カテゴリ:症例( 137 )
野球肘
中学三年の男子が、親の付き添いで来院した。
学校からの案内で、側弯症の検査を家庭で行うようにということらしい。
「肩甲骨の高さを比べて」異常があったら、専門医の受診をするようにとのことのようだ。
それで親が観察をした。極端に左肩が下がっている。
野球部に所属していて、右肘も痛めている。
それで私の治療室にやってきた。

側弯症の見方を親御さんに教えながら、前屈位ポジションをとらせても全く問題はない。
直立位になると、確かに左肩が下がっている。
部活のバッグを左肩からクロスで下げて通学しているのだろう。
確認すると、そうだと言う。なぜ左肩が下がるのか説明しながら、対策をアドバイスした。

さて、問題の右肘の痛みは、屈曲と外反時に肘頭部に内側・外側部の痛みがある。
腫脹は微小で、熱感もない。屈曲制限と痛みがある。外反ストレステスト(+)

2年生まで外野と1塁手を務めてきたが、3年からキャッチャーになった。
投球フォームの違いや投球動作の頻度が多くなり、肘への負荷が過剰になったのだろう。
4月頃から痛み出し、それでも練習や試合に出ていたところ、最近では痛みで投げられなくなったようだ。

タッチ&トークで必要な施療部位を求めると、メリディアン(経絡経線meridian)・クロスラインの調整と、右肘関節問題の優先に反応した。
メディリアンは左第3趾と右5指のクロスラインに停滞がある。
関連する筋力テスト(抑制評価)で後斜角筋、大腰筋、腸腰筋、梨状筋、大腿直筋、上部腹直筋が擦過刺激に対する抑制応答で低下している。
その停滞ポイントが腹部の左中部に認められる。
そのポイントにスピン・タッチを行う。
フロー状態になったところで、筋の抑制反応を再評価すると、すべてしっかりとした筋力が出るようになった。
この状態では、バッティングも期待できそうにないない。
聞くと、「全然打てない」と言う。

右前腕の円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋,尺側手根屈筋、浅指屈筋など、野球肘の基本筋が過緊張している。
圧痛点を探りながらリリースし、肘関節リアライメントを行う。
これで最大屈曲が可能になったが、最大屈曲での外反テストで肘頭内側部に多少の痛が残る。
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剪断ストレスに反応するようだ。

治療後に可動域も改善されてはいるが、外反テスト、と剪断ストレスに反応するので注意事項とアドバイスをしておいた。

少年の野球肘は、無理をすると再発を繰り返し、ついには屈曲不全になることがある。
専門医の診察も受けていないので、軟骨部の傷害も含めて画像確認をすることが望ましいだろう。
1カ月ほどは投球を止めること。
在宅エクササイズとして二軸関節のストレッチを指導した。
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by m_chiro | 2016-06-24 17:38 | 症例 | Trackback | Comments(0)
タッチ&トーク
中学生の水泳部選手が地区大会を控えて、コンデショニングにみえた。
両膝と腰に鈍痛あると言う。

治療に当たって重視していることのひとつに「傾聴」がある。
このブログの中でも再三紹介したことがあるJ.P.バラルD.O.の最初の訳本が刊行されたのは1990年のことだった。「内臓マニピュレーション」という本である。
この本を読んで、「傾聴」という概念に、とても関心を持った。
手を添えて体の状態を聴くというもので、ロリン・ベッカー「Listening(傾聴)」と呼んだ方法のようである。

触診すべき部位に手を置くと、受動的に置かれた手が内臓の形にピタリと合致し、内臓の活動に導かれるように評価できると解説されている。先入観を持たずに内臓の自動力に耳を傾ける評価法なのだろう。
徒手治療家は、何らかの手法で「傾聴」を使っている。
体の声を聴く、とでも言おうか。
鍼灸師の脈診なども「傾聴」と呼ぶべきものなのだろう。
その「傾聴」の在り様を追究しているうちに、体と対話する手法が身についてきた。

