カテゴリ:解剖実習( 6 )
NCA中国に行く。 ④解剖の試験が単位認定に
この記事は、1993年に日本カイロプラクティック・アカデミー(NCA)の学生を引率して行った第一回。大連医科大学での解剖実習授業を記事にしたものです。1994年に、会誌「JS Club」に掲載されました。


NCA中国に行く。
④解剖の試験が単位認定に

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解剖実習の最終日には、大学側で行う試験がある。医学部の学生と同じ方法で行われる。
献体に30のタグが付けられ、一問一分のタイムリミットで、一人ずつ答案用紙に名称を記入していくのである。
試験官が数人、不正をチェックするために配置されている。
タイム係りが、笛で一分間隔に時間を刻む。大学での成績表が、そのままNCAの単位として登録されるのである。皆の顔も真剣だ。

試験の結果が発表された。
22名の平均点が92点という高得点。
決して問題が易しかったわけではない。かといって私たちが特別優秀だったというわけでもないのだろう。それは、教授陣の懇切丁寧な指導の賜物以外の何ものでもなかったように思う。

通訳を介さないで済む応答、日本語に不自由しないで学べる実習がもたらした恩恵は実に大きかった。
大学側には、最大の配慮と誠意をもってこの実習を担当していただいたことを感謝しておきたい。
お互いの国情の違いを乗り越え、解剖学という共通の学究を通して心をひとつにした10日間であった。
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さよなら謝恩パーティで「大和魂の国から来た皆さん、一日10時間熱心に実習に集中したそのファイトを学んだ」とおっしゃってくれた孫教授の言葉が、疲れ切った私たちを癒してくれた。
パーティ会場には、実習を成し遂げた満足感と達成感が溢れている。
大学関係者と酒を酌み交わし、肩を抱き合い、歌を唄い、再会を誓いあった。
孫璽玉教授が、声をつまらせて別れを惜しんでくれたあの涙を、私たちはいつまでも忘れないことだろう。
「友誼長存」、使用した解剖学の教科書に残されたサインが、今でも胸を熱くする。
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by m_chiro | 2014-01-14 17:57 | 解剖実習 | Trackback | Comments(0)
NCA中国に行く。  ③解剖実習で遭遇したこと
この記事は、1993年に日本カイロプラクティック・アカデミー(NCA)の学生を引率して行った第一回。大連医科大学での解剖実習授業を記事にしたものです。1994年に、会誌「JS Club」に掲載されました。


NCA中国に行く。
③解剖実習で遭遇したこと


今回、特に印象に残ったことをいくつか紹介しよう。
中年の女性の腹部を開けて美しい大網を除くと、まるでウインナーソーセージを意図的に並べたように整列した小腸が現れた。
c0113928_1714880.jpg教授も、数十年解剖に携わってきて初めて見た、と言う。
そんな珍しい献体も、なぜこんなに規則正しく整列しているのか一緒に調べましょう、と惜しげもない。
結局、腸間膜が通常より随分と短いことが判った。
引っ張り出した小腸を離すと、すぐに元の位置に整列してしまう。
これではイレウス(腸閉塞)も起こるまい。

頭部、顔面部の解剖はなかなか難しい。馬技師が脳を取り出すデモを行った。
アメリカでのデモは、電気ノコであっという間に取り出してしまったが、今度はあの名人・馬技師の手にかかるのだ。

カイロプラクティックでは脳硬膜を重要視しているので、硬膜はきちんと残してほしい、とリクエストを出す。馬技師は大工道具のような小道具で、先ず頭蓋を外し、硬膜を奇麗に残して、大脳を取り出して見せた。大脳鎌、小脳テント、矢状静脈洞、脈絡叢、脳室、脳神経と、靭帯の神秘の究極に入り込んでいく。
静まり返る教室。言い知れぬ感動。
不思議な空間で、多くのことを感じた時間であった。

私たちは仙腸関節も見たい、と申し出た。
この強靭な関節を開くのは大変な作業である。馬技師も初めての試みだと言う。
開いて見る意味があるのか、と首をかしげる。
アメリカのカイロ大学での実習とは違って、医科大学ではカイロ的な視点を持っていないのだろう。
カイロプラクティックではとても重視している関節であることを説明してとにかく開いて見ることになった。
技師は、最初は難渋していたようであったが、さすが10分もしないうちに奇麗に開いて見せた。
実習の初心者では、こうはいかない。
だから難しい局面になると、解剖技師の出番になる。

