カテゴリ:痛み学NOTE( 79 )
「痛み学」NOTE48. トリガーポイントはどのようにして作られるのか②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです

48. トリガーポイントはどのようにして作られるのか②
② 古典的仮説「エネルギー危機説」


筋腹にできるトリガーポイントが、キーとなる責任トリガーポイントだとされている。
その根拠はなんだろう。
それには、提唱者であるTravell医師のトリガーポイント仮説に遡らなければならない。
Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」とされる初期の仮説である。
図はTravellが「トリガーポイント・マニュアル」第2版に掲載されたものであるが、日本語に翻訳されてトリガーポイントに関する論文や著作によく引用されている。
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筋の収縮運動は、フィラメントの首振り滑り運動によって実現される。
この滑り運動のエネルギー源として働くのがATPであるが、ATPの不足はエネルギー危機説の重要な素因となっている。

筋肉の収縮は、運動点(神経終盤)におけるアセチルコリン(Ach)が分泌されて脱分極することにはじまる(第1ステップ)
活動電位が横行小菅(T菅)に伝わると、T菅の両側には筋小胞体の一部が2つ接している。
その狭間に足タンパク質と呼ばれるCaチャンネルがあり、筋小胞体からCaイオンが放出される時の通り道となる。

こうしてCaイオンが放出され、筋線維が持続的に収縮することになる(第2ステップ)
具体的には、筋節(サルコメア)を構成する太いミオシンFの双頭の分子が、細いアクチンFに放出されたCaイオンに引き寄せあられて接触し、連結橋が作られる。
この連結橋におけるミオシン双頭の首振り運動によって、アクシンFは筋節中央まで引き込まれ、収縮が維持される。

更に収縮するためには連結橋をATPが一旦壊して(第3ステップ)、再収縮させなければならない。その再収縮ために、再びCaイオンが必要となる。ATPが連結を破壊する。
この時点で、Caイオンは筋小胞体に吸収されていなければならない。この一連の反復で筋収縮が行われる。

トリガーポイントは、この3つのステップのプロセスにおける不具合で生じるということだろう。
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by m_chiro | 2011-10-21 08:33 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE47. トリガーポイントはどのようにして作られるのか①
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

トリガーポイントはどのようにして作られるのか
① トリガーポイントの現象


トリガーポイントの発生を理解するためには、筋収縮のメカニズムを理解しておくと分かりやすい。という訳で前回は、その機序を簡単におさえておいた。
痛み学」NOTE43~46. 筋肉はどのようにして縮むのか①~④

筋の収縮といっても、それは運動生理学的に正常な仕組みである。
当然、トリガーポイントにみられる収縮の状態とは違う。

筋の収縮は、単一の筋肉とその拮抗あるいいは共同する作用による筋との関わりで起こるので、その作用は広範囲の筋肉に及ぶことになる。
ところがトリガーポイントは筋肉の局所的な現象である。

したがって一口に「筋の収縮」と言っても、生理的に正常なものではなく少し異なる現象である。
トリガーポイントにみられるような収縮現象を、英語では「contraction knot」と表現するようだ。

要するに筋線維の一部が拘縮した上に「knot」という「結び目」状態、あるいは2本以上の線維が絡み合った「結紮」状態をさしている。

触診すれば、それが帯状に認められることから「索状硬結」とも表現される。
筋線維の塊となった硬結である。
その帯状の硬結の中に過敏な圧痛部位があれば、それは活性された硬結である。

その硬結を刺激(圧縮・短縮や受動的なストレッチなど)すると、そこから離れた部位に関連痛を起こすことがある。その硬結がトリガーポイントである。
この関連痛は、患者が日常的に自覚する痛みとして再現されるものだ。

押圧すると飛び上がるような痛みがあり、これをジャンプ・サインという。
かと言って、トリガーポイント自体を肉眼で捉えることはできない。
触診刺激では局所単収縮反応や鳥肌、発汗などの交感神経反射の現象をみることがあるが、これとて必ずしもトリガーポイントの異常所見と決めつけるわけにはいかないだろう。

