典型的な「上後鋸筋TrP徴候」の症例
先日から50代男性(技術職・会社員)の治療を行っている。

10日ほど前、仕事中に左頚背部が苦しくなった。
我慢しながら仕事をしているうちに左上肢の方まで痛みが広がり、尺側から第4‐5指までジンジンと痺れるようになった。
その日の夜から、痛みで眠れなくなる。
背中をベッドにつけると痛みが増幅してくる。

これでは仕事もできない、会社に診断書も出さなければならない、と近くの総合クリニックの診察を受けた。

X-rayで、頸椎に年相応の狭小と骨棘がみつかった。
骨棘が神経を圧迫しているのが原因とされ、診断名は「頚椎症」だった。
メチコバール、リリカ、ブレドニゾロン、坐薬(50mg)を処方される。
これで1週間経っても軽減しなければ、整形外科へ転医し手術も選択肢に入る、と説明されたようである。

鎮痛薬が効いて、何とか眠れるようになった。
それでも時々目覚める。仕事を休んで家で静養しているが、時々、左肩から上肢にかけて差し込むような痛みが発作的に起こる。筋スパズムのようだ。
肘から下の尺側は、常に痛苦しさがあり、4~5指の痺れで感覚も鈍くなった。

頸椎可動域で、左圧縮性の動きや左回旋で末梢への痛みが増強する。
小指の伸筋<屈筋で+2。力が入らない。
深部反射に有意な左右差はない。

差し込むような痛みは、どんな状況でおこるのだろう?
「昨晩は食後に椅子に座ってTVを観ているときに急に起こった」

どうしたら軽減したのだろう?
「立ち上がって姿勢を変え、背中の苦しいところを押さえて上体を右に捻るように動かしていたら、次第に発作状の痛みはおさまってきた」

それって椅子寄りかかって、もたれるように座っていた時に痛み出したのでは?
どうも、そうらしい。

以上の状況から、上後鋸筋のトリガーポイント(TrP)を疑ってみた。
それで左肩甲骨を外転させるようにして、上後鋸筋の肋骨角方向に肩甲骨内側に押し込むように硬結部を押圧すると、左上肢~指先まで痛みと痺れが再現される。
上後鋸筋は、僧帽筋、菱形筋の下層深部にある。しかも肩甲骨内側上角の下に入るため、肩甲骨に遮られてトリガーポイントに直接触れにくい。
座位で左上肢を対側に固定して、左肩甲骨が外転するように保持した状態で押圧しなければTrPに触れにくいのだ。
c0113928_16524418.jpg

(『骨格筋の形と触診法』より)

症状もマニュアル通りの現れ方をしている。
末梢神経障害か、TrPか、の鑑別はTrPの押圧で症状が再現されることだ。
末梢神経障害であれば、そんなわけにはいかないので、分かりやすい。

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「これって私の症状と全く同じですね。ということは首の神経じゃなくて、筋肉の問題なんですか? それでもしも手術などされたらたまらないなぁ~!」 

それでも、なぜ左上後鋸筋がターゲットにされたのだろう?
関連性を疑う要因がいくつかあげられた。
1.仕事で機械が故障し、修理するのに首を傾けて窮屈な姿勢で作業をした。
2.いろいろあって寝不足が続いた。
3.認知症の父親を家族で介護していて、状態が良くない日が続いてイライラしたり、声を荒げて注意したりした(そんな時は発作的な痛みに襲われた)。
4.以前、酷いムチ打ち症で入院したことがある。

問題が複合して絡み合い、発症したのだろう。
上後鋸筋が緊張する患者さんは少なくない。
でも症状の出方はそれぞれで、必ずしもマニュアル通りではないが、この患者さんは絵に描いたようにピッタリの病態だった。

上後鋸筋のTrPは、治療時の患者のポジションに留意しなければならない。
腰部の前弯を確保し、肩甲骨の外転位を保つことことがポイントである。
体幹を軽度伸展位に保って、両腕を治療ベッドから床に下垂させて肩甲骨を外転する姿位をとらせて行うようにしている。
そうしないと腹臥位が保てないことがあるからだ。
夜寝るときも腰部にバスタオルをロール状にして腰に巻いておくと、腰部を軽く伸展状態に保つことができる。眠りが妨げられる痛みがある、この病態の患者さんには試させるといいだろう。
ただし、あくまでも過度にならないように、腰痛を引き起こす恐れのない前弯状態にすることである。

在宅でテニスボールでのケアをする時も、腰部の前弯を確保し当該部位の肩甲骨を外転・外旋位に保って行うべきである。
その方が、効率よく在宅ケアができる。
くれぐれもやり過ぎないことも注意したほうがいい。

この患者さんも、朝まで熟睡できるようになり、尺側の違和感と指先の感覚鈍麻が残る程度になった。
手術に怯えていたが、そういう障害ではないことが分かっただけで心理的にも随分楽になったようだった。
上後鋸筋は吸気を補助する筋なので、イライラしながら大声出すのも要注意である。
本人もそのことに気づきはじめたようだった。

トリガーポイントが作られる背景には、どうも複合した罠がありそうだ。
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by m_chiro | 2015-06-24 17:10 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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