カテゴリ:痛み考( 143 )
痛みの治療研究会・掲示板が開設された
日頃お世話になっている「反証的臨床手技」のsansetu先生が「痛みの治療研究会」の掲示板を開設されました。

いろいろな徒手療法の先生方が症例の報告をされており、治療家にはとても勉強になる掲示板です。痛みと向き合っているおられる方々の生の意見も聞けて、これも参考になると思います。痛みは個人的な体験でもあります。経験者の声は、本当に貴重な勉強材料でしょう。

症例の報告を読んでも、いろいろな方法があることに感心させられますが、そうした方法論の背景にある共通項を探るのも、治療家としては大事な勉強のような気がします。

是非、訪問してみてください。
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by m_chiro | 2008-09-06 12:53 | 痛み考 | Trackback | Comments(9)
痛み系の可塑性・記憶の可塑性を逆手に取ろう
「痛み系は可塑性が高い」、神経生理学者・熊澤孝朗先生は強調している。
痛み系は発生的に古く、原始性を持っている。
可塑性が高いということは、変わりやすく、歪みやすい。
強い痛みが長く続いたり、神経が傷害されたりすると、歪み・変わった神経系は元に戻れなくなる。
だからこそ、痛みは可及的に速やかに消すことが大事なのだ。

もうひとつ、正常時には独立して働いている痛み系は、歪んでしまうことで、正常時にはみられない混線が起こり、他の神経系とリンクされやすくなる。
これも問題を更に複雑にする。

可塑性と言えば、我々の記憶も可塑性によって成り立っている。
長期の反復学習は記憶を確固たるものとする。
これは脳における記憶の神経回路が可塑的に変化した結果でもある。
身体的記憶も同じで、反復して練習することで上手に運動能力を発揮するようにもなる。
また、恨みつらみも日々更新して持ち続けていると、増幅されて強い妄想的な記憶を作る。
神経系の可塑性はやっかいだが、これがあるからこそ前進も出来る。

ところで、慢性的な痛みを持つ人ほど、痛む部位を揉みたがる。
コルセットを離せない腰痛患者の心理に似ていなくもないようだ。
意識を痛む部位から離すことが必要なのだが、反復して刺激することで逆に更に意識されることになる。痛いのだから気持ちはよく分かるが、別の戦略を立てるべきではないのだろうか、と思ってしまう。

TPBで痛みをリセットする方法は、記憶の認知にも作用するのだろう。
痛みを揉み倒す刺激では、そう簡単には行かない。にもかかわらず、その刺激を反復する。
当然、痛み部位の記憶も増強されるだろう。刺激部位が意識されることで、更に記憶の可塑性が高まる。
その繰り返しで、痛みの「負の可塑性」が増幅されるのではないかと心配になる。

どんな方法であろうと、早く痛みを消すことが大事なのは言うまでもない。
痛みを消せれば、どんな手法でもよい。もちろん、指圧・マッサージを否定するつもりもない。
ただ、変化が得られない刺激を延々と続けて問題を複雑にする行為は止めたほうがよい、と言っているだけである。

ここは「正の可塑性」に切り替える戦略が大事だろう。徒手療法においても、そんな治療法の開発が考えられなければならない。
ひとつには、痛み部位を意識させずに痛みを消す方法が有効だろうと思う。ともかく、痛み部位に意識を向けずに、「負の可塑性」から「正の可塑性」へと、「可塑性」を逆手に取った方法を考えて行きたいものである。

こんなに一生懸命に痛みと向き合っている人たちがいるのです。
「座敷わらしのひとりごと」で自らの痛み体験を公開し、尚且つ多くの痛みに悩む人たちに経験を通したアドバイスを送り続けているsyarurukさんは、「七色のカード」を駆使しているようだ。こうした積極的な生き方や姿勢はとても大切で、色んな方法を自分で検証し、その情報を公開している。素敵な人だと思う。多くの痛みを抱える人たちに勇気を与えてくれている。
素敵な人と言えば「椎間板ヘルニア・腰痛掲示板」の管理人・ケイしゃんにも頭が下がる。
その他にも、加茂先生のお仲間は、皆さん一生懸命で素敵な人たちである。
それぞれのアドレスにアクセスすれば、そのことがよく分かるだろう。
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by m_chiro | 2008-09-02 01:33 | 痛み考 | Trackback | Comments(4)
痛みの下限と上限
お盆が過ぎて雨模様が続いている。
時にはスコールを思わせる集中豪雨になったかと思うと、まるで梅雨空のようにジトジト降り続く。
この頃では、すっかり秋風が吹きはじめ、半袖の衣類では凌げないほどである。
稲穂も立ち上がってきたきたが、日照時間の必要なこの時期の雨模様は実りの秋にも影を落としそうだ。
こんなに気候の変化が激しいと、体調不良も如実になるらしい。
お盆疲れも重なって、慢性の痛みを抱える人にも具合の悪くなる人が多くいる。
そんな人をみていると、痛みには下限と上限があることを知る。

