徒手医学会2015に学ぶ 「脳振盪の怖さを知っておこう」
2015年・日本カイロプラクティック徒手医学会(10.11~12:第17回学術大会)が東京で開催された。
私は最後のプログラムである「基調講演」の座長を仰せつかったので、その学びから得たことをまとめておこうと思う。
基調講演は、東京医科歯科大学・脳神経外科・准教授の成相直先生である。
テーマは「脳振盪の正しい理解とマネージメントのために」

「のうしんとう」という言葉には、「脳震盪」と「脳振盪」の2つの違った漢字が使われている。
「震」は「ゆれる」の意味があり、「振」には「ふるう」の意味がある。
「のうしんとう」には「振」の漢字を使うようにしている、という前振りで成相先生の講演がはじまった。

要するに、他動的に脳が振るわされることで起こる障害のことをさしている。
次の項目で1つないし2つ該当する項目があれば、脳振盪を疑うべきだとラグビーの「International Board」は注意している。

• 放心状態、ぼんやりする、または表情がうつろ
• 地面に横たわって動かない(起き上がるのに時間がかかる)
• 足元がふらつく(バランス障害または転倒、協調運動障害および失調)
• 意識消失、または、無反応
• 混乱、プレーや起きたことを認識していない
• 頭を「かかえる」又は「つかむ」
• 発作(痙攣)
• より感情的になる(ふだんよりイライラしている)
• 頭痛、めまい
• 意識混濁、混乱、または動きが鈍くなったような感じがする
• 視覚障害 • 吐き気、または嘔吐感 • 疲労
• 眠気 、霧の中にいる感じ、集中できない
• 頭が圧迫される感覚
• 光や音に過敏



脳への外傷を防ぐためだったらヘルメットを着用すれば解決すると思われがちだが、脳振盪は基本的に頭部へのコンタクトによって脳が振るわされることで起こる障害である。
もちろんヘルメットの着用は怠れないが、完全な防御にはならない。

それに意識障害がなければ安全だとは言えない。
軽傷であれ外傷性脳損傷である。
意識消失を伴う必要はないのだが、もし意識消失があったら特に慎重を期す必要がある。
こうしたことはコンタクト・スポーツに限らない。転倒して頭を打っても同様のことが起こり得る。

脳が振るわされると何が起こるのだろう。
最初に、振られることで軸索がストレッチされ、神経伝達物質が過剰に放出される。
するとイオンの流動が起こる。
Na、Kポンプが活性されて、血流が変化しなくてもグルコース消費が増えることになる。
代謝性の危機状態となるわけだ。


代謝危機の回復に要する時間は、1カ月から1か月半とみられている

脳振盪に遭遇したら、現場では「バランス・テスト」を行うべきである。

バランス・テスト:①利き足でないほうの足を後ろにする。②そのつま先に反対側の足の踵をつけて一直線に立つ。③両足に体重を均等にかける。④手を腰にあてる。⑤目を閉じて20秒間じっと立つ。
これでバランスを崩したら、眼を開けて元の姿勢に戻す。そして①~⑤を再び行う」



今年に入って、二人の日本人スポーツ選手の脳振盪でニュースになった。
一人はメジャーリーグで活躍している青木選手。
もう一人はラグビーの日本代表・山田選手。
山田選手はタンカーで試合場から病院に直行したが、翌日には元気な姿をTVが報じていた。
でも、「6段階復帰プログラム」に従って、復帰の準備をしていると本人が元気に話していた。
「6段階復帰プログラム」とは、もうプロのスポーツ競技では規則づけられているのだろうか。
もしかしたら、基本的にコンタクト・スポーツに限られているのかもしれない。
ラグビー協会では、脳振盪後3週間は試合出場停止のルールがあるようだ。

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このプログラム中に脳震盪関連症状が発症したら、またステージ1からのやり直しになる。
山田選手は、この復帰プログラムにしたがって順調に回復している、ということだった。

ところが青木選手は、復帰後の試合でめまい症状が起こり故障者リストにはいった。
一回目の脳振盪は、8月9日のカブス戦である。
149kmの速球を頭部にデッドボールを受けたのだ。
翌日の脳震盪テストではパスしたらしいが、12日にめまいの症状を訴え故障者リスト入りをした。
そして9月13日の復帰戦は、デッドボールによる脳震盪からから1カ月を過ぎている。
それでも再び故障者リスト入りをしたわけであるが、青木選手がどのような復帰プログラムを経て復帰したのかはよくわからない。
症状が慢性化すると今後の選手生命にもかかわる。
頭に二度目のインパクトを受けると、致死率50%といわれるほど2度目の脳震盪はこわい。

周辺からは「青木選手のめまい症状は頸椎障害ではないのか」、と憶測が飛び交っている。
そうかもしれないが、復帰プログラムで医師のOKがでなければ復帰すべきではない。
2度目のコンタクトは、選手生命どころか命取りにもなりかねないのだ。

やはりメジャー・リーグのスーパースターであったゲーリック選手は、筋委縮性脊索硬化症(ALS)と診断された。
ALSは、ゲ―リック病と言われるほどに有名になったが、今ではゲ―リックのALSは実は脳振盪後遺症による慢性外傷性脳症(CTE)ではないかといわれる。
歴史的に、ALSの発症に脳や脊髄の外傷が関与するとされるからだ。
ゲーリックは学生時代にフットボールの選手だったようだ。脳震盪の経験もあったのだろう。

CTEの発症には、「タウ蛋白」と「TDP-43蛋白」も関与することが分かっている。
もしも「TDP-43蛋白」が関与する病変が脊髄に起こると、臨床的には区別できない疑似ALSの病態が起こるのだそうだ。
そんなことから、ゲ―リック病は疑似ALSではなかったのか、といわれるようになった。
ムハメッド・アリはパーキンソン病になった。

とにかく、たびたび脳振盪を繰り返すことは、将来的にCTEの発症につながりかねない。
そしてCTEは、認知機能、情動・精神障害、運動神経障害(パーキンソン、疑似ALS)など広範におよぶ恐ろしい病となる。

青少年のスポーツの現場では、脳振盪の正しい理解が徹底していないために、深刻な病態を招きやすい。
注意が必要であると同時に、脳振盪に関する理解と対応をスポーツ関係者は学んでおく必要がある。
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by m_chiro | 2015-10-20 14:52 | Trackback | Comments(0)
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