こるわけだが、実際に皮質上がる情報量は、ほんの数パーセントに過ぎない。多くは1階の閉鎖回路網で反射的な情報処理が行われている。

この1階での神経信号が十全であることがポイントではないか、と私は考えている。1階の情報系が揺らいでいると、その先に流れる情報もぶれる。したがって、1階部分の信号系のリセットはしっかりと行うようにしている。
このリセットを脳が上手に学習してくれると、身体のストレス軸がリリースされるから不思議でもある(この方法をセルフケアとして行うには、どこま可能だろうか)。
後は、皮質(意識に上がった痛み)と身体との情報ネットワークの滞りを解除してあげればよい。
それにしても厄介なのは2階部分の情動系である。上行性に3階にも影響し、下行性に1階にも影響を及ぼしてくる。今、取り組んでいるテーマです。
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by m_chiro | 2008-11-28 00:27 | BASE論考 | Trackback | Comments(0)
生き物と外界環境の関わり
「宇宙生物学」
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/bioinfor/sub3/061117_SMU_MarineInstitute.pdf


これは千葉大学大学院の医学研究院・生命情報科学の田村裕先生のもので、「宇宙環境」、「地球環境」、「社会環境」からの影響を研究しているようです。
何か不思議な世界を覗いた感じです。
ここにも前回記事にしたテルモの「健康と気候のアンケート調査」が引用されています。

面白いのは、「七五三の法則」に基づく「風邪引き指数」のこと。
「七」は、1日の平均気温が七度以下のとき。
「五」は、前日より気温が五度以下のとき。
「三」は、湿度が30%以下のとき。
風邪引きやすいあなた、「七五三の法則」を心しては!

貝原益軒の「養生訓」でも、身体の養生だけでなく、心の養生を説いています。
「三楽」を行い、「四欲」を抑え、その上で「季節の暑さ、寒さ、湿度などの変化に合わせた体調の管理」が肝要だということです。

自然と融和する生き方が大事なのでしょう。
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by m_chiro | 2008-07-25 02:04 | BASE論考 | Trackback | Comments(0)
ストレス対応を学ぶ
先週は札幌へ。
「BASE研究会」に行きました。
札幌駅前ではソーラン踊りのリハーサルでもあったのでしょうか、大勢の人垣が出来てパフォーマンスに釘付けでした。
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写真はそのワンカットです。
それにしても、札幌は寒かった。でも演舞は、その寒さを吹き飛ばすような熱気でした。
その余波を受けて、BASE研究会でも熱が入りました。

ヒトは地球の1Gという重力場で生活している。
この1Gの重力場で正常な行動ができないほどに抑制系が作動してしまうと、我々は身体的な不調に悩まされてしまう。
なぜ、抑制系が作動しているのか。その機序を考え、抑制系をリセットする手法を研究するのがBASE研究会の目的でもある。

生き延びるための必要な条件を整えるには、入力系と出力系がコントロールされていなければならない。この起源は、なめくじ魚の逃避反射でしょう。
入力系は情報系で出力系は筋活動であり、運動系の基本はすべて反射で成り立っている。それを運動野が統合しているわけだが、あくまでもこうした運動の主体は脳幹にある。
こうした入力系と出力系の不調和は、大きなストレスにもなる。

と言うわけで、今回はストレス対応について検証する機会になった。
高次の脳が認識している個々のエピソードが、身体の抑制系にどう関わっているか。
あるいは、古い脳が発動する不安情動系が、身体の抑制系にどのように影響しているか。
こうしたテーマに学びながら、議論し、リセット法を検証した。
北海道ならではの夕べの食と酒も楽しめたし、有意義な札幌での2日感でした。
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by m_chiro | 2008-06-08 22:59 | BASE論考 | Trackback | Comments(2)
脳の情報処理プログラムを書き換えるには
人は何のために生きるのかと問われれば、私は「成長するため」と答えます。
生きることと成長はイコールだと思うからです。
これは人に限らず植物も同様です。ただ成長するために生きています。
アスファルトの小さな隙間からでさえ、草は成長してきます。生き物は開放系(オープン・システム)に依存しています。

成長するためには二つのことが欠かせません。
ひとつは、「食物、空気、水」を体外から体内に取り込み、生化学的に処理して私たちのからだを再構築する「物質・エネルギー」の出入りです。