慢性痛の患者さんにとっては、いつも抱えている痛みこそが生理的な痛みなのだろう。
それが様々な外因や心理的な内因に修飾されて、上限の痛みとなる。
強い痛みと弱い痛みが2つあるときは強い痛みしか感じない、とはヒポクラテスの言らしい。ゲート・コントロール説は、その根拠を示した。
いくつも痛みを抱えている人は、最も強い痛みの方を意識してる。
その一つが楽になると、今度は別の痛みを訴える。

痛みはいつも同じ強さに感じるとは限らないようだ。
こうして下限と上限の痛みを繰り返す。
上限の痛みはその時々の急性の痛みのようなもので、治療にも比較的良好に反応してくれる。気分転換やセルフコントロールで上手に痛みから意識を離すことができれば、上限の痛みを紛らわせることもできるのだろう。

例えば、子供は痛みに対応するときに大声をあげて泣く。
それで呼吸が大きく動く。緊張と弛緩の波が身体内部を律動させる。
大きな声が声帯や喉を震わせ身体中に共鳴振動が起こる。注意も移る。
子供は、痛みが消えてケロッとする。これは生得的な鎮痛法なのだろう。
だから大きな声で歌を唄うのも、子供の「大泣き鎮痛法」に通じるものがあるのかもしれない。
上限の痛みには上手に付き合って対処することが望ましいし、治療家は生理的な痛みにどう対処すべきかを学ばなければならないのだろう。
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by m_chiro | 2008-08-24 11:21 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
痛みや体調不良は、気候と関係するのか。
ただ今、「日本カイロプラクティック徒手医学会誌」の編集が最終段階に入り、文字校正の真っ最中です。どうにか目途がついて、しばらくぶりでこのページを開きました。

今年、私の地域は空梅雨で雨が少なく、一週間ほど前に31度の最高気温となりました。併せての梅雨明け宣言でした。ところが、その翌日からひどい雷雨が続き、完全に梅雨の気配です。

そんな天気が続くと、古傷が痛み出した患者さんや慢性的な痛みを抱える方が、「神経痛だ!」と言っては治療にみえるようになります。

天気が体調とどう関係するのか? 
そんな調査が2004年に行われています。

健康と気候に関するアンケート調査
http://www.terumo.co.jp/press/2004/023.pdf


調査したのはテルモ株式会社で、立正大学、国土環境株式会社と共同調査のようです。
調査対象は全国の40~60代の一般生活者および慢性疾患患者の1168名でした。
その結果、多くの方が天候と体調に関係があると考えている(81%)ことや、そのような経験をしている人がいる(73%)ことわかりました。

では、どんな影響を経験しているのか? 
また、疾病をお持ちの方では影響を受けやすいのだろうか? 

圧倒的に多いのは循環器の関連症状、頭痛、リュウマチ、関節痛、腰痛、喘息、糖尿病などが続きます。いずれも自律神経との関連が想定される症状のようです。
こうした患者さんは、気候と体調の調査を重要視している(82%)ことから、あながち気のせいと決め付けるわけにも行かないようです。

もっとも、痛みの回路は2重システムになっていて、ひとつは毛帯路系という識別感覚システムです。明らかな警告系の痛み回路です。
もうひとつは毛帯外路系で、これは情動・自律反応伝達システムです。この伝達回路は多シナプス性で広範囲に接続されるので、痛みなども局在的ではなく漠然とした広範囲の痛みをつくるのでしょう。
自律神経系は痛みを修飾する神経でもありますから、気候がもたらす自律神経の変調は充分に考えられるところです。

