「しびれ」の現象と病態❷
先日来、治療にみえている60代男性は、バリバリの農業人である。
老境にあるのに、体が頑健でまるで鋼のようだ。
身体に触れただけで、働いて出来上がった強さであることが窺がえる。
春の田植作業の後に管理の仕事などが続いて、身体の右半身の痛みとしびれを感じるようになったのだという。
そのうちによくなるだろう、と思っていたが一向によくならない。
奥さんに背中を押されて治療にみえたようだ。
「とにかく、いつもと違う。右半身の具合が悪い。よろしくお願いします」と丁重に挨拶された。
実直な人柄からも、一生懸命に働き続けた農業人の姿が窺がえるようだ。
具体的には、右肩からの上肢痛と右腰臀部から下肢にかけてのしびれを伴った痛みである。

しびれを訴える患者さんにも、必要な情報を聴き出してみた。
この患者さんからの聴き取りでは、疾患による病態をうかがわせる情報は見当たらない。
引っかかったのは、草刈作業による反復動作である。
草刈機を肩掛けに背中に担いで、斜面を移動しながら同じ方向への反復作業である。
その作業の2日目に、具合が悪くなってきて作業を中断している。

しびれや痛み症状の出方からしても筋筋膜由来であることが推測できる。
しばらく他の作業をしたが、一向に回復しなかった。
しびれ感は、右脚外側部にビリビリするような鈍い感覚があり、特に腓骨周辺から足背にかけて際立っている。
デルマトームにも一致しないし、神経系以外の疾患症候もない。

もし神経学的疾患が疑われたら、これも徒手療法の現場でも簡易確認できる。
筋緊張や微細な不随意運動はないか。
腱反射や振動覚、ロンバーグ(Romberg)テストなどは必須の検査だろう。
情動系もしっかりしている。

この患者さんの「しびれ」は、身体の機能的な問題に絞っていいだろう。
機能的な身体問題を考えるときに、重力場空間におけるヒトの空間認知能力は基本的に重要である。
いわゆる脳と身体における神経系の入出力によるシステムである。

この姿勢運動制御系を考えると、重要な3つの軸が想定されている。
c0113928_8411540.jpg

ひとつは垂直軸(Z軸:Yaw)であり、顔や体幹の左右の回旋あるいは上肢や下肢の動きに代償しながら関わっている。2つめは、前額-水平軸(X軸:Pitch)で前後屈に関わり、3つめは、矢状-水平軸(Y軸:Roll)で左右への傾斜に関わる。
この患者さんは、3つの軸の問題をすべて内包していた。
内包しながら右側から体側左への動きも固着している。

刺激の入出力に対する身体応答の反射を見ると、「右の小脳から右の基底核へ」の刺激ルートに、修正する反射応答がみられる。
同側刺激を意識しながら隔膜系では右→左(CCW)の刺激で横軸を調整する。
前脛骨筋のしびれる部位には張り付いたように膜の動きが感じられない。
そこをリリースしてはみたが、中々に頑強なので補足的に伸縮テープで補助しておいた。

2回目の治療に見えた時には、症状が限局されている。
右仙骨底部と梨状筋部の痛み、右全脛骨筋から足背のしびれ、である。
緊張性頚反射をみようと頭部の左右回旋をさせたら、左回旋で仙骨、臀部の痛みがなくなる、と言う。
頸部右回旋では痛みの再現が起こる。
右頸椎の回旋筋短縮によって回旋運動がスムーズに行かないのだろう。

観るとC1とC5の左回旋方向に抵抗がある。そこにアジャストすると、首を右に回旋させても右仙骨・臀部へ関連して出現していた痛みが消える。
関連痛には、こうした身体機能性がもたらす存在が潜象しているようだ。

そう考えると痛み系というのは、潜象機能系にも存在するのだろうと思える。
人の体を見ながら、潜象して機能系の存在を強く感じている。
トリガーポイントの存在、あるいはカイロ界の用語である椎骨サブラクセーションも、潜象する機能系からの反射で現れた現象系の存在なのだろう。
だからこそ直接的にトリガーポイントにアプローチしても鎮痛機序が働くのだ。要するに、どちらも鎮痛機序の入り口なのである。
潜象機能系は、潜象であるがゆえに取り組みが難しいのかもしれない。

この患者さん、地域で総出の草刈り作業にまた出向いた。
その間も治療を続けながら、今度は4日間連続で作業したが無事に役割を終えたようである。
症状は、前脛骨筋部のしびれがわずかに残っている程度になった。
それも筋肉負荷が過度になると出やすい。でも日常の生活に悩まされることはない。
右の前脛骨筋部の筋膜の可動に、まだ左右差が残っているし、足関節の底屈の可動も悪い。

これは現象系である。現象系には、在宅でできる方法を指導する。
患者さんの努力も必要である。
神経疾患による下肢の「痺れ」であれば、神経の走行に一致するはずであるし、その他の感覚にも異常があるかを診ることは必須である。
筋筋膜由来の長年のしびれ現象は、確かにしつこいが、筋筋膜の機能が回復するにつれて消えていくだろう。
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by m_chiro | 2014-07-30 07:17 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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