急性腰痛は安静にすべきか! それとも運動療法を行うべきか?②
前回の記事で、ぎっくり腰(急性腰痛)対応への信頼できる調査の論文を紹介した。
記事で「日常的な軽度の活動が望ましい」だろうと結論したが、それを裏付ける調査が発表されていた。併せて紹介しておきたい。
次の論文である。

“The treatment of acute low back pain--bed rest, exercises, or ordinary activity?”
「ぎっくり腰(急性腰痛)の治療は―安静臥位、運動、それとも一般的な通常の日常生活を過ごす―」
この論文は、世界的に権威のある医学雑誌“NEJM”に発表されている(1995)。

その調査によると、急性腰痛患者186名3群に分けてRCT(ランダム比較試験)を行った。
❶「2日間のベッドでの安静臥位」群、67名。
❷「背部のモビリゼーション・エクササイズ:back-mobilizing exercises」群、52名。
❸「許容範囲での一般的な通常の日常生活を過ごす」群、67名。

これらの3群を、3週間後と12週間後に、痛みの持続時間、疼痛強度、腰椎屈曲、動作する能力、オスウェストリー腰部障害指数、欠勤日数などよる差を統計学的に比較している。

その結果、最も回復が遅かったのは「安静臥位」群で、運動療法群は欠勤日数でこそ「安静臥位群」に勝るものの、すべての面で「日常生活群」には及ばなかったのである。

この調査からみても、ぎっくり腰への対応は前回の記事で結論したように「できる限り日常生活を通常通りに過ごす」ことが、もっとも有効な対応であることが分かる。
ぎっくり腰でみえる患者さんがおられるが、運動療法的な対応は避けることが患者さんのためになるということのようだ。
それには激痛で動けない限り、安静臥位を勧めないこと。
許容範囲での一般的な通常の日常生活を過ごすこと。
それが快方への早道のようである。


●ある症例から●
先日、30代の女性が「ぎっくり腰」で治療にみえた。2歳の子供がいる。
その子供を抱き上げようと前屈姿勢になった時に、魔女の一撃を受けた。
何とか仕事(デスクワーク)に出て、仕事をしているうちに、痛みが強くなり座っていることも辛くなった。
やっとの思いで車に乗り込み、治療室にたどりついた時には、歩くことも座ることもできないほどの痛みになった。
身体は捩れて、直立位も辛そうだった。右の大腿前部にまで痛みが広がる。

ともかく一番楽な姿勢でベッドに寝てもらったが、寝ることも安静位も「楽」とは言い難かったようだ。
話をしながら、足関節と頭蓋から姿勢運動制御系をコントロールし、加えて右大腰筋の起始と停止部に手掌接触したままでトーンを調整した。
腰部には直接対応しなかった。

ぎっくり腰になる数日目から、右の肩甲骨下部が苦しくなっていたようだ。
ぎっくり腰は、心身の時間軸におけるプロセスの一つの断面にすぎない。
腰痛のほとんどが、背景にストレスがあるとされている。
ストレスの有無を尋ねると、「そんな気になっているほどのことはない!」という。
ストレス状態にあるという認識もなさそうだ。

質問を変えてみた。
「ぎっくり腰になって、腰のことでなくて、一番気になることや困ることは何かある?」。
「会社が移転するので、引っ越しが迫っている」
「引っ越しは業者に任せればいい話だから、そんなに気にしなくてもいいんじゃないの?」
「引っ越しの責任者なんですよ。それに、住まいもアパートから実家に引っ越すことになってるし…。引っ越しがダブってしまって…」。
期限付きの仕事もあるようだ。
聴いて行くと、公私を含めて盛り沢山のイベントが組まれている。
主婦に、母親に、仕事の役回りも含めると、張りつめて生活していることが窺がえる。

「それをストレスというんだよ。社会的、精神的、肉体的、3つのストレスが複合してるんじゃないの。思うように行かなくてイライラもするでしょう。呼吸が詰まってるから、横隔膜のところが苦しくなっていたんだと思うよ。自分が忙しいのに、頼まれると嫌と言えなくて、また背負い込んでんじゃないの? 頭でカッカしながら、顔で笑って、いい責任者になろうと…」。
「まったくそうです!」
そんな「ストレス」と「ぎっくり腰」が、どう関連しているかという話をしながら、対応すべきことのアドバイスを行った。

右大腿前面の痛みはなくなっている。
今日は動くのも辛いだろうから、会社は休んで1~2日間は無理をしない。
ときどき歩けるか動いてみること。
動けるようだったら、できる範囲で日常生活を通常通りに過ごすこと。
そして3日目に、もう一度治療しましょう。

約束通りに3日目に治療にみえた。
「動けるようになりました! 会社の引っ越しは分担して、自宅の引っ越しは業者に任せることにしました。
まだ腰をかばって動いてますけど….。明日から会社に出ます」

「職場では、あなたの右側には誰もいないでしょう? 社員はみんな左側にいるんじゃないの? 」
「そうですけど…、なんで?」
「下半身だけ正面を向いて、上体や顔は左を向くように、あなたの身体が教育されているようだからね。一方向の動きで長い時間止めないで、もっと動きを解放した方がいいよ」
「そうなんですか…。新しい社屋では左右に配置するようにしましたから、じゃ~、よかったんですね」

そんなわけで、激痛で安静が必要な急性腰痛もある。
だがそれは最低限に留めるべきだろう。
「できるだけ日常の生活を過ごすこと」が鉄則である。
治療者はもちろん、患者さんも心しておくべきことである。
決して無暗に患部をマニプレートすべきではないのだ。

[PR]
by m_chiro | 2015-06-04 12:21 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/24208102
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
<< 運動部の高2男子、「頭痛とめま... 急性腰痛は安静にすべきか! そ... >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索