私自身は、それを体と会話するという意味で「ボディ・トーク」と呼んでいた。
ところが、最近ネット検索をしたら「ボディ・トーク」を商標とした協会があることを知った。1996年に創始されたInternational BodyTalk Association(IBA)という世界的な組織である。
創始者のDr. ジョン・ヴェルトハイムはカイロプラクターであり、鍼灸師でもある。
ホロニックな体が持つ「天生の知恵(インネイト-ウィズダム)」に、コミュニケーションの損なわれている箇所を尋ねる」方法で体を診ることに主眼を置いているようだ。
体のどこに尋ねるのか、と言うと「インネイト-ウィズダム:天生の知恵」らしい。その名称が、いかにもカイロプラクターらしい。
この方法もカイロプラクティックの亜流なのだろう。
そんなわけで、私が「傾聴」からヒントを得て使っている方法を「ボディ・トーク」と呼ぶのは止めることにした。
何しろ、IBAという組織も知らなかったし、そのような名称の手法が存在していたことも知らなかったわけだ。
これからは、仮に「タッチ&トーク」とでもしておこう。

さて、この「タッチ&トーク」を使って、この患者さんを傾聴すると、問題が3つ指摘された。
1つは筋・筋膜問題、2つめは神経系、3つめは内分泌系である。
更に焦点を絞っていくと、筋・筋膜問題はメディリアン(身体の経線系)とベクトルの問題を優先するようにと応答がある。
メリディアン(経絡経線meridian)は経絡にも似ている経路かもしれないが、アナトミー・トレインなどの概念である。
メディリアン問題の結論は、左下肢の優先で第5趾(経絡では膀胱系)で、それは肩甲下筋との相関に反応していた。
筋力テストで評価すると、長腓骨筋、前脛骨筋、外側腓骨筋、肩甲下筋への刺激で抑制される。
治療点を左第5趾からフロー状態の停滞部位に求めた。
そのポイントから、肩甲下筋へのフロー状態が導かれるようにスピン・タッチでリリースした。
その間、30秒ほどだったろうか。
筋力を再評価すると、しっかりとリリースされている。
刺激運動を行わせても、それらの筋力が抑制的に作用することはなくなっていた。

ベクトルについての詳細は、また別の機会に書くことにするが、肩甲下筋に絡んで上腕と下腿が連動した問題だから肘関節を安定させるようにという指摘だと受け取った。
この中学生は、自由形と平泳ぎの二種目の選手である。
きっと上肢の力に依存して、膝を使った下腿の連動とのバランスが悪かったのかもしれない。練習での注意点として、そんなアドバイスをしておいた。
膝への直接的な治療はしていない。
それでも、動きによる重苦しい症状が出なくなった。

神経系では、髄液の循環と髄膜、硬膜のテンションのリリースを行ったが、それも応答指示で行った。
左S3-C2-C6の硬膜付着テンションをリリース、内分泌系では視床下部を調整し、評価と再評価を確認して治療を終えた。

きっと、県大会への道を拓いてくれることだろう。
ひそかに応援することにしよう。
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by m_chiro | 2016-06-18 12:54 | 症例 | Trackback | Comments(0)
高度感音性難聴の女児
春休みになったせいだろうか、子供や学生が治療にみえる。
先日、父親の治療に伴って小学5年生の女の子もみえた。

彼女も腰痛を訴えている。スポーツクラブで頑張りすぎたようで、立ち座りでの動作痛である。
右殿部が痛むようだ。たいした傷害ではなく、すぐにその場で緩解した。

ところが、治療が終わって父親が「この娘、難聴になったんだ」と言いだした。
いろいろ聞いてみると、9か月ほど前に右耳が聞こえないと言いだしたらしい。
病院で検査を受けた。CTもMRIでも異常所見はない。

結局、原因不明の難聴で、ほぼ聞こえていない、という検査結果だった。
病名も難聴という言葉だけは覚えているが、正式な病名は家に帰って診断書を確認しないと分からない。

もう一度、彼女の難聴をみることにした。
255Hzと128Hzの音叉で空気伝導と骨伝導を調べると、空気伝導はどちらも「聞こえない」という
骨伝導では両方とも「少しは聞こえる」が、128Hzの方が少しましかな。
でもRinneテストでは、両方とも聞こえない

ボディトークで障害部位を絞ると、「内耳」で反応した
内耳の部位の骨をターゲットにして、骨のフロー現象をみながら停滞部位をリリースした。
追加でエネルギーワークを加えた。
結果、空気伝導が聞こえ出した。
Rinneでも、少し聞こえる。


