科学とは何か
昨年9月に開催された「日本カイロプラクティック徒手医学会」に関しての投稿原稿を元に、学会誌第9巻を制作した。
編集長として約1年近くも付き合ってきて、やっと印刷製本があがってきた。
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今回の内容で特に感銘深かったのは、東洋大学教授・河本英夫先生の基調講演からの論文・『生命の「科学」と治療的介入』であった。
文中で「科学」について触れ、科学哲学者のカール・ポパーの「反証主義」を引いて説いている。反証主義は、私が日頃お世話になっていsansetu先生のスタンスでもある(「反証主義 雑感」http://sansetu.exblog.jp/tb/8016207)

反証主義とは何か。それは「反証される可能性を持つものこそ科学である」とするポパーの科学哲学論による。ポパー(1902-94)によれば、科学を科学たらしめているのは「検証可能性」ではなく「反証可能性」こそが重要なのだとする考え方である。
河本先生は分かりやすい比喩で次のように書いていた。

例えば「神は全能である」という証明に対して、これを反証しようとした時、反対の「神は全能ではない」を証明しなければならなくなるが、神=全能であれば、なんでもありなので、反証する対象がなく反証不可能である。このように間違いを証明できない言明は、実は科学ではなくむしろ信念である。むしろ間違いを証明できることが科学の基準であり、間違いをつうじて訂正を行い、それにより進歩するものが科学であることになる。

そう考えると、人の身体を扱う世界には、外見上まともに見えながら、実は唯の信念にすぎない説や概念、あるいは意見が少なからずあるようだ。
この学会誌も、学術雑誌のレベルからみれば程遠く稚劣ではある。本格的なRCT(無作為対象試験)などはあがってこない。それでも、治療家が論文にまとめるという慣れない作業に取り組み、自らの臨床的知見を検証あるいは反証しながらまとめている。
投稿者は論文査読委員会からの手厳しい指摘にもめげず、何度書き直して最終原稿に仕上げたことだろう。
こうした活動が10年続いてきた。たった10年と思うかもしれないが、カイロプラクティックの学術活動が10年の一区切りを迎えたことは、この業界の歴史には例を見ないことなのである。

日本のカイロプラクティック事情は、諸外国と大きく違っている。
先ず、制度がない。国が定めた基準がないということは、この国でのカイロプラクティックを社会に対して保障するものがないということでもある。
確かに、個々人がそれぞれに自らの意思で自助努力をしていることだろう。
だが、それは自分の治療室の患者さんに向けて保障するものではあっても、カイロプラクティックそのものが社会に対して保障するものではないからである。
そんな中で、社会や国民に対して担保し得るものを敢えて挙げれば、こうした臨床的知見の検証や反証をまとめた学術活動であり、その記録としての「学会誌」だろうと思う。
稚劣ではあっても、少なからずそこには科学する者の態度表明があると思うからである。

出来上がってきた学会誌を眺めて、つくづくと科学とは何かを思った。

「日本カイロプラクティック徒手医学会誌9巻」の主な目次は下記の通りである。




総説
●各国におけるカイロプラクティック教育システム  Andries M. Kleynhans
基調講演
●生命の「科学」と治療的介入           河本 英夫
特別講演
●腰痛の診断と治療 -マッケンジー法の有用性-  穴吹 弘毅
●常歩式 身体動作上達法             小田 伸午
ワークショップ
●歩行に与える身体の特性って・・・        小山田 良治
投稿原稿
●体性求心性信号に対するカイロプラクティック手技の効果
-上部頚椎アジャストメントが体性感覚誘発電位に及ぼす影響-
佐野 和代、藤居 正嗣、伊藤 佳代子
●固有感覚入力が及ぼす内分泌系への影響
-唾液コルチゾールレベルに関する予備研究-
杉本 栄武、和田 勝義、杉本 愛作
●固有感覚刺激による姿勢改善と運動能力の向上について
石田 昭治
●健常者と非特異的腰痛症並びに背部痛症者における仙腸関節変位像の統計的分析
-筋骨格系疾患の発症機序を考えて(第一報)-
吉野 和廣
●OKNの不良方向と頭頸部の変位に及ぼす右大脳優位性
荒木 寛志
●末梢血管床の形状変化からみた分子矯正栄養学の施術後補足指導の効果
-毛細血管撮影装置による観察評価に基づいて-
田中 勝士
●徒手療法後の自宅セルフケアについて
-脊柱へのアプローチ-
久々知 修平
●筋硬度計の試作およびその評価
樋渡 勝吾
●カイロプラクティック療法が体性神経及び自律神経系に及ぼす効果についての研究
荒川 恵史、増田 裕、佐竹 教之、袴田 直俊、中嶋 由晴
●膀胱内圧上昇に起因すると思われる腰痛の1症例
東 好孝
●腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)の臨床的重要性
鈴木 喜博
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by m_chiro | 2008-08-14 08:21 | Trackback | Comments(4)
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Commented by sansetu at 2008-08-14 10:38
守屋先生、編集業務大変お疲れ様でした。
今日はお盆の中日、久しぶりに静かな雨が降っています。
島外から孫が来ているのでしょう、このところ近所の家から花火の音が聴こえていました。今朝はカレーの香りがどこからか漂って来ました(笑)。じいばあは普段カレーなんて食べませんからね。
Commented by アダピー・タケウマ at 2008-08-14 18:27 x
守屋先生、学会誌の作成お疲れ様でした。今回の表紙はフルートでしょうか、いつもながら先生のセンスの良さには、感嘆いたします。
投稿されている先生方のご苦労もいかばかりだったことでしょうか。臨床の中での研究はともすると治った、治らないという結果のものになりがちですが、この学会誌の論文は客観的な視点で捉えてあって、科学という名にふさわしいと思います。このような研究の場を持ち続けていくことが、日本の徒手医学の発展のために確実な道だと信じています。
Commented by m_chiro at 2008-08-15 19:35 x
sansetu先生、田舎のお盆は賑わいますね。
酒田も花火大会で賑わいました。
どこに行っても普段見られない人ごみです。
今晩は、行きつけの寿司屋(以前、文芸春秋でカラーページの取材をされた店)に行ってきたところです。
おいしかった。
おいしい寿司を食べると、とても幸せな気分になります。
鳥海山麓にある酒蔵の酒も楽しんできました。いい夏休みでした。
Commented by m_chiro at 2008-08-15 19:42 x
タケウマさん、ありがとう。
今回のマーンテーマは「歩行と運動」でした。これはリズムでしょう。
と言うわけで、音楽に関する写真を採用しました。表紙は。確かに、フルートです。
地味な活動でも、こうした学術活動の歩みを止めないようにしたいものです。
我々の学会はボランテア活動による手作り学会ですすから、一人ひとりの自覚による継続が力になると思います。
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