カテゴリ:痛み考( 141 )
腰痛の心理社会的な背景を探る「簡易問診票(BS-POP)」
腰痛の85%は原因を特定できない。
腰部の筋・筋膜に原因がありそうだが、画像で確認できないので不明だとされている。
椎間板ヘルニアが画像で確認できても、痛みを伴わない人も大多数いるのだ。
なにしろ腰痛経験がない76%の人のMRI画像に椎間板ヘルニアがみつかる、という報告もある。
そんなわけで腰痛とヘルニアの関連性は疑わしい。
だから画像検査をする必要もなく、生物・心理・社会的要因を検討すべきだとする論文が出ている。
欧米では90年代半から、こうした心理社会的背景が論文に登場するようになった。

下の図は1992年に出されたもので、少なくともその20年後の2012年末に、日本整形外科学会も同様のガイドラインを発表したことになる。
90年代半ばからみれば半世紀以上かかったわけである。
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では、その心理社会的要因はどう判断するのか。
福島大学整形外科では、「簡易問診票(BS-POP:Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients)」を作成した(紺野 愼一教授「たかが腰痛と侮るなかれ」)。

この問診票は福島大学医学部・精神科の協力を得て作られたもので、医師用と患者用の2タイプがある。
医師用では最低点(8点)で最高点(24点)である。
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この患者用問診票では、最低点が10点で、最高点が30点である。
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両方の併用結果では、医師用10点、患者用15点以上で、精神心理的問題が考慮されるという判定になる。

医師用の単独使用では11点以上を考慮判定にすることになるのだそうだ。

紺野教授は「無視できない慢性腰痛の心理社会的要因 簡易問診票「BS-POP」の有効活用の中で、以下のように結んでいる。

BS-POPの妥当性評価に関しては、日本整形外科学会のプロジェクト研究に選ばれて大規模な検証研究を行い、慢性腰痛患者の精神医学的なスクリー ニングに有用性が高いことを証明することができた。

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by m_chiro | 2013-07-16 12:31 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
「天気痛」のメカニズム②
②気圧のセンサーは内耳の可能性、でも内耳は痛みの受容器ではない

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Care Net
「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?
佐藤 純 氏 名古屋大学環境医学研究所 近未来環境シミュレーションセンター准教授


気圧の変化を受容するのはどこか。
著者は内耳を「気圧受容器」と想定している。
だが、それは痛みの受容器ではない。
だから、気圧の変化が痛みの増強に影響すると言っても、内耳の気圧受容器が痛みと直接的に関係しているわけではない。

上の図は、気圧の変化をキャッチした受容器からの信号でストレス反応が起こることがよく表現されている。
結果的に、慢性痛患者のように交感神経が過敏になった生体内の環境では、強い交感神経活動の亢進が誘発されることになるのだろう。

その証拠に著者らの調査では、気圧の変化で慢性痛患者の心拍数や血圧の変化を観察している。
また、内耳破壊ラットの疼痛モデルでは、気圧変化によって痛みが誘発される疼痛行動が起こらないことも確認している。

その上で、むち打ち損傷患者に天気痛が増強される傾向を指摘している。
そして、こうしたケースでは頸部の伸展-屈曲障害によって交感神経が傷ついたことによるものだろ、と推論しているのである。

でも、天気痛の増強を交感神経の傷害とみる推論は思いの外である。
なにも交感神経が損傷していなくとも、頸部筋の過緊張やスパズムの徴候は交感神経興奮状態にあるのであって、むしろむち打ち症ではそれを常態とみるべきではないだろうか。

そうなると、天気痛に対する徒手療法の対応としては、自律神経の調整にあるだろう。
必ずしも気圧が回復すれば痛みが軽減するとは限らないということであれば、ここは積極的に自律神経系にアプローチしたいものである。
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by m_chiro | 2013-06-22 08:58 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
「天気痛」のメカニズム①
①急激な気圧の変化は痛みの増強に影響する

Care Net
「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?