局所単収縮反応は鍼の刺入時にも起こるらしいし、筋膜や骨膜の刺激でも起こる。
だからトリガーポイントや筋肉における特異的な反応とは言えないのだろう。
もちろん、画像診断、病理検査、血液検査での異常所見もみられない。
だから厄介でもある。触診で確認するしかないのだ。

トリガーポイントを内包する筋筋膜が、持続的あるいは過剰に動かされることで、筋の緊張度が亢進することも誘因になる。
あるいは寒冷の急激な変化や加熱など、また心理的緊張状態など情緒的な苦痛などもきっかけになるとされている。
これらは血管収縮による反射性の筋痛である。

また、活性トリガーポイントがもたらす症状は痛みだけではない。
しびれ感、感覚鈍麻のような感覚の異常もみられる。もちろん運動は制限される。
自発痛もあり、痛みのため筋力も低下する。
視覚や前庭(三半規管)、位置感覚の乱れも生み出すと、J.G.Travellは「トリガーポイント・マニュアル」の中で述べている。

筋の中央部に出来たトリガーポイントをセントラル・トリガーポイントと呼ぶそうだが、トリガーポイントは筋の中央部にのみ存在するわけではない。
骨の付着部周辺やや筋腱移行部にもよく見られるからでである。
が、これらはセントラル・トリガーポイントによってコントロールされている、とTravellは記載している。

ということは、筋腹にできたセントラル・トリガポイントがキーとなる責任トリガーポイントであり、そこから離れた関節やその周辺の組織に関連痛を起こすというのが、あくまでも典型的なパターンなのだろう。
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by m_chiro | 2011-09-15 22:47 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(4)
「痛み学」NOTE46. 筋肉はどのようにして縮むのか④
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46. 筋肉はどのようにして縮むのか
  ④ 筋収縮の終了(最終ステップ)


筋収縮は筋節の区切りであるZ線が相互に近づくことである。
それはアクチンFがM線に到達することで成し遂げられるわけであるが、必ずしもM線で終わるわけではない。
そのラインを超えて収縮することもあるが、それは過剰な収縮である。

いずれにしても、筋収縮の終息は、「収縮せよ」のメッセージ信号が送られなくなることにある。
これは、アセチルコリンが運動点の間隙シナプスに放出されないことだ。

シナプスに残されたアセチルコリンは壊されて、運動ニューロンに再吸収される。
だから活動電位も発生しない。
当然、Caイオンは筋小胞体に放出されなくなる。
筋形質に残されたCaイオンは、ATPのエネルギー消費によって筋小胞体に再吸収される。

筋形質にCaイオンがなくなれば、アクチンFとミオシン双頭の連結が行われなくなり、筋収縮は終わる。使用済みの分子は再利用されるという無駄のなさである。

ところで、アクチンFとの連結橋が壊されなければ、筋線維は収縮状態が維持されることになり、筋は弛緩されなくなる。
これが困った状態をつくる。
要するに、トリガーポイントの発生仮説である「エネルギー危機説」の病態が作られるのである。

ともかく、こうした筋収縮の正常なメカニズムを押さえておけば、トリガーポイントの形成について理解しやすくなる。
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by m_chiro | 2011-07-13 23:21 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(3)
「痛み学」NOTE45. 筋肉はどのようにして縮むのか③
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45. ③ 筋収縮の第2ステップ:緩まなければ始まらない(主役はATP)

筋収縮の「滑り説」は、1954年にイギリスのA・F・ハクスリーとH・ハクスリーという同名であるが赤の他人の2人の科学者が別々に提唱した、とされている。
それまでの筋収縮説は、フィラメントがバネのように縮むとみなされていたのである。
それでも「滑り説」では、主に収縮の構造的な仕組みが解明されただけであった。
実際に関与する収縮の作用機序は今ひとつよく分かっていなかったのである。

