侵すべからざる壁(BBB)は神経の可塑性にどうかかわるか?
日経サイエンス513号の記事は、血液脳関門(BBB)に関する最新情報を紹介している。
あらためて興味深く読んだ。
「血液脳関門をこじ開ける(J.インターランディ)

血液脳関門の存在を最初に発見したのは、エールリッヒという、ノーベル医学賞を受賞したドイツの細菌学者である。
「化学療法の父」と称されていて、「特効薬」なる言葉の生みの親だそうだ。
梅毒の特効薬を開発したのもエールリッヒである。
梅毒は全身的に侵される細菌性の病気で、最終的には脳が侵される。
エールリッヒが、研究室でマウスの血管を染色法で調べる実験中に脳のバリア機構を発見した。実際は、エーリッヒの研究を手伝っていた学生のようだ。

マウスの血管に注入し色素が脳だけに届かなかった。
逆に脳血管に注入した色素は脳だけを染色し、全身に届かなかった。
いわゆる血液脳関門(BBB)の存在が証明された瞬間である。
脳組織には一部の物質しか通さないバリアが張られている。
このバリアは「侵すべからざる壁」とされ、1世紀以上も広く研究される対象ではなかったようだ。
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ところが近年は顕微鏡の性能が向上した。
特に「2光子顕微鏡」の開発により、リアルタイムにBBBを観察できるようになった。

このバリア機構を担うのは血管の内皮細胞とグリア細胞だ。
脳の血管はヒトの標準で600kmもあるらしい。そのすべての血管の内皮細胞はとても緻密であるという。
驚くべきことに血管細胞は脳の細胞と情報交換し、相互に影響を共有しあっている。
どの分子を受け入れ、どれを遮断するか決めるのも、相互の情報交換によるのだろう。

その血管壁は周辺細胞(ぺリサイト)が覆い、更にその上をアストロサイト細胞が覆い尽くすように張り付いて、バリア機構をさらに強固にしている。この完璧なバリアを、ミクログリア(中枢神経常在のマクロファージ)が巡回して防御している。その神経細胞の数は1000億個に及び、まさに「神経血管ユニット」の防御態勢である。

最新の研究では、神経変性などの難治な疾患、例えばアルツハイマー、パーキンソンD、てんかん、多発性硬化症などがBBB機能の破綻に原因しているのではないかと見られているようだ。
それを様々な技法で、血管内部から投薬する研究が進められているという。

多発性硬化症に関する研究の紹介では、難治性の痛みとの関連からも興味深いものがあった。
多発性硬化症は消耗性の筋痛や痺れ、視力障害などを繰り返す疾患である。
この疾患は軸索のミエリン鞘に損傷が生じるのであるが、その難治性で反復する症状がBBBの破損によるものではないか、と研究者の間では疑われるようになった。

MRIを用いた研究も進んでいて、BBBのバリア機構の破損を調査しているようだ。
BBBの破損によって関所が破られ、白血球が毛細血管から脳に入りすぎる。
それがミエリン鞘を攻撃する。
BBB破損の原因は活性酸素で、この酸化をブロックする抗酸化剤をマイクロカテーテル法などによってBBBの血管内に入れて、関門の安定化をはかることが検討されているのだという。
そうなると、多発性硬化症は免疫系の病気ではなく、BBBの病気だということになる。

BBBは、ヒトなどの動物に備わった脳と血管が手を組んだセキキュリティ・システムだということを知ることができる。
難治の病気にBBB防御システム系が関わっているとしたら、新たな治病の在り様も見えてくる日が近いのかもしれない。
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by m_chiro | 2014-08-18 07:39 | Trackback | Comments(0)
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