解離性大動脈瘤に出会う
医療事故の新聞報道がある。74歳の女性患者のCT画像に写った「大動脈解離」の所見を見落としたために死亡した、という内容であった。

この患者さん、救急車で病院に運び込まれたが、担当医はCT画像上にある心臓内部の亀裂を見落としたうえに、「たいした問題はない」として患者を帰宅させている。
帰宅させられたものの、患者さんは具合が悪い。それで翌日、再び受診する。
ところが、当直医は血液検査だけで済ましてしまった。結局、この患者さんは翌々日に死亡した。三日間における急展開である。

担当した2名の医師は、適切な処置を怠ったための業務上過失致死の疑いで書類送検されることになった。事情聴取に対して、この医師は「おかしいとは思ったが、専門医に報告するほどではないと判断した」と話したという。

この報道をみて、同じ疾患に遭遇して「クワバラ、くわばら」と感じた時のことを思い出した。
私の患者さんも、前述の患者さんとほぼ同じ76歳の老齢の女性であった。昨年4月に、この婦人は娘さんに付き添われて、私の治療室にやってきた。

肩甲間部、特に胸椎4・5レベルから胸部への痛みを訴えていた。状況を聞くと、「朝起きたら痛みだした」と言う。思い当たるような原因はない。内科に受診し、「筋肉痛か、肋間神経痛だろう」と診断され、鎮痛剤を処方されている。
それでも痛みの軽減が見られず、私の治療室にやってきた。

座位による体幹の動きでも軽減は診られない。軽減因子がないのである。仰臥位にすると痛みは憎悪し、背部を診察しようと腹臥位にしたら大変だった。顕著に痛みだして持続姿位をとれなかった。この憎悪因子は「解離性大動脈瘤」の所見でもある。
これはおかしいと直感したので、結局は循環器科で診てもらうように指示した。その時すでに午後6時を過ぎていた。

「病院はもう終わっているから、明日行ってみる」と言う患者さんを説得して、すぐに総合病院の救急治療室に向かわせた。夜になって、付き添ってきた娘さんが電話をくれた。聞くところによると、運よく循環器科の先生が当番医で「解離性大動脈瘤」と診断されたようだ。すぐに入院するように言う医師に向かって、この患者さん「何の準備もしていないから明日入院する」と言ったらしい。

医師は「今日は帰すわけにはいかない」とつっぱねて、ついには入院することで決着したようだ。
それからしばらくして、元気になった患者さんから丁重なお礼を言われた。

「おかげさまで命拾いしました」。
医師から事の重大さをトウトウと説明されたようだ。お礼を言われたものの「クワバラ、くわばら」であったが、私にしてみれば初めて解離性大動脈瘤が発症した患者に接したわけで、こんな機会はめったにないことだろう。もっとしっかりと随伴徴候を診ておくべきだった、と反省してしまった。

解離性大動脈瘤は95%以上が腎動脈の直下にあり、それが臍まで広がって腰部に放散したり、肩甲間部や胸部から両肩に放散したりするのが特徴的である。
破裂が切迫している時は、早朝に軽快徴候を示すそうだから、要注意である。

脈拍の消失や臥位での腹部の鼓動にも注目したい。触診では腹部の脈打つ塊を診ることもあるだろうし、一側上肢の血圧低下も特徴的な症状である。
ともかく痛みは重度であるから、あれこれと詮索している暇もなく、病院に向かわせてしまったが、元気になってくれたのが何よりの救いだった。
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by m_chiro | 2007-12-21 22:20 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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