私はJanse&Illiが報告したイリィ靭帯に注目したのだが、残念ながらはっきりと確認することができなかった。
イリィ靭帯は関節包内にある骨間仙腸靭帯とみられ、Fred.Illi D.C.が発見した靭帯である。
Illiは、その著「The Vertebrall Column」の中で、イリィ靭帯発見の苦労を述べている。
最初はいくら仙腸関節を開いても何も発見することができなかったようだ。
もう研究を打ち切ろうとした時、腸骨の骨膜の下方から調べる方法を思いつき、2回目のチャレンジで、ついにその靭帯を発見したという。
追跡調査を行ったFreemen,Fox & Richrdは、検体の75%にこの靭帯の存在を確認したことを報告している。
関節面に触れると小さな凹凸を持った表面は、ぬるぬるした滑液のような感触があった。

解剖に臨むたびに、常にテーマを持って向かうのだが、それが達成させられたり、次の課題に引き継がれたり、新たなテーマが出来たり、それが解剖実習の堪えられない魅力でもある。
献体の死と向き合いながら、そこから学ぶ側にはまたぞろドラマのようにいろいろなテーマが投げかけられる思いがしてくるのだ。
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by m_chiro | 2014-01-11 17:06 | 解剖実習 | Trackback | Comments(0)
NCA中国に行く。 ②-2解剖実習はじまる
この記事は、1993年に日本カイロプラクティック・アカデミー(NCA)の学生を引率して行った第一回。大連医科大学での解剖実習授業を記事にしたものです。1994年に、会誌「JS Club」に掲載されました


NCA中国行く。
②-2解剖実習はじまる


献体は全部で五体。20歳前後の感染症で亡くなられたという女性。30過ぎの女性、40代の男性が二体、60代の男性が一体。いずれも死後間もない遺体である。
献体の状態といい、年齢配分といい、こうした配慮は大学が私たちに示してくれた数多くの厚意のひとつであった。

c0113928_178239.jpg私たちは4人から5人が1チームとなってそれぞれの献体を解剖する。
皮膚をはがす作業から始まり、浅いところに筋肉を見る。筋肉表面を出して形や範囲を確かめる。
裏側から入ってくる神経、動静脈を確かめる。次第に深い層に進んで、内臓、脊椎、頭部、脳へと進めて行く。

私も過去3度ほどアメリカのカイロ大学で解剖実習を経験したが、一体の献体を40数時間で仕上げる実習は、時間的にもかなり無理なスケジュールとの印象を免れなかった。
通常、解剖は半日を一回として60回のスケジュールで行うそうだが、40時間では限界があって当然であろう。
今回の90時間のスケジュールでも決して充分とは言えない。
だが人間の集中力の限界も考えれば、この時間数はぎりぎりのところかもしれない。
それでも今回は内臓もよく見ることができた。

近年、カイロプラクティックも内臓治療のアプローチが盛んになってきている。
回盲弁、副腎、胸腺どれひとつとっても、百聞は一見にしかずである。解剖学の教科書で平面的に捉えていた認識やイメージが、実際に触れた時に一新させられることが多々あるのだ。
こうした解剖実習を終えた後に読む解剖学の成書は、生命を吹き込まれたように、不思議と読む人に馴染んでしまうのである。
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by m_chiro | 2014-01-11 16:14 | 解剖実習 | Trackback | Comments(0)
NCA中国に行く。 ②充実した医科大学での解剖実習
②充実した医科大学での解剖実習
②-1. 教授・指導スタッフ


大きな星が海中に落ちたという伝説から「星が浦」と呼ばれた星海公園が、大連医学院から一望できる。大学のキャンパスは、まるでひとつの町を思わせる広大さである。その中に、鉄筋8階建ての校舎が三棟、教務棟、学生会館、図書館、附属病院、教職員宿舎、学生寮、看護婦宿舎棟が何棟も建っている。

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私たちは第三校舎の解剖教室の一室を独占することになった。校舎前の花壇には赤と黄色のカンナが咲き乱れている。陽気は夏。雨の少ない土地で、缶詰状態の10日間が始まった。