佐藤 純 氏 名古屋大学環境医学研究所 近未来環境シミュレーションセンター准教授
http://www.carenet.com/report/series/orthopae/pain_practice/11.html


痛みで天気予報する患者さんがいる。
かと思うと、天気の変わり目や低気圧で神経痛が起きたと訴える患者さんもいる。
それって根拠があるの?
そんな疑問に「あり得るよ!」、と可能性を指摘した論文である。
とても興味深いので、要点をまとめて紹介しておこう。

これまで天気と痛みの関連性を指摘した統計的データは、あまりないのだそうだ。
少ない日本での調査でも、アンケートによると関連性を訴える痛み患者は少なくない。
欧米での研究では「気象要素と痛みの相関」が統計的手法で解析されていて、それによると、痛みの憎悪因子は「気圧、湿度、温度の変化、降雨、雷、風」だそうだ

そして「天気痛」は上半身の痛みを訴える例が多いのが特徴だとか。
それも面白いことに、影響される部位に偏りがみられるらしい
例えば、上半身と下半身では、上半身に優位に発痛する。身体深部と皮膚表面では、深部の筋や関節に起こる。

論文の著者である佐藤純・准教授は、故・熊澤孝朗先生が創設された愛知医科大学医学部「学際的痛みセンター」に「天気痛外来」を開設していて、外来患者さんの協力で「低気圧曝露試験を行っている。
その研究結果が次の図(この調査の被験者は、示指の挫滅損傷後に損傷部位の疼痛、アロディニア、右上肢の深部痛としびれを訴える患者さん)である。
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青の実線が気圧の減圧した時間を示している。
表の左は痛みの度数で、右が気圧(ヘッドパスカル)の変化である。

気圧を変えないで行った試験(黒点を赤線で結んだ折れ線グラフ)では、有意な変化が見られない。
ところが、ピンクの実線の結果は減圧と共に痛みが増強し、気圧を元に戻すと痛みも減少している。とても明確な結果である。

佐藤准教授は、こうした調査を10名ほどの慢性疼痛患者に実施したそうだ。
この結果がまた面白い。

上図のように、減圧から気圧を元に戻すと共に痛みも減少するケースと、痛みが減少することなく継続するケースもあったのだそうだ。
要するに、低気圧が関与するというよりは、急激な気圧の変化が影響しているのでは、と推論している。

この実験を神経障害性疼痛の動物実験モデルでも行っている。10hPa以上の気圧低下を、10hPa/時間以上の速度と5hPa/時間以上(大型低気圧が通過する際にみられる気圧変化と同様のレベル)で痛みの増強が観察されている。

また、低気圧では血圧や心拍数の変動やノルアドレナリンの分泌量増加も見られると言う。
外気の変化は身体のストレス反応を伴うことがあり得るということだ。
しかも慢性痛には交感神経依存の傾向が多くみられることから、気象などの急激な変化は交感神経を興奮させて慢性痛を増強させるのだろう、と著者は推論している。

20世紀初頭には、フランスの外科医・ルリッシュが交感神経依存性疼痛患者に対して、交感神経を切断する処置を行ったことも知られている。
痛みの増強と交感神経の関与は周知のことでもあったのだろう。

続く
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by m_chiro | 2013-06-21 09:03 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
なぜ慢性的に続く炎症徴候が起こるのだろう?
●症例:2年間も続いている足首の腫れ●
かれこれ2年近くも左足首の腫れている、という中年の女性が他県からみえた。
跛行して治療室に入ってきた。確かに左足首のくびれがない。それほどに腫れあがっている。
距骨も内側に転位していて、特に内果周辺の腫脹が顕著で熱感もある。
軽く触れても、痛みでジャンプ徴候を示す。

これでも以前よりましになっているのだそうだ。
腓腹筋はこむら返りが頻繁に起きる。夜間痛もあり、睡眠が妨げられている。
右膝は3~4年も前から水が溜まりだしたが、現在は動作痛があるだけ。
以来、ここ数年は左腰臀部痛や頸部痛、頭痛などと、まるで痛みの転移現象でも起きているように悩まされてきた。
整形外科ではMRI検査で腰部ヘルニアと診断されたが、右膝のX-rayでは異常なしとされた。

いろんな治療を試したが足関節の腫れと痛みは、なかなか改善が見られないので大学病院を受診している。診断は「偏平足」で、特注の足底板を作ってもらった。それでも、一向に腫れも痛みも引かない。