気圧が下がる、気温が下がる、湿度が高い。これは自律神経の作用で痛みを修飾してしまうでしょう。気圧の検出は内耳の前庭器官が行いますので、外界の情報は中枢に送られて自律神経が作動し、内的世界が作られていくことになります。
高気圧は交感神経優位に、低気圧は副交感神経優位になり、いずれも痛みと関わることが知られています。

低気圧になると、ヒスタミンが増えることもわかりました。
ヒスタミンは低気圧などの外部環境に反応して増加し、血管の拡張したり、血管から周辺組織に浸出液を出したりします。すると、血圧が急低下することになりますから、交感神経も刺激されることになります。血圧の低下に合わせてバランスをとるわけです。

このときの血管内外での押し合いで、血管の内圧が高まると、血中には物質が溶け込みにくくなり、個々の細胞が膨張していきます。血中の肥満細胞からヒスタミンが出されることになります。痛み感覚は、一層交感神経を刺激してしまうのでしょう。

交感神経は筋肉や関節周辺の血管を収縮させ、酸欠による危機状態を作ります。その一方で脳の血流は増すので、偏頭痛の起こりやすい伏線ができあがります。こうして痛みの悪循環が作動します。

気圧の低下は、副交感神経優位ですから、からだのだるさがでますが、ヒスタミンも増えて交感神経への信号も活発になりますから、自律神経系はパニックになるのかもしれません。

私たちの内的世界は、外界からの情報によっても構築されます。だから、自然環境は侮れません。
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by m_chiro | 2008-07-25 01:45 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
経絡の遠隔療法
症例の記事を読んでいただいている方はお気づきだと思いますが、私は痛みに対して段階的なアプローチを行っています。

先ずは、痛みの原始的な反射である身体的に表現された「うずまき反射」をリセットします。次に、重力場における頭部からの圧変動をリリースしますが、これらは身体機能をみる治療家として重要視しているところでもあります。
そして最後に、痛みとして表現されている部位に対応します。
このときの一つのの方法として、経絡ルート上に表現されている痛みには経絡の遠隔療法を用いることがあります。

経絡を使った遠絡療法には、流派というべきなのか、学派というべきなのか分かりませんが、いくつかのシステマチックな方法があるようです。

ひとつはsyarurukさんのブログでも紹介されていました「陰陽二元論」の記事にある方法です。これはおそらく、「対角線療法」と呼ばれる鍼灸師の川井健董先生が開示している方法でしょう。

2つめは、sansetu先生のブログの「陰陽交叉法参考文献」に紹介されている方法もあります。この方法は記事の文献にも紹介されていました鍼灸師・吉川正子先生が、「陰陽太極鍼法」(陰陽交叉法)として発表した方法のようです。
陰陽交叉とは、つまり以下の対応になります。


1.肺経(手太陰)―胃経(足陽明) 
2.大腸経(手陽明)―脾経(足太陰) 
3.心経(手少陰)-膀胱経(足太陽) 
4.腎経(足少陰)―小腸経(手太陽) 
5.心包経(手厥陰)-胆経(足少陽)
6.肝経(足厥陰)-三焦経(手少陽)


3つめは、ケイしゃんの「腰痛掲示板」で、どなたかが紹介していました医師・柯尚志先生の「遠絡医学」という方法もあります。

ハタと困ったことには、この3つの方法で選択対応すべき経絡が、それぞれ微妙に違っていることです。遠絡医学の方法では、対角や交叉だけでなく同側を用いたりで、必ずしも単純に陰陽の交叉を用いていないことです。その対応する経絡を理論通りに選択するには、東洋医学や鍼灸理論に通じている必要がありそうです。と言うことは、なかなか一般家庭療法として使うには難しい面があるということかもしれません。更には、選択すべき経絡もそれぞれの方法で違っているのです。

私もこれには随分と悩まされました。この違いをどう考えていいのか、どれが正しいのか、考えあぐねました。私は鍼灸師ではありません。ですから、経絡の事情もよく飲み込めていませんでした。何といい加減な方法なのか、とも思ってしまいました。

しかし、よくよく考えれば、鍼灸は永い間の経験則に基づいて構築されているわけです。
しかも、れぞれが結果を出している状況を考えれば、その原理を考えた方が早道だと思いました。

