カテゴリ:「神経学」覚書( 9 )
「繰り返す難治性のめまいは首を疑え」
BPPV(良性頭位変換性めまい)や動揺病の背景にある頸部の問題および姿勢制御に関わるこの問題は、
経験する症状でもある。
体の揺れやふらつき感といった動揺病症状はもいれると、めまい感を訴える患者さんは、決して稀な症状ではない。日経メディカルの記事「繰り返す難治性のめまいは首を疑え」は参考になる。

そのような患者さんに遭遇したら、「めまい出現前のエピソードを聞き出すこと」が大事だと分かる。
そこのところの記事を引用して貼付しておく。

めまい出現前のエピソードを聞き出す
 頸性めまいを疑った場合、どのように診断していけばいいのだろうか。
高橋氏は、「ふらふらするめまいか、ぐるぐるするめまいか」という質問に始まり、脳血管疾患や耳鼻科疾患を除外するために、「頭が痛かったり、重かったりはしませんか。
耳鳴りや耳の調子がおかしい感じはありませんか」と問う一方で、
必ず肩こりの有無を患者に確認する。

人によっては肩こりの重症度の受け止め方が異なるため、「肩こりはない」という患者にも「首や肩が重いようなすっきりしない感じはないかと質問することが有効」と高橋氏はアドバイスする。

 さらにめまいが出現した時期よりも前に、頸部を酷使するようなエピソードがないかを確認することも大切だ。
二木氏は「BPPVと診断して治療しても改善が認められないときに、過去に頸部疾患を指摘されたことがないか聞くことも有効だ」とアドバイスする。
 
福武氏は、問診で主に肩こりの4大危険因子を聞くようにしている。
(1)運動不足かどうか、
(2)パソコン作業などの姿勢の問題を抱えていないか、
(3)ストレスで緊張することが多いかどうか、
(4)首から上(眼や歯)に悪いところはないか、首から下(腰や膝)が悪くないか
――の4つだ。

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by m_chiro | 2017-01-21 15:48 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
大人になってからでも脳細胞を育てることができる(TED講演より)
神経科学者であるサンドリン・チュレ氏(キングス・カレッジ・ロンドン)のTED講演。



神経細胞を概算すると大脳では100億個ほど、小脳も含めると1,000億個になる。
さらに脊髄が10億個ほどであるから、中枢神経系では小脳の細胞数が圧倒的に多い。
他にグリア細胞がある。
グリア細胞の数には諸説あるが、少なくとも中枢神経細胞数の倍以上あるとされているようだ。

ところがヒトの神経細胞は壊れやすい。
単純計算すると一秒に1個の割合で壊れて行き、1年では3,000万個が消失するという試算になるようだ。
それを自分の年齢で概算すると、ほとんど絶望的な数の損失が進むことになる。

それでも神経科学者であるサンドリン・チュレ氏は、脳内で新たな神経細胞が生まれる「神経新生」現象があると言う。
どんなことを心がければ、それが可能になるのだろう。

注目の講演。ぜひ聞いておきたい!


参考URL:http://gigazine.net/news/20151127-grow-brain-cell-neurogenesis/
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by m_chiro | 2016-12-13 16:15 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
脳の起源は5億年前に!
「脳の進化的起源を解明-脊椎動物の脳の領域化は5億年以上前に成立-」
(理研と兵庫医大グループの研究から)

脳がいつからどのような形で進化したか? 
ヌタウナギで脳の発生過程を調べた研究が発表された。
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                (奥のウナギがヌタウナギ)

ヤツメウナギ(円口類)では見つかっていなかった内側基底核がヌタウナギの胚に存在するのだそうだ。
研究は、小脳の発生場となる菱脳唇(りょうのうしん)という部分と、小脳の神経が作られる遺伝子発生も見つけている。

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この2つの領域がヌタウナギで見つかったことで、脊椎動物の脳の起源を5億年以上前に遡れることが分かった。
随分早い段階で、脳は増築の準備を始めていたということだろうか。
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by m_chiro | 2016-02-17 10:27 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
「よく眠ることが大切もう一つの理由」(ジェフ・イリフ:TEDより)
眠りと「脳の老廃物排除システム系」について
TED日本語 - ジェフ・イリフ: よく眠る事が大切なもう一つの理由
(上の表題をクリックすると、TEDでのジェフ・イリフの講演が観れます。)

