迷走する診断名の影で苦悩する患者さん
3月初めに左腰部を傷めた60代の男性。
きっかけは、リクライニングの椅子で寝返りをした時に、腰に起こったピリッとした痛みだった。軽い腰痛になったとは言え、別に動けないわけでもなく、その後にスキーに出かけた。
すると左腰殿部へと痛みが強く広がり、整形外科医を受診した。
X-rayで「左股関節炎」と診断される。
腰部の牽引と低周波治療を受けて、鎮痛剤を処方される。
それにしても、股関節炎で腰部の牽引は理解できないが、治療を受けても悪化する一方で、下肢痛が外果のところまで起こるようになった。
下腿は全体的に痺れているので、総合病院の整形外科に転医した。

MRIを撮ると、診断名は「脊柱管狭窄症」に変わった。
追検査をするので入院が必要とされ、5月半ばから3週間の予定で入院した。
造影剤を入れての検査などで、最初の一週間は検査に明け暮れる。
結果、今度は「L4-5間の椎間板ヘルニア」と診断名が変わった。

予定の3週間の入院中2回の神経根ブロックを受けて、後はただひたすら安静を心がけて寝ているだけ。随分楽になった。
担当医からは、これで良くならなければ手術と言われて、6月3日に退院することになった。 

今でも殿部の軽い痛みと下肢痛、下腿の痺れがある。
最近は、朝起きて顔を洗う動作をすると痛みが強く出るようになったが、それも次第に落ち着いてくる。温泉に入ると楽になるので、もっぱら温泉療法を行っていると言う。

深部反射は正常。運動分析では、中殿筋に負荷がかかる動作で殿部痛と下肢痛が強まる。
下腿の痺れは常にある。
触診すると、左下腿は相対的に冷たい感じがある。
一見するに左短下肢で、左股関節は可動性の固着が見られる。おそらく筋性の防御が働いているのだろう。そんなわけで、最初に股関節炎と診断されたのかもしれない。
下肢痛の発症部位は膀胱経に符合している。
治療の最後に、肺経で最も反応するポイントを2ポイント選んで押圧しながら膝の屈伸運動を行わせた。
すると、痛みが膝窩に限局された。肺経のポイントを変更して再び運動を行わせると、今度はリリースされた。歩行も問題ない。

固着した股関節の可動を修正したので、筋性防御もリリースされ短下肢もみられない。
治療のターゲットを脳と身体を結ぶ情報系のネツトワークに向け、筋・筋膜問題を解決できれば自ずと良い結果になるだろう。
この病態は筋・筋膜性の疼痛に違いないだろうが、診断名は「股関節炎」から「脊柱管狭窄症」、そして「L4-5間の椎間板ヘルニア」へと迷走した。

診断名など、どうでもいい話ではあるが、病名に怯えて心理的にも、行動にも、生活の質も悪影響をもたらすとしたら、どうでもいいでは済まされない。
この患者さんも、病名に怯えていた。
その認識を変えてあげるのも治療のひとつではあるのだが、その分時間も労力もかかる。
ましてや、医師が画像を見せて断定的な物言いで説明したのである。
私のような一介の治療家の言葉に耳を傾けさせるのも一苦労なのである。
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by m_chiro | 2008-06-10 00:43 | 痛み考 | Trackback(1) | Comments(5)
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Tracked from 心療整形外科 at 2008-06-13 14:00
タイトル : いろいろな病名
迷走する診断名の影で苦悩する患者さん 加茂整形外科医院 加茂 淳先生 昨日は、メール送信を承諾していただき、誠にありがとうございました。私は、*県のAと申します。“腰痛”や“ヘルニア”など、様々なワードで検索し、加茂整形外科医院様のホームページに辿り着いた次第です。 私は、現在胸椎ヘルニア・シュモール結節との診断を受け、ミオナール50㎎,メチコバール250,ユベラN200㎎を毎食後に服薬しています。 *月に、若干腰が痛かったので***ようなスタイルで背部を足で蹴るような整体術...... more
Commented by bancyou1965 at 2008-06-10 08:29
>その認識を変えてあげるのも治療のひとつではあるのだが、その分時間も労力もかかる。
ましてや、医師が画像を見せて断定的な物言いで説明したのである。
私のような一介の治療家の言葉に耳を傾けさせるのも一苦労なのである。

先生の仰る通りですね。
私、遊んでばかりで、行動に移せず恥ずかしい限りです。
Commented by sansetu at 2008-06-11 12:53
同感です。治療そのものよりも認識を変えていただく為の作業の方がはるかに手間がかかり困難です。ですのでその作業に関しては当院も常に「赤字」です。
そして認識の変わる場合もあれば徒労に終わる場合もあります。でもまた同時に、自分自身にとってみれば、結果に関わらず、「何一つ徒労はない」とも確信しております。
Commented by m_chiro at 2008-06-11 22:06 x
bancyou先生、「遊んでばかり」だなんて何をおっしゃいますか! 
先生の奮闘ぶりは読ませていただいておりますよ。
Commented by m_chiro at 2008-06-11 22:11 x
sannsetu先生、
”自分にとって診れば、結果に関わらず、「何一つ徒労はない」”、
うれしい言葉でした。
私も「Wボーダー2号」として頑張ってまいります。
Commented by bancyou1965 at 2008-06-11 23:54
はい!私は3号として、頑張ります。(^-^*)
ちなみに今週も、天気良ければ泊まりツーリング(遊びに)行く予定なんです。
おっさんと二人で、放電しっぱなしなので、充電してきます。
過充電とも言う。
ブログアップしたら見て下さい。
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