結論を言えば、ポリモーダル受容器に注目したことで吹っ切れました。近年、経絡やツボはポリモーダル受容器が集まっているところと符合するらしい、ということを知ったからです。
そこで、熊澤教授の研究から学んだポリモーダル受容器の特徴を、このブログの「痛み学]NOTE⑩にまとめて「ポリモーダル受容器の活動は変幻自在、神出鬼没する」という記事にしました。

特に注目したのは、ポリモーダル受容器は反復刺激に対する再現性が極めて悪いこと、という特徴でした。つまり、ポリモーダル受容器は刺激に関する情報を忠実に伝えるということはしないということです。ということは、刺激によって生じた組織の変化に強い修飾を受けて、その組織の現状を伝えるために働いている、ということになるのでしょう。この特徴は、生体内の環境をリアルタイムで伝える重要な情報網そのものではないのか、と思ったわけです。

そう考えると、私たちの身体にはポリモーダル受容器による情報のネットワークが存在していると考えてもいいのでしょう。痛みは、この情報網のどこかのルートでフリーズしているか、あるいはブロックされているのだろう、と考えました。したがって、どの方法論が正しい経絡の設定をしているのか、などと詮索する必要はないのでしょう。いずれも、一つの標準的な提示に過ぎないのではないかと思っています。

では実際、どのように経絡を選択しているのか。どのように解除ポイントを決めているのか。ということについては、極めてシンプルに対応しています。
私には経穴に対する知識もないので、経絡上の異常な信号の表現を触診する、あるいは感知することで、対応するポイントを決めているわけです。

静かに経絡上に手掌から指先までをそっと添えると、ピンポイントで異和感を感じるところが現れます。その感じとは、例えば、冷たい感じ、あるいは凹んだ感じ、盛り上がる感じ、存在感の希薄なポイントなどなど。最も強く感じたポイントがどの経絡上にあるかによって、時には「対角療法」であったり、時には「陰陽交叉法」であったり、また時には「遠絡医学」の同側になったりで、経絡の選択はそれぞれの方法に固執していません。感知したポイントが、経穴に一致するのかどうかも気にはしていません。

ただし、必ず2ポイントを選択しています。最初のポイントはフリーズした情報経路の流れを回復させるポイントにします。次に最初のポイントからより末梢にポイントを探し、そこを「解除キー」として使いっています。
その他にも、刺激の方法や経絡の選択方法では私なりの選び方を持っていますが、鍼灸の先生方に荒唐無稽と揶揄されそうなので、これ以上は言及しません。

私は必ず症状部位と同調させていますが、最終的には症状のある部位を動かすように指示して、痛みの変化を確認させます。即座に消えることもよくあります。少なくとも6~7割の軽減をめざしますが、変化が乏しければポイントを別に探します。

解除がうまくいったら選択したポイント印を付けます(今では刺激ポイントの目印に金粒を貼ってあげます)。この目印は、在宅での刺激点として運動法と組み合わせて指導します。
痛みを軽減させて動かす。特に慢性痛に対応としては、ネガティブな神経の可塑性をポジティブな神経の可塑性に変える認知運動に導くことを狙っているわけです。
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by m_chiro | 2008-07-07 14:58 | 痛み考 | Trackback(1) | Comments(5)
迷走する診断名の影で苦悩する患者さん
3月初めに左腰部を傷めた60代の男性。
きっかけは、リクライニングの椅子で寝返りをした時に、腰に起こったピリッとした痛みだった。軽い腰痛になったとは言え、別に動けないわけでもなく、その後にスキーに出かけた。
すると左腰殿部へと痛みが強く広がり、整形外科医を受診した。
X-rayで「左股関節炎」と診断される。
腰部の牽引と低周波治療を受けて、鎮痛剤を処方される。
それにしても、股関節炎で腰部の牽引は理解できないが、治療を受けても悪化する一方で、下肢痛が外果のところまで起こるようになった。
下腿は全体的に痺れているので、総合病院の整形外科に転医した。

MRIを撮ると、診断名は「脊柱管狭窄症」に変わった。
追検査をするので入院が必要とされ、5月半ばから3週間の予定で入院した。
造影剤を入れての検査などで、最初の一週間は検査に明け暮れる。
結果、今度は「L4-5間の椎間板ヘルニア」と診断名が変わった。

予定の3週間の入院中2回の神経根ブロックを受けて、後はただひたすら安静を心がけて寝ているだけ。随分楽になった。
担当医からは、これで良くならなければ手術と言われて、6月3日に退院することになった。 