下のは「ナショナル・ジオグラフィック」の記事。同じ内容である。
「脳の自浄システムが明らかに」


c0113928_11365094.jpg解剖学者の三木成夫先生の著作には、「個体は系統発生を繰り返す」という生物学の発生の原則について知ることができる良書が多くある。

ヒトは、胎内での10ヶ月間に動物が進化してきた全過程を繰り返して、この世に生れ出るということになる。
とても神秘的である。それで発生学にも俄然興味がわいてくる。

そういう意味では、医学史にも温故知新がある。
例えばガレノスという約2000年も前のローマ帝国時代のギリシャの医学者。
古代医学を集大成した人だ。

そのガレノスが睡眠の重要性を説いた。
睡眠が重要だとは現代でも広く知られるところである。

が、ガレノスは、人間の脳には原動力となる液(今では脳脊髄液のことか)があるのだという。
我々が起きて活動しているときは、その原動力である脳脊髄液が身体各部から全体に行き渡って、活力を生む。
それが干上がってしまうと、寝ている間にその液が脳に流れ込んで脳を潤し新たな活力を生む、とする説である。

今日の脳科学は、それを裏付ける研究として紹介している。
身体の老廃物の代謝はリンパ系が受け持っている。
ところが脳にはリンパ系が存在しない。
では脳内の栄養物の摂り込みや老廃物の代謝はどこが受け持っているのだろう。
マウスを用いた実験から、とても興味深い巧みな代謝システム系の存在が浮かび上がった。

動画で見ると、とても美しいシステムである。
血管外壁と脳脊髄液システムによる代謝系と睡眠とのかかわりが鮮明になって、ガレノスの説いていたことが現代科学の基に解説されようとしているのだ。
FB上で紹介されている講演を観て、感動的だったのでここにも紹介しておきたい。

是非、ご覧下さい。興味深いですよ。睡眠が大事なのだと、あらためて思います。
過去を紐解きながら、新たな裏付けを知ること。
発生学も大切だが、医学史も大切だね!

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by m_chiro | 2015-08-06 12:11 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
もう一つの視覚経路-新生児は見えている? それとも見えない!-
出産の1週間前まで治療にみえていた妊婦が、新米ママさんになった。

「安産だったね」と産院スタッフに言われたらしいが、大きな赤ちゃんで、本人にはそんな自覚はなかったようだ。

それでも新米ママさんとして、家族の助けを得ながら元気に奮闘中である。
先日、顔を見せに来院した。
その時の話である。

「赤ちゃんは、まだ目が見えないんですよね。でもじっと見つめられると、見えてるんじゃないかと思えるんですよ。ニコッと笑ったりもするし...」
というわけで、視経路には2つのルートがあるという話である。

通常、神経学的に赤ちゃんは視覚が未発達で明暗が分かる程度のようだ。
その視覚の未発達とは、視覚の脳回路のうちの一つで、通常われわれが使っている回路である。
それは網膜-視神経-視交差-視索-外側膝状体(神経核)-視放線-後頭葉大17野のルートで像が結ばれる回路だ。
下の略図の経路になる。

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もう一つは、外側膝状体を通らない次の経路である。
網膜から上丘に伝わり、そこでぼんやりとした瞬時の像が投影されるルートが分かっている。
上丘からは視床枕、偏桃体へとつながるルートで、副視索核も含んでいる。
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このルートは外側膝状体を通らないので「膝状体外系:非膝状体系」と呼ばれているようである。

次の「視経路・視路」のサイトに詳しい解説がある。

確かに新生児では、本来の膝状体系の視覚路が未発達かもしれないが、もう一つの回路(非膝状体系)を使って、単に明暗だけでなく「ぼんやりとした像」を見ているのではないだろうか。

この回路は偏桃体という辺縁系の部分に信号が送られている。
とすると、非膝状体系はもっとも本能的な視覚を受け持っていて、快・不快の情動系に直接関わっているのかもしれない。

赤ちゃんの「快・不快」反応も、この視覚系が関与している可能性がある。
そして、実はこの回路こそが原初の視経路であり、本来の経路と思われていた外側膝状体系は、進化と共に後天的に獲得したし経路と言えないだろうか。

道路に無造作に放られているロープを蛇と思い過ごして竦んだり、運動系の本能的な対応にも、この原初の信号系のルートが先立って発信しているのだろう。
すべてを神経学の理解で当てはめることのできないものが多々あるようだ。
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by m_chiro | 2015-05-29 17:51 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
動きのパターンが崩れるとき②
②多動症? それともチック?