●身体所見から●
身体の望診、触診、内圧変動(圧力勾配)などを観ると、左下肢には内側に頑強な停滞軸があり、圧伝導が頭方に抜けていない。圧力勾配が顕著である。
逆に右下肢では、外側に停滞軸がある。
姿勢制御系(Yaw1,2,3)をリリースする。右側方にシフトしている圧力勾配を調節し、その代償性の捻転体位の改善を試みた。この患者さんは、そもそも重力に対する対応が上手くできていない。だから、エネルギー勾配が偏向したままなのである。
そのために、その不均衡な圧力勾配を筋・筋膜が対応していて、障害がつくられているのだろう。
腫れてジャンプ徴候のある足関節部には、液性の還流を促すために伸縮性テープを用いた。

1週間後に再診にみえた時には、足関節の腫脹がほぼ3分の1に縮小し、夜間痛もこむら返りも跛行することもなく劇的に変わっていた。

●なぜ、2年近くも腫脹と痛みが続いたのだろう●
腫脹をもたらす元凶はプロスタグランジンによると生理学で学んだ。
この患者さんは消炎鎮痛薬(NSAID’s)を服用し続けてきた。プロシタグランジンの生成を抑えるための薬物である。それなのに腫脹はおさまることなく、2年間も続いていたことになる。

そもそもケガや火傷など、肉体的危機を回避するための警告として発痛物質(カリウムイオン、セロトニン、アセチルコリンなど)が作動する。
警告は感覚器から脳へ伝えられるわけだが、警報の大小あるいは強弱で言えば大は小を兼ねる。
そのための増幅物質としてプロスタグランジンが重要な働きをしているのだろう。
だからプロスタグランジンは、常に体内で生成され、緊急時には迅速対応に備えている。「眠らない物質」とも言えるだろうか。

プロスタグランジン生成の素材は細胞膜であるから、材料には事欠かない。
だからと言って、痛みや腫脹の炎症徴候をプロスタグランジンに責任を押し付けるわけにはいかない。
なぜなら、プロスタグランジンは反復的な筋や腱の運動で生成されているからで、そのことが即ち発痛を起こすとは限らないからである。

また、NSAID’sを事前投与していることで、プロスタグランジンの生成を抑えることができるという研究もある。そのことを記事にしておいた。
「PGE2は、炎症や痛みにどうかかわるのだろう?①」
「② 組織に損傷がなくても、PGE2は放出される」

この2年間も続いた患者さんの炎症徴候が、なぜ簡単な手法で止まったのだろう。
その疑問を読み解くと、痛みや炎症の根本的な問題に合点がいく。

さて、この患者さん「思い当たる損傷の経験はない」と言うように、2年間も損傷が続いているわけではないのである。
だから続いている腫脹は、プロスタグランジンに主たる責任がないことは明らかである。
その証拠にNSAID’sを服用しても回復しなかった。したがって、問題は緊急性のAδ線維の受容器興奮にあるのではなく、C線維のポリモーダル受容器にあることがわかる。

腫脹は血管透過性の亢進の問題である。
血管透過性とは、高分子のタンパク質や血球のような比較的大きなものが血管外へ出る動きが高まっていることである。
筋肉などへ走行する小動静脈の血管を拡張し、血管透過性を亢進するのは、ポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドなのだ。

要するに、ポリモーダル受容器が興奮状態にある。
侵害刺激は、痛覚受容器を直接興奮させると炎症メディエーターをつくる。
それはブラジキニン、プロスタグランジン、セロトニン、ヒスタミンなどのメデイエーターであるが、おもしろいことにブラジキニンだけが直接ポリモーダル受容器を興奮させる物質らしい。

その他の物質は間接的にポリモーダル受容器の興奮に関わるだけで、直接的作用はほとんどない。
そしてブラジキニンは、低濃度でもポリモーダル受容器を興奮させることが知られている。
「痛み学」NOTE 59. 炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス③


さて、この患者さんは重力に対する圧力勾配・エナルギー勾配が不均衡になり、筋・筋膜組織で対応せざるを得ない状況が続いていたのだろう。
それが筋・筋膜への機械的刺激となり、ポリモーダル受容器を侵害していたものと考えられる。
この刺激が解除されれば、ポリモーダル受容器の興奮も沈静化する。

重要なのは、プロスタグランジンではなく、ポリモーダル受容器を侵害し続ける刺激なのだろう。
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by m_chiro | 2013-03-04 18:30 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
PGE2は、炎症や痛みにどうかかわるのだろう?②
PGE2は、炎症や痛みにどうかかわるのだろう?②
② 組織に損傷がなくても、PGE2は放出される


"Metabolism and inflammatory mediators in the peritendinous space measured by microdialysis during intermittent isometric exercise in humans."

