「痛み学」NOTE 69.  慢性痛と「ゲイン・コントロール」②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


69.鎮痛と中枢性感作の相反起動スイッチ

下行性疼痛抑制系におけるセロトニン系は、延髄の大縫線核(NRM)に中継されて作動する仕組みである。
このことが分かったのは、猫の縫線核を電気刺激した実験からだった(ギルボーら、1973)。
脊髄後角に入る末梢からの侵害刺激のシナプス伝達が抑制されたのである。
その後も数々の動物実験が繰り返されて、下行性疼痛抑制系が確立されたのであるが、これらはすべて電気刺激によって同定されたものである。

しかしながらセロトニン系そのものは、それほど単純ではないようだ。

例えば、大縫線核(NRM)のある吻側延髄腹内側部(RVM)を電気刺激すると、脊髄後角で痛覚が抑制されるという周知の反応が起こる。
かと思うと、逆に痛覚が促進し過敏反応が起こる。

この相反する反応はなぜ起こるのだろう。

電気生理学的には、RVMに3種類の受容細胞が存在するとされている。
それは「ON-cell」、「OFF-cell」、「Neutral-cell」の3種類で、「ON」細胞では痛覚が促進し「OFF」細胞では痛覚伝導が抑制される

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ところがすべてのセロトニン神経系は「Neutral」細胞に入るという。
このスイッチの切り替えは、どのように選択されるのだろう。

また、こんな報告もある。
侵害刺激が伝達されている後角に、セロトニンを局所投与すると、ここでもRVMへの電気刺激同様に相反する反応が見られるというのである。

先にも触れたように、セロトニン受容体は後角のみならず脊髄灰白質の周辺に広く分布し、しかもセロトニン受容体も3種類が関与するとされる。
この真逆の反応も、どのように選択されるのだろう。

要するにRVMへの電気刺激でも、後角へのセロトニン投与でも相反反応が起こるわけだが、その相反反応の切り替えに関わるのが「ゲイン・コントロール」と考えられている。

ところが縫線核のセロトニン神経は低頻度で、しかも規則的な活動をしてる(前掲書)。
しかも、外部環境や内部環境のストレスや危機による影響は受けないとされる。

それでも、睡眠と覚醒のサイクルによる状態変化は関与するらしい。
脳内セロトニンの欠乏が睡眠障害に関わるこは知られているが、どのようにして「ON」と「OFF」のスイッチが切り替わるのだろうか。

「ゲイン・コントロール」では「状態依存(state-dependent)」による調節が行われる。
痛みが「生理的条件下」にあるのか、あるいは「慢性的病態における条件下」における痛みなのか。
それぞれの状態に依存して「ゲイン・コントロール」の設定が行われとする。

「ゲイン・コントロール」の機序が作用して、慢性痛に移行したり可塑的な変化を起こすとしたら、既に警告信号としての役割を持たない病態下にあることを示す状態なのだろう。
痛みの可塑化を進める罠が、あらゆる機会に張り巡らされているとしたら厄介な話である。

前掲著(「脳内物質のシステム神経生理学」有田秀穂著、2006、中外医学社、16-17p)から、少し長くなるがその対応の要点を引用紹介しておこう。

具体的には、覚醒時に自律神経系が交感神経優位にシフトする現象に関係する。その根拠は、5-HT神経の活動が睡眠、覚醒リズムによる状態依存性の変動(覚醒時に活動亢進、睡眠時に抑制)をすることによる。この機能的意義は、5-HT神経の運動系への促進効果と通じるものがある。両者とも昼間の活動を最適に維持することに寄与する。すなわち運動系では「姿勢筋や表情筋に緊張を与え」自律系では「交感神経優位にシフトさせる」という状態をつくりだす。車にたとえていえば、「エンジンをかけてアイドリング状態にすること」が5-HT神経の役割で、「アクセルを踏んで激しく動き回ることは」青斑核のノルアドレナリン神経の働きであろう。


「ゲイン・コントロール」における「「OFF-cell」の作動経路を働かせるには、どうすればよいのか。
それはヒトの生理的条件下のプログラムが活性している状態を目指すことにあるのだろう。
病態条件下では、痛みの増悪や中枢性感作の促進プログラムが作動してしまうのだ。
運動系や自律神経系におけるヒト本来の精神・生理機能系のプログラムを、十全に働かせる対応が鍵なのかもしれない。
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by m_chiro | 2014-10-18 12:10 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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