翌日、また治療にみえた。だいぶ聞こえ出したらしい。
診断書には「高度感音性難聴」と書かれている。

更に、ボディトークに従って、蝸牛部位も加えて治療を進めた。
これまで4回施療した。
結果は、かなり聞こえるようになっている。

徒手療法の可能性も侮れないものがありそうだ。
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by m_chiro | 2016-04-01 12:50 | 症例 | Trackback | Comments(0)
なぜ炎症徴候が慢性的に続いたりするのだろう
これまでみてきたように身体組織に有害な刺激が加わると、まずは警告信号としての痛みが起こり、損傷組織の除去や修復が促される。
この時期の生理反応が炎症で、4徴候(①疼痛、②発赤、③熱感、④腫脹)が伴う。
この生理反応の機序に関するキーワードは血管反応に起因するもので、血管が拡張し、血流が増加し、血管透過性が亢進する。
こうした炎症徴候は、受傷から10日ほどでその役割を終えるのが一般的な経過とされている。
にもかかわらず、慢性的に炎症が続くケースが少なからずある。
とても厄介な病態が作られるわけであるが、そこに介在する機序はやや趣が変わっているようだ。

そこで、最近施療した患者さんの症例から、その慢性炎症の機序を考えてみることにしたい。
ここに紹介する患者さんは中年の婦人である。
かれこれ2年近くも、左足首の炎症徴候に悩まされてきた。
右足首が大きく腫れあがり、距骨も内側に転位していて(外返し)、特に内果周辺の腫脹が顕著である。

発赤と熱感を伴い、ジャンプ徴候の痛みがある。
その結果、正常歩行ができずに跛行している。
運動・機能障害が伴い、慢性的な炎症徴候を示す患者さんである。
ついに彼女は職を辞す破目になるのだが、職場から解放されても下腿筋群に有痛性痙攣(こむら返り)が頻繁に起き、夜間痛もあり、睡眠も妨げられていた。

結局、退職して足首への過重負荷を軽減させようとしたことは、何の解決にもならなかったわけである。
それでも、彼女は決して治療を怠ってきたわけではない。
むしろ積極的にいろんな治療を試みたあげく、大学病院の整形外科を受診している。
診断は「偏平足」だった。
特注の足底板が作られたが、それでも一向に腫れも痛みも終息しなかった。

この症例で、私が注目したことは「有痛性痙攣」が頻発していることだった。
そこで、その筋・筋膜に対応してみた。
加えて、体性感覚のみならず視覚、前庭系からの調節も行ったが、これらは重力場における身体の空間認知機能を確立するのが狙いだった。
その上で、貯留した足首の腫脹には伸縮性テーピングを用いて補助的なポンプ作用を促した。

手短に言えばそれだけであったが、その結果は劇的なものだった。
治療1週間後の再診時には腫脹が3分の1に縮小し、歩行や随伴症状も良好になったのである。
この長く続いた炎症徴候の終息に、いったい何がどのように作用したのだろう。
慢性の炎症徴候を考える素材になりそうだ。

腫脹をもたらす元凶はプロスタグランジンによる、と生理学で学んだ。
プロスタグランジンの生成を抑えるために、この患者さんは長く消炎鎮痛薬(NSAID)を服用し続けている。
それなのに腫脹は治まることなく、2年間も続いたことになる。
そもそもケガや火傷などでは、肉体的危機を回避するための警告として発痛物質が作動する。
警告は感覚器から脳へ伝えられるが、警報の大小(あるいは強弱)で言えば大は小を兼ねる。
そのための増幅物質として、プロスタグランジンが重要な働きをしているのだろう。
だからプロスタグランジンは、常に体内で生成され、緊急時には迅速な対応に備えている。
まるで「眠らない物質」である。

プロスタグランジン生成の素材は細胞膜であるから、材料には事欠かない。
その上、脂質の摂取も日常的である。
だからと言って、痛みや腫脹の炎症徴候をプロスタグランジンだけに責任を押し付けるわけにはいかない。
なぜなら、プロスタグランジンは反復的な筋や腱の運動でも生成されているからで、そのことが即ち発痛を起こすとは限らないからである。

また、NSAIDを事前投与していることで、プロスタグランジンの生成を抑えることができるという研究もある。
では、2年間も続いた患者さんの炎症徴候が、なぜ簡単な手法で止まったのだろう。