このところ診させていただいている思春期の少年がいる。彼は自閉症である。
ところが成長と共に多動傾向が特に顕著に表れるようになった。
治療ベッドにジッしているような静止位を保てない。
横になったと思ったら、突発的に飛び起きて飛び回る。
か、と思うとトイレに走りこむ。あるいはドアの向こうに走りこむ。
そばに置いておいた器具類を見つけては投げる。
先日は、突然、石を拾って投げて自動車を凹ましたらしい。

まるで治療のできる状態ではないが、両親の熱意にほだされてクレニアルに挑戦してみた。
たびたび突発的な動きによって中断されながら、それでも続けているうちに突発的な動きが起こる間隔が長くなり、何とかクレニアル治療として成立するようになった。
すると欠伸をするようにもなったが、眠りに落ちることはない。

医師からは、処方薬を成長に合わせて増量していく計画が実施されている。
ところが多動傾向は治まる気配すらない。
多動症の薬で「コンサータ」という薬が効果的に作用すると聞いたので、担当医に相談してみたてはどうかと勧めてみた。

すると、医師は「それは多動症の薬だ。希望があれば使ってもいいが、チックや癲癇があれば使えない」というような説明を受けたようである。
その話を聞いて、アレッ?、と思った。

もしかして担当医は、この少年の病態をADHDと診ていないのではないだろうか?、と思ったのである。
通常、ADHDは成長と共に減少するとされるが、この少年の多動は成長と共に激しくなっていった。
その目線で、この子を観察していると、彼の突発的な動きは身体運動で表現するチックなのだろうか、とも思えてくる。


c0113928_17521635.jpgオリバー・サックスの「火星の人類学者」には「トゥレット症候群の外科医」の症例について書かれている。また、「妻を帽子とまちがえた男」では「機知にあふれるチック症のレイ」で、やはりトゥレット症候を紹介している。
それを読むと、トゥレット症候にとてもよく似た行動のように見えるのだ。
だからと言って、その鑑別するための線引きは簡単なものではないのだろう。
だからきっと、担当医も慎重に適正な投薬量を探っているのかもしれない。

オリバー・サックスは、次のように述べている。
トゥレット症患者の脳内では、ただドーパミンが過剰となっているだけではない。パーキンソン病患者の脳内で起きていることが、ドーパミンの低下だけではないのとおなじである。人格を変えてしまうような疾患であるからには、もっととらえがたい広範な変化もおこっている。異常がおきる経路は微妙なうえに無数あり、個々の患者で異なるし、一人の患者についても日によってちがってくる。Lドーパがパーキンソン病患者にとって決定的な治療薬ではないのと同様に、トゥレット症患者にとってハルドールは、ひとつの治療薬ではあるが、ほかの薬と同じく決定的な治療薬とはいえない。純粋に薬学的あるいは医学的な治療法に加えて、「実存的な」治療法もあるにちがいない。[中略]
したがってそれらは、患者を苦しめている苛酷な強迫、「皮質下部の盲目的衝動」に対抗するものと考えてよいだろう。(「機知あふれるチック症のレイ」より)


薬学的、医学的治療法に加えて「実存的な」方法もあるのだとすれば、神経学的に個体それぞれの感覚あるいは原始的な感覚を神経学的に統合させる手法はそのひとつなのだろう。
そう思いながら、機能神経学を学ぶ、あるいはそれを臨床に応用する手法の学びは一層魅了的なものになった。

続く
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by m_chiro | 2014-03-15 17:53 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
動きのパターンが崩れるとき①
①「手が振るえるんです。パーキンソン病じゃないかと….」

先日、治療にみえた女性が「手が振るえるんです。パーキンソン病じゃないかと….」と心配げに話をされた。
「今は振るえていないようだけど、いつもではないの?」と尋ねると、「時々」だと答えた。
緊張すると振るえる、のだそうだ。