筋収縮にCaイオンが関与することを最初に論文にしたのは1940年で、日本人のようである。東大理学部動物生理学・鎌田武雄助教授であるが、この論文発表の数年後に45歳で亡くなられている。

それから20年ほど経って、同じ東大の別棟である医学部薬理研究室から輝かしい業績を残した研究者が誕生した。江橋節郎教授である。江橋節朗教授は、カルシウムイオンが筋肉の収縮、弛緩をコントロールしていることを解明したのである。
この収縮と弛緩に関わるATPの役割も明らかにした。
また、「トロポニン」を発見したのも江橋教授だった。その江橋教授も2006年に83歳で逝去されているが、筋の生理学については日本の研究者が大きな貢献をしているのである。

さて、アクチンFの構造をみると、3つの分子から出来ていることが分かる。
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まるで数珠を直線上に繋いだような、しかも2重の螺旋構造である。
この2重螺旋の溝に沿ってトロポミオシンという分子が紐のように走り、そのラインの一定部位に珠上のトロポニンが付いている。江橋教授が発見したのが、このトロポニンである。

トロポニンは、Caイオンの受容体でもある。
このアクチンFにCaイオンが結合したことで、ミオシンFの頭部(双頭になっている)が連結橋となり、アクチンFを筋節中央に引き込むように動かすのが第一ステップだった。

更にアクチンFをM線に近づけるためにはミオシン頭部が作った連結橋を一旦壊さなければならない。縮んだ筋は、一旦、緩まなければ何も始まらないのである。
要するに、連結を壊して再架橋することが繰り返されて、筋肉は収縮するのである。

子供の頃に、「猫じゃらし」と呼んでいた雑草で遊んだ記憶がある。
穂の部分を摘んで、軽く握ったり緩めたりを反復させると、握りこぶしから穂の部分が動いて上がってくる。穂先がミオシン双頭だとしたら、手掌の皮膚の部分はアクシンFで、CaとATPは握った手掌内の圧力変化である。そんなイメージだろうか。

「滑り説」はミオシン双頭の首振り運動によるものであるが、首振りを行うためにはアクシンFへの連結橋の破壊と再構築が繰り返される必要がある。
その架橋を壊す工程、つまり一旦は弛緩するのをATP(アデノシン三リン酸)が担っている。
そして再架橋は、Caイオンが担う。
ATPがこのステージでの主役だとしたら、Caイオンは重要な脇役として働いていることになる。
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by m_chiro | 2011-07-12 00:02 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE44. 筋肉はどのようにして縮むのか②
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44. 筋肉はどのようにして縮むのか
  ② 筋収縮の第一ステップでは「Caイオン」が活躍する


さて筋肉が収縮するためには、脳から「収縮せよ」という指令が出される。
このメッセージは活動電位としての信号である。
活動電位は末梢の運動ニューロンの末端に届く。
この運動ニューロン末端と筋線維との接触ポイントが運動点である。

運動点でシナプスされる運動神経の末端は神経終盤と呼ばれ、一本の軸策が筋肉内で100~150本に分枝し、骨格筋に入るとされている。
神経終盤にはミトコンドリアとシナプス小胞が存在する。
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上の図(医学図譜集(ネッター)の「筋骨格篇Ⅰ.第3章生理学」)は、ひとつの神経終盤が筋細胞膜にシナプスしている部分である。
運動点のシナプスには間隙があり、終盤のシナプス小胞からはアセチルコリンなどの神経伝達物質が間隙に分泌する。