その疑問を読み解くと、痛みや炎症の根本的な問題に合点がいく。
さて、この患者さんは「思い当たるケガの経験はない」と言っていたように、2年間も損傷が続いてきたわけではないのである。
だから続いている腫脹は、プロスタグランジンに主たる責任がないことは明らかである。
その証拠に、NSAIDを服用しても効果がなかった。
したがって問題は緊急性のAδ線維の受容器興奮にあるのではなく、C線維のポリモーダル受容器にあると推測できる。

腫脹は血管透過性の亢進の問題である。
血管透過性とは、高分子のタンパク質や血球のような比較的大きなものが血管外へ出る動きが高まっていることである。
筋肉などへ走行する小動静脈の血管を拡張し、血管透過性を亢進するのはポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドなのだ。
要するに、ポリモーダル受容器が興奮状態にあるのだろう。

侵害刺激は、痛覚受容器を直接興奮させることで炎症メディエーターをつくる。
それはブラジキニン、プロスタグランジン、セロトニン、ヒスタミンなどであるが、おもしろいことに直接的にポリモーダル受容器を興奮させる物質は「ブラジキニン」だけのようだ。
その他の物質は間接的にポリモーダル受容器の興奮にかかわるだけで、直接的な作用はほとんどない。
そしてブラジキニンは、低濃度でもポリモーダル受容器を興奮させることが知られている。このことは極めて重要なポイントでもある。

さて、この患者さんは身体の空間認知機能のアンバランスによって、身体負荷を特定の筋・筋膜組織が代償せざるを得ない状況が続いたのだろう。
その筋・筋膜への機械的刺激が持続的に加わることで、ポリモーダル受容器が侵害され続けたものと考えられる。
この刺激が解除されれば、ポリモーダル受容器の興奮も沈静化する。
重要なのはプロスタグランジンではなく、ポリモーダル受容器を侵害し続ける刺激なのだろう。
ポリモーダル受容器は、効果器としての多面的な作用のひとつを発揮すべく、活動し続けるのである。
そしてポリモーダル受容器は、小動静脈の拡張と透過性の亢進に働く。

筋・筋膜には、ポリモーダル受容器が多数存在している。
このポリモーダル受容器の機械的受容器が刺激され続けているかぎり、そこでは慢性的に炎症徴候の下地が消えないことになる。
直接的であろうと、間接的であろうと、筋・筋膜への対応は痛み治療の鍵だと思う。

たとえ長期的な経過を辿ろうとも、直接に末梢受容器が介在している病態は、侵害受容性疼痛の延長線上にある。
要するに、末梢受容器の生理的な反応に他ならないのだ。
大事なことは、そこから厄介な「痛みとしての病」に転化していくことをくい止めることである。
痛み治療における最初の役割が、そこにあるように思う。
(カイロジャーナル連載・「痛み学NOTE」の原稿提出に当たり、以前の記事を修正したものです。)
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by m_chiro | 2016-01-19 23:29 | 症例 | Trackback | Comments(0)
バク転で首が痛くなった!…小1女子
3日前に布団の上でバク転の練習をしたという小学一年生の女の子。
母親が介助してくれたのだそうだが、タイミングが悪く失敗。
その失敗から首が痛くなった。
痛みが引かないからと治療にみえた。

頸部の可動と痛みの発症部位を観察すると、左回旋と前屈位で右の上頸部に痛みが出る。
体幹が上下でイレギュラーな反応がある。

左足関節外果をCWスピンタッチでリリース。
左眼球が右下方向にフロー現象の停滞がある。
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頭位が右側屈している。
右下方向に眼位をホールドさせて、右肩関節からインパルスを6回送る。
これで頭位の傾斜と眼球のフロー停滞がリリースされた。

再評価をする。
頸部の左回旋と前屈での痛み(-)
これで様子をみてもらうことに….。

眼球の運動機能は頭位や姿勢運動制御系と深いつながりがある。
生物学的なフロー状態が停滞しても、生得的な身体バランス機能に問題が起こることがある。
だから、眼球の運動機能や生理機能はチェックポイントである。
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by m_chiro | 2015-11-27 09:45 | 症例 | Trackback | Comments(0)
器質因とその影響を考える
所用で街に出た。そこで、4カ月ほど前にみえた患者さんにバッタリ出会った。
この患者さんは30代の独身女性である。
クリニックで受付事務として働いている。
彼女は1カ月前から腰痛になっていて反復する、というので治療にみえた。
車の乗り降り、起立座位、前屈位での右腰部の痛みを訴えていた。

