カテゴリ:痛み学NOTE( 79 )
「痛み学」NOTE 58. 炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス②
②白血球の合目的ダイナミクス


この血管の透過性を亢進させるステップは、生体防御という戦略を実行するためのメカニズムを発動させる最初の戦術である。
それもすべて、白血球という強力な戦力を局所に動員して生体を防御し、組織を修復させるために、合目的でダイナミックな活動が展開されるのだ。

さて、血管透過性が高まると、水分が血管から滲出する。血漿成分も組織液へ滲み出ることになる。
したがって腫脹(浮腫)が起こるのだが、このプロセスが実に巧みである。

血漿成分が滲出すると、血管内の血液成分は減少することになり、粘性が増す(濃縮)。
だから血流は緩やかになる。

血流が緩やかになることで、血管の中心を流れている血液成分が血管内皮細胞に集まるようになる。白血球を血管外に誘導するためには、どうしても内皮細胞の周辺に待機させておかなければならないからである。

一方、炎症局所の細胞群からは「ケモカイン」という白血球走行(遊走)因子が分泌され、それを周辺に拡散させる。
c0113928_910733.jpg

このケモカインが血管に到達すると、血管内皮細胞を刺激することになる。
白血球の働きを誘導するためには、ケモカインが重要な作用を受け持っている。
西部劇に出てくる幌馬車隊を誘導する偵察隊のような働きとして理解しておくと分かりやすいかもしれない。

血管内皮細胞の膜表面には、白血球を内皮細胞に引き寄せる細胞接着因子(セレクチン、インテグリン)があり、ケモカインはこれらの接着因子を活性化させるのである。
細胞接着因子が活性することによって、白血球は内皮細胞に添って走行していく。
そして、内皮細胞の収縮によってつくられた隙間(すきま)から血管外に出る。
c0113928_9104698.jpg

この間隙を抜けるときに、白血球はアメーバーのように形を変えて通り抜ける。

そしてMMPs(タンパク質分解酵素)を分泌し、血管壁細胞の基底膜を部分的に破壊して血管外に出る(浸潤)のである。
[PR]
by m_chiro | 2013-02-15 09:12 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE57.炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス①
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス①
①血管透過性亢進の仕組み


主に炎症反応に関わる微細血管の血管壁には、下の模式図のように外側に血管壁細胞があり、内腔面には血管内皮細胞で構成されている。
c0113928_0162216.jpg

通常、この血管壁を通過する物質は水と水溶性物質、そして酸素や二酸化炭素などの気化物質に限られている。

当然、血漿タンパク質(免疫グロブリン、フィブリノーゲンなど)や細胞などは通過できない仕組みになっている。

ところが、炎症が起こると事態は一変する。

最初に、炎症性物質であり内因性の発痛物質であるブラジキニン(BK)、プロスタグランジン(PG)、ヒスタミン、セロトニン、サイトカインなどが、血管内皮細胞を刺激する。
すると、刺激を受けた局所の血管内皮細胞は縮む

個々の内皮細胞が収縮すると、隣接した細胞間の接合部に隙間(すきま)ができる。
これが血管透過性の亢進という現象を生みだすのである。

炎症が起こると血管は拡張されるのだが、血管の拡張によって血流量は増加することになる。また、内皮細胞は収縮することで内圧が高まる

こうして血管の透過性が亢進する、という仕組みである。
[PR]
by m_chiro | 2013-02-15 00:20 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 56. 痛みは決して力学的ではない②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

痛みは決して力学的ではない
② 血管の損傷では、どんな生化学的舞台ができるか


血管の損傷には出血が伴うので止血反応が起こる。
一過性に細動脈を収縮させるのであるが、この反応は数秒から数分間とされている。
この一過性収縮によって血小板が凝集する。
そして凝血塊が作られ止血する。

この反応は血管内皮細胞から分泌されるエンドセリンと血小板から分泌されるセロトニンの作用によるものである。
この働きに関わるセロトニンは発痛物質でもある。

その後に今度は血管の拡張が起こる。
拡張時間は長く、数十分から数時間に及ぶとされているようだ。

なぜ血管拡張反射が起こるのだろう。
それは強い発痛作用を起こすことによって動きを抑え、炎症反応を促進することで治癒に導こうとする体内における調節作用である。

この血管拡張にかかわるのが「カリクレイン・キニン系」と呼ばれる体内調節系である。
血管組織が損傷すると、血漿中のプレカリクレイン(カリクレイン前駆体)が遊離する。
そこに皮膚などのコラーゲンと反応してカリクレインがつくられる。
カリクレインは血液中のキニノゲンを分解し、ブラジキニンという発痛物質が生成される。