今でも殿部の軽い痛みと下肢痛、下腿の痺れがある。
最近は、朝起きて顔を洗う動作をすると痛みが強く出るようになったが、それも次第に落ち着いてくる。温泉に入ると楽になるので、もっぱら温泉療法を行っていると言う。

深部反射は正常。運動分析では、中殿筋に負荷がかかる動作で殿部痛と下肢痛が強まる。
下腿の痺れは常にある。
触診すると、左下腿は相対的に冷たい感じがある。
一見するに左短下肢で、左股関節は可動性の固着が見られる。おそらく筋性の防御が働いているのだろう。そんなわけで、最初に股関節炎と診断されたのかもしれない。
下肢痛の発症部位は膀胱経に符合している。
治療の最後に、肺経で最も反応するポイントを2ポイント選んで押圧しながら膝の屈伸運動を行わせた。
すると、痛みが膝窩に限局された。肺経のポイントを変更して再び運動を行わせると、今度はリリースされた。歩行も問題ない。

固着した股関節の可動を修正したので、筋性防御もリリースされ短下肢もみられない。
治療のターゲットを脳と身体を結ぶ情報系のネツトワークに向け、筋・筋膜問題を解決できれば自ずと良い結果になるだろう。
この病態は筋・筋膜性の疼痛に違いないだろうが、診断名は「股関節炎」から「脊柱管狭窄症」、そして「L4-5間の椎間板ヘルニア」へと迷走した。

診断名など、どうでもいい話ではあるが、病名に怯えて心理的にも、行動にも、生活の質も悪影響をもたらすとしたら、どうでもいいでは済まされない。
この患者さんも、病名に怯えていた。
その認識を変えてあげるのも治療のひとつではあるのだが、その分時間も労力もかかる。
ましてや、医師が画像を見せて断定的な物言いで説明したのである。
私のような一介の治療家の言葉に耳を傾けさせるのも一苦労なのである。
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by m_chiro | 2008-06-10 00:43 | 痛み考 | Trackback(1) | Comments(5)
中学一年生男児の腰痛
1ヶ月前の夕食時、突然、腰痛になった中学一年生の男児が来院した。
T12-L1の胸腰移行部の痛みを訴えている。

最初に開業医の整形外科を受診する。X-rayで問題なしとされ、湿布薬と鎮痛剤を処方される。
経過が思わしくなく、鍼灸治療院でハリ治療を受ける。見立ては、筋肉痛とのこと。
近くの総合病院に大学病院から整形外科医が出向しているという話を聞いて受診する。
ここでもX-rayを撮り、L4-5間の椎間板ヘルニアと診断される。腰部ベルトと鎮痛剤を処方される。

経過は悪化する一方で、授業でも座っているのがつらくなった。ランドセル型のカバンの重みで通学も苦痛になり、自動車での送迎で学校に行くようになった。部活動はバスケット部に所属しているが、休部した。
思い当たる原因もない。通常と変わったことと言えば、2週間後に迫った運動会の練習を行ったぐらい、だと言う。

最初の整形外科医は特に問題なしとし、鍼灸師は筋痛とみた。大学病院の整形外科医はL4-5間の椎間板ヘルニアとした。でも痛みを訴えている部位は胸腰移行部で、L4-5間周辺ではない。

深部反射は全体的に亢進ぎみに反応するが異常所見ではなく、ヘルニア思わせる徴候もない。
運動分析を行うと、屈曲-伸展、回旋、側滑すべての方向で同じ部位に痛みを訴える。特に伸展運動が強い痛みを伴うようだ。皮膚接触でも胸腰移行部は過敏に反応する。寛解因子は、寝ていることである。

基本的に運動痛なのに、運動分析で特定の方向が見出せないケースでは、視点をかえて推論するようにしている。

医学の歴史をギリシャ時代にまで遡ると、コス派とクニドス派の二大流派に行き着く。
コス派は、ヒポクラテスを中心にしたホリズム(全体論)をその哲学とした。ヒポクラテスは、医術と魔術を切り離し経過観察と記録から病を推測する手法を確立した。「医学の父」と称された医聖で、ポノス(ponos)という自然良能を引き出すのが医者の役目であることを強調した。

