痛み系の可塑性・記憶の可塑性を逆手に取ろう
「痛み系は可塑性が高い」、神経生理学者・熊澤孝朗先生は強調している。
痛み系は発生的に古く、原始性を持っている。
可塑性が高いということは、変わりやすく、歪みやすい。
強い痛みが長く続いたり、神経が傷害されたりすると、歪み・変わった神経系は元に戻れなくなる。
だからこそ、痛みは可及的に速やかに消すことが大事なのだ。

もうひとつ、正常時には独立して働いている痛み系は、歪んでしまうことで、正常時にはみられない混線が起こり、他の神経系とリンクされやすくなる。
これも問題を更に複雑にする。

可塑性と言えば、我々の記憶も可塑性によって成り立っている。
長期の反復学習は記憶を確固たるものとする。
これは脳における記憶の神経回路が可塑的に変化した結果でもある。
身体的記憶も同じで、反復して練習することで上手に運動能力を発揮するようにもなる。
また、恨みつらみも日々更新して持ち続けていると、増幅されて強い妄想的な記憶を作る。
神経系の可塑性はやっかいだが、これがあるからこそ前進も出来る。

ところで、慢性的な痛みを持つ人ほど、痛む部位を揉みたがる。
コルセットを離せない腰痛患者の心理に似ていなくもないようだ。
意識を痛む部位から離すことが必要なのだが、反復して刺激することで逆に更に意識されることになる。痛いのだから気持ちはよく分かるが、別の戦略を立てるべきではないのだろうか、と思ってしまう。

TPBで痛みをリセットする方法は、記憶の認知にも作用するのだろう。
痛みを揉み倒す刺激では、そう簡単には行かない。にもかかわらず、その刺激を反復する。
当然、痛み部位の記憶も増強されるだろう。刺激部位が意識されることで、更に記憶の可塑性が高まる。
その繰り返しで、痛みの「負の可塑性」が増幅されるのではないかと心配になる。

どんな方法であろうと、早く痛みを消すことが大事なのは言うまでもない。
痛みを消せれば、どんな手法でもよい。もちろん、指圧・マッサージを否定するつもりもない。
ただ、変化が得られない刺激を延々と続けて問題を複雑にする行為は止めたほうがよい、と言っているだけである。

ここは「正の可塑性」に切り替える戦略が大事だろう。徒手療法においても、そんな治療法の開発が考えられなければならない。
ひとつには、痛み部位を意識させずに痛みを消す方法が有効だろうと思う。ともかく、痛み部位に意識を向けずに、「負の可塑性」から「正の可塑性」へと、「可塑性」を逆手に取った方法を考えて行きたいものである。

こんなに一生懸命に痛みと向き合っている人たちがいるのです。
「座敷わらしのひとりごと」で自らの痛み体験を公開し、尚且つ多くの痛みに悩む人たちに経験を通したアドバイスを送り続けているsyarurukさんは、「七色のカード」を駆使しているようだ。こうした積極的な生き方や姿勢はとても大切で、色んな方法を自分で検証し、その情報を公開している。素敵な人だと思う。多くの痛みを抱える人たちに勇気を与えてくれている。
素敵な人と言えば「椎間板ヘルニア・腰痛掲示板」の管理人・ケイしゃんにも頭が下がる。
その他にも、加茂先生のお仲間は、皆さん一生懸命で素敵な人たちである。
それぞれのアドレスにアクセスすれば、そのことがよく分かるだろう。
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by m_chiro | 2008-09-02 01:33 | 痛み考 | Trackback | Comments(4)
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Commented by syaruruk at 2008-09-02 12:23
あらあら。また登場している。お恥ずかしい。。。
わたしは、整形外科の先生には、TP注射を駆使して、痛みを患者の何の努力も知識もなしに、取り去って欲しいと思います。それは、患者の目が覚めるのに、最も手っ取り早い方法だと思うから。急性痛の場合は、それで治療も悩みも終わってしまいますがそれでいいと思います。
慢性痛の場合には、そこからスタートで、いろいろ対処法を見つけていけばいいと思います。
痛みの記憶にとらわれている脳をリセットできるTP注射を、気軽に近所の整形外科で受けられるようになればいいなあと思います。

だから、加茂先生とMPS研究会の先生方には、とても期待しています。

今、自分が慢性痛という状態になったのも何かの縁ですから、いろいろ試して、回復への道を(そうと信じて歩いている)皆さんに見てもらえればいいかなあと思うのです。
協力してくださる、守屋先生や三節先生が居られるから、できることです。ありがとうございます。
Commented by sansetu at 2008-09-03 15:54
>痛み部位を意識させずに痛みを消す方法
この認識は私も大切だと思います。そもそもカイロにしても痛む部位に治療する方法論というよりは全体調整、遠隔解除の様相がありますからね。それをもっと進化させれば日本式カイロ誕生もありかと。そしてそれを日本から世界に発信する。たぶん欧米の方がこういうことには常に敏感なので、実際に効果のある方法論は抵抗感なしに広がります。するとカイロは向こうでは市民権を得ていますから、こんどはその認識が日本に逆輸入で戻ってきます。なーんて、ややこしい手順を経なければ、日本の常識はなかなかに自分たちからは変われない。でも戦略としては悪くないでしょ。
あと、痛み医療の「政策」としては私もシャルさんの意見とまったく同じです。痛みの治療研究会はTPBと対立するものではなく、むしろTPBが早くどこでもできるように世間に認知してもらうための一つの手段だと思っています。そして慢性痛はTPBだけで解決できないことは既に事実です。だからこそここでは東西タッグが必要なのです。そしてその保険適用などは、こんどは市民が頑張って要求する番なのだと思っています。
Commented by m_chiro at 2008-09-03 22:34
>痛みの記憶にとらわれている脳をリセットできるTP注射を、気軽に近所の整形外科で>受けられるようになればいいなあと思います。
>だから、加茂先生とMPS研究会の先生方には、とても期待しています。
syarurukさん、私も同感です。
慢性痛に対しても、実際、徒手療法にも大きな期待が寄せられています。
その期待に応えるためにも、我々は井の中を出て交流を行い、議論し、成果を集積していく必要を感じています。
それはTPBと対立軸で争うものでは決してありません。TPBの不足部分を補い、且つ、現状からその先に向けて発信する技法や概念であるべきだと思っております。

syarurukさんたちは、自分の経験を公開したり、悩める人にアドバイスを与えて貢献しています。ところが治療家は、どうしても自分の治療室のなかで収束しがちです。シャルルさんはじめ加茂先生のお仲間の皆さんに、鞭打たれたような気持ちでした。sansetu先生の存在も、大きな励みになりました。
Commented by m_chiro at 2008-09-03 22:44
sansetu先生、こんばんは。
カイロの上部頸椎だけを専門に行う手法(ホールインワン・テクニック)などは、まさに究極の遠隔法だと思います。おっしゃるとおり、カイロは全体調整、遠隔解除の様相ですが、あまりそのことに気づいているカイロプラクターはいないような気がします。
メジャー、メジャーと主原因の椎骨間障害を追い求めているところがありますから。
「痛みの治療研究会」には、広がりを期待しています。楽しみです。
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