「ヒトの断続的な等尺性運動で、腱周辺間隙に代謝および炎症メデイエーターが微量透析法によって測定された」という報告。

プロスタグランジン(PGE2)は、組織損傷の結果として炎症と痛みを演出すると理解されている。
ところが、この見解はあまりにも一方的すぎる、
こうした見解を捨てるべきだ、という報告のひとつである。

微量透析技術(microdialysis)を用いた研究で、通常の歩行を模した断続的な足底屈曲アイソメトリック運動を行い、アキレス腱の周辺組織から採取した液性成分の調査である。
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この運動で明らかにPGE2が増加している。たが、被験者に痛みは出なかった。
組織の損傷がなかったにもかかわらず、なぜPGE2が放出されたのだろう。
研究者は、PGE2がアキレス腱と他の組織に血管拡張を作ったことによるものだと結論づけている。

この研究でわかったこと。
通常の運動負荷でも、炎症活動に見られるような脂質と炭水化物の代謝がアキレス腱周辺組織で加速したということである。要するに、新陳代謝のプロセスも機械的な運動負荷によって人間のプログラミングに下書きされるのだ。これらのプロセスは、損傷と使い過ぎによる炎症の進行を理解する上で重要なのだろう。

“Cyclo-oxygenase-2 mediated prostaglandin release regulates blood flow in connective tissue during mechanical loading in humans. ”
「COX-2の媒介によるプロスタグランジンの遊離は、ヒトの機械的荷重で関連組織の血流を調節する」という報告(報告は、コペンハーゲン大学病院リウマチ科・スポーツ医学ユニットから).

COX-2の媒介したプロスタグランジンの放出は、ヒトにおける機械的荷重によって結合組織の血流を調節する。

アキレス腱での PGE2 の産生が高まるのは、歩行運動中と停止回復期で、休息時でさえPGE2 の産生がみられる。
ところが、COX-2を阻害する薬物を服用している間には、増加することはなかった。

要するに、マクロファージが線維芽細胞を刺激して産出するPGE2は、損傷時に限らず、あらゆる場面で合成されていることになる。
だからと言って痛みを伴うとは限らないのである。

この研究から学ぶべきキーポイントは、休息時でさえ通常「痛みや炎症を起こす」とされている PGE2 を産み出すということである。

そして、歩行をシミュレートする軽いアイソメトリック運動のような、決して有害でない刺激によっても炎症性メディエーターは産出されているのである。

組織が損傷してるか否かは、PGE2産生に何の関連もないということになる。
だから仮に組織治癒が損傷後に起こるとしても、PGE2にその根拠があるわけではないのだろう。

もうひとつ重要なのは、COX-1とCOX-2の酵素は、食事で摂取したΩ6アラキドン酸を PGE2に換えるということだ。
更に、同じCOX酵素が食事で摂取された物質のΩ3エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を抗炎症性メディエーターに換えるのである。

したがって、細胞膜の中にあって炎症活動を行うCOX酵素に対して、Ω6とΩ3脂肪酸のバランスは痛みと炎症に影響を与えていることになる。

これも栄養学的循環の鍵となる知見である。痛みは、その前駆段階として栄養学的循環の問題も頭に入れておく必要がありそうだ。
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by m_chiro | 2013-02-07 17:28 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
PGE2は、炎症や痛みにどうかかわるのだろう?①
「腱線維芽細胞の反復的なストレッチ運動で炎症性メディエーターがつくられる」
Repetitively stretched tendon fibroblasts produce inflammatory mediators.
Pittsburgh Medical Center大学・整形外科(Wang JH , Li Z , Yang G , Khan M . )からの研究。

この研究は膝蓋腱が特定の運動によって、その線維芽細胞が分泌型ホスホリパーゼA2(PLA2)の活性、プロスタグランジンE2(PGE2)とシクロオキシゲナーゼ(COX)酵素の発現に、どのような影響を与えるかを調べている(in vitroでの調査)。

ところで、「ホスホリパーゼA2」は酵素である。
それがなぜ重要なのか。
怪我などで組織が損傷すると細胞の膜が壊れるのだが、その細胞膜を作っている物質(リン脂質)に働いて、痛みを生み出す源になるアラキドン酸がつくられるのである。