もうひとつ、重要なものが「情報」の流れです。
情報はヒトの五感を通して脳に入ります。五感というのは、眼、耳、鼻、舌、身体のことで、これらの情報は、脳で価値判断され、意味づけされて出力します。
出力は、すべて筋肉に作用します。
こうした出力作用に依存して、ヒトの脳は「学習」を行っています。これは生命活動の基本的なシステムです。
もしも身体の半分がやけどを負ったら死んでしまいます。それは皮膚からの情報が遮断されるために、身体機能を維持できなくなるからです。

では、脳は何のために「学習」をするのでしょうか? それは物事に遭遇したときに、どう対処するかについて、その「方法や答え(アルゴニズム)」を獲得するためです。つまり情報処理プログラムを創ることです。
多くの「答え:アルゴリズム」が作られて、解答集が厚くなれば厚いほど、いろいろな場面に遭遇しても対応がスムーズになります。この解答集も固定されたものではなく、その都度、より良い解答に書き換えられて記録されていきます。

例えば、自転車に乗りたいと思った子供の頃を思い出してみましょう。
自転車に乗りたい、というのは目的意識です。そのために何度も転びながら、足を擦りむきながらも練習します。つまり学習です。
筋肉の動きに出力されてバランス感覚が学習され、自転車の乗る方法を獲得するわけです。これはスポーツのトレーニングも同じです。一旦、獲得された情報は消えることはありません。脳のメモリーに刷り込まれるからです。

こうして、ヒトは自ら生きるための方法や物事に対処するための方法を獲得するわけです。一人ひとりがそれぞれの方法で獲得して行きます。そして、この方法を獲得するための方法は古い脳が担当しているのです。更に言えば、遺伝的に決められた戦略はもっと古い脳で行っているのでしょう。

脳に新しく入力された情報は、すでに獲得した神経回路を活性化するための、いわばトリガー(引き金)として使われ、これによって脳は出力を行う。そして出力を行うことで学習効果が生じ、アルゴリズムが書き変わるのである。すなわち、脳は学習によって「表引きテーブル」にあらかじめ答えを用意しており、入力された情報によって、その用意された答えの中から入力情報との関連度の高いものを選択し出力する。そして出力することで新たな学習効果を生じ、そのとき用いた答えを、必要とあれば修正するのである。(松本元著「愛は脳を活性化する」より)


ここに神経の可塑性に対する治療戦略のヒントがあると考えました。
新たな入力情報と出力依存性の学習効果による脳のアルゴリズムの書き換えである。
徐放処理のプログラムを換えていくことになる。
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by m_chiro | 2008-03-14 00:35 | BASE論考 | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE⑫ 生体情報網のプログラムはポリモーダル受容器が構成子か!?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


⑫生体情報網のプログラムはポリモーダル受容器が構成子か!?

「発赤、熱感、腫脹、痛み」の4つの徴候のことで、ポリモーダル受容器はそのすべてに係わっている。ポリモーダル受容器は炎症と切っても切れない関係というわけだ。

皮膚を引っ掻くと、傷んだその部位が赤く腫れる。これをフレア(flare)形成という。神経性の炎症症状とされる末梢神経の軸索反射による現象である。この現象に関与する物質として、ヒスタミンやサブスタンスPなどがあげられている。

サブスタンスPは、ポリモーダル受容器が侵害刺激を受け取ると放出する神経ペプチドで、神経情報の伝達に関与してきた。神経系の発達と共に存続してきた原始的な神経伝達物質である。
神経ペプチドは後根神経節で生成され、そのほとんどは末梢側に運ばれ、ポリモーダル受容器が興奮することで放出される。

すると、この神経ペプチドは神経終末の近くにある肥満細胞に作用する。肥満細胞はヒスタミンを放出し、血管を拡張して血管の透過性も増す。この作用には、ヒスタミンだけでなく神経ペプチドも加わる。血管が広がり、血流が増大することで、炎症徴候である発赤がみられ、熱も出る。

また血管の透過性が増すことで、血管から水分が放出される。そのために腫脹が起こる。こうしてポリモーダル受容器は、炎症に深く関与して炎症を増大させている。これは一見するに悪化させている現象でもある。