クロストークがある。だからイレギュラーな身体反応がある。
混線は胸骨ラインから起こっているようだ。
胸骨ラインをリリースすると、腰部での身体の捻じれ現象が逆転した。
腰部の左側屈現象を左腓骨でリリース。
下腹部が気になり、触診してアレッと思った。
子宮筋腫の徴候か….。

婦人科の検診の有無を尋ねると、「ない」という。
「下腹部の膨らみですか?….」

本人も気づいていたらしい。
勤め先のお医者さんに相談したら、「大丈夫だ! 中年太りだよ!、中年になると下腹部に脂肪がたまるんだよ」と言われたとか。
だから中年太りだと思っていたようだ。
月経に不調はない。

いやぁ~、中年太りではないと思うよ。むしろ、あなたは細身のからだでしょう。
婦人科で診てもらうべきだよ。
たびたび思い当たる原因もないのに腰痛になるのも、もしかしたら影響されているのかもしれないでしょう。

どこかに局所的な病理の問題があっても、その影響は他にも及ぶ。
部分と全体の関わりはとても複合的だと思う。
あれから4カ月も経っていた。ふと、彼女どうしているかな….、と思うこともあった。

街で私を見かけたらしく、駆け寄ってきた。
「あれから腰痛は起きなくなって、よかったです!」と第一声。
それより婦人科に行ってみた?
「はい、子宮筋腫と言われました。手術するにも、薬で小さくしてからの手術になるそうです。たぶん年内には手術するかもしれません。」

全体論の治療からみると、医療は局所治療だ、と一口に決めつける。
が、器質因となっている局所を解決することで、全体的な不調や思わぬ症状も改善した症例によく遭遇することもある。
だから部分と全体という括りは、そんなに簡単なことではないのだろう。
逆に、局所に対するひとつのアプローチで全体が変わる、なんてこともまずない。
もしその場で変わったとしたら、一過性の身体反応に過ぎない、と見た方が無難である。
だから長続きしない。元に戻る。

それでも、反復刺激によって身体が施術者の望む状態に変化することはあり得る。
それは身体機能のプログラムにアクセスすることであり、徒手療法の治療はこうした身体反応を引き出して、身体再構築する教育を行うようなものだろう。
一過性反応の頻度が増えることで、からだも施術者の意図に添って好転する。
それが、どの部位で良く反応するか、という施術者の評価の指標にもなるわけだ。
「治療はむやみに行うべきではない」が、一局所のアプローチですべてが解決するというそんな安易な方法などもない。
手術で病理的原因を取り除いたとしても、術後に機能的問題が残ることもあるのだから....。

彼女の頻発する腰痛が子宮筋腫とどう関わっていたかは分からないが、器質因とその影響について思いを巡らしてみた。
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by m_chiro | 2015-11-19 12:28 | 症例 | Trackback | Comments(0)
左背外側前頭前野の機能低下と扁桃体の過活動を、ストレス相関から観る
今年の徒手医学会(10.11~12)で、吉田たかよし先生(本郷赤門前クリニック院長)が「ストレスに負けない脳のマネジメント」と題して特別講演を行った。
吉田先生はNHKのアナウンサーの経歴を持つだけに、とても巧みな話術である。
心をどのようにコントロールしたら、人生でぶつかる問題に対処していけるか、そんな具体例を楽しく紹介していただいた。

ストレスは姿勢に現れること。
笑顔は、作り笑いでは不自然であること。
「微笑みうつ病」が増加していて、ポジティブ思考には落とし穴があるという。
心配事があると、外では無理して明るく振る舞うようになり、家庭ではふさぎ込む。
作り笑いにも、そんな無理が現れる。
フランスの神経内科医・ディシュンヌは、本来の笑顔を作ることで脳への表情フィードバック効果が現れる、と説いた。
大頬骨筋と外側眼輪筋を収縮させる笑顔を作ることで、これを「ディシュンヌ・スマイル」という。
頬の筋肉と目尻の筋肉が収縮して、心からの笑い顔になる。
その表情筋が脳にフィードバックされて心が前向きになる。
これなどは最も簡単に実践できるストレス対応かもしれない。