「例えば、どんなとき?」。

どうも手紙など字を書くときに振戦が起こるらしい。
手の動作時に起こる振戦である。他の部位には起こらないようだ。
鼻-指テストを行わせてみると、やはり振るえる。

「もしかして両親か誰かに、同じように振るえる人はいない?」。
「もう亡くなりましたが、父親がそうでした」。

おそらく遺伝による本態性振戦なんだろう。

パーキンソン病の振戦は静止位で振るえのが特徴的で、他のことに意識を向けたり、なにか行動を起こすと止まる。
だからパーキンソン病と違って良性の振るえではあるのだろうが、何か隠されているものがあるかもしれない。神経内科医に診断してもらうよう勧めた。

余談になるが、昨年末のことである。
業界の仲間とお茶を飲みながら歓談していたときのことだった。
話題が神経学の認知機能のことに及んで、「オリバー・サックスが書かれた本にはそんな話題が盛りだくさんだ」と話したことがあった。

すると、傍で話を聞いていたカイロの初学の女性が「その本の題名と著者を教えてください」と尋ねてきた。
「妻を帽子とまちがえた男」という本で、著者はオリバー・サックスという神経学を学んだ臨床医であることを教えておいた。
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先日、伊藤彰洋D.C.の神経学セミナーを受講した折、また彼女と一緒になった。
サックスの本を読んだらしい。
とても面白く勉強できたと感謝されたのであるが、多くの仲間にも読むように勧めているのだそうだ。
メールで感想も頂戴した。そして、今度は「レナードの朝」を読むつもり、と話していた。
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伊藤彰洋D.C.のセミナーは「神経機能学からみた臨床アプローチ」をテーマにした2回目の講座である。
1回目が痛みを中心にした体性感覚についてだったようであるが、この2回目の講座は運動制御に関わるテーマが中心である。
その意味でも「レナードの朝」は運動制御に関する予備知識をタイムリーに勉強ができるだろう。

「レナードの朝」は、20世紀初頭にヨーロッパではじまり、3年間で世界的に広がった「眠り病」の症例について書かれている。
やがて診断名は「嗜眠性脳炎」と確定されたが、流行の当時は医師によって確定診断が違った。
例えば、流行性譫妄、流行性分裂病、非典型的狂犬病、流行性パーキンソン病、流行性多発性硬化症、非典型的灰白髄炎などなど。
それだけ症状も多様であったし、後遺症に苦しむ患者さんも多かったようである。

オリバー・サックスは、臨床医として診た嗜眠性脳炎の患者に対し、パーキンソン病の新薬として期待された「L-ド-パ」を処方したのである。そして、その患者を永い眠りから覚醒させた記録の物語である。
ところが、その覚醒も長くは続かず、また元に戻ってしまう。
「レナードの朝」は映画にもなったが、ぜひサックスの物語を読むことを勧めたい。
映画では語れない病態の情報や運動制御に関する神経学の難しい基礎知識を、ワクワクしながら学べるからだ。

オリバー・サックスにとどまらず、臨床医が紡いだ症候学や病態などを書いた物語はいろいろある。
たとえば、「ER 救急救命室」というアメリカのTVドラマの原作となった本、やはりTVドラマの「ドクター・ハウス」の原作となった本などもあるが、私はオリバ-・サックスの書くノンフィクションの物語は秀逸だと思う。

こうした物語に学びながら、学びの手順を専門書に格上げしていく。これが私の勉強法でもある。
私の能力では難しい専門書を読んでも理解できない。
悲しいことに、誘眠剤効果があるくらいだ。
だから秀逸な物語は、専門書への入り口であり、バネでもある。

さて、運動制御に関するテーマは難しい。
その上いまだに専門家の間でも議論がある。
伊藤D.C.のセミナーに学んで、いろいろ見えてきたところもあり、ここで自分なりに整理しておこうと思い「動きのパターンが崩れるとき」というテーマで時間をみながら書いていきたいと思う。

続く
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by m_chiro | 2014-03-10 18:38 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
ロンバーグ・テストで運動失調を評価するために
先日の学会で「臨床の落とし穴」というパネル・デスカッションがあり、パネラーの一人として参加しました。時間が押せ押せで進めた症例提示でしたが、運動失調の症例を紹介させていただきました。
このパネルは、九州カイロプラクティック同友会で実践しているCCR(ケース・カンファレンス・リポート)を採用して進めた企画でした。