アセチルコリンが筋細胞膜下にあるアセチルコリン受容体に達すると、イオンチャンネルが開口してナトリウムイオンを流入させて筋細胞膜を興奮さることになる。
この活動電位は細胞膜の外周に沿って移動し、筋線維束を横行する小さな管(T管:横行小管)から筋線維の内部に侵入する。T菅は、下図の筋線維を横断する赤い管である。
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このT菅は筋細胞膜に無数にある。細胞膜には小さな穴が無数にあって、細胞膜が細い管となって細胞内に入り込み、筋小胞体と接する(「足」と呼ばれる電圧受容体で信号を交換する)構造である。
すると、筋線維の長軸方向に走る筋小胞体に貯蔵されているCaイオンが、筋線維の細胞質に放出されることになる。

この筋小胞体はT小菅の両側を併走する終末槽の管に連絡されている。
放出されたCaイオンがアクチンFに結合すると、ミオシンFの頭部がアクチンFにくっついて連結橋が形成される。

ミオシンFの頭部は、次の下図で分かるように、頭が2つある双頭の分子構造である。この双頭の首の部分が曲がって、アクチンFを筋節の中央(H帯のM線のところ)まで引き込んで筋の収縮が維持されることになる。
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この筋収縮にカルシュームが関与していることを発見したのが、世界に誇れる研究者の一人である江橋節郎博士である。前回の記事に、タクさんがコメントとして江橋博士を紹介してくれている。
江橋博士の筋収縮に関わる有名な発見については、次の記事で紹介したい。
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by m_chiro | 2011-07-07 23:05 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(4)
「痛み学」NOTE43. 筋肉はどのようにして縮むのか①
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

43.筋肉はどのようにして縮むのか
  ① 最初の主役はフィラメント


トリガーポイントは、どのようにして発生するのだろう。
それには、筋肉がどのようにして縮むのかを知っておく必要がありそうだ。
医学図譜集(ネッター)の「筋骨格篇Ⅰ.第3章生理学」には多くの図譜を引用して、筋肉の構造から筋収縮と弛緩について詳細に述べられている。
一読して了解できるほど易しく記述されているわけではないので、要点を簡略にまとめて理解の一助にしておきたい。

筋肉の運動には等尺性と伸長性の収縮運動があるが、ここでは筋節が収縮して求心性に短縮するメカニズムについて概略まとめておこう。
要するに、「フィラメント」というタンパク質の滑り運動のメカニズム仮説についてである。

フィラメントには細いフィラメント(アクチンF)と太いフィラメント(ミオシンF)がある。これらが筋収縮の第一の主役である。
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上の図は、「ハックスレーの骨格筋の構造(1958)」に掲載されているものである。
単体の筋肉をミクロにズームインしていて分かりやすい。
一番下には、フィラメント構造が簡略化して書かれている。
ミオシンFの中央にはM線があり、このM線に向かってフラメントの滑り運動が行われることで、筋の収縮が起こる仕組みになっている。

その絵の上には、「サルコメア」の組織図がある。
サルコメアとは、Z線で区切られた筋原線維の収縮単位(筋節)のことである。
それは、明るい帯(I帯)暗い帯(A帯)に別れている。
A帯はアクチンFとミオシンFの両方のフィラメントを含み、I帯はアクチンのみで、中央部のH帯(やや暗い帯)はミオシンFのみで構成されている。
筋の組織図に見られる明暗の帯びは、このミオシンFとアクチンFの配置によって作られているのである。

筋収縮メカニズムの「滑り説」は、1954年に「ネイチャー」誌に発表された2題の論文が最初だった。そして、この仮説が実証されるのは、1983年になって細胞生物学者が行なった実験であった。
ということは、筋の収縮メカニズムの解明は極めて近年の研究だったわけで、「筋学」は新参の学問領域でもあるのだろう。
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by m_chiro | 2011-07-06 21:43 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE42. 遅発性筋痛のメカニズム 
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

42. 遅発性筋痛のメカニズム

われわれが臨床で経験する関連痛の多くは、更に遅発の時間が長いように思える。
そうなると、神経学的な仮説とは違う機序を考える必要がありそうだ。
典型的な遅発性筋痛については、筋線維の傷害に関する説がある。