一方、クニドス派は、個々の病気の症状を類型分類し、それに対する特定の治療法を考えた。ヒポクラテスとは対照的に、医者は病気に対して直接的な役割を果たすことが出来る、と主張した。今日のアロパシー医学の源である。

どちらも重要な概念である。両者の統合あるいは止揚こそが望まれるところで、私としては両者の視点を心したいといつも思う。

この患者さんは局所の運動分析で特定の方向が見出せない。ここは全体論的な有機的相関に注意したほうがよさそうだ。
可動触診をすると、脊柱が全体的に可動亢進ぎみである。特に胸腰移行部はハイパー・モビリティで痛みを伴う。手首や足首の関節もハイパーである。

「小学校では何かスポーツをしていたの?」
「スポ小で野球をやっていた」
「何で野球をやめて、バスケットにしたの?」
「肩が外れやすいから」
投球で肩が外れやすく、外れると自分で治めていたようだ。やはり関節がルーズなのだ。内臓反射をみると、副腎の反射ポイントが過敏に反応する。糖分も良く摂るらしい。
こういう子は疲れやすい。特に朝は活動性も鈍る。運動していても息があがるはずだ。夜は遅くまで起きていて、朝はなかなか起きれないだろうと聞くと、付き添いのお母さんが「そのとおりだ」と応えた。

ここは「損傷モデル」ではなく、「生物・心理・社会的因子モデル」に切り替えて対応した方がよさそうである。
深部反射が亢進気味であり、繊細で緊張症の性格が伺える。
中学生になったばかりで、なれないバスケットの部活動などなど、潜在的なストレスも多かったのだろう。

筋活動の始動の遅延をリセットし、HPA軸対応の反射ポイントを調整した。腎-副腎ラインの内臓マニピュレーションを行う。胸腰移行部へは、カウンター・ストレインと動態認知法で対応した。

治療後、再び運動分析を行うと発痛領域がかなり減少している。
さて、どんな変化をみせてくれるだろうか。
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by m_chiro | 2008-05-29 00:49 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
慢性痛への対応を模索しなければならない
60歳になる事務員の女性。慢性的な痛みを抱えている。
頚から右肩にかけて(上僧帽筋)の痛みは8年越しである。
右膝は10年になる。
一昨年、内視鏡による半月板の治療を受けたが、今だに腫脹と痛みで正座はできない。
市内に11院ある整形外科医院と病院を全て回っているうちに10年経った、と言っていた。
体内の右側を貫くように強固なストレス軸が感じられる。
斜角筋、僧帽筋や肩甲骨内側に圧痛点が顕著である。

この患者さん、初診から一週間後の今日、2度目の治療にみえた。
初回の治療から2~3日は調子がよかったが、また同じになった、と言う。
少しでも快適な状態が作れれば、その先も見えやすい。

だが慢性痛の治療は、言わずとも大変である。そう易々と解決させてくれない。
ところが、治療者側の認識とは逆に、患者さんの方では大きな期待を抱いている。
このギャップを埋めて、痛みに取り組む共通の認識を持つことが先ず大切なのだろう。
そのためには慢性痛に対する情報を共有する必要があるが、さりとて難しいのだと失望させてもならない。痛みに向かうモチベーションは維持すべしである。

慢性痛の多くに関節可動域の制限がみられる。
痛みをかばって動かさなかった結果だろう。
では動かせば良いだろうと考えるが、事はそんなに簡単ではない。
可動域の制限された関節に過度の伸張刺激を加えると、痛みの悪化を招きやすい。
かといって消極的な自動運動は関節の拘縮を作りかねない。
つまり、積極的にADL(日常生活活動)を広げて実行することが難しいのである。

そこで、痛みを抑えて運動する方法が最善の策となる。
ひとつは、痛み部位をブロックして感覚を遮断し、関節の運動域を広げていく方法が選択される。ところが問題がある。こうした手法に精通した医師が圧倒的に少ないことだ。
加茂先生が主宰するMPS研究会の発展や医療チームの奮起を期待するばかりである。