ところが、本来こうした炎症症状は身体の防御反応のひとつでもある。つまりは治癒力につながっている。神経ペプチドは免疫や傷の治癒、内臓平滑筋の活動調節など、痛覚受容器であるポリモーダル受容器の効果器としての特性も見逃せない側面である。

ポリモーダル受容器研究の第一人者である熊沢孝朗教授が、ポリモーダル受容器は「村役場」とイメージせよと書いていた。一人で何役もこなすからだろう。

ところが、ポリモーダル受容器は再現性に乏しい。刺激に関する情報を忠実に伝えるということをしないで、刺激によって生じた組織の変化に強い修飾を受けて活動する。生体内の環境にアンテナを張り、組織の現状を伝えるために働いているのだろう。

だとしたら、生体内の重要な情報網そのものとも言えるわけだ。そんなポリモーダル受容器などを構成子とする情報ネットワークのプログラムが、神経系のシステムには存在しているのではないだろうか。
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by m_chiro | 2008-03-03 22:28 | BASE論考 | Trackback | Comments(1)
脳が創る解答表(1)  
人間同士のいざこざは、後を絶たちません。話せば分かるのにと思っても、なかなかそんなに簡単には行かないのが世の中なのでしょう。

そう言えば、養老孟司先生もベストセラーになった「バカの壁」に、「話せばわかる」は大嘘、と書いていました。話しても分かり合えない。これは「情報」に対する姿勢の問題だ、と養老先生は言います。

さて、ここで「情報」というキーワードから、もう少し脳を知る必要がありそうです。一体、脳は何のために、何をしている器官なのでしょうか? 

1967年に「狼に育てられた子」という本が話題になりました。実際にあったとされる事件を子供の写真入りで紹介し、発達心理学に大きなインパクトを与えました。その子供は1912年に狼にさらわれ、8年後に人間に救出されたのですが、その後は人間に育てられます。
でも、二人は人間の思考や行動を獲得しないまま、保護されてから10年以内に亡くなりました。

この事件は、子供の発育環境の重要性が強調されております。でも、狼が子供をさらうなんてウソっぽい話ですね。きっと、森に捨てられた子供を狼が育てたのかもしれません。話の真偽はともかくとして、脳の発達と環境の問題については、重要な示唆が含まれているように思います。このような例は、いくつも報告されています。いずれも、人間としての必要な「情報」が極端に遮断されたケースです。

こういったことが示唆するのは、ヒトが狼に育てられると、唸ったり生肉を食べたり、野生動物のように育つということです。なぜかと言えば、それはヒトの脳が、進化の過程を通して動物の脳である古い脳を既に持っているからです。

下の図は、脳の縦断面をイラストにしたもので、進化発生学的に脳の特色を示しています。これはP.D.マクリーンというアメリカの神経生理学者が描いた有名な図です。「三位一体脳」として知られるもので、脳を階層性という視点から捉えています。

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その階層構造は、最下層に反射脳として爬虫類脳、その上位に情動脳としての哺乳類脳、そして最上位に理性脳としての新哺乳類脳の三層構造になっているとするものですが、わかりやすく言えば三階建てのビルです。その三層構造の特色も、進化発生的に作られてきた階層性にあります。

爬虫類の脳、哺乳類の脳を階層的に重ねて、その上に人間の脳である大脳新皮質が形成されました。でも、犬や猫の哺乳動物にはヒトの新皮質はありません。ですから、人間に育てられたからといって、動物がヒトのように成長することはできないのです。ヒトは動物的になりえても、他の動物がヒトのようにはなれない、ということです。何十億年という長い年月をかけて獲得した遺伝子の違いです。


 
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by m_chiro | 2008-02-21 23:59 | BASE論考 | Trackback | Comments(0)
脳が創る解答表(2)
古い脳(辺縁系)が、第一次の価値判断を行っています。
わかりやすく単純化すると、「快」と「不快」の価値判断を大雑把に行うわけです。
犬や猫は、ほとんどこの判断系で生きていますね。

