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「痛み学」NOTE 76.機能性身体症候群(FSS)は慢性痛症を統括するのか
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


「痛み学」NOTE 76. 機能性身体症候群(FSS)は慢性痛症を統括するのか

本来、痛みは生理機能的に誘発されるものである。
ところが、その原因を器質構造に求める時代が長く続いた。
それを反証するかのように筋・筋膜にスポットが当てられ、「筋筋膜疼痛症候群(MPS)」が提示されたのである。1952年、Travellらによるものであった。

筋筋膜痛そのものは、ヒポクラテスの時代にまで遡ることができる古い疾患名でもある。
それでもMPSの概念とは違う。
MPSは筋・筋膜に起因する関連痛などの複合的な関連症状を特徴とする症候群である。
だから筋・筋膜が傷害された病態とは概念的に異なるのだ。

MPSはトリガーポイント(TrP)の存在がひとつの指標になっている。
それは押圧刺激などによって他の部位に関連痛を誘発する特徴があり、少なからず自律神経症状を伴うこともある。
それでも診断の指標となる臨床検査値は見当たらない。
症状も一様ではなく、全身性に発症する。面倒なことに、TrPができる機序も仮説の域を出ていないのである。それに押圧によって痛みを伴うからといって、必ず関連痛が生じるわけでもない。筋・筋膜という視点で考えると、「線維筋痛症(FMS)」と重複する要素もありそうだ。

線維筋痛症は、1990年に米国で診断基準が発表されている。
初期症状を圧痛点に求めていることもMPSと重なるところではあるが、関連痛が指標になっているわけではない。
圧痛点による決定的な違いは、MPSが一側性に出現するのに対して線維筋痛症では両側性に顕れる。
4㎏/㎝2での触診で圧痛点を確認することになるが、全身18ケ所のランドマークのうち11ケ所以上に存在が認められる病態を初期症状としている。

ところが次第に自律神経症状や精神神経症状が顕著になり重症化する。
ドライアイ、ドライマウス、不眠や鬱など、多様な随伴症状から受診科目も広範にわたっている。
ともかく複雑で厄介な病である。
今では下降性疼痛抑制系の障害を重視しているようだが、この病態の詳細については日本線維筋痛症学会が「線維筋痛症診療ガイドライン」を発刊(2013)していてネット検索で読むことができる。

近年また新たな概念が提示された。
それは「機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome;FSS)」とされる疾患である。
世界疼痛学会(IASP)では、2009-2010年のスローガンに「世界運動器痛年」を取り上げた。
その運動器痛のカテゴリーのひとつとして「機能性身体症候群;FSS」を提唱しているのである。
ところが「またもや」である。
FSSは適切な診察や検査を行っても、病理学的所見の存在を明確に説明できない病態とした。
医学的に説明できない身体症状は、今に始まったことではない。
それだけに痛みは複雑であることになるが、FSSは痛み症状だけでなく慢性的な疲労感、動悸やめまい、過敏性腸症候、ムズムズ脚症候、線維筋痛症など、これも症状が重ね合わされて表現されるという。

FSSは、A. J. Barsky教授(ハーバード大学・精神科)が1999年に定義した。
当初は批判的な意見も多く、その拡散には時間を要したのだろう。
‟The Lancet” 誌にレビューが掲載されたのは2007年だった。
批判が多かったのも分からないでもない。
何しろパンドラの箱のように、いろんな疾患や症状が詰め込まれている。
そのような「医学的に説明困難な身体症状(Medically Unexplained Symptoms)」は、以前から「MUS」として一括りにされてきた。
ここにきて「FSS」を新たに一つの疾患概念にしようという狙いなのだろうか。

FSSに含まれる病態には、それぞれの診断基準に類似や合併疾患が認められること、精神症状の随伴が高率で、しかも発症率も女性に多いことなど類似点も多い。
このこともFSSとして一括りにした理由らしい。