最初に、必要最低限度の情報がオープニングで提示されます。
私の提示した情報は次の通りです。

1.初診:平成22年10月7日
2.年齢・性別:63歳(女性)
3.主訴:腰臀部痛と両下肢の重だるさ
4.リスク・ファクター:特に動きによって悪化し、歩き初めなどに不安定感がある。
少し歩くと落ち着いてくる。


先ずは、これだけの情報から除外すべき疾患や病態を最初に推測します。
特に「リスク・ファクター」の書き込みを参考にしますが、この症例では歩き初めの不安定感がキーワードで、そこから除外すべき疾患を想定することになります。
歩き初めの不安定感は運動失調を思わせますので、除外すべき病態として小脳や脳幹の疾患、脊髄性病変、前庭性疾患などが頭をよぎります。

この症例で注目したいのは、「歩き初めの不安定感が、ちょっと歩いているうちに落ち着いて来る」と患者さんが表現していることでした。
主訴からは筋骨格系の障害を思わせますが、敢えて除外すべき疾患があるかを探るわけです。

最初に深部反射を調べました。
私の評価は上肢・下肢共に「+3」でした。高度の亢進です。エッ!ですね。
私はC5レベルより上位の脊髄疾患を疑いました

そこで「歩き初め」をみてみると「酩酊歩行」です。
数歩ほど歩いていると酩酊状態が落ち着いています。

おもしろいですね。さて何が隠されているのでしょうか。

「酩酊歩行」で、私はすぐに「小脳の病変」を疑ってしまいました。
そこから推測したのが「脊髄小脳変性」でした。

ところが、協調運動をみる「踵-脛テスト」も「指-鼻テスト」も正常(-)です。
協調運動に問題はないのです。
でも「継ぎ足歩行」ではうまく歩けません(+)
バビンスキーは陰性(-)です。

今度はロンバーグ・テストを行いました。
開眼立位でも既に揺れています。私は最初に推測した脊髄・小脳疾患に捉われていましたので、この時点で、やはり小脳の問題があるのだろう、と推測したわけです。
ところが閉眼立位では、もっと揺れます。
開眼立位で揺れるのは、小脳・脳幹の疾患を疑わなければいけない。
私はここでも小脳に捉われていました。
この症例は除外すべき疾患とみて、神経内科医に紹介したわけです。

紆余曲折がありましたが長くなるので省略しますが、最終的に脊椎外科で確定診断が下されました。
確定診断は「第11胸髄・ダンベル型神経鞘腫」です。
除外したまでは正解でしたが、疾患部位はハズレでした。
天と地ほどの間違いです。

どうしてこのような違いになったのでしょう。
明らかなことは、特定の情報に捉われすぎたことですが、特にロンバーグ・テストの評価については十分な理解が出来ていませんでした。

ロンバーグ・テストは、神経内科医・ロンバーグ医師によって提案されました。
脊髄性運動失調を鑑別するテストです。
ヒトが空間に置いて身体位置を保てるのは、視覚機能と前庭機能によって調整されています。
その身体位置の変化を調節する重要な機能、すなわち視覚を遮断(閉眼)すると身体位置を保てなくなります。
これを脊髄性運動失調と評価したわけです。
したがって開眼立位で正常であることが前提となるテストであったわけですが、時を経て前庭性問題でも同様の運動失調が起こるとされました。そこで現在の臨床の現場では、下表のように評価されるようになりました。

ロンバーグ・テストの評価
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開眼立位で正常あるいは身体の動揺があったとしても、それが閉眼によって更に身体が大きく動揺あるいは転倒するようなケースでは、「脊髄性運動失調」か「前庭性運動失調」とみることができます。

脊髄性運動失調と前庭性運動失調の鑑別は、その他の徴候や身体所見での違い、最終的には画像診断にゆだねなければなりませんが、開眼での揺れは「前庭性運動失調」の方が大きい動揺があるようです。

また開眼での身体の揺れが閉眼でも同様であれば、それは「小脳性運動失調」とみる、と評価されているようです。

いずれにしろロンバーグ・テストは、単一疾患を特定する決定的な検査とは言えないまでも、運動性失調の原因におおよその目安を付けるには有効な検査と言えるかもしれません。

