除外しなければ、なにも始まらないことがある
ある男性の患者さんが治療にみえた。
スポーツマンで立派な体躯をしている。
腰から左下肢の痛みを訴えている。
最初はこむら返りのような痙縮が起こって、それから腰痛や左下肢痛に悩まされるようになったようだ。もう一カ月ほどになる。

整形外科を受診して、X-Rayから「とても素晴らしい脊椎で問題はない」とされたが、痛みの原因は分からない。鎮痛薬と坐薬と湿布を処方され、リハビリとして腰部の牽引治療が続けられた。なぜ牽引なのかも分からないが、それが定番の治療なのだろう。
改善しないので治療にみえたのだが、ありふれた症状とはいえ、よく話を聴いてみると奇妙な病態であることが分かった。

基本的に痛みが増悪するのは寝ているときだという。
痛み出したら起き上がって歩く、そうして動いていると次第に落ち着いてきては再び寝る。
鎮痛薬と坐薬を使っていて、調子のよい時には起き上がる回数も少ないが、ほとんど一晩で数回は立ち上がっては落ち着かせて寝るということの繰り返しだそうである。

ということは、立って動いているときが最も楽な所作ということにある。
通常の腰痛の病態とは逆の増悪因子である。
日常の立位での仕事や通常の活動は、なんとか消化しているという。
生化学検査やMRIの検査の有無を聞いてみると、健康診断では良好で内科的に気になる症状はないとのことだった。

訴えは、左大腿四頭筋部や内転筋部、中殿筋部にある。
ところが筋・筋膜由来の硬結や圧痛など、相応の所見は見当たらなかった。
さて、この病態から何を推測すべきだろう。
私は、硬膜か髄膜の刺激症状ではないかと疑った。
X-Rayで骨の構造的病理的所見に異常がないのであれば、MRIでの画像所見で確認する必要がありそうである。

あくまでも推論とした上で、私の意見を伝えた。
1週間後に電話があって、MRIを撮ったという。
夕方にやってきたときには跛行状態だった。
どうしたのかと尋ねると、MRI撮影中から痛み出してどうにも治まらないという。
MRIの結果は明日になるということだが、痛みが治まらない。
いつもは立って動いているうちに楽になるのに、歩くのも辛い。
まして臥位になることはできなかった。

座位は比較的楽だというので、大腿部を触診すると、左の四頭筋と筋膜張筋まで緊張度が無くなっている。
皮膚上からのタッチで、筋・筋膜をリリースしてみた。
やがて痛みが軽減し四頭筋に緊張が戻ってきた。
筋紡錘への刺激を考慮して伸縮性のテーピングで補助をする。
これで歩行ができるようになり、通常の状態まで動けるようになった。
臥位をさせてみると可能だが、長い時間には不安がある。
筋・筋膜をリリースして痛みが軽減したからといって、そこに原因を求めることはできない。
臥位になると悪化するからで、どうも硬膜・髄膜を刺激する要因がありそうだ。

明日になればMRIの結果が分かるだろうから、その旨を伝えた。
翌日、電話があった。
腫瘍がみつかったらしい

ありふれた症状であっても、どこか理屈に合わなかったり、奇妙な発症の仕方をするケースでは、除外する見立てをしなければ何もはじまらない。
そんなことを再確認した症例だった。

快癒を願うばかりである。
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by m_chiro | 2015-09-10 11:55 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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