医学的診断とは、病因を病理学的に推測・確定することにある。
が、痛みなどの感覚機能の病態を確定的に断定することには困難が伴う。
そもそも生きものは複雑系にあるからだ。
だからこそ、腰痛などの痛みは自己限定疾患とされ、2012年の国際疼痛学会では90~95%の腰痛を非特異的であるとした。

背景には心理・社会的要因があるとする。
要するに訴える症状は氷山の一角であり、底辺には心理・社会、経済など身体機能的に関連する大きな問題が眠っているということだろう。

だからと言って心理的な理由をあげつらい、臨床の現場で患者を説き伏せても、あるいは気休めの言葉を投げかけても、解決に繋がるわけではない。
まして不安を増長させる物言いはノーシーボ効果をもたらす最悪の対応になる。

そうなると「病の物語」に耳を傾け、納得いく説明と理解から治療がはじまるのだろう。
そこから集学的アプローチが望まれるのである。
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by m_chiro | 2017-01-07 21:43 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 75. 脊柱管のマイナーソフト構造❸
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


75. 脊柱管のマイナーソフト構造
❸ 脊柱管ソフト構造から下肢挙上テストを考える


ホフマン靭帯は、ひとつは硬膜前面中央部から腰椎と後縦靭帯に付着する「正中ホフマン靭帯(midline dural ligament)」である。
もうひとつは硬膜の前方側面から後縦靭帯(椎間板付着部)に付着する「外側硬膜靭帯(lateral dural ligament)」である(❷の記事の図参)。
また、特に硬膜の後方では「髄膜椎骨靭帯(meningovertebra ligament)」の存在に注目したい。
図(“Polygonal Deformation of the Dural Sac in Lumber Epidural Lipomationsis”
Caroline Geersらより引用)は、硬膜と髄膜を支持する靭帯組織であるが、後方では椎骨と連結された靭帯であることを知ることができる。

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パドヴァ大学(伊)の臨床整形外科領域からの報告(J Spinal Disord., 1990)では、硬膜後方における髄膜脊椎靭帯(meningovertebral ligament)も脊柱管の病態に関与していることを指摘している。
更に、「外側根靭帯(lateral root ligament)」は脊髄神経根と下椎弓根の間に付着し、脊柱の動きと硬膜袖の自由度を制限している。
したがって、この硬膜袖におけるテンションは外側根靭帯の緊張度とも関わっていて、硬膜袖に弛みや緊張をもたらしているのである。
この外側根靭帯も、これまでの常識に疑問を投げかける存在かもしれない。

例えば、神経根障害や腰部椎間板ヘルニアなどの鑑別診断に使われる「SLRテスト」がある。
股関節屈曲35°~70°で「椎間板上で坐骨神経根が緊張する」とされている。
信頼度も3.5/4である。要するに、椎間板ヘルニアなどによって狭窄されると坐骨神経への放散痛がおこるとみるテストである。

そうした根拠を示す解剖所見も散見できる。例えば、神経系モビリゼーションの第一人者とされるD.S.Butlerは、著書の中で次の画像を引用して解説する(赤丸と赤字、書名は私が追加したもの)。
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写真Aは「反伸張性姿勢」で股関節と膝屈曲位での神経の引き出し現象をみた画像。
Bは「下肢伸展挙上:SLR」における神経の引き出し現象である。
明らかにSLRでは神経が引き出されているのが分かる。
それも、硬膜袖の引き出し現象で動く長さはせいぜい5mm前後とされているようだ。
SLRでは、交感神経幹までもが引き出されている。