PET(光ポトグラフィ検査)で、脳の血流量を可視化すると前頭野の賦活系に特徴があることがわかってきた。右前頭野が優位になっていて、左背外側前頭前野(DLPFC)が機能低下し、扁桃体が過剰活動しているという機能的特徴が明らかにされている。
吉田先生のクリニックでは、左背外側前頭前野に磁気刺激治療(TMS)で刺激することで、うつ病などにも抗うつ薬を処方することなく治療効果を上げていることを紹介された。

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(「新宿メンタルクリニック」案内パンフレットより転載)

私も、ストレスを抱えた患者さんや、DLPFCと思われる部位に局所的な緊張を抱えた患者さんには、DLPFCと扁桃体との相互機能バランスを調整する手法を試みている。
それで、吉田先生の講演は納得しながら聴くことができた。

症例から:
例えば最近では、こんな患者さんがみえた。
中年の女性である。首、肩こり、腰痛、目の疲れなど全身的な不定愁訴を訴えていた。
特に肩こりがつらく、眉間部分には違和感があるらしい。
右後頭下部に過緊張がある。そこから身体フローの停滞を観ると、左股関節で停まる。
左大転子から骨頭にむけてスピンタッチ(CW)を行うと、後頭下部が8割ほど緩んだ。
再び追試すると、左腓骨の外顆で止まっている。
腓骨のリリースで後頭下部がイーブンになる。
まだ右側頭部に下方での停滞がある。
そこから流れを辿ると、胆嚢から盲部まで停滞軸がある。
乳製品にも反応する。シュークリームをだいぶ食べたという。乳製品、脂質成分を控えてもらうことにした。
それでも、左背外側前頭前野部に停滞感が強い。
左眼球は左側方と左上外側の2方向で停滞がある。
左背外側前頭前野から停滞方向に向けてスピンタッチ(CW)してフロー状態をつくる。
そここから扁桃体部との干渉させるスピンタッチを行った。
すると身体フロー状態ができて、いい感触になった。

DLPFCにおける機能の問題は反応の回路をリセットされないと、繰り返しに再現される。
何らかのストレス絡みではないだろうか、と尋ねてみた。
彼女は、実母を見送ったばかりでまだ心の整理ができていないこと、仕事上の問題で頭から離れないことがあること、などなどを語ってくれた。

そこで閉眼してストレスに関わっている事案をリアルにイメージさせる。
すると、再びDLPFCに停滞が出現する。
眼球も同様の方向に再び現れた。

そこで、ストレス事案をイメージさせて、眼球を左外側にホールドして、左肩関節へリコイル刺激を6回ほど入力した。
このメソッドは、小脳を介して眼球運動方向の停滞をリリースし、DLPFCへのフィードバックを促すことを狙っている。
これでストレス事案をイメージさせても、DLPFCは安定した状態を維持できるようになるまで続けるのだが、この患者さんは2回でリリースされた。
2つ目のストレス事案には反応しなかった。

こうしたDLPFCの機能を刺激することで扁桃体の過活動を抑えて、ストレスにも対応できるようになっていった。症状も好転した。

DLPFC部に停滞を観たら、扁桃体、ストレス関連を併せて治療することで、いい結果が期待できるように感じている。
徒手医学会での吉田先生のご講演に、治療の裏づけとすべき示唆を得た思いだった。
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by m_chiro | 2015-11-02 10:41 | 症例 | Trackback | Comments(0)
腰が痛くて動けない…!、実は感染症だった
50代の主婦が、御主人の肩にもたれて、やっとのことで来院した。
2週間以上も前から腰に違和感を感じていたが、5日ほど前から悪化していった。
私のところに予約の電話を入れたが、学会に出席していて臨時休診だった。
我慢できずに整体治療院でみてもらったそうだ。
ところが状態は悪化するばかりで、ついには朝起きあがるのに20分もかかる羽目になった。
起きあがると、身体が歪んで真っ直ぐに立てない、歩けない。
寝てるほかないが、それでも痛い、つらい。
そんな状態で、休日開けに治療にみえたのだった。

とりあえず治療ベッドに寝てもらって、聞き取りを行った。
腰痛で思い当たる原因らしきものもない、と言う。
身体をみたが、どう観ても腰に問題があるようには思えない
一番気になったのは胸廓が捻れて固着していることぐらいだった。
相対的に腹腔と腰部のトーンが低下している。