この最初の価値判断に対して、今度は人間の脳である新皮質が細かく理屈をつけて納得しようとします。第一次の価値判断は、ほとんど個々人の感覚的な判断です。

例えば、嫁と姑のいざこざを考えてみましょう。
最初に古い脳(辺縁系)が、感覚的に好き嫌いを判断します。
もしも、どちらかが「いやだ!」と最初の判断をすると、今度は新皮質がその判断に理由づけをして、その感覚を強固なものにしていきます。
こうなると、もううまくはいかなくなります。
「話しても分からない」のは、こうした脳の特性によるからです。

でも理性的な人は、新皮質で「嫌い」や「不快」の感情を打ち消す理由づけを行って、何とか仲良く生きようとすることもできるはずです。

もっと具体的に理解するために、下の女性の絵を見てください。
心理学で用いる有名な絵です。

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この女性は、「老婆」か「若い女性」か? 
あなたにはどちらに見えますか。
「老婆」と答えた人も、「若い女性」と答えた人も、古い脳で第一次の価値判断をしたことになります。
すると新皮質は、その根拠となる理由づけを行うのです。

同じ一枚の絵で、何で「老婆」と「若い女性」という対称的な結論が出るのか? 
それは個々人の感覚(第一次価値判断)の違いによります。

老婆と答えた人には、何で若い女性に見えるのか、おそらく理解できないでしょう。

同様に、若い女性と答えた人には、老婆に見えた人の感覚を理解することができません。
「話しても分からない」の最も単純な理由です。

でも、新皮質で理由づけができれば、老婆とも若い女性とも見ることができるはずです。
ヒトの脳内では、こうした情報の入出力によって答え(アルゴリズム)を獲得しながら生きているのです。

その人の脳内に、その人の「解答表」が創られ、ヒトは様々な場面に遭遇しながら、その都度よりよい答えを検索して対応するのです。
 
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by m_chiro | 2008-02-21 23:59 | BASE論考 | Trackback | Comments(6)
「筋活動の遅延」から脳の警告系をみる
わたくし達が生きていく上で重要なこと、それは第一に食べることです。食を取らなければ、生きて行けません。そのためには、食べ物を得るための行動が必要になります。これは人間だけに限らず、すべての生き物に共通したことです。

今では、スーパーにでも行けば何でも手に入ります。でも大昔は獲物を捕りに、男たちは狩に出かけました。狩猟採集時代のことです。そして獲物を求めて移動していましたから、定住の地もありませんでした。行動することは、すなわち生きるということでした。

この時代、狩猟は命がけの仕事だったに違いありません。多くの危険が待ちかまえていたことでしょう。それでも生きるために、食を求めて行動します。また、快適に暮らせる土地や季節を求めて移動しなければなりません。生き延びるためには、時には危険な戦いに身を投じながらも、自然と共に生きたわけです。

生きるという行為、生きるための行動に欠かすことができないものって何だろうと考えていくと、情報の収集とその判断がとても大切であることに気づきます。物事を判断する能力は、行動力にも大きく影響します。そのためには、脳は危機を回避する「警告」を出して、生き延びるための確かな情報信号を発動させているのでしょう。

たとえば、こんな光景を想像してみてください。野鳥が森に巣を作り、やがて卵を産みヒナがかえります。ヒナは生き延びるために食べ物を捕らなければなりませんが、ヒナにはまだ餌捕り行動ができません。餌は親鳥が運んできます。その間、ヒナは餌を求めてピーピー鳴いて親鳥を待ち続けます。

そんなヒナを狙う生き物がいます。そんなとき、ヒナは本能的に危険をキャッチします。ヒナは生まれたばかりで自分を狙うもの達の存在を知る由もなく、経験もありません。でも、「なんか危ない!」という先読みするプログラムが、警告信号として脳が発信するのでしょう。ヒナはピタリと鳴き止み、体を 動かさずに小さくなり、生き物がいるということを気づかれないようにします。これも行動抑制の表現と言えます。

さて、狩猟採集時代が去り、ヒトも定住する時代を迎えます。農耕牧畜に、生活の糧を求めたのです。農耕牧畜の時代は、人間の生活や文化を大きく変えることになりました。食物を栽培し、牧畜をはじめます。この時代の農耕民と牧畜民の対立は、西部劇のメーンテーマにもなっていますが、形を変えた生存競争です。