もしも椎間板ヘルニアなどによる狭窄が起こると、椎間孔で神経幹の引き出し現象が不能になり、そのことで放散痛が起こるという根拠になっている。
ではなぜ椎間板ヘルニアが確認されているにもかかわらず、SLRテストで放散痛が起きないケースが少なからずいるのだろう。疑問が残る。
なぜなら、図からも分かるように神経根部には一定の弛みが存在するからである。
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そこに脊柱管のマイナー・ソフト構造という視点で考えると、また別の根拠が見えてくる。
次の図もButtlerの著書に提示(Louis,1981の改変)されているものである。
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Louisは24体の解剖献体を屈曲させて、脳脊髄幹、髄膜、神経根の運動に一定のパターンがあることを発見した。
それが引用した図である。Louisによれば、C6、T6、L4レベルの接触領域に、それらの運動が起こらないとした。
Butterは、その領域を「テンションポイント」と呼んでいる。
硬膜の後方における緊張の方向を、その図に想定すると、硬膜前方では赤の矢印方向になるだろうと想定してみた。
そこに図のような脊柱の後弯が固着した状態になると、テンションポイントを視点に硬膜の緊張の亢進を想定すると、T6より上位の背側では髄膜椎骨靭帯(meningovertebra ligament)が上方に牽引されることで硬膜後方が緊張する。
一方、硬膜前方ではホフマン靭帯などの複合した結合によって上方に牽引されて緊張する。加えて、神経根袖とか下椎弓根に付着する外側根靭帯(lateral root ligament)」は、硬膜のテンションを一層高めることになるだろう。
このことは硬膜の弛みが減少した状態にあるとき、椎間孔からの神経の引き出し現象にも影響を与えることになる。
もしも周辺組織に炎症があれば、なおさらである。
「硬膜の弛み」という常態にあるときには、神経の引き出し現象による影響は最小限に食い止められるのだろう。

近年、ホフマン靭帯、外側根、そして髄膜椎骨靭帯などを解剖学的視点から、支持組織としての重要性を指摘する論文が散見するようになった。
これらの著者らは、脊柱管におけるマイナーソフト構造が長年にわたり無視されてきたことを問題視しているのだ。
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by m_chiro | 2016-09-19 12:27 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 74. 脊柱管のマイナーソフト構造❷
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


74. 脊柱管のマイナーソフト構造
❷ 骨構造から膜構造リンクへ視点が変わった


近年、Dr.Holder,D.C.がサブラクセーションの概念に新たな解釈を持ち込んだ。
Dr.Holderは医師でもあり、カイロプラクターでもある。シュバイツアー賞や研究者賞など、数々の栄誉ある受賞履歴も持つ偉才の人でもある。
特に、脊椎サブラクセーションと脳報酬連鎖、報酬欠陥症候群、神経伝達物質との関わりを追究している研究者としての顔も持ち、カイロ大学で教壇にも立つ。

D.D.Palmerはサブラクセーションの概念を「神経のトーン」と表現した。
その「神経のトーン」について、Dr.Holderは周波数の変動・変調のことと解釈している。
そして、サブラクセーションを3種類(第1、第2、第3)に分けた。
プライマリーな(第1の)サブラクセーションは無症状で、第2、第3のサブラクセーションは第1サブラクセーションを補正し代償した結果だとした。
それこそが症状に関わるっているのだが、それらはあくまでも補正・代償性の結果である。したがって調整すべきは、あくまでもプライマリーなサブラクセーションである、と主張する。

そして、このプライマリーなサブラクセーションを、2つのカテゴリーにわけている。
それが「コードプレッシャー」「コードテンション」である。

硬膜には、脊柱構造に直接的な付着を持つ部位がある。
その部位に力学的緊張が加わると、硬膜管に捻じれや歪みがつくられやすい。

そのことで脊髄に圧力や緊張がもたらされる、というものである。
椎骨の変位という考え方から、視点が硬膜管における力学に移行した.


