「左肩がズキズキ痛んで眠れなかった」:カプサイシンは辛味成分それとも痛み成分?
「昨晩、左肩がズキズキ痛んで眠れなかった」と言って、事務職の中年女性が治療にみえた。

慢性的な腰痛をかかえていて整形外科で治療中である。
左肩を上げられなくなったのは1年ほど前からで、これも腰痛と一緒に治療中だが好転しない。
でも夜眠れないほど肩がズキズキ痛んだのは、初めてのことだったようだ。
整形外科医院では、レントゲン所見で骨が減っているから「腰は治らない」、「肩は50肩」と言われている。

それで鎮痛剤の処方と腰の牽引、首から肩にかけて電気治療を、リハビリとして続けている。
このまま保存的に治療しなさい、ということらしい。

聴き取りをすると、いろんな問題が出てきた。
B型肝炎、肝血腫、腎嚢胞、高血圧、時に頭痛。
肝炎も血腫も嚢胞も安定しているので、1~2回/年のCTスキャンによる経過観察が行われている(今のところ治療の必要性はない)。

肩の痛みの発症状況を聴いてみる。
夜寝てからズキズキして目を覚まして、それからずっと痛みが続いているらしい。
安静位でも痛んでいるので、仕事を休んだ。

何か外傷を思わせることもなく、無理に使った覚えもない。
寝る前までは、いつもと変わらない仕事と生活だった。

「何だろうか?」と思いながら望診していると、左肩から肝臓、胆嚢、空腸周辺にかけて停滞軸が走っている。

それで、「夜は何を食べたの?」と聞いてみた。
「外食したから…」
「そこで何を食べたの?」
「韓国料理」

唐辛子成分が怪しい、かな?
韓国ドラマが大好きで、その女子会があったのだそうだ。
韓国料理を食べながら、韓国ドラマを語る会だという。

痛みは、機械的刺激や熱・化学物質による刺激が脳に伝わって認知される仕組みになっている。
それを末端の受容器が刺激として受け取るのだ。
機械的刺激で思い当たることがないのであれば、熱・化学刺激を押さえておくべきだろう。


それで唐辛子を持たせて筋の抑制反応をみることにした。
見事に抑制される。まるでバレー徴候陽性反応のように、筋力の維持ができくなる。
「ナニ、コレッ~!」

左肩から肝臓-胆嚢-空腸ラインの筋膜リリースをしながら、内臓機能の緊張を緩解させた。
治療しながら「カプサイシン」という痛み物質の話もした。
いわゆる炎症性疼痛の発症機序に関わる問題である。

さて、唐辛子の辛子成分とは、「辛味成分」なのだろうか?、それとも「痛み成分」なのだろうか?
c0113928_17482537.jpg

「辛味成分」となれば味覚の話である。ところが舌に辛味を感じる味蕾はないのだそうだ。
では、どのようにしてわれわれは「辛味」を感じるのだろう。
4つの基本味以外の辛味、渋味、金属味、アルカリ味、電気の味などは、臭覚、触覚、圧覚、痛覚、温度感覚などを刺激することによっておこる複合感覚とされているようだ。
そうなると「辛味」は味覚ではなく、「熱」と「痛み」の感覚に似たものらしい。
それが、唐辛子を食べたときに舌が痛く感じ、口が熱く感じる理由のようである。

辛子成分のカプサイシンの受容体は「TRPV1」である。
「TRP1」受容体の同定に関わったのが、生理学研究所の富永真琴教授である(「痛みと鎮痛の基礎知識・上」200頁、小山なつ著)。
TRPチャンネルの感受性を示した富永真琴教授の図によると、43度以上の温度とカプサイシンが痛み刺激となることを知ることができる。
c0113928_17492469.png


この患者さんも、カプサイシン受容体の閾値が低下して痛みを発症したのだろう。
しばらく唐辛子を控えることをアドバイスした。

その3日後、再び治療にみえた。
「肩が痛くなくなったよ! 今度は腰も治して~!」
「韓国料理と痛みと、どれか一つ止めるとなったら、どっち取る?」
「韓国料理~!」

ありゃ~、のど元過ぎて熱さ忘れるだなぁ~!
[PR]
by m_chiro | 2015-03-31 17:54 | 症例 | Trackback | Comments(4)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/23805822
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by 吉村潤 at 2015-04-14 11:39 x
いつも拝読している吉村といいます。

この記事に関して、知人から「『この患者さんも、カプサイシン受容体の閾値が低下して痛みを発症したのだろう。』とあるけど、なぜ閾値が低下するの?」「カプサイシンの受容体は肩にないのに、なぜ肩に痛みが起きたの?」という質問を受けました。

それを受けて、自分なりに回答したものをブログにまとめました。もしかしたら同じ疑問を持つ人がおられるかもしれないと考え、コメントとして送りました。(もし私の回答が間違っていたら、指摘していただけると幸いです。)

Commented by m_chiro at 2015-04-14 22:56
吉村先生、はじめまして。拙い記事に目を通していただいて有難うございます。言葉足らずで、いろいろ悩ませてしまいましたね。でも、先生の解釈には私も同じ意見です。この患者さんは、慢性的な腰痛と肩の痛みを持っていました。ということは、痛みの閾値が低下している状態です。ではなぜ腰ではなく、肩がターゲットにされたのか、痛みに対する脳の修飾作用は複雑なようで、確かな答えはわかりませんが、その時は肩の方の閾値がより低下していたのではないでしょうか。そこへカプサイシンの刺激が追い打ちをかけるように炎症性の痛みとして増幅させたのではないかと推測しました。これからも何かと拙い記事を書くでしょうが、ご指摘、ご指導をいただければ有難く思います。
Commented by 吉村潤 at 2015-04-18 10:57 x
実は何年か前に一度コメントさせていただいたことがあります笑

先生のブログから様々な気づきを得ることができ、本当にありがたく思います。自分の不勉強さが身にしみます。

こちらこそ、今後とも色々教えていただきたく思います。
よろしくお願いいたします。
Commented by m_chiro at 2015-04-21 11:26
吉村先生、それは大変失礼しました。<(_ _)>
大ボケでした。
そんな私ですが、これからもよろしくお願い致します。
<< 変形性関節症(OA)には、ヒア... 慢性腰痛への過剰診療、後戻りで... >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索