私が提示した症例で見逃したことは、ロンバーグ・テストの評価を誤ったことに尽きます。
そして、もしかしたら深部反射の評価の精度に問題があったのかもしれません。
+3と+2の評価には、より精査すべき差があったのかもしれない、と今になって思います。
あるいは、亢進傾向の反射はこの患者さんの個性であったのかもしれません。

臨床の落とし穴に嵌まらないためには、特定の情報に捉われないことだと思います。
特定の情報に捉われると、全体を客観的に見ることができなくなります。
この症例でも、病態に対する答えは最初のリスク・ファクターの項目に既に出ていたのです。
それは「歩き初めの不安定感」です。

歩いているうちに安定してくるのは、視覚情報、前庭系の情報、小脳機能が正常であったからでしょう。
立て直す機能が健全であったために、歩いているうちに割合に安定してきたのだと推測できます。

「聴き取り」、「身体所見」しっかりと行うこと。
これが、落とし穴に嵌まらないための大切な心構え、であることを学んだ症例でした。

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by m_chiro | 2013-11-25 08:30 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)
「神経学」覚書1.神経系のネットワークには眼が眩みそうだ
1. 神経系のネットワークには眼が眩みそうだ

神経系は大きく2つに分けられている。
それは「中枢神経系」と「末梢神経系」と呼ばれていて、末梢神経系は身体の組織に存在する受容器(感覚器)と効果器(筋肉や腺)に接続されている。

そして、これらは中枢神経系を介して相互に情報交換し、そのことによって身体の変化や環境の変化に対応する「叡智」を産み出しているのだ。
カイロプラクティックでは、この叡智のことを「イネイト・インテリジェンス」と表現していて、この偉大な働きを見据えて理論構築がされている。
一般的には「自然治癒力」と表現されるかもしれないが、「イネイト・インテリジェンス」には情や意といった哲学的な意味合いも包括的に織り込まれているように思える。

その働きを全うする手段は、神経細胞が行う「興奮」と「抑制」という電気信号を使った伝達方法に依存している。
カイロプラクティック的に言えば、神経の「トーン」、つまりその過不足ということになる。
これも身体への物理的刺激に留まらない。
言語も含めてヒトの神経活動を捉え直すべきなのだろう。

単純な神経系では、この「受容器」と「効果器」の間に一つの神経細胞が介在する。
ところが、おもしろいことに介在する神経細胞の数が増えてくると、神経細胞は集積して一塊になる傾向があり、それが中枢神経系として発達したとされる。

その中枢神経系である脳は、単なる興奮性の伝達経路として存在しているわけではない。
受容器から送られてきた情報を記憶したり、書き換えたり、整理したり、それらの情報を照合することで情報に応答する新たな興奮を作り出している。

例えば、痛みは侵害刺激を感受した受容器が、それを電気信号に変えて大脳皮質の感覚野に投射されて、どこの部位が痛みを感じているかを知る。
ところが、末梢の受容器から脳の感覚野における対応部位に、単純に情報が伝達されているわけではない。
痛みに関連する脳領域の広範囲に情報が伝えられているのだ。
それはまるで我々が日常的に使うE-mailで、同時に数カ所にC.C.-mailが送られるようなシステムになっている。

視覚系などは、もっと複雑である。
見ることはカメラで写真を撮るように単純なものと思いがちだが、そうは問屋が卸さない。
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このダイアグラムDavid Van Essen教授(ワシントン大学、解剖学・神経生物学・学部長)が猿の視覚経路を表現したものであるが、眼が眩みそうな経路である。
しかも平面ではなく階層的なネットワークで構成されている。
ヒトでは更に複雑だろう。

人間の脳は、約1,000億個の神経細胞からなっていて、その一つ一つのニューロンが更に千個から一万個のシナプスを持って情報交換し、あるいは情報を共有していることになる。
何と厖大なシステムなんだろう。

しかも、この神経のネットワークは、特定の目的に応じて作られているのだが、その仕組みを知ることは難儀である。
だいたいが未だよく分からない。
ブラックボックスが随所にあるようなものだ。
ここまでくると神経系を単一の神経系とみなして、局在論的に神経解剖学や神経生理学、心理学などと領域を分けて研究しても埒が明かないのだろう。
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by m_chiro | 2013-08-21 09:09 | 「神経学」覚書 | Trackback | Comments(0)



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