筋の収縮は3つのタイプがある。
等尺性収縮、短縮性収縮、伸張性収縮の3タイプである。
遅れて出る筋痛は、等尺性に収縮した筋肉が伸張性収縮されたときに現れやすい。
例えば、階段を下りる、下り坂を駆ける、登山など下りの動作では、大腿四頭筋や下腿三頭筋は筋長を長くして力を発揮することになる。

そうなると運動の3~4日目に、筋肉組織から逸脱酵素のクレアチンキナーゼ(CPK)や、筋線維に酸素を蓄えるミオグロビンの血中濃度がピークになり、筋の傷害や炎症に働きかけることになる。これが遅発性筋痛の原因となる。

また、筋線維3種の中でもFG線維は最も太い線維である。
このFG線維は白身で無酸素性にATPがエネルギーを作り、速い収縮を行う。

また、解糖系酵素活性を行うのでグリコーゲンが多く、ミオグロビンは少ない。

FG線維は、伸張性収縮で損傷しやすい筋線維でもある。
この線維は約10分位の活動で疲労する。
ATPが少ないので元の状態に戻りにくく、筋が硬くなりやすい。
他の2種類の線維が活動し続けると、FG線維はその動きに引っ張られて損傷しやすい状態となる。
そこで一旦損傷すると、遅発性に筋痛が起こるというわけである。
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by m_chiro | 2011-06-09 20:55 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(3)
「痛み学」NOTE41. 遅発性の関連痛を考える
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

41. 遅発性の関連痛を考える

関連痛とは、障害部位から離れた健常部位にも現れる痛みのことである。その機序についても諸説あり、未だ決定的な仮説が見当たらない。謎だらけの痛みである。これまでと同様に小殿筋を例にして考えてみよう。Travell& Simonsの「トリガーポイント・マニュアル」に記載されている小殿筋トリガーポイント(TP)は、概ね次の点で特徴的である。

1.小殿筋TPは「坐骨神経痛の成り済まし筋」として知られている。だから根性痛として診断されることが多い。
2.小殿筋TPの関連痛は耐えられないほど持続し、そして非常に激しいものがある。
3.関連痛の範囲も一般的には足首までで、足首を超えるケースは稀である。
4.痛みを鎮静化する歩行をとる。そのため段階的な跛行あるいはステッキを用いての歩行と成らざるを得ない。
5.小殿筋は殿筋の中でも最深層の筋で、その前方部は大腿筋膜張筋と中殿筋が三層に重なり合い、後方部では中殿筋と大殿筋の三層で構成されている。
6.痛みの関連区域に痛覚の変化や感覚異常または麻痺が診られることもある。
7.小殿筋の活性TPが単一の症候群として現れることはほとんどなく、梨状筋、中殿筋、外側広筋、長腓骨筋、腰方形筋、時に大殿筋と関連してことが非常に多い。

この小殿筋のTPの特徴からも窺えるように、個別の筋におけるTPの特徴を押さえておく必要があるが、かと言ってマニュアル通りのTPが必ずしも存在するというわけでもなさそうだ。ここは身体の機能的側面を膜系および筋系の連続、運動連鎖の視点を捉え直すことが肝要だと思う。

こうした関連痛が遅れてはじまるケースによく遭遇することがある。
この遅発性に始まる関連痛の機序もよく分からない。
広く知られている関連痛のメカニズム仮説は、Ruchの「収束―投射説」である。この仮説は、脊髄後角に収束する同一のニューロンが存在しなければ成り立たない。
近年、こうした収束するニューロンが脊髄だけでなく、より上位の痛覚伝導路にも、また一次ニューロンにも収束ニューロンが見つかっているのだそうだ。
と言うことは、どの神経レベルでも収束現象が起こりえる、と言うことなのだろう。

