筋肉はどこまでも無視されるのか。
日本整形外科学会が打ち出した「運動器の10年:世界運動」は、世界保健機構(WHO)が提唱した「BONE AND JOINT DECADE 2000-2010」(骨と関節の10年)を「運動器」と翻訳して標語したものである。
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TVの湿布薬などのコマーシャルの片隅にも、この運動のシンボルマークが出てくるので見覚えがあることだろう。

日本整形外科学会が、WHOの「骨と関節」を「運動器」と訳したことには関心させられた。
この世界運動も、そもそもはアメリカの「バイオメディカル振興策」に倣ったものだろう。
アメリカ発の「脳の10年」があり、「痛みの10年」が続き、並行して「運動器の10年」となれば、その先にあるADLやQOLといった活動性と質に関する方向性が伺えて素晴らしいことだと思った。
特に「骨と関節」を「運動器」と修正訳語したことには、拍手したい気持ちだった。

ところが、その趣旨を読んでアレッと思った。やはり「骨と関節」に重点が置かれている。筋肉などは、総称としての運動器のひとつぐらいにしか位置づけられていない。しかも総論的には無視されている。

運動を表現する出力系は「筋肉」以外ない。
運動器と言うからには、筋肉を第一に取り上げて然るべきだろう。
特に筋肉の痛覚線維は、運動器の疾患を考える上で避けられない課題であるべきなのだ。
ところが、どこまでも筋肉は無視されるようだ。

痛みの生理学者である熊澤孝朗先生の著書では、筋神経への刺激がいかに脊髄に影響を与えているかを論じている。そこに痛みの可塑性の発生する要因がある、としているのである。
下の図は、神経を電気刺激したときに、脊髄での興奮がどのように違うかを研究したものである(1984年にWall.P.D.とWoolf.C.Jが発表した研究)。
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一目して分かるように、皮膚神経を電気刺激した時と筋神経を刺激したときとは脊髄での興奮の度合いがこんなに違っている。
筋肉における痛覚線維の興奮は、それだけ脊髄での痛み過敏を増強しやすいということである。
痛みは、「痛み行動」へと拡散して慢性痛に移行する。
運動を阻害し妨げるものとしては、運動出力系としての筋肉を無視できるものではない。運動を表現する器官としての筋肉は、軽からざる存在なのである。

痛みの可塑性が問題視されている。
慢性痛がはびこる状況の中で、痛覚受容器の存在する筋肉は重要である。それは治療上の問題だけではない。痛みの可塑性に関する機序を学び、対応すべき方法を求める上でも、患者さん自らが自覚すべき課題でもある。
臨床的な痛みの問題については加茂整形外科医院のHP http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/が最適の学びの場になるだろう。
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by m_chiro | 2008-10-23 23:16 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
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