そのアラキドン酸が作られる前にPLA2の酵素を叩けば、痛みのもとの物質が作られない。
だから痛みを抑えることができる。
そのPLA2を抑えるために使われるのがステロイド剤である。
が、スレロイド剤の使用は厄介な副作用に繋がる。だから、乱用はできない。

そこで、アラキドン酸から炎症物質のプロスタグランジンE2(PGE2)をつくりだすシクロオキシナーゼ(COX)を叩こうというのが、通常使われる非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID's)である。
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図は「社団法人 八日会」の「先端医療講座」より転載。炎症についても分かりやすい記述がある。

調査対象の3役(PLA2、PGE2、COX)が出揃ったので、この研究は痛みに関わる物質の産出を調べた内容であることが分かる。
さて、その結果は以下の通りである。

1.PLA2の活動レベルは、反復的ストレッチ群が分泌性で190%、細胞質ゾル液性成分で88%の増加が見られた。

2.PGE2は、0.1 Hzから1.0 Hzによる腱の線維芽細胞のストレッチで、それぞれ40%と69%の産生増加がみられている。

3.COX1とCOX2は周波数依存法で増加したが、COX2がCOX1よりも増加している。


もっともCOX2は、炎症にともなって線維芽細胞や滑膜細胞、マクロファージなどに発現するとされているので、当然と言えば当然の結果である。

COX1は、胃腸や腎臓、血管内皮細胞にあって細胞膜などを保護している。
だから、COXを阻害してPGE2の生成を抑える非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID‘s)を服用する場合は、胃腸薬も処方されるわけである。

したがって、この研究から腱を反復ストレッチするときには、腱の炎症を引き起こす可能性があるだろうと指摘しているのだが、この「in vitro」の結果はよく知られている。

ところが、実際に人体での研究ではどんな結果になるのだろう。
その研究については、次回②に….!
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by m_chiro | 2013-01-31 18:21 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
「機能障害」とて結果にすぎない
損傷と炎症は、組織損傷後に急性炎症が起こり、そこから修復とリモデリングが後に続くプロセスを辿る。
だから損傷部位を徒(いたずら)に刺激さえしなければ、痛みは急性炎症が治まることで消失するものなのだ。
自己免疫異常でもない限り、通常は損傷後の7~10日ほどで終息するとされている。

ところが臨床の現場では、痛みや炎症期が長引いているケースに出くわすことも少なくない。急性期に適切な対応がなされたにもかかわらず、痛みが長く続くと、なぜ慢性的な経過を辿るのだろうと、治療家はその理由を探すことに苦しめられるのである。

慢性痛は、今では損傷の現場を離れて中枢神経系に原因があるとする認識が広まっている。だとすると、それは神経系の可塑性によってもたらされる神経学的病変あるいは神経障害性の痛みということになる。とても厄介な痛みである。

だが、そう決めつけてしまうには、あまりにも根拠が乏しい。
だから、中枢神経の可塑性説に無条件に同意するのも躊躇する。
きっと広義の慢性痛には、末梢組織の機能的・内部環境的素因が解消しきれていない病態がありそうだ。
それも、少なからずありそうに思えるし、痛みには様々な病態が混在しているケースもあるだろう。

が、多くの患者さんは「非特異的」というレッテルを貼られ、「ストレス原因説」が診療ガイドラインに取り上げられるようなった。でも、これさえ危ぶむ。

なぜなら、決して説得力のある根拠が提示されているとは言えないし、このことで実際に存在する慢性的な末梢性の侵害と炎症を軽視するように仕向けることになりかねないからである。

慢性痛の患者さんは、決して詐病しているわけではないはずである。
だからこそ徒手治療における臨床上の検査を適切に行うことで大切である。
問題点が浮き彫りになることが多々あるからだ。

こうして得た結果を、治療家は「機能的障害」と表現するが、これとて適切な用語とは言えないだろう。
身体に表現された機械的・力学的変化は、神経系によって統合された結果である。
そして、運動は中枢神経系の入出力情報によって協調されたパフォーマンスにほかならないからである。
運動機能障害ですら、単に関節や筋の健全さに依存しているわけではない。
その前提には、運動プログラムや運動学習の神経学的統合が不可欠なのだ。

したがって、
「機能障害」を結果とみなして、その先にある情報源を探る診立てが求められなければならないのだろう。
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by m_chiro | 2013-01-26 09:40 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
MPSの罠はどこにでもある②
② 何もしていなかろうが、MPSの罠は仕掛けられている

