「痛み学」NOTE 65.  慢性痛における筋痛症問題の概念はややこしい❷
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


❷FSS(機能性身体症候群)は果たして筋痛症問題を総括できるのだろうか

近年になって、FSS(Functional Somatic Syndrome:機能性身体症候群)という、また新たな概念が提示されている。
ハーバード大学の精神科・Arthur J. Barsky教授が1999年に発表したものだ。
当初は批判的な意見も多く、その拡散には時間を要したのだろう。
見聞きするようになったのは、ここ数年のことである。
「Lancet」誌がFSSのレビューを掲載したのは2007年で(The Lancet Volume 369, Number 9565, 17 March 2007)、FSSは次のように解説されている。

「身体症状の訴え、苦痛、障害の程度が個々の疾患に特異的な構造や機能によって説明できる障害の程度に比べて大きいという特徴を持つ一連の疾患群」


要するに適切な検査を行っても明確な所見がみられない。
だから信頼できる診断の目安がない。
構造的にも特異的病理でも充分な説明ができない身体症状であって、それが慢性的に続いているのだろう。

こうした患者さんは、ともすると「仮病」とみられることがあり、医療の介入がなおざりになることで病態の固定化が進むという厄介な事態になる。
MPS、FM(あるいはFMS)そしてFSSと、それぞれに重複する症状が多々ある。
それらの要素を追うと、ひとつの鍵は筋筋膜にありそうだ。

すべての生き物は、他の脅威から身を守るための何らかの身体的防御あるいは武器を備えている。
例えば、亀甲類には硬い甲羅、ハリネズミなどの針つき毛皮、スカンクの化学兵器などなど、小動物こそ生存のための防御は重装備である。
ところがヒトは丸裸だ。
一見して無防備のようだが、実はこの丸裸にこそ重要な防御システムが隠されている。

しかもハイテク機能である。それは皮膚や筋筋膜に張り巡らされた受容器と脳を繋ぐ全身的情報のネットワーク・システムである。
起源はポリモーダル受容器だろう。
この受容器は再現性が極めて悪い。
そのことはむしろ、生体内外の環境をリアルタイムに伝える情報網であることを証明しているように思える。

知覚が欠落した無痛症という疾患があるが、この患者さんたちには長期の生存を期待することができない。
警告系ネットワークの防御網が機能しないからだ。
ヒトはこうした情報網を高性能にしながら、同時に脳や身体機能、心象風景までも進化させてきたのである。
だからこそ筋筋膜の織り成すネットワーク網は重要な鍵のひとつなのだ。

もうひとつの鍵は、心象に関わるストレスの構造にありそうだ。
FSSの原因も「身体的ストレスの経験」が引き金になっている。
それは器質的な疾患であれ、末梢性刺激による機能障害であれ、初期病状に関わる障害であれ、不安や鬱の心身障害の経験であれ、すべてが身体的ストレスとして経験され認識される。
こうした経験は現行の症状を解釈する段階で、身体イメージが構築され、根拠のない疾患所見を生みだし、それが信念となりやすい。
そして症状が慢性化されるほどに重度になる。
更に機能障害が進行する。
こうなると単独疾患が複合した合併症状となりやすい。

にもかかわらず、医学的検査で証明できる所見がみつからない。
「結果、異常なし」と宣告される。
こうした事態は、FSSの原因仮説から考えても問題を深刻にさせるだけなのだろう。
「機能性身体症候群」の名称は、諸々の事象を包み込んでいるように思えるのだが、それにしても目安の設定が望まれるところである。
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by m_chiro | 2014-09-30 08:38 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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