皮膚は身体内部と外界の境界をなしている。したがって、常態的に情報のやり取りが行われている。一方、内臓からの情報は皮膚と違って明確な定位はない。だから、脳は内臓からの痛み情報を皮膚から入力と勘違いして投射する、というのがRuchの収束―投射説である。

では、なぜ障害部位から遅れて関連痛が起こるのか、というのは謎である。
「収束―投射説」では、この遅れを説明できないからだ。したがって、この収束説の仮説は筋・筋膜疼痛症候群(MPS)の説明にはならない。

そもそも関連痛に関する仮説は「末梢説」と「中枢説」に大別され、19世紀後半から諸説が出始めた。そのいずれもが遅れてやって来る関連痛の機序を説明しきれていない。

そんな中で。明治国際医療大学生理学ユニット・川喜田健司教授の論文「筋硬結の基礎最前線」に興味深い仮説が紹介されていた(下図は川喜田健司「筋硬結の最前線」より転載)。Peter E. Baldry の仮説である。脊髄レベルでのニューロン・ネットワークにおける可塑的変化と新しい受容野の広がりについて、「眠れるシナプス」の結合という視点から仮説が構築されている。これはRuchの「収束―投射説」を発展させたものである。
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端折って分かりやすく説明すると、例えば、小殿筋を支配する神経回路を「A」としよう。
この神経は脊髄の特定の二次ニューロンとシナプスしている。
そこに小殿筋に損傷が加わると、痛みの信号が「A」の回路を伝導する。
この「A」の回路は、「B」の回路と連絡がある。
「B」の回路を、遠隔筋であるハムストリング支配としておこう。
ところが「A」と「B」の結合は、形態学的な連絡があっても機能していない、
言わば「眠れるシナプス」である。

眠れるシナプスは、損傷による化学反応によって機能し始める仕組みである。
また、「A」と結合した皮膚との神経回路「C」も「眠れるシナプス」である。
更に、遠隔筋であるハムストリングと、「A」の神経が収束する二次ニューロンとのシナプスする「新しい受容野」が作られる。これを「D」とする。

こうしたサイレントなシナプスからの脊髄レベルでの収束があり、更には新しい受容野の発現まで、ニュラル・ネットワークから関連痛の機序を明かしている。
新しい受容野の発現までは5分以上かかるとされている。

さて、ヒトでの遅延は10数秒単位とされていて、この仮説ではその時間差をどう解決するかが課題でもあるようだ。サイレントなシナプスが機能する化学反応系も、今ひとつ明らかではない。
サイレントなシナプスが同定され、それを機能させる化学反応系が明確になる必要があるのだろう。
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by m_chiro | 2011-06-08 22:25 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE40.  関連痛と神経障害性の痛みをどう見分けるか
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

40.関連痛と神経障害性の痛みをどう見分けるか

「痛み学NOTE 36.嘘つきの痛み」
に述べたように、「小殿筋のTPが坐骨神経痛だと嘘をついている」とされている。これはMPS(筋筋膜性疼痛症候群)とされ、体性関連痛の範疇に入る病態である。

その体性関連痛のメカニズムとなると、機序は決して明らかとは言えない。筋膜痛や線維筋痛症のような筋肉に起因する病態には複雑な病態生理学があり、その研究解明は後れを取っているのが現状のようだ。

腰下肢痛はカイロプラクティックの臨床の現場でもよく見られる症状である。
厄介なことに、痛みを訴えている部位が必ずしも治療部位とは限らないことが多く、この問題は本当にややこしい。

かつて腰下肢痛と言えば、すなわち神経の圧迫や絞扼と相場が決まっていた。
つまりは「根性痛」とみなしていたのである。不思議なことに、圧迫された神経根部で「感覚神経だけが障害され運動神経には影響が及ばない」とされていることも、怪しいと思われるようになっていた。

それでも「後根神経節(DRG)の感受性は過敏である」を根拠に説明づけられている。しかし、どう考えても侵害部位から逆行性に痛みが伝達される仕組みは理解できない。だから根性痛は「異所性興奮」という神経障害モデルで説明せざるを得ない。