ブラジキニンが肥満細胞を刺激するとヒスタミン等が生じる。
こうして炎症反応と強い発痛が起こるのである。
ブラジキニンは炎症病態をつくり発痛にかかわるが、その一方で血圧の調節や心臓の虚血再環流障害を防ぐ作用があるとみられている。
辛い痛みを出す炎症メディエータも、心臓病にとって善玉なのだ。こうした機序は複雑だが興味深い。

いずれにしろ力学的刺激によって引き起こされた損傷も、炎症メディエータによる生化学的な背景によって、痛みが引き起こされていることを知ることができる。

要するに、痛みは決して力学的ではない。
力学的・機械的因子に加えて、生化学的で、心理学的な因子の複合したものとして痛みを捉えなければならないということだろう。

これらの因子の中で、特にどの因子が優位になるのかということについては、これまた決して一様ではない。
個人差があるということになるが、それはストレス・バランスによって表現されているように思える。
[PR]
by m_chiro | 2012-11-14 22:16 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 55. 痛みは決して力学的ではない①
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


痛みは決して力学的ではない
① 組織損傷の生化学的舞台


痛みの伝達経路は3次のニューロンによって引き継がれ、皮質で認知されてはじめて「痛み」となる。
したがって、純粋に力学的・機械的な痛みというものはありえない。
ところが往々にして、痛みを力学的に捉える見方が先行してはいないだろうか。

力学的刺激によって引き起こされた損傷を考えてみよう。
組織損傷が引き起こされると炎症が起こる。これは組織修復のための生理的反応である。
下図のように、組織と血管の細胞から代表的な化学伝達物質(プロスタグランジン、ブラジキニン)が産出される。

c0113928_21433575.jpg


組織の細胞膜を損傷すると、細胞内のCa2+濃度が上昇することでタンパク質分解酵素が活性する。
すると、ホスホリパーゼA2(PLA2)が細胞膜を形成しているリン脂質からアラキドン酸を切り出すのである。
アラキドン酸は、COX(シクロオキシゲナーゼ;COX1,COX2)によって代謝されてプロスタグランジンが生成される。

これらの化学伝達物質が炎症反応を促進するのだが、これらは強力な痛覚増強物質でもある。
非ステロイド系消炎鎮痛剤NSAIDsにはCOXを阻害する作用がある。
COXは、アラキドン酸からプロスタグランジンを生成する酵素。
だから、NSAIDsはプロスタグランジンの生成を抑える効果を持つ。

ところが、COX1は胃腸や腎臓、血管内皮細胞に常在して、これらの粘膜を保護する役割を担っている(COX2は炎症に伴いマクロファージ、線維芽細胞、骨膜細胞などに発現する)。

NSAIDsは、そのCOXの役割も阻害するので、消炎作用の代償として胃腸障害などが付いて回るのだ。この長期服用による代償については心して置かなければならないだろう。

さらに強力な消炎効果が必要とされれば、元凶のアラキドン酸の生成を抑える薬物が使われる。
それにはリン脂質からアラキドン酸に変えるホスホリパーゼA2を阻害する必要がある。
その作用を持つのがステロイドである。だが、その投与に対する代償はNSAIDsの非ではない。

このように、痛みは決して力学的ではないのである。
[PR]
by m_chiro | 2012-11-13 21:49 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(3)
「痛み学」NOTE54. 何が、何ゆえにルートのポイントを切り替えるのだろう?
54. 何が、何ゆえにルートのポイントを切り替えるのだろう?