やがて集落ができ、都市が生まれます。集団生活に秩序をもたらすために、法律や慣習、制度が整備されていきます。こうした都市化の向かう先は、徹底した自然の排除に他なりません。自然なものは草でさえ邪魔ものです。徹底的に道路はアスファルトで固められました。人間の意識が作り出した都市に、ヒトという自然物が生きて行くことになるのです。食の確保に向けた意識は、便利さを追求する意識に変わりました。

食の確保に危険が伴わなくなっても、生存競争は形変えてヒトを悩まし続けています。でも、それはヒトが作り出したものに他なりません。こうして、ヒトの身体的・精神的危機は、より複合しながら伝播しています。そして脳は、常に警告を出し続けることになります。

こうして脳から警告信号が発せられると、生き物は行動を抑制し、危機が去るのを待つか、あるいは体調が戻るのをじっと待つのです。人間も、思い当たる原因もないのに腰痛で動きがままならなくなったり、気持ちを前向きにして暮らす元気がなくなったりすることがあります。これなども行動抑制の表現ですが、人間は意識を優先させて対応して生きています。つまり本能的な古い脳が発信する警告信号を、上位脳が無視して意識下に封じ込めてしまうのです。「こうしていられない。あれもしきゃ。これもしなきゃ」と。

警告信号の発信が固定されると、身体の恒常性を保つ神経システムが揺らぎます。それが筋活動の遅延となって現れるのでしょう。行動の抑制が起こり始めます。こうして、わたくし達の意識〈新皮質〉と身体の自律機能(古い脳)は調和を欠き心身の問題として現れるのではないかと推論しています。
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by m_chiro | 2008-02-05 23:25 | BASE論考 | Trackback | Comments(1)
意識が先か、無意識が先か!?
脳は情報の入出力系である。
入力は、五感を通じて脳に入る。
つまり、入り口の情報系は知覚と感覚である。
入力情報は脳内で処理され、動き(行動)として出力される。
出力は、筋肉の収縮によって表現されるわけである。
人が体を動かせるのは筋肉があるからで、それ以外ない。
もちろん、その背景にはホルモンの動きがかかわっている。
というわけで内面では、液性(化学物質)の伝達と電気伝導が作用して筋肉の活動が起こっている。
だから脳の出力系は筋肉に限定される。

その筋肉が動くのは、行動を意図するからだ、と考えるのが普通である。
例えば、そこの新聞を取ろう、と意識されるから手が動くわけである。

脳の出来事では、本当にそうか。
それを確認する実験を行った博士がいた(1983年)。
その実験は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学部・神経生理学教室で行われた。ベンジャミン・リベット教授の研究室である。

頭骸骨を切開した人の大脳・随意運動野に電極をつけて、ひとさしを指を曲げる運動に対する運動準備電位を計測した。
運動準備電位は、無意識に始まる運動の指令信号である。
行動(筋肉の収縮)は、意識されて動くのかどうか、を確認する実験ということになる。
①指を動かそうと「意図」する。
②指令が随意運動野に伝わる。
③無意識のスイッチがONになる。
④運動準備電位が発生する。
⑤指が動く
この順番に神経活動が起こると考えるのが普通である。

ところが結果は意外なものだった。
①無意識のスイッチがONになる。
②運動準備電位が発生する(「意図」するより0.35秒前)。
③指を動かそうと「意図」する。
④指令が随意運動野に伝わる。
⑤指が動く(「意図」の0.2秒後)。
そんなバカな! と思うのは当然で、世界中の学者がみな驚いた。

でも、誰が追試しても、何度やっても結果は同じだった。
未だに、リベット博士の実験結果を反証した学者は出ていないのだそうだ。
この実験結果は、リベット博士の著書「マインドタイム」や、リタ・カーターの「脳と意識の地形図」などに詳しい。

脳への入力は0.1秒で伝わり、脳からの出力は筋の始動までに0.5秒、と学んだが、準備電位に0.35秒も遅れて「意図」されているなんて、何ということだろう。
そうなると、人の主体的な意識というのも怪しいものだ。
人が錯覚するのは当たり前のことなのだろうか。
治療も無意識の領域に踏み込まなければならないのだろうか。
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by m_chiro | 2008-01-14 20:54 | BASE論考 | Trackback | Comments(5)



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