MPSとは「筋・筋膜性疼痛症候群」のことである。筋・筋膜に由来する痛みに伴って、様々な症状が現れるという症候群だ。
この腰痛患者さんは、正月になって休養を決め込んでいたのに腰痛になった。
さては何か悪い病気に取り付かれたか、と不安になったのだろう。

「何もしていないと言うけど、じゃぁ、一日をどのようにして過ごしてるの?」
「正座してます。私には正座がとても楽な姿勢なんです」

「正座して何をしてるの?」
「何もしてません」

「何もしてないと言ったって、仮に正座して瞑想していても、瞑想をしていたことになるけど…」
「あ~、テレビを見ています」

「あっそう! コタツに入って正座してテレビを見ているわけだ。それじゃ、きっと御宅のテレビは正座しているあなたの左側にあって、正座が辛くなると右を下にして手枕で横になるんだね」
「そうです。なんでわかるんですか?」

この推論は難しい話ではない。
体幹の左側の筋群に一側性の緊張があるからである。
頭部を左に向けて左を見ると、左の傍脊柱筋と後頭下筋群は興奮して緊張するし、反対側の相同筋群は抑制されることになる。頭部や体幹の位置に対する眼球運動の代償性については、1978年頃の研究から明らかになったとされている。

左胸腰移行部の過緊張と固着は、右側臥姿位における圧縮部位によるものだろう。
右肩甲骨が外旋していることも、習慣姿位のあることが推測できる。

足踏み運動や歩行から動きのパターンを観ても、左胸腰移行部の固着ポイントが支点になって動きが作られていることが見て取れる。

結局、彼女は何もしていないのではなく、正座で上体を左回旋位で長時間の持続的な体幹回旋位による筋活動を強いていたことになる。
この姿位をそのまま横にすると右側臥位になる。
身体の上下軸は左回旋位で固定され、眼位もテレビの方向に固定され、動いているのはテレビの画面だけである。

この身体への入力情報は左の小脳を刺激することになり、右の小脳は抑制的に働くことになる。こうして左右の運動誤差が生まれ、筋緊張の程度が相対的になる。
そして筋・筋膜の受容器閾値が低下する部位が生じ、日常的に普通に行っていた刺激が侵害刺激として感知されることにもなる。
だから、これも動作痛のひとつに挙げてもいい。

これをこじらせると厄介になる。だからMPSは侮れない!

活動レベルの低下は、過活動と同じ痛みのリスクを内包している。
下図は、腰痛で安静にするよりも通常の活動性を取り戻すことが大切だ、と言われる根拠として提示されている。
MPSを発症させる罠は、活動の過不足には関係ないのだ。
「ゼロか、100%か①」
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by m_chiro | 2013-01-18 14:05 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
MPS発症の罠は、どこにでもある! ①
MPS発症の罠は、どこにでもある!
①「さて、あなたの腰痛はどれでしょう?」(ある腰痛患者との会話から)


雪の季節になると、除雪作業での腰痛患者や滑って転倒した患者さんが多くなる。
ところが、こんな患者さんもある。
久しぶりに治療にみえた女性。2年ほど前にも、腰痛で1度治療にみえたことがあった。
その時は、1度治療を受けてよくなったらしい。

今回は、正月前から腰痛になり1週間ほど経過したが寛解する気配もない。
思い当たることもなく痛みだした。常に鈍痛があり、時に強く痛むことがあるが、何が憎悪する因子なのか、これといって思い当たらないようだ。寝ている時にも、動作に関係なく痛むことがあるとか。

全体的に左頸部から腰背部に緊張があり、特に左腰部筋群の胸腰移行部に過緊張と関節運動の固着化が著しい。こうした一側性の過緊張は、冬場になると除雪作業で痛めた腰痛患者に多くみられる。
だが、本人は何もしていない、と言う。

治療を終えたら、「あ、大丈夫になった! 動ける」と言って帰られた。
が、それから4日後に再び痛み出し、また治療にみえた。
「前の時は1回の治療でよくなったのに…..、何でだろう….??」
「何もしてないのに、何でまた痛み出したんだろう…?」と不安げである。

そこで、日本整形外科学会と日本腰痛学会がまとめた「腰痛診察のガイド「ライン」に関する記事(「腰痛診察の在り方が変わるか!?」に掲載)の新聞記事のことを話題にした。
その山形新聞の記事は読んでいないそうだ。
要するに、下の図のことだ。