“Nociception Is Not a Symptom; Nociception Is Not Pain”

By David Seaman, DC, MS, DABCN

これは前回紹介した論文「Dysaffarenntation」の第一著者であるDavid Seaman D.C.が、“Dynamic Chiropractic”(Vol.24)誌に書いた論説である。
とても重要な見解を述べている。

Seaman,D.C.の指摘によれば、医師(MD)やカイロプラクター(DC)が間違えることのひとつに「侵害受容感覚(Nociception)と痛みを同じと見る」ことであると言う。
だからこそ、臨床家は神経科学の原則を等しく心しておくべきだと言うのである。

侵害受容感覚(Nociception)とは、侵害刺激を受容したときの感覚である。

その感覚が引き起こす可能性がある結果が「痛み」であるが、それはあくまでも結果のひとつに過ぎない。他にも様々な自律神経症状の結果にもなり得るわけで、侵害受容感覚は痛みやその他の症状とイコールではないのである。

要するに、この論説のタイトル「“Nociception Is Not a Symptom; Nociception Is Not Pain”侵害受容感覚は症状ではない;侵害受容感覚は痛みではないということだ。

そのことをよく理解するために、Bernard Feinstein博士の「局所痛と関連痛のパターン」を調べた研究(1954年)を取り上げている。

Feinsteinの実験では、被験者の棘間に高張性生理食塩水の注射を行っている。
この注射(深部侵害刺激)によって痛みを発症するルートはよく知られている(原文の図参照)。
c0113928_1834419.gif

Aδ線維からの求心性ニューロンは新脊髄視床路、C線維は旧脊髄視床路、これらの前側索系のルートを通って「視床」、「視床下部」に至る。視床からのシナプスから辺縁系に投射されて「痛み」や「苦痛」が生まれることになる。

この実験で重要なことは、高張性生理食塩水の注射ですべての被験者が痛みを経験したわけではない、ということである。

では、痛みを経験しなかった被験者のグループはどうなったのだろう。
彼らは、痛みの代わりに複合した苦しい症状に悩まされたのである。
どんな症状かと言うと、蒼白、発汗、除脈、血圧降下、気が遠くなる感覚、吐き気、失神などである。
Feinsteinは、これを「自律神経随伴症状」と呼んでいる。

同じ侵害刺激が痛覚系や苦しみの情動系のルートを辿るかと思えば、自律神経症状のルートを辿ることもある。

鉄道のレールでも、行先を変えるためにポイントの切り替えがある。

さて、侵害刺激という始発の感覚が、前側索系を経由して痛覚・情動系のルートへ、そこには「局所痛」へ行くルートと「関連痛」に行くルートがある。
あるいは自律神経反応賦活系(内臓症状)のルートもある。

それぞれが、行先のルートを変更するためにポイントが変えられる。
さて、そのポイントの切り替えは、何が、何ゆえに行っているのだろう。

謎解きは容易ではないが、「侵害受容感覚」は「痛み」や「症状」ではないとする区別だけは、しっかり認識しておく必要がありそうだ。

参考文献:「WITH YOU-JSC NEWS‐」Vol60、「侵害受容感覚(Nociception)は症状にあらず:侵害受容感覚は痛みではない」(David Seaman,DC,MS,DABCN、守屋靖大訳)
[PR]
by m_chiro | 2012-05-09 18:08 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE 53. ゲートコントロール理論を補完する考え③
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

53 ゲートコントロール理論を補完する考え
③「ディスアファレンテーション」仮説から鎮痛機序を考える


ディスアファレンテーション仮説に従って、痛みと鎮痛の機序を読み解くと、ゲートコントロール理論を補完するような興味深い仮説になる。

痛みは侵害受容器に対する侵害刺激にはじまる。
その要因として、組織損傷による機械的刺激と種々の化学伝達物質による炎症が起こる。
その痛み刺激は反射性に交感神経活動を亢進させるし、筋スパズムも引き起こす。また座位などの生活習慣姿勢などの身体の不動化も痛みの要因となる。

これらはすべて関節複合体における機能障害(不動化の悪影響、筋のアンバランス、トリガーポイント,脊柱筋の失調)に関与する。
そして同様に侵害受容器を興奮させることになる。

このとき求心性の入力はどうなるのだろう。
痛み刺激を伝達する神経線維は、比較的細い神経(Aδ神経線維とC線維)である。同時に、筋紡錘からのⅠa線維やAβ線維(触圧覚)の太い神経線維からの入力信号は減少する。