もうひとつ、神経系の可塑性を変換する脳の運動学習を効率よく実現するためには、できるだけ感覚を遮断しない運動学習を可能にすることだろう。
そのためにも運動による誘発痛を引き起こさない関節運動の拡大や運動プログラムの開発を徒手療法家も模索しなければならないだろう。
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by m_chiro | 2008-04-12 00:37 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
情報が痛みを消す!?
昨年10月に、隣の県境にある保育園で講話を依頼させて出かけたことがあった。
その保育園が主催する、園児の親御さんや家族に向けたレクチャーでの企画だった。
テーマは「脳-身体―心の育て方」とした。
「脳-身体―心」を三位一体としてみる、という私の考え方に基づいて、腰痛・肩こり・関節痛などの「痛み」を話題にしながら、その育て方について話したのである。

講話の後の質疑では痛み問題に終始したが、とても活発で楽しい時間を過ごした。
その講演会場は保育園の講堂だったが、周囲には園児の絵がぐるり貼られていた。
講堂に足を踏み入れて、その絵を見た時にはとても驚いた。
どれもこれもが活き活きとして、力強い絵で感動ものだったのである。
さつまいも掘りの絵、泥んこ遊び、砂遊び、遠足、節分の鬼退治などなど、園児たちが自分の身体を使って、泥んこになりながら嬉々として遊んでいる様が見えるような絵ばかりだった。
受賞作もいくつかあったが、私にはどれもが甲乙付けがたい素晴らしい絵に見えた。

昨日のブログで紹介した斉藤公子氏のインタビュー記事「裸足の遊び 人生の土台」を読んで、その時に見た絵を思い出した。
そして、体を動かすことは脳の発育と無縁ではないのだ、と改めて思ったのである。
身体性をしっかりと築くことで脳が育つ、という斉藤公子氏の実践的な教訓に深く納得したのである。

私は、治療で患者さんの動きをみることを心がけている。問題の動きを認知させ、再作動させて動態認知を促すのである。人間が感じるものは、すべて脳における身体感知領域の活動パターンに基づいているのだろう。この感知領域が、今の身体の状況を精密にマッピングしている。
もしも、これらの領域に向かう信号が何がしかの変化を起こしているとしたら、そのマッピングは正確さを失う。
変化を起こす干渉をするものが何かは、人それぞれだろう。
もしも、干渉している信号系がリセットされなければ、「偽の身体マップ」が脳の身体感知領域に作られる可能性がある違いない。
変化している信号系をリセットして、本来の動態や動きを学習させる。これは私が心がけている方法でもある。認知行動療法や神経学者・アントニオ・ダマジオの「ソマティック・マーカー仮説」にヒントを得た。

昨年の保育園での講演の後、参加者の数人が治療を受けにこられた。
昨日は、やはり参加した婦人が来院した。1ヶ月前に足首を捻挫してから歩行で痛みが出る、と言う。
治療後には問題なく歩けるようになったその婦人が、帰り際に「私は30年来の腰痛なんです」と言った。
「何で最初に言わなかったの?」と聞くと、「今は良くなったんです」と答えた。
「どうして治したの?」と再度尋ねると、「何でか、よく分からないです。気がついたら痛まなくなっていました。保育園で先生の講演を聞いて、痛みの話を知って、何だ、そうだったんだと思ってから、何時からかはっきりわからないけど、気がついたら、アレッ腰が痛くない」と。
腰痛で10年前に退職したそうで、また働きに行こうかと思っている、と笑っていた。
「あなたが私の話をとても素直に受け入れてくれたからですよ。あり得ることなんですよ」。
本来の信号系に干渉して出来上がった「偽の身体感知マップ」を、情報がリセットした例だろう。
情報は侮れない。逆に言えば、偽の身体マップを作るような情報は駆逐されなければならないのだ。
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by m_chiro | 2008-02-26 19:38 | 痛み考 | Trackback | Comments(4)
神経根症のゴールド・スタンダード・サインと言うけれど
疾病の確定診断となる徴候をゴールド・スタンダード・サインという。
例えば、癌腫では画像所見や病理検査所見であろうし、胃潰瘍などは内視鏡による確認がそれに当たる。高血圧症には血圧計による時間軸的観察ということになる。
では、神経根症のゴールド・スタンダード・テストとは何だろう。

例えば、腰下肢痛の患者さんが単純レントゲン像だけで神経根症とされることが間々ある。
それはどうも胡散臭い。では、CTやMRI、ミエログラフィー(脊髄造影)などの画像所見が確実かと言えば、それも怪しい。MRI像で椎間板ヘルニアとされる無症候性の異常所見が現実に多々存在するからである。そんなわけで、腰下肢痛を画像所見だけで神経根症と確定する重要度は極めて低い。

