職人気質には共感するところが多いなぁ~!
著者(ポール・アダム)の2作目「ヴァイオリン職人と天才音楽家の秘密」を先に読んだ(「寒い冬の夜は極上のミステリーでも読んで…..」)。

とても面白かったので、第1作目の「ヴァイオリン職人の探求と推理」を求め、これも一気に読み上げた。
この2作品は、久しぶりに夢中になったミステリー小説である。
c0113928_11431069.jpg2作目ではパガニーニとその愛用のヴァイオリン「大砲」が伏線になっていたが、第一作目ではストラディヴァリと幻のヴァイオリン「メシアの姉妹」が伏線になっている。

殺人事件の推理をしていくうちに、その2本の姉妹のヴァイオリンの秘密が明らかになるという展開である。

文中には著者の音楽や音楽家への敬意と愛情にあふれ、ヴァイオリンにからんでの歴史や楽器職人たちの生きざま、人生観が語られている。
私には読み応えのある小説だった。

物語の主人公・ジャンニは、還暦を過ぎた63歳のイタリアのヴァイオリン職人である。

親友の同業の職人が殺された。
殺されなければならない理由は、どこにも思い当たらなかった。
ところがこの友人、密かにストラディヴァリの幻のヴァイオリン「メシアの姉妹」を探していたことが判明する。
一千万ドル以上の価値ある名器らしい。
物語がストラディヴァリや名器の薀蓄、贋作、職人気質、ヴァイオリンの歴史的背景、著者の音楽への愛情、コレクターやディーラーたちの暗躍なども織り込んで推理が進んでいく。
音楽フアンには堪えられない極上のミステリーだ。

ヴァイオリンにかけた職人たちの気質や生きざまには、共感を覚えながら読んだ。
ストラディヴァリのヴァイオリンには、数億円から十数億円の価値がつくらしい。
ストラディヴァリは14歳の頃にニコロ・アマティの徒弟となった。
それから93歳までヴァイオリンを作り続けたとされるから、「ほぼ80年間におよぶ修行」である。

現在、どんな職業であれ、誰がそんな誇りを持てる? 彼は仕事をおぼえ、来る日も来る日もそれに真剣に取り組んだ。四、五週間の休暇をとってドロミテへスキーに行ったり、トスカーナの海岸で日光浴をすることもなかった。週に六日働き、昼食には作業台の横でひと切れのパンとチーズを食べて、晩まで仕事をした。ヴァイオリン作りは彼の一生の仕事だっただけはない、人生そのものだったのだ。
 それにひきかえ、いまの若い弦楽器職人はどこかの大学でせいぜい三、四年のコースをとるだけだ。彼らは学位を、印象の押された一枚の紙きれを持って世の中へ出てきて、自分はヴァイオリン作りを知っているつもりでいる。それどころか、世間がそれを買ってくれると思っている。彼らは夢の世界に生きているのだ。


著者がジャンニに語らせた言葉である。
耳が痛いくらいだ。
本物の職人の生き方に思いを馳せると、そこには誇りを持って究極のヴァイオリン作りに精魂を傾け続けた職人の凛とした佇まいが浮かんでくる。
治療も日々修行だ、と思わずにいられない。

ストラディヴァリのヴァイオリンに、当初から法外な価値がついていたわけではない。
手作りの楽器も機械的に大量生産する時代に飲み込まれていく。
綺麗で安いヴァイオリンが手に入るようになると、手作りのヴァイオリンは富裕層の音楽家や価値を知る者だけが所有するようになる。
多くは大量生産の楽器が主流になり、手作りの楽器は中古ヴァイオリンとして叩き売りされたのだ。

時代が移り変わり、名器とされる手作りヴァイオリンに高値がついて、数億もするヴァイオリンとして取引されるようになる。
市場価格が高騰すると、コレクターやディーラーたちが暗躍する。
歴史のついた特別なものをほしがる人たちが、更に価値を高める。
贋作もずいぶんと造られた。

そこには単に楽器を買うのではなく、名前を買っているのだと著者は書く。

夢を、偉大なるものとのつながりを買っているんだよ。わたしはそれを聖杯症候群だと思っている。…….(略)….、有名人の記念品に馬鹿馬鹿しいほどの金を払う現代の人々のように。ほら、エルヴイス・プレスリーが一度だけコーラを飲んだというカップや、マリリン・モンローの子ども時代のテディベア、ジョン・レノンの足の親指から切った爪、そんなもんだよ。いったいそれで何をしようと言うんだ? それは人々が、彼らを有名にした魔法の片鱗がそこからすれ落ちることを願っているからだろう?


この物語の最終章で、ヴァイオリン職人の主人公・ジャンニが「メシアの姉妹」にたどりつく。
「メシアの姉妹」を手にして触れ、その造作に感嘆し、メシアの楽器を奏でたとき、魂がふるえるほどの戦慄が走ったのだった。

自分の作品との差は歴然としていた。
本物の価値は、本物を知る人だけが知るのだろう。
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by m_chiro | 2015-02-27 11:58 | Books | Trackback | Comments(0)
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