実は、この視点は今に始まったことではない。
それは硬膜管の付着部に限らず、硬膜に付随する靭帯組織も硬膜管の脊柱管内における自由度を制限している、という徒手医学における生体力学の考えでもある。

硬膜管の付着は、後頭骨大孔で多数の付着があり、C2、C5、S2、S3、S4、尾骨に付着があるため、緊張が作られやすい部位でもある。
歯状靭帯も、軟膜と硬膜の支持靭帯である。
一側に20ケ所の付着があるとされ、硬膜管の中での脊髄の自由度を制限している。

更に、脊柱および硬膜管の自由度をコントロールしている重要な支持靭帯は「硬膜結合複合(
Dupuis,1988)」あるいは「ホフマン靭帯(Rauschningら,1987)」
と呼ばれている。

ホフマン靭帯はC7~L5までのレベルで存在するという報告(Spine,1976)があり、ほとんどの靱帯が単一の椎骨セグメントに限定さている。
なかには数個のセグメントを横断する靭帯もあるらしく、このことも献体解剖所見から観察報告されている(J Spinal Disord. 1990)。

ホフマン靭帯の初出は“Managing Low Back Pain”で、カイロプラクティック教育の副読本に使われてきた本である。
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以後、徒手療法関連の成書にも引用されるようになった。
例えば、「基礎臨床解剖学 脊柱・脊髄・自律神経」(エンタプライス刊)や「カイロプラクティッツク テクニック総覧」(エンタプライス刊)などに引用されている。
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by m_chiro | 2016-09-08 16:39 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE73. 脊柱管のマイナーソフト構造❶
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


73. 脊柱管のマイナーソフト構造
❶ 脊髄圧迫あるいは神経根障害、もうひとつの可能性


脊柱管狭窄症の診断を受けた女性の患者さんがみえた。
彼女は60歳を目前にして次第に下肢の痛みとシビレ症状を発症し、病院の診察を受けている。
MRI画像所見で脊髄断面の面積がかなり狭くなっていて、手術の対象とされた。

就業の傍ら親の介護もしているので、今、手術したらそれもできなくなる。
彼女は手術を回避して、カイロプラクティック治療に活路を求めることになった。
やがて症状も改善した頃に、再度MRIを撮った。

結果、画像上でも狭窄していた脊髄に拡がりが見られるようになっていた。
私も改善前後の画像を見せてもらったが、確かに脊髄の圧迫の程度が少し拡がって脊髄の流れに一定の空間が、より確保されていたのである。

それでも脊柱管そのものの変化に違いは見られない。
では、なぜ手技治療で脊髄圧迫の病態が変化したのだろう。
脊柱管狭窄症が改善した症例は、カイロプラクティックの臨床でも多々経験するところである。
同じことは、椎間板ヘルニアやその根障害とされる病態にも言える。

そこには「整形外科学」と「徒手療法の脊柱学」における決定的な違いが、きっとあるのだろう。
そう考えた方が納得もいきやすい。
おそらくは、脊柱における生体力学的な視点の違いなのだろう。
もっと具体的に言えば、脊柱の「骨構造の病理」「マイナーソフト構造の機能力学」における視点の違いだろう。
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by m_chiro | 2016-09-06 17:16 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 72. 痛みが自己持続性に起こるわけ
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


72. 痛みが自己持続性に起こるわけ

痛みの自己持続性に関わる可能な要因を考えた時に、第一に思い浮かぶのは「交感神経」の活動である。
痛みは交感神経の活動性を増す。
したがって筋の緊張性も増加する。

交感神経からの入力は、α運動ニューロンの興奮性を高めることになる。
あるいは細動脈の血流を阻害する。
虚血が起こる。
こうして痛みの悪循環が始動することになる。

筋の痙縮(spasm)による痛みは、筋収縮が持続性に起こった結果である。
後角への興奮性の入力が続いているのだろう。
もしも分節性の抑制あるいは脊髄より上位ニューロンからの抑制が減少している状態にあっても、やはり興奮性入力は続くことになる。