風邪でもひいた?
「風邪はずっと治りきっていない感じで、治りかけると、また孫からうつされる。だから、ずっと風邪気味状態」なのだそうだ。
咳も熱もなく、鼻かぜのような状態だという。

熱は何度くらい?
「37度切れるくらいだと思う」
風邪が長引いて、身体全体が弱っているんじゃないの。
腰痛は、きっとそんな体の表現なのだろう。腰に問題があるとは思えない...。
「でも腰が痛くて動けないのに……」、と不満そうだ。

Dr.Langの自己免疫疾患療法(L.A.S.T.)で用いる検査用液の寄生ウイルス類に、筋のトーンが抑制的に反応する[混合パラサイツ(+)、7ウイルス(+)、エプスタインバール(+)、ヘルペスⅡ(+)]
その過敏性を解消して、胸郭をリリースし腹腔部との緊張度のバランスを調整した。
加えて、前後/水平/回旋軸における軸停滞を下腿からリリースした。
これで様子を見ることに…。

翌々日に、朝一番でみえた。
今度は、一人で歩けるが、杖をついて治療室に入ってきた。
どうしたの?
「腰は楽になってきたけど、今度は機能の夜に下腹部が痛んで、朝には左の膝が腫れて歩けなくなった。杖をつかないと歩けない。何をしたわけではないのに…」
確かに膝が腫れている。

あなたの平熱はどれくらいあるの?
「35度5分前後かな…」
それじゃ37度以下でも、あなたにとっては熱があるってことじゃないの!

迂闊なことに、患者さんの申告をそのまま受け入れてしまった。
ここではじめて体温を計った。37度3分ある。感染症だろう。
このまま病院での検査をリクエストした。

翌々日、検査結果表を持参して、また治療にみえた。
白血球↑、赤血球↓、CRP↑、尿検査でも細菌混濁がある。
抗生剤を処方されて、「随分と楽になった」ようだ。
膝の腫れはまだあるが、ひとりで歩けるようになっている。

「あの腰の痛みは何だったんだろうと思うほどに、腰の痛みはなくなった。これからは風邪を侮らないようにします。あまり辛くて、このまま死ぬんじゃないかと思いました」。

「かぜ症候群」は「鼻かぜ」に重点が置かれているとされているようだが、今回の患者さんもいわゆる風邪症状は潜伏的に推移した。
ところが身体内部では細菌が繁殖していき、ついには筋や関節もターゲットにしたのだろう。
もっと早い機会に治療にみえていたら、早くに身体を立て直すことができただろうに、と思う。
重篤な疾患ではなくて、先ずはホッとした症例だった。
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by m_chiro | 2015-10-26 10:31 | 症例 | Trackback | Comments(0)
発症要因は多様である
右肩が痛い、と言ってみえた婦人。
夜間に痛みで目覚める、のだそうだ。
もう一カ月近くになる。

でも日中は気にならないから、そのうち治ると思っていた。
確かに可動域も正常で、痛みもない。
左右の肩周辺の筋を触診すると、痛み右肩周辺の筋のトーンが相対的に緩い。

仰臥位になってもらったが、すぐに痛みが起こるわけではなさそうである。

右肩から身体フローが停滞しているところを感じて、その部位にタッチさせて検査をする。
鎖骨や小胸筋、胆嚢周辺….、どこにタッチさせても右肩周辺の筋のトーンに変化はない。

あれ??…と思って右肩から頭部へとフロー感覚を移動させて観ると、右のTMJでヒットした。
右の顎関節だ!
下顎を右から左へ側方偏移させることで、肩周辺の筋のトーンが抑制されているのだ。

「歯を治した?」

「2か月くらい前に、被せていた冠が取れたので新しく付け直した。でも、歯の具合は悪くないけど….。顎の異常で肩が痛くなるの?」

「右肩は寝ているときだけなんでしょう? 動かしても痛まないし、関節も正常に動いているよ」

「えっ..、なんで? でも、そう言われれば、そうだね」

「姿勢など筋のバランスを調整しているところは、体のあちこちにあるんだよ。顎関節もその重要な役割をしているから、顎の異常で問題が発生することはあり得るんだよ。歯を治してから、噛むことにも不都合なことは全然なかったの?」

「…..あ~、そう言えば、ジュースを飲んだとき、入っていた氷の塊を噛み砕いて、すごく痛い思いをしたことがあった。そういえば、その後から肩が寝ているときに痛み出したんだ…」

それで顎関節の治療を行う。
咬筋と下顎頭の位置を調整して、下顎が右側方偏移で正常に動く軌道を修正した。
右肩周辺の筋のトーンが、いい感じに戻ってきた。

街で患者さんのご主人に偶然会った。
家内がよくなった、今度は私もみてもらうよ!