「侵害刺激の入力が増大」し、「圧・動きの機械刺激の入力は減少」するという入力の不均衡な病態生理が同時性に伝導されるのである。
この同時性現象は、体幹軸の筋肉のトーンの低下やアンバランスをもたらすことになる。


そもそも「ディスアファレンテーション」とは何か。
「アファレンテーション:afferentation」は、「求心性神経インパルスの伝導」を意味する用語である。
その求心路が破壊されると、インパルスは遮断あるいは阻害される。この状態は接頭語「de」をつけて「ディアファレンテーション」と用語されている
ただし、求心性伝導路が破壊されていない「入力不均衡」の状態は、接頭語に「dys」が付けられて「ディスアファレンテーション」と用語されている。
それは関節複合体機能障害によって侵害刺激入力が増大し、同時に圧・動き刺激入力が減少することを意味している。求心性入力信号のアンバランスという神経病態生理学的な現象をさしている。

この現象は損傷などによる反射性の病態に限ったことではない。
例えば、加齢に伴い関節を構成する複合体では、筋肉、靭帯、椎間板などの軟部組織における柔軟性が失われてくる。関節も同様である。

柔軟性を欠いた組織は機能的変化を伴うために、通常行っている動きに対してさえ耐性も減少する。結果、損傷しやすくなる。それが侵害刺激となり、脳はそれを痛みとして認識する。

こうした求心性入力の不均衡によって、身体にはさまざまな表出が行われることになる。それは痛みの継続であったり、自律神経系のアンバランスからくる不調であったり、身体平衡系の不調や不均衡として表出されるのである。

そもそも反射系は運動系と自律系に出力されている。C線維からの侵害刺激は脳でさまざまに修飾される。だから求心性入力の不均衡が続く限り、身体の不調に陥るリスクも消えることはないのだろう。

同様に、圧・動き刺激の入力も脊髄から大脳に至る中継核に入る。その結果として随意運動が適正に行われ、身体の平衡系が保たれ、自律系の恒常性維持に作用することになる。

鎮痛系の機序という観点に立てば、求心性入力の不均衡を是正することで大きく鎮痛に貢献するのだろう。

入力信号の減少したⅠa線維やAβ神経を刺激すると、入力の不均衡がバランスされることになる。つまりC線維の興奮が抑制される。

ゲートコントロール理論も、ディスアファレンテーション理論から考えると頷けてくるように思うのだが、どうだろう。
[PR]
by m_chiro | 2012-04-25 12:36 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE 52. ゲートコントロール理論を補完する考え②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

52. ゲートコントロール理論を補完する
②「デスアファレンテーション」仮説の意義


関節複合体に生じる病理的および機能的変化における機能障害は、どのような神経病態生理学的影響を受けて、症状として現れるのか。
それを説明する用語として「ディスアファレンテーション」の概念が提示されている。

カイロプラクティック理論では、重要な概念として「サブラクセーション」が想定されている。
しかしながら、その概念は曖昧に語られ、その症状の発現も模糊としていた。

その曖昧さゆえに、時には「マニピュラティブ・サブラクセーション(マニピュレーションによる治療が可能なサブラクセーション):1979」と表現されたこともあった。
おかしな意味づけである。
が、この論文では明確である。

サブラクセーションというカイロプラクティックの用語は、神経病態生理学的解釈から「関節複合体機能障害」と代えられている。
おそらく「サブラクセーション」は廃語とし、それに代わる新たな概念として甦らせたのであろう。

そして、症状発現の解釈モデルとして、求心性入力の不均衡(ディスアファレンテーション)を提示したのである。

もうひとつ、この論文が提示した重要な意義はカイロプラクティックの伝統的な解釈、すなわち「ガーデンホース理論」からの脱却を意図したことにある。

ガーデンホース理論は、サブラクセーションが遠心性経路に影響を与えるとする見解である。
ミスアライメントによる遠心性の出力低下は、その末梢組織に病変をもたらす。
そこにあるのは「内側から外へ」の思考である。

逆に、ディスアファレンテーションは求心性入力に注目した理論である。
求心性入力のアンバランスは、そのまま出力の不均衡となって表出される。
これは近年の神経学的原則「下(末梢)から上(脳・中枢)へ、上から下」の発展的解釈でもあろう。
[PR]
by m_chiro | 2012-04-24 17:13 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 51. ゲートコントロール理論を補完する考え①
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