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朝食を済ませ、午前7時には解剖実習が始まる。それから午後6時30分まで、一日10時間の実習に取り組むことになる。指導教授は午前と午後の2チーム編成で徹底したものであった。NCAで使用している教科書「解剖実習の手引き」(南山堂)が事前に大学側で検討され、詳細なスケジュールが準備されていた。

午前の部を担当した孫廷魁教授は日本の慈恵医科大学を卒業した70歳の老師だが、学生時代から大学ラグビーの選手だったらしくなかなかの偉丈夫。その上、エネルギッシュであった。

「頭部の解剖に入る前に、脳と脳神経について少し解説しましょう」と言って始めた講義が、何と延々立ちっぱなしでの1時間40分。日本語での名称を確認するために、一度だけテキストに目を向けた後は質疑応答も交えて立て板に水。迫力のあるその内容に、終わった時には誰からともなく拍手が沸き起こった。

午後の主任教授は孫璽玉教授。日本の大学病院で研修を行った経歴を持っている。温厚、誠実な人柄そのままに授業を進めてくれた。この二人の孫教授を軸に、若手の助教授・徐飛先生と馬堅妹先生がサポートする。徐先生は学究の人という感じで、実習生からの質問にも完全な答えを出そうと努力していた。馬堅妹先生は、助教授というよりも解剖教室に咲く一輪の花といった感じ。たちまち私たちのアイドル的存在となった。

特筆すべきことは「解剖技師」の存在である。技師の制度は中国特有の制度なのだろうか、解剖の「切り出す」作業のスペシャリストである。技師の資格は4ランクの免許制度になっているそうだが、すべて独学での資格試験をめざすのだという。私たちの教室で常にその妙技を見せてくれた馬岩技師の存在が鮮烈な印象として残っている。

彼らはただ切り刻むだけの職人ではない。教授の要望に応じて、神経であれ何であれ正確にそれを取り出して見せる。皮膚の上からその部位を想定する。皮下を何ミリ切ると、どの組織が出る。そこから筋肉をどの程度切ると目的の神経の分枝が出るといった感じで、正確、迅速、華麗なデモ解剖には感服の連続であった。せめてカイロプラクターも、体表からその下に潜む組織や神経、血管などを正確に理解する必要があるのだろう。
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by m_chiro | 2013-12-31 12:33 | 解剖実習 | Trackback | Comments(0)
NCA中国に行く。①中国の医学と学問
この記事は、1993年に日本カイロプラクティック・アカデミー(NCA)の学生を引率して行った第一回。大連医科大学での解剖実習授業を記事にしたものです。1994年に、会誌「JS Club」に掲載されました。


NCA 中国に行く。(1994年に「JS CLUB創刊号」*1に掲載した記事)
―人体解剖実習を大連医科大学で実習―

日本カイロプラクティックアカデミー(NCA)が
中国の医科大学・大連医学院と研究の提携を結んだ。
その提携授業として「人体解剖実習」が90時間のカリキュラムで行われ、
9月14日、22名の実習生が中国に渡った。
NCAの解剖学に関する授業は「基礎医学科目」の中に含まれ、
「人体発生学」「人体組織学」「解剖学1-5」の210時間授業と
「人体解剖実習」90時間に分けられている。
今回の学科履修は、その解剖学として
開講されたものである。

NCA中国に行く。
①中国の医学と学問


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NCAと提携した大連医学院は西洋医学の医科大学で、中国三大医科大学のひとつに数えられる名門大学である。医学専門の五年制で、入学するまでには必要な一般教養を習得する必要があるという。現在、320名の学生が学んでいるそうだ。英語、日本語、ロシア語での授業クラスも開講されており、日本語クラスからはすでに三百名ほどの卒業生が日本の大学病院での研修医として来日していると聞いた。

中国という国は新しい国ではあるが、連綿と数えれば四千年の歴史を誇るだけに興味深い国である。最近読んだロバート・テンプル著「中国の科学と文明」(CHINA -LAND OF DISCOVERY AND INVENTION-)には、あらためて中国の学問に対する畏敬の念を感じさせられた。この7著作は、科学史家ジョゼフ・ニーダム博士が1945年から取り組んでいるライフワークの要約版として出版されたものであるが、原本はケンブリッジ大学出版局から15巻刊行され、約20巻が未刊という学術大作である。
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中世と近代の線引きは科学革命にあるとされる。フランシス・ベーコンは、「紙と印刷技術」「火薬」「磁気羅針盤」の三大発明が近代化をもたらしたと明言した。しかし、その発明の起源がすべて中国人の発明によるものだということは知るよしもなかった。ニーダム博士の研究の発端もそこにあり、大変な年月と情熱を費やして、中国の科学と文明を解き明かしたのが前掲の本である。中国がそれほど進歩していたにもかかわらず、近代科学の誕生がなぜヨーロッパにしか起きなかったのか。その謎にも博士の結論が紹介されているが、ぜひご一読されることをお勧めして、ここではふれないでおく。