このことは、神経のみならず筋組織にも可塑的変化が起こる可能性を示唆するものである。
そこに、痛みは早急に除去しなければならない、とする理由がある。

痛みの循環経路図では、そのルートのどこからでも痛みを遮断することができる。
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では、もしも痛み症状が残されたままに置かれると、どうなるのか。
不完全に残された痛みは、再悪化、再激化する可能性を秘めている。
鎮痛が不完全なままであれば、交感神経の興奮も抑制されない状態で残る。
だから再び痙縮(spasm)が起こる火種となる。
痙縮などの筋の過緊張は、虚血の温床でもある。
中途半端に残された痛みによっても、交感神経の興奮が自分自身の中で続くことになるのだ。

痛みの自己持続性は、交感神経の興奮が続く限りトリガーにもなるということだろう。

痛みは、どんな手法であれ早急に完治させることを念頭に置いて対応すべきであるし、そのためには学際的な試みが必要なケースもあるのだ。
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by m_chiro | 2015-02-20 10:09 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 71.硬結にEMG活動は起こるか、起こらないか
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


71. 硬結にEMG活動は起こるか、起こらないか

トリガーポイントなどにみられる索状硬結や拘縮(contracture)に、EMG活動が記録されることはない。
あっても拘縮部位から離れたところに限局している。
このことは、拘縮などが神経終板からの電位によるものではない証拠であろう。

ところが近年では、索状硬結でEMG活動を記録したという報告が出るようになった。
いったいどっちがホントなの、という話になる。

そこで、明治鍼灸大学.生理学教室で行った研究論文「実験的トリガーポイントモデルから記録された電気活動に対する検討」(全日本鍼灸学会雑誌。2002年、第52巻1号、24-31)を紹介しよう。

とても示唆的で興味深い情報を提供している。
この論文は、伸張性収縮運動負荷により生成したトリガーポイントおよびその同一筋上から、電気活動を記録したというのだ。
ところが、その電気活動はトリガーポイントの筋膜付近に限局したもので、筋の電気活動はその筋膜からの反射性の筋活動を捉えたものだと結論づけている。
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上の図は、その論文に掲載されたもので、皮膚と筋膜と筋肉における電気活動の記録である。
ただし、この電気活動は筋膜部分に電極を刺入したときに限定して記録されている。

トリガーポイントは、常にすべてが活性しているわけではない。
無症状の潜伏的なトリガーポイントが50%にも及ぶらしい。
この潜伏的トリガーポイントは、どのようにして活性するのだろうか。
(「痛み学」NOTE47. トリガーポイントはどのようにして作られるのか①~③に書いておいた)

臨床の現場でも、筋膜痛が痛みを伴う筋収縮、痙攣や攣縮(spasm、cramp)に関連していることを実感できる。
筋膜痛にはトリガーポイントが付き纏うことがあるということだろうが、筋膜痛そのものの病態生理についてはよく分かっていないのが実情かもしれない。

そこで、筋膜やトリガーポイントからの電気活動が反射性に筋肉の電気活動を起こす仕組みをみると、そこには2つの仮説がある。
ひとつは「脊髄反射説」で、他は「局所単収縮反応説」である。

「脊髄反射説」は「運動神経と神経終板」の神経活動が根底にあり、「局所単収縮反応説」は「筋の粘弾性特質」に依拠している。
あるいは、その統合説である。

いずれも休眠状態の拘縮や硬結が、何らかの身体内外の要因によって活性状態になるとする仮説であるが、その要因とは一体何だろう。
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by m_chiro | 2015-01-31 17:41 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
「痛み学」NOTE 70. 筋の粘弾性特質が拘縮や硬結をつくる
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


70. 筋の粘弾性特質が拘縮や硬結をつくる

ひとくちに「筋筋膜痛」といっても、同じ病態として一括りにはできない。
これらの病態を整理しておくことは、特に徒手療法では必須であろう。
これまでも末梢受容器の刺激によって起こる筋痛をたびたび取り上げてきたが、筋痛症状には複雑な病態を含むものもある。