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すべての腰痛で、原因を特定できるものは15%。実際、この15%の中にも腰痛との関連が疑わしい病態も含まれているように思うが、それはともかくとして、その他の85%は原因を特定できない腰痛である。ついては画像検査ではなくストレスのチェックをしなさい、というガイドラインである原因を特定できない85%の腰痛にはストレスが関与している、ということのようだ。

「さて、あなたの腰痛はどれでしょう?」
「……???」

「消去法で考えたら分かるんじゃないの…。外傷によるものは除外できるし、感染症でもない。神経学的な兆候も、内臓疾患の徴候もないわけだし、後は85%の原因を特定できないとされる腰痛だけど、それはストレスが関わっているとされている腰痛ということになるけど…。ちがう?」
「でも、私はストレスに強い方だから…..」

「そう! じゃ、15%の方を心配しているわけだ….」
「はい、何か悪いものがあるんじゃないかと….」

「えっ、癌か何か、とでも…?」
「ええ!」
そう思っているのなら画像検査などを優先しなければならない腰痛ということになるが、われわれの治療を求めるのはどういう心理だろう。

「癌で痛みが出ているとしたら病状が進んでいる可能性があるけど、最近体重が減ってきているとか、疲れやすいとか、検診で要検査の指導を受けたとか、その他で疑わしいと思っていることは…?」
「冬になって動かないから体重は増えています。健康診断では、何も….。でも、動かなくても痛くなるってくるので…」

それじゃ、問題を難しくしないで85%の方の腰痛を考えるべきでは? 
ところが、ストレスとなると精神心理的問題を想定する。
が、反復される物理・機械的ストレスも含めなければならない。
こんな研究もある。
”Repetitively stretched tendon fibroblasts produce inflammatory mediators. ”
「反復的に伸張された腱線維芽細胞は炎症性物質を産出する」(ピッツバーグ医療センター、整形外科)
(この記事は別項で紹介することにします。)

そのことを指摘すると、「何もしていない」ことを強調する。
では、何もしていないのに痛みのタネができるのは、なぜだろう?
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by m_chiro | 2013-01-18 12:20 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
腰痛診察の在り方が変わるか!?
「よくなてきたけどもう一歩だ」http://junk2004.exblog.jp/19760772/
加茂先生のブログ記事。
昨年最後の山形新聞(12.31付け)1面の囲み記事にも、同じ内容の報道があった。

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「腰痛にストレス関与」と題した記事は、決して新たな見解ではない。
が、日本整形外科学会と日本腰痛学会は、12月30日までに「腰痛の診療ガイドライン」をまとめたことを報じていた。

腰痛の発症やその慢性化には「心理的ストレス」が関与しているとする見解である。
だから画像検査の在り方が問われている。
重篤な脊椎疾患がない限り、マニュアル式に画像検査をすることを戒める診療指針である。

まずは発熱や胸部痛といった危険信号があるかないかによって、①癌、外傷、感染などの重篤な脊椎疾患、②まひ、しびれ、筋力低下などの神経症状のあるものと、原因を特定できない非特異的腰痛を分けなさい、としている。

それでも、麻痺、痺れ、筋力低下の症状が、必ずしも重篤な神経学的徴候とな限らないケースもあり、その鑑別には筋・筋膜問題を含めて課題がある。

それはともかくとして、危険信号および①と②に該当するケースでは画像検査が要求されるが、原因の特定できない非特異的腰痛に対してはストレス評価が必要であっても、画像検査は必要としないのである。

しかも非特異的腰痛は全腰痛の85%を占めるとしているわけだから、腰痛に対する画像検査の在り方が変わらなければならない。
変わってほしいものである。

こうした事例にも、医学的に不確かな時代の流行というものが見え隠れする。
盛んに「椎間板ヘルニア」などの構造的問題を指摘してきたものが、この診療ガイドラインでは対極にある「心理的問題」を強調している。

確かに「精神・心理的要因」は重要な因子だろうと思う。
だからといって、85%の腰痛を「生物・心理・社会的要因」とし、「心理的ストレス」を強調して終わりにしてはならない。

その因果が明らかにされなければならないし、何よりも生き物としての機能的側面の解明は重要な課題だと思う
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by m_chiro | 2013-01-03 11:47 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)



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