こうした神経障害に伴う痛みには中枢性と末梢性があり、病態生理学的には「5つの基本的機序」(「痛み学―臨床のためのテキスト」409頁)が提示されている。
それによると、①痛みに感受性のあるニューロンへの直接の刺激、②損傷された神経の自発発火、③、中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築、④内因性の疼痛抑制系の破綻、⑤交感神経依存性疼痛の5つで、この基本的機序が単独あるいは複合して痛覚伝導系が障害されて発症するとされている。

多様な発症機序ではあるが、症状には類似点があるようだ。
それは、次の3つの症状に要約されている。a)灼けつくような、突き刺すような痛み、b)発作性あるいは間欠性の痛み、c)感覚変容(触刺激に過敏、冷刺激に対する灼けつくような感覚、無感覚部痛)の3症状で、発汗過多、皮膚温の変化、萎縮性変化(爪、皮膚、筋、骨など萎縮)が見られることもある、とされている。

これらは病態時モデルを使った動物実験でも明らかである。
あるいは広作動域ニューロンから下肢痛として脳に投射された痛みということもあり得るだろう。広作動域ニューロンが感作あるいは反応性が亢進すると、非侵害性の刺激(温熱や触刺激)にも痛みが生じるようになる。これは、正常な組織への刺激でも痛みを誘発する病態を意味している。

そうなると神経障害性の痛みは、必ずしも痛み症状だけとは限らないとみるべきだろう。おそらく、異常な感覚の変容が伴うはずである。あるいは痛みは一過性の強力なもので、まもなく異常感覚や神経麻痺症状が起こるかもしれない。

そう考えると、純粋に末梢への痛みだけが訴えられているケースでは、関連痛を想定して治療対応することが賢明であろうと思う。関連痛と神経障害性疼痛とでは、圧倒的に筋・筋膜障害による関連痛が多いのである。このことは徒手療法の臨床現場で特に感じる。

それでも、時には神経障害性の痛みが紛れ込んでいることがある。それらは徒手療法に対する応答が治療後の変化としてみえにくい。ところが、こうした難知性の痛みには代償性の体性関連痛が混在しているケースがある。この混在した体性関連痛を上手にリリースすると、意味のある軽減として感ずることがある。しかし、背景にある神経原性の痛みは難治である。煎じ詰めて言えば、神経障害性疼痛には特徴的な痛みに加えて、「感覚変容」や交感神経反射症状が伴うと言ってもいい。

したがって、痛み単独の症状は「神経障害性疼痛」ではあり得ない、とみるべきだろう。トリガーポイントが特定できれば、関連痛であることはより確実になる。

ところが「感覚変容」と混乱しやすいのが「しびれ」感である。だから、「しびれ」を訴えられると悩まされる。でも上記の特徴に照らすと、患者さん自身が「しびれ」感を自覚している「異常感覚」なのか、それとも第三者からの皮膚刺激で認識できる「感覚の障害」なのか判別しやすい。第三者からの刺激により、感覚の消失あるいは過敏があれば「感覚変容」とみることができる。

神経障害性疼痛には代償性のMPSが混在することが多い。これもMPSに対応することで早期に症状の軽減が期待できるだろう。やっかいなことにMPSにも「しびれ感」や「麻痺」と思われる症状が附随することがあるからだ。明らかな神経障害は別にして、ここは筋・筋膜への対応を第一に取り組むべきである。
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by m_chiro | 2011-04-21 22:27 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE39. 関連痛のメカニズム;「末梢説」と「中枢説」
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

39. 関連痛のメカニズム;「末梢説」と「中枢説」


「関連痛」の概念は、Martynが「炎症性疼痛における生理学的意味について」で論じた1864年の論文に始まるとされている。障害部位から離れたところにも現れる痛みの存在であった。