たとえば前回の記事で取り上げた「線維筋痛症」には、厄介な中枢神経系由来の病態生理学があるようだ。が、その詳細はまだ推論の域を出ていない。
確かなことは、痛み症状として似かよっていても、線維筋痛症は筋疾患としての「筋痛」ではないということである。
要するに、同じような損傷から起こった痛みであっても、痛みを処理するプロセスの中で表現を変えることもあるのだ。

臨床の現場では、筋の過緊張の病態によく出くわす。
これをカイロプラクターは、どちらかといえば侵害受容器よりも固有受容器からの視点でみる向きがある。
固有受容器の過活動が筋の過緊張をもたらし、痛みを引き起こすこすことがあるからだ。
こうした筋の不均衡は、その近隣関節の可動性喪失と相関性があることも知られるところである。

一方、皮膚や筋筋膜には特に侵害受容器の自由終末が全体的に広く分布されていて、身体全体のセキュリティ機構のネットワークになっている。
このネットワークが機械的刺激や化学的刺激に曝されると受容器の感度が高くなる。
つまり、そこに痛みの発症する環境ができあがる。

では、固有受容器と侵害受容器のどちらが初発の原因となっているのだろう。
果たして厳密に分けることができるのだろうか。
そこに明らかな損傷の痕跡を認めない限り容易なことではないだろう。

ところが運動に伴う痛みは見分けやすい。
運動によって筋内圧が増すと、血流の供給が損なわれることがある。
運動痛はその結果である。虚血が起こると、有毒性の代謝物質が産生される。
これまでは乳酸が怪しいとされてきたが、今では除外されている。
そうなると、セロトニンやブラジキニンなどの他の代謝物質の影響なのだろうが、その痛みは運動をストップさせることで間もなく回復する。
にもかかわらず持続性の痛みが残るとすれば、筋筋膜への過活動(外力)によって該当組織に損傷が起こった結果であろう。

もとより筋の過緊張は痛みの重要な因子である。
厄介なことに、筋の過緊張に関わる病態は「運動」における神経病理にも関わっている。
だからといって、筋の過緊張を神経学的に全て説明できるわけではない。

なぜなら痛みに関わる筋の過緊張は「運動神経と神経筋終板の活性」によるケース以外に、筋肉の質的な特性である「粘弾性」にも依存するからである。
要するに、EMG(筋電図)で観察できる活性か、あるいはEMG活動から独立した活性によるものか、に分かれるということだ。

生体における筋肉や腱は、例えばゴム素材などとはその特質が違う。
いわゆる「粘弾性」の特質である。
粘弾性とは、粘性特質と弾性特質を併せ持っている性質のことだ。

ゴムは弾性特質なので、時間に関係なく引っ張れば弾性限界まで伸びる。
加えた力を解放すれば、即座に元の形に戻る。
が、それ以上に引っ張れば切れる。

ところが粘弾性の筋には「時間依存」がある。

だから、弱い力でゆっくりと時間をかけると伸ばすことができる。
逆に、強い力で瞬時に引っ張れば損傷しやすい。
だから瞬間的な張力負荷は、筋腱の損傷や拘縮をつくる因子になる。

こうして筋の収縮は、神経終板の活性(EMG活動)以外にも、筋の粘弾性特質によって筋の緊張、硬直、拘縮がつくり出されるのである。

伸張性収縮負荷は筋や腱にとって弊害を生みやすい条件となっているわけだが、それらが常に活性された病態として顕在しているわけでもない。
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by m_chiro | 2015-01-23 23:57 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 69.  慢性痛と「ゲイン・コントロール」②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


69.鎮痛と中枢性感作の相反起動スイッチ

下行性疼痛抑制系におけるセロトニン系は、延髄の大縫線核(NRM)に中継されて作動する仕組みである。
このことが分かったのは、猫の縫線核を電気刺激した実験からだった(ギルボーら、1973)。
脊髄後角に入る末梢からの侵害刺激のシナプス伝達が抑制されたのである。
その後も数々の動物実験が繰り返されて、下行性疼痛抑制系が確立されたのであるが、これらはすべて電気刺激によって同定されたものである。

