「痛み学」NOTE 70. 筋の粘弾性特質が拘縮や硬結をつくる
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


70. 筋の粘弾性特質が拘縮や硬結をつくる

ひとくちに「筋筋膜痛」といっても、同じ病態として一括りにはできない。
これらの病態を整理しておくことは、特に徒手療法では必須であろう。
これまでも末梢受容器の刺激によって起こる筋痛をたびたび取り上げてきたが、筋痛症状には複雑な病態を含むものもある。

たとえば前回の記事で取り上げた「線維筋痛症」には、厄介な中枢神経系由来の病態生理学があるようだ。が、その詳細はまだ推論の域を出ていない。
確かなことは、痛み症状として似かよっていても、線維筋痛症は筋疾患としての「筋痛」ではないということである。
要するに、同じような損傷から起こった痛みであっても、痛みを処理するプロセスの中で表現を変えることもあるのだ。

臨床の現場では、筋の過緊張の病態によく出くわす。
これをカイロプラクターは、どちらかといえば侵害受容器よりも固有受容器からの視点でみる向きがある。
固有受容器の過活動が筋の過緊張をもたらし、痛みを引き起こすこすことがあるからだ。
こうした筋の不均衡は、その近隣関節の可動性喪失と相関性があることも知られるところである。

一方、皮膚や筋筋膜には特に侵害受容器の自由終末が全体的に広く分布されていて、身体全体のセキュリティ機構のネットワークになっている。
このネットワークが機械的刺激や化学的刺激に曝されると受容器の感度が高くなる。
つまり、そこに痛みの発症する環境ができあがる。

では、固有受容器と侵害受容器のどちらが初発の原因となっているのだろう。
果たして厳密に分けることができるのだろうか。
そこに明らかな損傷の痕跡を認めない限り容易なことではないだろう。

ところが運動に伴う痛みは見分けやすい。
運動によって筋内圧が増すと、血流の供給が損なわれることがある。
運動痛はその結果である。虚血が起こると、有毒性の代謝物質が産生される。
これまでは乳酸が怪しいとされてきたが、今では除外されている。
そうなると、セロトニンやブラジキニンなどの他の代謝物質の影響なのだろうが、その痛みは運動をストップさせることで間もなく回復する。
にもかかわらず持続性の痛みが残るとすれば、筋筋膜への過活動(外力)によって該当組織に損傷が起こった結果であろう。

もとより筋の過緊張は痛みの重要な因子である。
厄介なことに、筋の過緊張に関わる病態は「運動」における神経病理にも関わっている。
だからといって、筋の過緊張を神経学的に全て説明できるわけではない。

なぜなら痛みに関わる筋の過緊張は「運動神経と神経筋終板の活性」によるケース以外に、筋肉の質的な特性である「粘弾性」にも依存するからである。
要するに、EMG(筋電図)で観察できる活性か、あるいはEMG活動から独立した活性によるものか、に分かれるということだ。

生体における筋肉や腱は、例えばゴム素材などとはその特質が違う。
いわゆる「粘弾性」の特質である。
粘弾性とは、粘性特質と弾性特質を併せ持っている性質のことだ。

ゴムは弾性特質なので、時間に関係なく引っ張れば弾性限界まで伸びる。
加えた力を解放すれば、即座に元の形に戻る。
が、それ以上に引っ張れば切れる。

ところが粘弾性の筋には「時間依存」がある。

だから、弱い力でゆっくりと時間をかけると伸ばすことができる。
逆に、強い力で瞬時に引っ張れば損傷しやすい。
だから瞬間的な張力負荷は、筋腱の損傷や拘縮をつくる因子になる。

こうして筋の収縮は、神経終板の活性(EMG活動)以外にも、筋の粘弾性特質によって筋の緊張、硬直、拘縮がつくり出されるのである。

伸張性収縮負荷は筋や腱にとって弊害を生みやすい条件となっているわけだが、それらが常に活性された病態として顕在しているわけでもない。
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by m_chiro | 2015-01-23 23:57 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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