では、神経根症のゴールド・スタンダードに値する徴候とは何だろう。
一般的には、以下のように解説されている。
症状は、痛みや痺れ、筋肉の萎縮、筋肉の痙攣等とされる(圧迫を受けている神経根の末梢神経支配領域に限局した症状)。
神経学的所見としては、左右のいずれかに限局して筋力低下や筋萎縮、知覚鈍麻、腱反射の低下、消失がある。


一週間前に40代の婦人が左腰下肢痛を訴えて来院した。痛み始めて既に一ヶ月が過ぎている。かかりつけの内科医に坐骨神経痛と言われる。鎮痛剤と坐薬を処方され、安静にしておくように指示される。接骨院でも電気治療とマッサージを数回受けた。
右腰臀部から下腿外側にかけて痛みと痺れているような重だるさ、下肢の冷感と痛みが日増しに強くなり、夜間、痛みで度々目覚めるようになる。坐薬は欠かさず使っている。食欲もなくなり、この一ヶ月余りで体重も4kg減った。踵歩行が右で不全である。左腰背部、殿部、大腿後面、下腿などの痛みを訴える筋群のトーンは低下している。
右膝蓋腱反射減弱。踵歩行左不全。左長拇指伸筋の筋力低下。SLR60度(±)。ケンプス・テスト(+)。画像所見はないが、成書では神経根症の兆候とされている。


この患者さん、痛みで踵歩行がままならず、左長母趾伸筋に筋力の顕著な低下がみられる。これはL5神経根レベルの徴候とされるが、下腿に痛みを持つ患者は、痛みのために筋力が低下することがあり、神経学的兆候とは言えない。踵歩行の不全も同様である。だいたい痛みのある患者の筋力検査にどんな意義があるのだろう。

下肢伸展挙上テスト(SLR)では、60度ほどで下肢と腰部の痛みが強くなるがロックされる状態ではない。これも筋の伸張度とそれに伴って動く仙腸関節および椎間関節の可動状態をみるもので、重要度は低い。

右膝蓋骨腱反射は減弱している。深部反射は上位から反射系への入力によって反射が抑制されることがある。従って、意識が痛む足に向いている時には減弱や消失が見られることもあり、この重要度も低い。腱反射とは、実際は筋紡錘反射であり、痛みで筋のトーンも低下しているようであれば、反射に消失や減弱がみられるのも至極当然であろう。

整形学テストのケンプス・テスト〈+〉。ケンプス・テストは体幹を伸展させる検査で椎間板ヘルニアなど、神経根症の検査とされているが果たしてそうだろうか。可動負荷のテストは関節や筋性の負荷をみるもので、そこに痛みが伴えば軟部組織に焦点をあてるべきだろう。
腰下肢、腹部の冷えも、左右差が顕著であるが、足背動脈は触れる。
顕著なTPは左腓骨と左大転子周辺に集中している。

私のチェック項目に従って、警告信号系システムによる筋活動の遅延信号をリセットし、TPをメリディアン・ラインと同調させてリリースした(筋のトーンが低下している患者さんには、特に直接TPを押圧する手法は避けている)。この患者さんのTPは胆嚢ラインと膀胱ラインに発生しており、そのメリディアン・ラインでの同調を行った。
TPがリリースされると、母趾伸筋の筋力低下も反射もその場で改善することがよくある。

最初の治療から5日後に2回目の治療に来院する。とてもよく治療に反応したようで、初回の治療の翌日の夕方から歩行で痛みがなくなり、夜間痛も消えた。明日から仕事に出る、と言うほど改善した。踵歩行正常。左長母趾伸筋の筋力も正常になる。SLR左右差なく改善。膝蓋腱反射(-)。寝返りで左大転子周辺に多少の痛みが残る程度になった。

この変化からみても、一般的に神経根症の徴候と言われるゴールド・スタンダード・サインは、極めて怪しいサインだと思わざるを得ない。
では、神経根症のゴールド・スタンダード・サインとは何か。重要度の高いものは患者さんが訴える症状と神経学的徴候ということになるが、その決定的な徴候とは「麻痺」に他ならない。そこではじめて画像所見が意味を持つ。
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by m_chiro | 2008-02-06 20:42 | 痛み考 | Trackback | Comments(6)



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