しかしながらセロトニン系そのものは、それほど単純ではないようだ。

例えば、大縫線核(NRM)のある吻側延髄腹内側部(RVM)を電気刺激すると、脊髄後角で痛覚が抑制されるという周知の反応が起こる。
かと思うと、逆に痛覚が促進し過敏反応が起こる。

この相反する反応はなぜ起こるのだろう。

電気生理学的には、RVMに3種類の受容細胞が存在するとされている。
それは「ON-cell」、「OFF-cell」、「Neutral-cell」の3種類で、「ON」細胞では痛覚が促進し「OFF」細胞では痛覚伝導が抑制される

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ところがすべてのセロトニン神経系は「Neutral」細胞に入るという。
このスイッチの切り替えは、どのように選択されるのだろう。

また、こんな報告もある。
侵害刺激が伝達されている後角に、セロトニンを局所投与すると、ここでもRVMへの電気刺激同様に相反する反応が見られるというのである。

先にも触れたように、セロトニン受容体は後角のみならず脊髄灰白質の周辺に広く分布し、しかもセロトニン受容体も3種類が関与するとされる。
この真逆の反応も、どのように選択されるのだろう。

要するにRVMへの電気刺激でも、後角へのセロトニン投与でも相反反応が起こるわけだが、その相反反応の切り替えに関わるのが「ゲイン・コントロール」と考えられている。

ところが縫線核のセロトニン神経は低頻度で、しかも規則的な活動をしてる(前掲書)。
しかも、外部環境や内部環境のストレスや危機による影響は受けないとされる。

それでも、睡眠と覚醒のサイクルによる状態変化は関与するらしい。
脳内セロトニンの欠乏が睡眠障害に関わるこは知られているが、どのようにして「ON」と「OFF」のスイッチが切り替わるのだろうか。

「ゲイン・コントロール」では「状態依存(state-dependent)」による調節が行われる。
痛みが「生理的条件下」にあるのか、あるいは「慢性的病態における条件下」における痛みなのか。
それぞれの状態に依存して「ゲイン・コントロール」の設定が行われとする。

「ゲイン・コントロール」の機序が作用して、慢性痛に移行したり可塑的な変化を起こすとしたら、既に警告信号としての役割を持たない病態下にあることを示す状態なのだろう。
痛みの可塑化を進める罠が、あらゆる機会に張り巡らされているとしたら厄介な話である。

前掲著(「脳内物質のシステム神経生理学」有田秀穂著、2006、中外医学社、16-17p)から、少し長くなるがその対応の要点を引用紹介しておこう。

具体的には、覚醒時に自律神経系が交感神経優位にシフトする現象に関係する。その根拠は、5-HT神経の活動が睡眠、覚醒リズムによる状態依存性の変動(覚醒時に活動亢進、睡眠時に抑制)をすることによる。この機能的意義は、5-HT神経の運動系への促進効果と通じるものがある。両者とも昼間の活動を最適に維持することに寄与する。すなわち運動系では「姿勢筋や表情筋に緊張を与え」自律系では「交感神経優位にシフトさせる」という状態をつくりだす。車にたとえていえば、「エンジンをかけてアイドリング状態にすること」が5-HT神経の役割で、「アクセルを踏んで激しく動き回ることは」青斑核のノルアドレナリン神経の働きであろう。


「ゲイン・コントロール」における「「OFF-cell」の作動経路を働かせるには、どうすればよいのか。
それはヒトの生理的条件下のプログラムが活性している状態を目指すことにあるのだろう。
病態条件下では、痛みの増悪や中枢性感作の促進プログラムが作動してしまうのだ。
運動系や自律神経系におけるヒト本来の精神・生理機能系のプログラムを、十全に働かせる対応が鍵なのかもしれない。
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by m_chiro | 2014-10-18 12:10 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 68.  慢性痛と「ゲイン・コントロール」①
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


