特異点としての膜系(「虚実皮膜論」から)
膜系理論と治療の力学❶「虚実皮膜論」に思う

江戸時代前期に活躍した近松門左衛門(1963~1725)は、人形浄瑠璃・歌舞伎の作者である。
恋愛ものの結末は、ハッピーエンドか悲劇と相場が決まっているが、そんな中で近松文学では「心中」という結末を持ってきた。
これは悲劇なのか、それとも幸せの極みなのだろうか…。

観劇する側から見れば悲劇ではあるのだが、心中者の立場に立てば「幸せ」の極みなのかもしれない。
恋愛ものの結末に、もうこれ以上のシチュエーションは思いつかないのではないだろうか。
そんなことを思いながら小説を読み漁っていた若い頃に、三島由紀夫の小説に出会った。

一途な想いを自分の脳の中で作り上げている人にとって、実はそれも虚像なわけだが、三島文学の主人公にとっては、それこそが実像なのだ。
その像の対象が女性であれ何であれ、その想念の像が崩れていく、あるいは壊れていくことは、それを所有している脳には許しがたいことなのだろう。
したがって想念の像(本人にとっての実像)が虚像になってしまうことに歯止めをかけない限り、自分の憧憬や理念さえも保てなくなってしまう。

そこでどういう決着をつけるかというと、自分を抹殺してしまうのである。
脳を殺してしまうのだ。
そうすれば、自分の脳内の像は理想の実像のままで永遠に生き続ける。
そう考える。
そして自決する。
「金閣寺」の主人公は、美しいままの理想の姿を脳内に留めておくために金閣寺を燃やしてしまうのである。
そんな決着のつけ方は、近松以来の衝撃的な結末だった。

余談が過ぎたが、さて近松門左衛門の芸術論は「虚実皮膜論」というものらしい。
近松からその芸術論を聞いたという穂積以貫という人が、「難波土産」に記録として残している。
「虚」とは実体のないもので、嘘偽りの類である。
「実」は真実という実態を持っている。

芸や創作の面白さというのは、この「虚」を包み込んだ皮膜と、「実」を包み込んだ皮膜のはざまにこそある。そういうことらしい。

この譬えは、とてもおもしろい。
私は「現象」「潜象」という分け方をしている(『「現象」と「潜象」の相関にかかわる仕組みがありそうだなぁ~』)。
症状を持つ実態を「現象」(虚)とすると、現象には超越的な存在根拠として隠れた実態(実)がある。
つまり「潜象」である。
この現象と潜象をつないでいるのが、「皮膜」ならぬエネルギー系としての「膜」の存在ではないだろうか。
近松流にいうと「潜現皮膜論」ということになる。

現象が「虚」なのか、あるいは「実」なのか、それすら判然としないものもある。
芸術論的には、そこに面白さがあるのだろう。
身体の治療も、そこが面白い!
この潜象と現象(虚実)のはざまの「膜系(皮膜)」が、特異点として作用しているといってもよさそうだ。
そして特異点は変化をもたらす。

はじめて人体解剖実習を行ったとき、もっとも印象深く残ったのが膜系、皮膜系の見事な存在だった。
神経系や脈管系も皮膜され、膜系は身体をくまなく繋いでいた。
そして今、「エネルギー系としての膜系」という言葉を反芻しながら、膜系の魅力に思いを馳せている。
[PR]
by m_chiro | 2015-05-22 16:07 | 膜系連鎖 | Trackback | Comments(6)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/24137462
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by 車田暁則 at 2015-06-03 22:12 x
守屋先生
守屋先生の身体の異常の捉え方として、脳の機能異常による肉体への影響での異常と軸や停滞した組織による膜等への異常というもの、これらはどのように考えを整理しておられるのでしょうか?
Commented by m_chiro at 2015-06-04 18:11
車田先生、脳の機能異常で正常な状態をどう捉えるのかということが前提として問題ですが、私は基本的に脳と末梢組織とは双方向性と思っています。「痛み学NOTE」にも書きましたが、神経学的には「ディスアファレンテーション」(求心性入力不全)の考えを支持しております。ですから、末梢の受容器による入力信号が不全状態にあれば、出力系にアンバランスが生じるのだろうと思うわけです。でも、神経学的な問題だけではなく、生物生理学的に組織の細部間におけるフロー状態が停滞しても、その状態を脳がどう判断しているかということもあるでしょう。また、外部環境からの介入や言葉による影響など、とても一元的には断定できないようにも思います。細胞間の停滞や内部の圧力勾配の背景には、QED(量子電磁力学)の理解も必要なのかもしれません。
Commented by 車田暁則 at 2015-06-04 22:34 x
守屋先生
詳しく教えて頂きありがとうございます。
カイロプラクティックにおけるフィクセーションを見つけてアジャストメントをするという行為で組織の細胞間における停滞や内部の圧力勾配の変化に対する問題に対してどこまで対応出来るものなのでしょうか?
Commented by m_chiro at 2015-06-08 12:08
車田先生、私は脊柱マニピュレーションだけで細胞間のフロー状態をうまく調整することができなかったので、直接あるいは間接的に組織に対応するようになりました。「中枢は末梢の奴隷」とも言われますから、自分の技量にあった方法でいいのでしょうね。なぜ、そうした停滞状態ができるのか、そのことを推測しながら、問題点に対応するよう心がけようと思っています。
Commented by 車田暁則 at 2015-06-09 22:10 x
守屋先生
ありがとうございます。また学ばせて頂きました。
先生のような身体の見方を出来るようになりたいなと思いますので、膜系理論と治療の力学のお話を痛み学シリーズのように長期的に続けて頂いて治療のヒントを頂けたらと思いますので是非ともよろしくお願い致します。
Commented by m_chiro at 2015-06-11 18:18
頑張ってみます!
<< もう一つの視覚経路-新生児は見... 膜は神秘な存在!? >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索