1893年には、H.Headが内臓疾患における関連痛として「ヘッド帯」なるものを学位論文として発表した。その中で、内臓疾患の関連痛は皮膚節(デルマトーム)に現れるとしている。

また、生食を筋肉に注入すると、注入部位だけでなく離れた部位に痛みが放散することを明らかにしたのはT.Lewisだった(1938)。同じ手法で高張食塩水を注入して、関連痛は筋肉などの組織の過敏点から生じるとしたのはJ.H.Kellgrenである。この体性からの関連痛は、局所麻酔で治まることを両者が報告している。
こうした関連痛の歴史的背景については、小山なつ著「痛みと鎮痛の基礎知識」上・下巻に詳しい。

関連痛のメカニズムとしては諸説ある。
大別すると、末梢神経における機序にその根拠を求めた「末梢説」と、中枢神経での機序に求めた「中枢説」に分けられる。

例えば、腹筋下部のTPは、虫垂炎の関連痛のように嘘をつく。虫垂炎で最初に出る痛みは、実際に内臓からの痛みである。ここからの痛み信号が脊髄に送られると後根反射が起こるとする。このインパルスが末梢に逆行して化学物質を放出し、周辺組織の皮膚や皮下組織に関連痛をつくり出す。これが「末梢説」の代表的な仮説・Morleyの「腸膜皮膚反射説」(1931)である。

しかし、後根反射が起こるとするエビデンスは存在しない。痛み刺激が脊髄に送られたからといって、後根反射は起こり得ないのである。したがって、この仮説は怪しい。

中枢神経系に関連痛の根拠を求めた「中枢説」で、よく知られているのはRuchの「収束-投射説」(1947)である。「収束-投射(projection)説」は、脊髄における痛覚伝道路である二次ニューロンに内臓からの痛覚一次ニューロンと、皮膚からの痛覚一次ニューロンが収束しているために関連痛が起こる、とする説である。

皮膚はヒトの身体と外界との境界をなしている。そのために皮膚は多くの刺激を感受しているし情報網も多い。したがって、脳は皮膚からの情報を優位に結びつけやすいのだろう。ヒトの持つ学習能の所作なのかもしれない。
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”Principles of Neural Science”4th Edition. 471Pより転載

そもそも内臓疾患からの関連痛を、最初に脊髄における「収束説」で説明したのはMackenzieの「収束―促通(facilitation)説」(1893)だった。
「促通」とは、「2つの刺激が組み合わさると、単独での刺激の効果よりも大きな効果が起こる現象」を指している。

Mackenzieは、なぜ「投射」ではなく「促通」説を持ち出したのだろう。
彼は、内臓からの痛み症状となるインパルスは脊髄視床路ニューロンに接続されていない、と見ていたからである。今となっては、既に、この時点で誤りであったことになる。
それ故にMackenzieは、内臓疾患による求心性インパルスが脊髄分節で収束されて「過敏性焦点」が作られるという推論を構築したのである。
これで皮膚への関連痛に見られる痛覚過敏の病態が説明可能となった。

Mackenzieの仮説では、関連痛そのもののメカニズムを説明しきれなかったが、それでも「過敏性焦点」を想定し、更には「軸策反射説」を導入して、関連領域の痛覚過敏や炎症のメカニズムを説明することに貢献したと言えるだろう。

一方、Ruchの「収束―投射説」では、末梢での痛覚過敏や浮腫を説明することができなかった。
この疑問を穴埋めしたのが、「過敏焦点」や「軸策反射」という病態機序だったということになる。

こうして見ていくと、発表されてきた関連痛のメカニズムは、内臓疾患からの関連痛を前提として構築されているように思える。
どう見ても、筋・筋膜TPがつくる関連痛の説明には成り得ていないからである。
したがって関連痛のメカニズムは、内臓性と体性からの関連痛のメカニズムとは別に考える必要がある。

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by m_chiro | 2011-02-22 22:33 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)



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