51. ゲートコントロール理論を補完する

「ディスアファレンテーション理論」登場の背景

①マニピュレーションとは何を治療するのか、その新提言

確か1997年頃だったと思う。
アメリカにおけるカイロプラクティックのある研究者グループが、マニピュレーションの作用機序に関する仮説を提唱していることを知った。
それは「ディスアファレンテーション:Dysafferentation(求心性入力不均衡)」という仮説である。
サブラクセーションに対するマニピュレーションの作用機序を神経病態生理学的影響から構築した理論であった。

その重要な論文が「JMPT」誌に掲載されたと聞いて原著論文を探したが、私には見つけることが出来なかった。それでも概略を知れば知るほど、私はこの仮説の虜になった。カイロプラクティックの病態生理学的影響を説明する仮説としては、画期的な意義を持っていると思えたからである。

いずれ必ず日本のカイロ業界でも紹介されることだろうと確信もしていたのだが、その論文の全訳を読んだのは10年以上も過ぎた2011年のことであった。それも私家版訳である。
ここではその鎮痛機序に関する仮説を紹介したいが、その前に理論の前提となる重要な提案を確認しておきたい。

この理論では、マニピュレーションの治療対象として「関節複合体機能障害」が前提とされている。関節複合体機能障害は、長い間なにかと議論の的であったカイロプラクティックの「サブラクセーション/サブラクセーション複合体」に代わる概念として提示されている。

要するに「関節複合体に生じる病理的および機能的変化」を指す。
具体的には①可動性減少/不動化の悪影響、②機能的アンバランス(筋の拘縮・短縮など)、③筋筋膜トリガーポイント、の3つの基本的な要因の存在が指摘されている。
[PR]
by m_chiro | 2012-04-24 12:52 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 50.ゲートコントロール仮説の鎮痛機序と疑問
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

50.ゲートコントロール仮説の鎮痛機序と疑問

痛みがあると無意識にそこを擦ったり、手を添えたりする。
すると不思議なことに痛みがやわらぐ。
そんな経験は、誰もが少なからず持っていることだろう。
この現象は多くの人の知るところであったが、その機序はよく分からないできた。
そのメカニズムを解説したのが、心理学者のメルザックと生理学者のウォールである。
この理論は、1965年に「ゲートコントロール説」として「サイエンス」誌に発表されている。
c0113928_1755484.png

原理は脊髄後角にある膠様質(後角第2層)のSG細胞と、中枢へ情報を投射するT細胞との関わりと作用に集約されている。
要するに、中枢に痛み情報を伝達するT細胞(投射ニューロン)を、そのシナプス前(SG細胞)で抑制するというのである。

痛み情報は、細い神経線維(Aδ線維:1~5μm、C線維:<1μm)が担っている。
ところが、太い神経線維(Aβ線維:12~20μm)が触刺激によって興奮すると、SG細胞を興奮させてゲートを閉めてしまう(シナプス前抑制)
したがって投射ニューロンであるT細胞のシナプス前(SG細胞)で、痛覚線維からの情報は抑制されてしまう。結果的に、T細胞には痛覚情報が伝わらない、という機序になっている。

この理論は、痛みの生理学における組織学的研究が幕を開けた1960年代の仮説である。
多くの人が納得し、魅了させられた理論とされている。

ところが組織学的解明が進むにつれ、抑制細胞であるSG細胞なるものが、実は仮定の産物であったことが判明する。これはゲートコントロール仮説の理論的破綻でもあった。

それでも触刺激で痛みがやわらぐという現象は確かに存在するわけで、ゲートコントロール説はまたぞろ修正が加えられて徒手療法を裏付ける仮説として尊重されている。
この仮説も今では、SG細胞は抑制の「介在ニューロン」と変更され、投射ニューロン(T細胞)を直接抑制するという機序が想定されることになった。

それでも疑問として残る。
なぜ、太い神経線維(Aβ線維)が入力されると痛覚線維は抑制されるか、ということである。
そこにどんな法則性があるのだろう。

疼痛抑制システムの賦活には中枢系の関与なしでは考えられないことであり、ゲート理論はまだまだ研究や考察を積み重ねることが必要なようである。
[PR]
by m_chiro | 2012-03-26 17:59 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE49. ③TrPの電気活動と責任TrPができる仕組み
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

