「痛み学」NOTE 75. 脊柱管のマイナーソフト構造❸
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


75. 脊柱管のマイナーソフト構造
❸ 脊柱管ソフト構造から下肢挙上テストを考える


ホフマン靭帯は、ひとつは硬膜前面中央部から腰椎と後縦靭帯に付着する「正中ホフマン靭帯(midline dural ligament)」である。
もうひとつは硬膜の前方側面から後縦靭帯(椎間板付着部)に付着する「外側硬膜靭帯(lateral dural ligament)」である(❷の記事の図参)。
また、特に硬膜の後方では「髄膜椎骨靭帯(meningovertebra ligament)」の存在に注目したい。
図(“Polygonal Deformation of the Dural Sac in Lumber Epidural Lipomationsis”
Caroline Geersらより引用)は、硬膜と髄膜を支持する靭帯組織であるが、後方では椎骨と連結された靭帯であることを知ることができる。

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パドヴァ大学(伊)の臨床整形外科領域からの報告(J Spinal Disord., 1990)では、硬膜後方における髄膜脊椎靭帯(meningovertebral ligament)も脊柱管の病態に関与していることを指摘している。
更に、「外側根靭帯(lateral root ligament)」は脊髄神経根と下椎弓根の間に付着し、脊柱の動きと硬膜袖の自由度を制限している。
したがって、この硬膜袖におけるテンションは外側根靭帯の緊張度とも関わっていて、硬膜袖に弛みや緊張をもたらしているのである。
この外側根靭帯も、これまでの常識に疑問を投げかける存在かもしれない。

例えば、神経根障害や腰部椎間板ヘルニアなどの鑑別診断に使われる「SLRテスト」がある。
股関節屈曲35°~70°で「椎間板上で坐骨神経根が緊張する」とされている。
信頼度も3.5/4である。要するに、椎間板ヘルニアなどによって狭窄されると坐骨神経への放散痛がおこるとみるテストである。

そうした根拠を示す解剖所見も散見できる。例えば、神経系モビリゼーションの第一人者とされるD.S.Butlerは、著書の中で次の画像を引用して解説する(赤丸と赤字、書名は私が追加したもの)。
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写真Aは「反伸張性姿勢」で股関節と膝屈曲位での神経の引き出し現象をみた画像。
Bは「下肢伸展挙上:SLR」における神経の引き出し現象である。
明らかにSLRでは神経が引き出されているのが分かる。
それも、硬膜袖の引き出し現象で動く長さはせいぜい5mm前後とされているようだ。
SLRでは、交感神経幹までもが引き出されている。

もしも椎間板ヘルニアなどによる狭窄が起こると、椎間孔で神経幹の引き出し現象が不能になり、そのことで放散痛が起こるという根拠になっている。
ではなぜ椎間板ヘルニアが確認されているにもかかわらず、SLRテストで放散痛が起きないケースが少なからずいるのだろう。疑問が残る。
なぜなら、図からも分かるように神経根部には一定の弛みが存在するからである。
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そこに脊柱管のマイナー・ソフト構造という視点で考えると、また別の根拠が見えてくる。
次の図もButtlerの著書に提示(Louis,1981の改変)されているものである。
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Louisは24体の解剖献体を屈曲させて、脳脊髄幹、髄膜、神経根の運動に一定のパターンがあることを発見した。
それが引用した図である。Louisによれば、C6、T6、L4レベルの接触領域に、それらの運動が起こらないとした。
Butterは、その領域を「テンションポイント」と呼んでいる。
硬膜の後方における緊張の方向を、その図に想定すると、硬膜前方では赤の矢印方向になるだろうと想定してみた。
そこに図のような脊柱の後弯が固着した状態になると、テンションポイントを視点に硬膜の緊張の亢進を想定すると、T6より上位の背側では髄膜椎骨靭帯(meningovertebra ligament)が上方に牽引されることで硬膜後方が緊張する。
一方、硬膜前方ではホフマン靭帯などの複合した結合によって上方に牽引されて緊張する。加えて、神経根袖とか下椎弓根に付着する外側根靭帯(lateral root ligament)」は、硬膜のテンションを一層高めることになるだろう。
このことは硬膜の弛みが減少した状態にあるとき、椎間孔からの神経の引き出し現象にも影響を与えることになる。
もしも周辺組織に炎症があれば、なおさらである。
「硬膜の弛み」という常態にあるときには、神経の引き出し現象による影響は最小限に食い止められるのだろう。

近年、ホフマン靭帯、外側根、そして髄膜椎骨靭帯などを解剖学的視点から、支持組織としての重要性を指摘する論文が散見するようになった。
これらの著者らは、脊柱管におけるマイナーソフト構造が長年にわたり無視されてきたことを問題視しているのだ。
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by m_chiro | 2016-09-19 12:27 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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