中学一年生男児の腰痛
1ヶ月前の夕食時、突然、腰痛になった中学一年生の男児が来院した。
T12-L1の胸腰移行部の痛みを訴えている。

最初に開業医の整形外科を受診する。X-rayで問題なしとされ、湿布薬と鎮痛剤を処方される。
経過が思わしくなく、鍼灸治療院でハリ治療を受ける。見立ては、筋肉痛とのこと。
近くの総合病院に大学病院から整形外科医が出向しているという話を聞いて受診する。
ここでもX-rayを撮り、L4-5間の椎間板ヘルニアと診断される。腰部ベルトと鎮痛剤を処方される。

経過は悪化する一方で、授業でも座っているのがつらくなった。ランドセル型のカバンの重みで通学も苦痛になり、自動車での送迎で学校に行くようになった。部活動はバスケット部に所属しているが、休部した。
思い当たる原因もない。通常と変わったことと言えば、2週間後に迫った運動会の練習を行ったぐらい、だと言う。

最初の整形外科医は特に問題なしとし、鍼灸師は筋痛とみた。大学病院の整形外科医はL4-5間の椎間板ヘルニアとした。でも痛みを訴えている部位は胸腰移行部で、L4-5間周辺ではない。

深部反射は全体的に亢進ぎみに反応するが異常所見ではなく、ヘルニア思わせる徴候もない。
運動分析を行うと、屈曲-伸展、回旋、側滑すべての方向で同じ部位に痛みを訴える。特に伸展運動が強い痛みを伴うようだ。皮膚接触でも胸腰移行部は過敏に反応する。寛解因子は、寝ていることである。

基本的に運動痛なのに、運動分析で特定の方向が見出せないケースでは、視点をかえて推論するようにしている。

医学の歴史をギリシャ時代にまで遡ると、コス派とクニドス派の二大流派に行き着く。
コス派は、ヒポクラテスを中心にしたホリズム(全体論)をその哲学とした。ヒポクラテスは、医術と魔術を切り離し経過観察と記録から病を推測する手法を確立した。「医学の父」と称された医聖で、ポノス(ponos)という自然良能を引き出すのが医者の役目であることを強調した。

一方、クニドス派は、個々の病気の症状を類型分類し、それに対する特定の治療法を考えた。ヒポクラテスとは対照的に、医者は病気に対して直接的な役割を果たすことが出来る、と主張した。今日のアロパシー医学の源である。

どちらも重要な概念である。両者の統合あるいは止揚こそが望まれるところで、私としては両者の視点を心したいといつも思う。

この患者さんは局所の運動分析で特定の方向が見出せない。ここは全体論的な有機的相関に注意したほうがよさそうだ。
可動触診をすると、脊柱が全体的に可動亢進ぎみである。特に胸腰移行部はハイパー・モビリティで痛みを伴う。手首や足首の関節もハイパーである。

「小学校では何かスポーツをしていたの?」
「スポ小で野球をやっていた」
「何で野球をやめて、バスケットにしたの?」
「肩が外れやすいから」
投球で肩が外れやすく、外れると自分で治めていたようだ。やはり関節がルーズなのだ。内臓反射をみると、副腎の反射ポイントが過敏に反応する。糖分も良く摂るらしい。
こういう子は疲れやすい。特に朝は活動性も鈍る。運動していても息があがるはずだ。夜は遅くまで起きていて、朝はなかなか起きれないだろうと聞くと、付き添いのお母さんが「そのとおりだ」と応えた。

ここは「損傷モデル」ではなく、「生物・心理・社会的因子モデル」に切り替えて対応した方がよさそうである。
深部反射が亢進気味であり、繊細で緊張症の性格が伺える。
中学生になったばかりで、なれないバスケットの部活動などなど、潜在的なストレスも多かったのだろう。

筋活動の始動の遅延をリセットし、HPA軸対応の反射ポイントを調整した。腎-副腎ラインの内臓マニピュレーションを行う。胸腰移行部へは、カウンター・ストレインと動態認知法で対応した。

治療後、再び運動分析を行うと発痛領域がかなり減少している。
さて、どんな変化をみせてくれるだろうか。
[PR]
by m_chiro | 2008-05-29 00:49 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/8944067
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by アダピー・タケウマ at 2008-05-29 12:32 x
広い視野をもって、多くの引出しからその患者さんに一番有効なアプローチを選択する治療は、素晴らしいと思います。目指す治療です。
今回のようなケースだと、私の場合運動痛があり寝ているのが楽ということですと、まず筋肉のトラブルからアプローチしていると思います。何回かの治療の後症状の改善がみられなかったとき別の方向を考えていたと思います。
 問診の大切さ、木を見て森も見る治療の大切さを教えて頂きました。
Commented by m_chiro at 2008-05-29 23:51
アダピーさん、病態を俯瞰することと、ピンポイントで焦点を合わせること、この2つの視点はとても大切なことだと思います。
確かに筋肉のトラブルなのでしょうが、その誘因をさぐると、必ずしも直接的なアプローチは、患者さんも痛いだけのような気がします。
どう変化していくか、興味深いところです。
<< 「手術しないで良かった」、脊柱... 痛み学「NOTE」⑮ クレニオ... >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索