49. トリガーポイントはどのようにして作られるのか③
③ TrPの電気活動と責任TrPができる仕組み


筋収縮のプロセスの中で、エネルギー危機に関わるのは前述した第1~3のステップにおいてである。
Travellは、ATPが不足(エネルギー危機)によって、過剰な筋収縮活動が持続すると考えた。
その基盤となる作用に関わるのがCaイオンとATPである。筋の外傷、微損傷、オーバーユースでも、筋小胞体からCaイオンは過剰に放出される。

筋の外傷が起こると周辺に痛覚物質が放出されるのだが、ここで問題とするのはCaイオンが過剰に放出されることによって起こる「拘縮:constracure」という現象である。拘縮では、活動電位なしで生じる持続性、非伝播性の可逆的収縮が起こる。
要するに、「拘縮」は「筋収縮」と違って、中枢神経系の介入による制御を受けない現象だということだろう。

ATPがなくなると、アクチンとミオシンは硬く結合した状態になり、引っ張っても伸びない状態が作られるのである。またATP不足は、アクチン周辺に放出されたCaイオンが筋小胞体へ取り込まれるのを阻む。だから収縮が続く。拘縮ができる。

この拘縮によって、血流が悪くなる(虚血)。痛みが出る。更にエネルギー危機が増大する。血流の障害はATP産生が減少するため永続化する。痛みの悪循環のはじまりである。

この「筋拘縮」の発展的病理こそが「索状硬結」のこととされてきたようだ。
確かに、トリガーポイントの特徴を単直に言えば「硬結」のことだろう。「索状」でもある。
しかも、電気生理学的に電気活動が計測されないのだそうで、電気的興奮による筋収縮とは違うことになる。だから「筋拘縮」と「索状硬結」は同類の表現である。

トリガーポイント仮説には、こうした曖昧な要素が随所にある。
だからメディカルの領域でも定着されにくいのだろう。臨床的所見が注目されているが、組織学的・生理学的研究はこれからなのだろうと思う。

ところ近年、トリガーポイントから電気活動を記録した研究が出てきた。日本では、川喜田健司先生らの率いる明治鍼灸大学・生理学教室における研究はその筆頭である。その電気活動の波形が、運動点(運動終板)で計測される波形に類似しているのだそうだ。
だからと言って、TrPが運動点だけに出来るわけではない。ここも曖昧である。

そもそも「運動終板説」が出たのは1993年で、D. R. HubbardとG. M. Berkoffの仮説とされる。筋紡錘に分布する交感神経の刺激で活動電位が発生し、反射性にシナプス内にアセチルコリンが過剰に放出される。すると筋の持続収縮が起こるのだとする仮説であるが、では圧痛のある硬結はどう説明するのだろう。

硬結部位からの電気活動は計測されても、周辺の筋組織からは計測されていない。
したがって筋紡錘での活動電位と考えたわけだが、「エネルギー危機説」と「運動終板説」の両者の欠点を補う形で、「統合仮説」が流通しているようだ。

「統合仮説」はTravellの共同研究者であるSimonsらの主張である。
実験的研究による根拠は、①トリガーポイントから計測される電気活動が終板電位に似ていること、②アセチルコリンを過剰分泌状態にすると索状硬結ができること、③運動終板では痛覚閾値が低い、ということのようだ。
c0113928_0354121.jpg

上の図は「筋骨格系の触診マニュアル」のものである。
この筋線維の拘縮は硬結のある索状になる。
これがセントラルTrPで、その部位のサルコメアは短縮している。
つまり中心に引っ張られている。
するとその前後のサルコメアは中心への引力を拡散できずに伸張される。伸張性の収縮が起こる。

この索状硬結によって、筋原線維の起始と停止にまで伸張する力が及ぶ。
この牽引力によって腱組織が障害され「付属TrP」が形成される。
また同じ筋内や他の筋肉にサテライトTrPも形成される。
これらの付属TrPは、セントラルTrPから随伴したものである。
だから、鍵を握る「責任TrP」とされるのだろう。
[PR]
by m_chiro | 2011-10-22 00:38 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索