MPSの原因がTrPとは限らない
右腰臀部痛で40代女性が来院した。
腰痛のきっかけは分からない。数日前から徐々に痛み出した。
腰臀部の筋群が、左側に比べて右側が相対的に緩んでいる。

c0113928_15211879.jpg望診すると、右の肩甲骨周囲と対側の左後頭骨下部に固縮が感じられる(図の赤のエリアが痛みの部位で、青のエリアは固縮の部位で表した)。

それでこんな会話が続いた(私が赤字で、患者さんは青字)。

「問題が腰にあるのではないようだね」。
「えっ!腰がけど痛いんですよ…」。

「症状があるところが責任部位とはかぎらないよ。だから痛みがあるところに原因があるとは決めつけられないよ」。
「そうなんですか..??」

「だって、風邪をひいて熱が出たり、鼻水や咳がでたりいろんな症状がでるでしょう。でもそれって鼻が悪いから鼻水が出ているわけでも、気管が悪くなったわけでもないでしょう。鼻や気管に責任はない。だから細菌を退治する。それと同じことだよ」。
「..…???」。

「ところで腰が痛くなる前に、どこか具合の悪かったところはなかったの?」。
「ん~…、アッ! 4~5か月前に右足首を捻挫しました。それが原因なんですか?」。

「いや分からないけど、違うと思うなぁ~。なにか上体の方で具合が悪かったということはなかったの?」。
「ああ~、今でも時々仕事中とか肩甲骨の内側が苦しくなる時があります」。

「それは、腰が痛みだしてからのこと? それとも腰痛の前から苦しかったの?」
「腰が痛くなる前からですね」。

「ちょっと右腕を挙げ行くよ」。

「イテテテテ...。」。

「腰が痛いの?」

「イヤ、手が上まで挙げれない...、肩が痛くて...」

左小脳機能に相対的低下がみられたので、先に左側からの刺激を入れてみた。
C1(LL)、後頭骨(LPI)のカイロプラクティック・サブラクセーションをリリースする。
結果、右体幹回旋での痛み(-)。
左体幹回旋での痛み(+)。
痛みの部位が縮小する。

その痛みの部位からテンションを追うと右肩甲骨に至る。
右掌を痛み部位に、左掌を右肩甲骨に添えて、2ポイントでテンションをリリースする。
今度は、右体幹回旋での痛みがでなくなった。