中国の医学史上の発見にも驚嘆する。血液循環の発見は。1962年にハーヴェイが公表したというのが通説だが、中国ではそれより約二千年も前に血液循環の原理が確立されていたという。長い間、血液の循環は中国医学全体の基盤になる原理となったようだ。そう言えば、今回の実習でも循環器系にはかなりのウエィトを置いてくれたのが印象に残っている。

今日では一般的認識となった24時間体調周期リズム「生物時計」の概念も、中国ではBC2世紀にすでに医学書に著している。同じ頃、人間の尿から性ホルモンと脳下垂体ホルモンを分離し治療に使っている。ちなみにヨーロッパでは、妊婦の尿にステロイド性ホルモンの含有を発見し、またその他のホルモンを尿から抽出するようになったのは、やっと20世紀初頭のことであった。天然痘の予防接種でもAD10世紀には、人痘接種の秘術が使われている。この画期的方法がヨーロッパに広がり、18世紀にジェンナーの牛痘接種法で完結するが、中国では現代の免疫学を構築していくきっかけ作っている。こうした世界に恩恵をもたらした中国の科学文明の数々を知るにつけ、中国という国の深遠なる学問への認識を新たにさせられる思いがする。

解剖実習期間中に見た数々の人体標本の見事さも絶句ものであった。しかし中国の知恵を知れば、そのスライスの奇麗さ、保存の完璧さ、教材としての価値、どれもこれもうなずけてくる。
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by m_chiro | 2013-12-30 12:40 | 解剖実習 | Trackback | Comments(0)
一冊の回顧録、中国より届く。
先日、中国・大連市から届いた一冊の本。
思いもかけぬ贈りものだった。
「我的一生」と題する本で、著者は大連医科大学の元教授・孫璽玉先生である。
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孫璽玉教授との交誼は、1993年に大連医科大学で実施した解剖実習授業まで溯る。
以来10年間にわたり、毎年、馬場信年先生と共に解剖実習生を引率した経緯がある。

孫璽玉教授は、その時の主任指導教授のひとりだった。
その孫璽玉先生が、ご自身の回顧録として綴ったのが「我的一生」としてまとめられている。
中国語で書かれている本なので、詳細読み解くことはできないが、多くの写真が掲載されていて、アルバム的に孫先生の人生を垣間見ることができた。
孫先生と日本の医大の先生方との交流の深さを偲ばせる資料もあった。
その中に、われわれ解剖実習授業の記録もあって、懐かしく思い出しながら眺めた。

特に中国語の本文中に日本語の記事があった。
私が解剖実習の感想を、JSCの会誌に寄せたものである。
その記事の一部も掲載されていて、特に懐かしかった。
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あれから、もう20年も経った。ふた昔前の思い出ということになる。
その時の記事の原稿が古いPCに残っていた。
(次回から、その記事をここにも残しておこうと思う。)

ちなみに元の記事は、私が編集した会誌「JS Club」に書いた「NCA中国に行く」の記事である。
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私が所属している業者団体はJSC(日本カイロプラクティック師協会)で、その名称の謂われは「JS Club」にある。私が名づけ、そのまま会誌のタイトルにした。
「JS Club」は「Janse’s Spirit Club:ジェンシーズ・スピリット・クラブ」の略称である。
そしてJanse’s Spiritとは、Dr.ジェンシー精神のことを言う。
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Dr.ジェンシーは「カイロプラクテイックのスペシャリストを目指すのではなく、ジェナラリストをめざせ」と教えた。
決してアジャストメントのスペシャリストが目標ではない。
徒手療法による家庭医的な存在をめざせ!、ということである。
そのジェンシー精神を受け継いだ学びの場が「JS Club」だった。
現在のJSCの前身であった。
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by m_chiro | 2013-12-21 16:53 | 解剖実習 | Trackback | Comments(2)



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