身体の変調には何かわけがある。
それも実に多様である。だから身体機能の相関をみることは面白い。
いつも上手くヒットしてくれるといいのだが、人をみることは難しい。
その謎に向かって探求を続けたい。
うまく原因にヒットすると、治療家にとっても快感である。
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by m_chiro | 2015-10-05 09:17 | 症例 | Trackback | Comments(0)
除外しなければ、なにも始まらないことがある
ある男性の患者さんが治療にみえた。
スポーツマンで立派な体躯をしている。
腰から左下肢の痛みを訴えている。
最初はこむら返りのような痙縮が起こって、それから腰痛や左下肢痛に悩まされるようになったようだ。もう一カ月ほどになる。

整形外科を受診して、X-Rayから「とても素晴らしい脊椎で問題はない」とされたが、痛みの原因は分からない。鎮痛薬と坐薬と湿布を処方され、リハビリとして腰部の牽引治療が続けられた。なぜ牽引なのかも分からないが、それが定番の治療なのだろう。
改善しないので治療にみえたのだが、ありふれた症状とはいえ、よく話を聴いてみると奇妙な病態であることが分かった。

基本的に痛みが増悪するのは寝ているときだという。
痛み出したら起き上がって歩く、そうして動いていると次第に落ち着いてきては再び寝る。
鎮痛薬と坐薬を使っていて、調子のよい時には起き上がる回数も少ないが、ほとんど一晩で数回は立ち上がっては落ち着かせて寝るということの繰り返しだそうである。

ということは、立って動いているときが最も楽な所作ということにある。
通常の腰痛の病態とは逆の増悪因子である。
日常の立位での仕事や通常の活動は、なんとか消化しているという。
生化学検査やMRIの検査の有無を聞いてみると、健康診断では良好で内科的に気になる症状はないとのことだった。

訴えは、左大腿四頭筋部や内転筋部、中殿筋部にある。
ところが筋・筋膜由来の硬結や圧痛など、相応の所見は見当たらなかった。
さて、この病態から何を推測すべきだろう。
私は、硬膜か髄膜の刺激症状ではないかと疑った。
X-Rayで骨の構造的病理的所見に異常がないのであれば、MRIでの画像所見で確認する必要がありそうである。

あくまでも推論とした上で、私の意見を伝えた。
1週間後に電話があって、MRIを撮ったという。
夕方にやってきたときには跛行状態だった。
どうしたのかと尋ねると、MRI撮影中から痛み出してどうにも治まらないという。
MRIの結果は明日になるということだが、痛みが治まらない。
いつもは立って動いているうちに楽になるのに、歩くのも辛い。
まして臥位になることはできなかった。

座位は比較的楽だというので、大腿部を触診すると、左の四頭筋と筋膜張筋まで緊張度が無くなっている。
皮膚上からのタッチで、筋・筋膜をリリースしてみた。
やがて痛みが軽減し四頭筋に緊張が戻ってきた。
筋紡錘への刺激を考慮して伸縮性のテーピングで補助をする。
これで歩行ができるようになり、通常の状態まで動けるようになった。
臥位をさせてみると可能だが、長い時間には不安がある。
筋・筋膜をリリースして痛みが軽減したからといって、そこに原因を求めることはできない。
臥位になると悪化するからで、どうも硬膜・髄膜を刺激する要因がありそうだ。

明日になればMRIの結果が分かるだろうから、その旨を伝えた。
翌日、電話があった。
腫瘍がみつかったらしい

ありふれた症状であっても、どこか理屈に合わなかったり、奇妙な発症の仕方をするケースでは、除外する見立てをしなければ何もはじまらない。
そんなことを再確認した症例だった。

快癒を願うばかりである。
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by m_chiro | 2015-09-10 11:55 | 症例 | Trackback | Comments(0)



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