「ほら、腰をっ治療したわけではないけど、よくなったでしょう!」

「そうですね。不思議ですね...」
「不思議じゃないよ! 原因が他のところにあったという話だよ」

このケースはTrPにターゲットを絞ったわけではない。
MPS(筋筋膜性疼痛症候群)は、必ずしもTrP(トリガーポイント)があるとは限らないからだ。
筋・筋膜性の連鎖による組織のテンションの引っ張りも、痛みの発症に関与していることは間違いないだろう。
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by m_chiro | 2014-03-18 15:45 | MPS | Trackback | Comments(11)
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Commented by アダピータケウマ at 2014-03-18 22:09 x
守屋先生、いつもお世話になります。
今回の症例の記載に「左小脳機能の相対的低下がみられたので」とありますが、これは右腰殿筋の緩みがあるため、考察されたのでしょうか。
ご教授よろしくお願い申し上げます。
Commented by m_chiro at 2014-03-20 17:42
安達先生、いい質問ですね。神経学的な検査で刺激入力の方向を決めるようにしているのですが、機能神経学はまだ勉強を始めたばかりなので、なかなか難しいものがります。結局、独善的になってしまうので書くのは躊躇しました。その上、この患者さんはクロストークがあり、整合性のない反応が返ってきます。クロストークをリリースして決めたのですが、その方法も独善的にやっていることなのでややこしい話になりそうでした。いろいろ思案してその方向を選択したのですが、最終的には眼球運動と頭位および動きで判断しました。詳細は今度勉強会の時にでも....。機能神経学の判断は奥が深く、なかなか不勉強な私には悩まされることばかりですが、でもとても魅力的な領域だと思っております。お互いに勉強していきたいですね。
Commented by m_chiro at 2014-03-21 10:17
安達先生、この患者さんは縫製の仕事に従事していて、毎日ミシンと格闘しております。参考までに概略お知らせすると、こんな感じです。彼女は目の使い方に慣性があり、右下方注視で筋の抑制バランスが起こります。ところが頭位は左向き伸展です。三半規管の前後で興奮と抑制がどのようにコントロールされているのか? 機能低下が起こると前後で逆に興奮が起こるのか? そこのところが釈然としなくて悩まされています。小脳の運動テストでは右より左で遅れが出ますが、利き手の逆ですので決定的なものかどうか、判定が確信的ではありません。ご教示いただければ有難く思います。
Commented by アダピー・タケウマ at 2014-03-22 00:08 x
守屋先生、詳しいご説明感謝申し上げます。
目の偏りから考察すると、右下方ですと右後半規管が刺激されることになると思います。
そうすれば、右小脳の刺激となり、興奮性の増大となります。そのため相対的な左小脳の機能低下の状態が発生することは考えられると思います。
頭位との関連性は、頚反射、クロストークなどいろいろあるのではないかと思いますが、いつのときも変わらない所見が手ががりになるのかな~という感じです。
Commented by アダピー・タケウマ at 2014-03-22 17:00 x
守屋先生、失礼しました。眼が右下方ですと、左小脳と左後半規管が働くことになります。しかしそこで筋の抑制が起こる→左小脳、左後半規管の機能低下という捉え方になるのではないかと思います。
興奮と抑制という捉え方もややこしい感じがします・・・。
Commented by m_chiro at 2014-03-23 09:22
安達先生、そうですね。頭位(左向き伸展位)からみると右前半規管の興奮が想定できます。そして眼位注視は右下方で抑制バランスが起きます。これは左後半規管の低下ですね。さてこの場合、興奮(右前半規管)と機能低下(左後半規管)のどちらを優先して、どちらを治療すべきか、あるいは左右のアンバランスは機能低下側を調整することで相対的なバランスを保てるのか、そこに決定的な主張ができなかったので刺激した結果だけを書いたわけです。つまり左後半規管の機能低下を改善するために左からの刺激入力を行ったわけです。例えば、彼女の頭位に傾きが右前半規管の興奮にあり、そこがメジャーの部位だと想定すれば、どうすればいいのだろう、という話です。眼球運動のエクササイズや習慣性の頭位を指導すべきなのか、あるいは興奮した前半規管の抑制をどうすべきか、私の中で結論づけられなかった、というのがありました。ご指摘、ご教示、感謝いたします。
Commented by sansetu at 2014-03-23 18:54
注射、鍼、指圧、マッサージはどうしてもTPに目が行きがちになりますが、連動系手技治療では点へのアプローチはほとんどしないので、自然とTP原因論への偏向は起きにくいんですね。
TPは原因ではなく、ヘルニア同様、結果論として生じている、というのが私の以前からの考えです。ゆえにTPを使わずにMPSを治療してもう10年以上になりますが、何の問題も感じません。TPに囚われるとTPの有無ばかりに気が行くようになります。
でもTPなんか、ほっといてもいいんです。私なんか自分の体、TPだらけですから。
Commented by m_chiro at 2014-03-25 08:45
>TPに囚われるとTPの有無ばかりに気が行くようになります。
sansetu先生、そうでしたね。
私はいつも先生のそんな意見に啓発されてきました。私もカイロプラクターとして分節レベルの思考から、分節レベルを超えた視点を持ちたいと思っております。先生の主張はとても刺激的です。<(_ _)>
Commented by 1患者です。 at 2014-05-30 16:04 x
はじめまして。
先生が加茂先生と議論していた頃から存じ上げています。
この場合、tpつまり、痛覚過敏点がありながら、そこへのテンションが下がった事により、痛みを認知しないレベルになったと考えますがいかがでしょうか?
つまり、痛覚過敏点とそこへのテンションの関係で痛みの認知となると言う事です。
ですから、従手治療によるテンションのコントロールでも、鍼などでtp直接処理でも痛みが改善するのだと思います。
いかがでしょうか?
Commented by m_chiro at 2014-06-05 18:42
1患者様、はじめまして。ご指摘の痛みと組織のテンションの関係は、痛みの認知や改善に影響しているものと思います。しかしながらTrPによる関連痛となると、これまでの「線形科学」に根拠を求めても明確ではありません。膜系の神経のネットワーク網を線形で捉えることができないし、また力学的物理の法則からも疑問が残ります。ややこしいですね。非線形の科学や細胞における電子の移動などの影響などを持ち込まないと全貌が明らかにならないのでは...、などと考えたりします。ですから、テンションのコントロールで痛みが改善する現象はあっても、情報処理や膜的影響がどのように介在しているのか、そこが明確ではないように思います。
Commented by m_chiro at 2014-06-07 01:16
背景にある原理や仕組みが分からないと、胸につっかえているようでスッキリしないですね。生命現象は本当に分からないことが沢山あって、それだけでも刺激的な領域に感じてはいるのですが.....。また、何か興味深いことや新たな気づきがあったら教えてください!
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