68.セロトニン系における「ゲイン・コントロール」

慢性痛症の背景に中枢性の痛覚過敏があるすれば、その機序はどのようなものだろう。

そのひとつとして「ゲイン・コントロール(gain controll)」という痛みの修飾作用の関与が提示されている。
「ゲイン(gain)]とは「利得」のことであるが、転じて電気信号回路における信号の増減のことをさす。信号のフィードバック制御が継続的に修正されることで、その状態に依存する調節が行われるのだ。

運動系では感覚情報のフィードバックとフィードフォワードを使って運動制御が行われている。
電気機器にも、こうした制御が使われていて、例えばセントラル・ヒーティングなどでは室温が設定されると、その温度を維持されるまで温度を上げるようなものだろう。
その状態(設定温度)に依存する調節作用が行われるのだ。

c0113928_8485694.jpg

さて、左の図は「痛み刺激の伝達経路」と「下行性疼痛抑制系」が示してある(「脳内物質のシステム神経生理学」有田秀穂著、15頁の図から一部転載)。

図で脊髄灰白質周縁に緑色で示された領域は、セロトニン終末の分布と対応している。

これによるとセロトニン(5-HT)受容体は、脊髄後角に限定されているわけではない。
かなり広い領域に受容体が分布している。

この下行性疼痛抑制系の起始核は中脳中心灰白質(PAG)であるが、帯状回、視床下部、偏桃体中心核、前頭葉などから皮質下のPAGに投射され、疼痛抑制系がスタートする。

その経路として、「セロトニン系」と「ノルアドレナリン系」の2経路が同定されているが(図にはセロトニン経路のみ記載)、それらはPAGからの直接投射はほとんどない。

延髄の大縫線核(B3:セロトニン系)と、橋の青斑核(A6:ノルアドレナリン系)に中継されて作動するのである。

                        (つづく)
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by m_chiro | 2014-10-18 08:57 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
「痛み学」NOTE 67.  慢性痛における筋痛症問題の概念はややこしい❹ 
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


❹ 線維筋痛症(FM)を「筋痛症」で括るべきなのだろうか

前回紹介したCareNetの記事「正しい線維筋痛症の知識」で、著者は線維筋痛症(FM)の症状とその背景について下の図から解説し、その症状と進展プロセスを以下のように解説している。
c0113928_74873.jpg

全身痛、しびれ、疲労感、感覚異常(過敏や鈍麻)、睡眠障害、記憶力や認知機能の障害などいわゆる不定愁訴を呈する。中枢性過敏症候群に含まれる疾患の合併が多い。痛みや感覚異常の分布は神経分布とは一致せず、痛みやしびれの範囲は移動する。天候が悪化する前や月経前後に症状がしばしば悪化する。症状の程度はCRP<CWP<FMとなる(図1)。


線維筋痛症は、多彩な症状や疾患が背景にある慢性痛である。
慢性広範痛症(CWP)は機能性身体症候群(FSS)とダブルようにも思えるが、名称としては背景にある広範な中枢性過敏症候群を想定すると、FSSの命名の方が妥当のようにも思える。

ところが線維筋痛症(FM)に至っては、筋の異常を思わせる指標は広範な圧痛(TeP)ぐらいで、筋病理に関する根拠は見当たらない。

線維筋痛症の診断基準も圧痛点の数に依存していて、主要な症状が筋痛にあるというだけの話だ。
背景の疾患も一様ではなく個性がある。

したがって、FM診断基準だけに従って線維筋痛症(FM)と決めつけてはならないし、その背景を考えると線維筋痛症候群(FMS)と呼ぶべき疾患なのかもしれない。

また、病態生理学的視点に立てばFMSは中枢神経系疾患であって、筋疾患の括りでは理解も解決もできないようである。
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by m_chiro | 2014-10-16 07:49 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)



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